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6章:代り
5 夕立
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彼女がバイトを始めてから、一週間が経った。連日、猛暑日が続き、今日も、もれなく、最高気温が37度になっていた。
そんな中、エアコンが効いた休憩室で、講義のレポートを書いていた。期限までは余裕があるものの、時間がある時に、少しでも進めておきたかった。
「そう言えば、本日、寧々様はいらっしゃらないのですかね。」
休憩室に顔だけ覗かせた、古川マスターが声を掛けてきた。
「何も聞いてないですね。」
スマホの画面を覗くが、メッセージも来ていない。
「お昼の時も、何も言っていなかったので、来るとは思いますが…。」
その時、格子戸が開く音がした。
「仕入れ品渡しに来ました。」
声からして、新庄さんだった。豆や食材の追加注文をしていたらしい。
誰も居ないカウンターに置き、伝票と中身を確認する。
「そう言えば、今日寧々ちゃんは来ていないんですか?」
「まだ来ていないですね。」
「そっか…。一応、何件か、目ぼしいバイト先見つけてきました。」
メモ帳を一冊、渡してきた。なかを見ると、丁寧に、何十件分もの、お店の名前や連絡先、時給、住所なども細かく書いてあった。
一週間でこれほど、調べてくれたとなると、すごく頼もしい…。
「店名の所に、赤く丸が付いているのは、私が紹介すれば、面接とか免除してくれる所。
線が引かれている所は、即日からでも大丈夫な所。」
その印が付いている所を見ると、私でも知って居る様な有名店やチェーン店なども、幾つかある。
「一週間で、こんなに…。すごいですね。」
「これでも、大分断られたんだけどね…。もう少し、探してみるけど、この中から良さそうな所あったら、私に連絡してください。」
そう言い、カウンターに腰を降ろした。
「おや、今日は休憩して行かれるのですか?」
「配達もここで終わりですし、お昼もまだ食べてないんですよ…。」
そう言い、カウンターに頬杖を着いた。
古川マスターが、今仕入れたばかりの食材が入った箱を抱え、厨房に消えて行った。
「仕事上とは言え、こんなに、飲食店等々回っているのに、この仕打ちは…。」
「仕方ないですよ…。」
「そう言えば、九条さんも来てないみたいだけど…。」
そう言いながら、いつも彼が座っている辺りに目をやった。
確かに今日は、来た気配がなかった。
たまに、完全に閉店してから来ることもあることから、それ程気にしていなかった。
「その内、来るとは思うんですけどね…。」
その言葉に反応したのは、厨房でパスタを茹でていた、古川マスターだった。
「おや、てっきり香織様にも連絡入れていると思ったのですが…。」
そう言って、スマホの画面を見せてきた。
「どうやら、体調を崩したらしいですよ。」
講義が終わった後、そのまま帰宅するとメッセージが来ていた。
「珍しいですね…。」
新庄さんの言葉に、私も頷いた。だが、心当たりがあった。
ここ数日、猛暑日が続き、夕立が降る事も増えた。ちょうど昨日も彼が、買い出しに出た隙に、降られてしまった。
ちょうど淹れ終わったコーヒーを、新庄さんの前に出した。
寧々が来たのは、彼女がコーヒーを啜り始めた時だった。
手には紙袋を持っていた。
「すみません。午後から講義なくて、そのまま病院寄っていました。」
そう言い、足早と休憩室に消えて行った。
その日は特に忙しくもなく、終わってしまった。
九条さんが休みなので、夜の方は、古川マスターが代わりにやってくれるらしい。
「申し訳ないですが、これだけ、彼に渡してきてもらって良いですか?」
渡されたのは、車のキーだった。どうやら、昨日来た時に、忘れて行ったらしかった。
九条さんの自宅はここからそう遠くないと聞いているが、当然行ったことがない。
そんな中、エアコンが効いた休憩室で、講義のレポートを書いていた。期限までは余裕があるものの、時間がある時に、少しでも進めておきたかった。
「そう言えば、本日、寧々様はいらっしゃらないのですかね。」
休憩室に顔だけ覗かせた、古川マスターが声を掛けてきた。
「何も聞いてないですね。」
スマホの画面を覗くが、メッセージも来ていない。
「お昼の時も、何も言っていなかったので、来るとは思いますが…。」
その時、格子戸が開く音がした。
「仕入れ品渡しに来ました。」
声からして、新庄さんだった。豆や食材の追加注文をしていたらしい。
誰も居ないカウンターに置き、伝票と中身を確認する。
「そう言えば、今日寧々ちゃんは来ていないんですか?」
「まだ来ていないですね。」
「そっか…。一応、何件か、目ぼしいバイト先見つけてきました。」
メモ帳を一冊、渡してきた。なかを見ると、丁寧に、何十件分もの、お店の名前や連絡先、時給、住所なども細かく書いてあった。
一週間でこれほど、調べてくれたとなると、すごく頼もしい…。
「店名の所に、赤く丸が付いているのは、私が紹介すれば、面接とか免除してくれる所。
線が引かれている所は、即日からでも大丈夫な所。」
その印が付いている所を見ると、私でも知って居る様な有名店やチェーン店なども、幾つかある。
「一週間で、こんなに…。すごいですね。」
「これでも、大分断られたんだけどね…。もう少し、探してみるけど、この中から良さそうな所あったら、私に連絡してください。」
そう言い、カウンターに腰を降ろした。
「おや、今日は休憩して行かれるのですか?」
「配達もここで終わりですし、お昼もまだ食べてないんですよ…。」
そう言い、カウンターに頬杖を着いた。
古川マスターが、今仕入れたばかりの食材が入った箱を抱え、厨房に消えて行った。
「仕事上とは言え、こんなに、飲食店等々回っているのに、この仕打ちは…。」
「仕方ないですよ…。」
「そう言えば、九条さんも来てないみたいだけど…。」
そう言いながら、いつも彼が座っている辺りに目をやった。
確かに今日は、来た気配がなかった。
たまに、完全に閉店してから来ることもあることから、それ程気にしていなかった。
「その内、来るとは思うんですけどね…。」
その言葉に反応したのは、厨房でパスタを茹でていた、古川マスターだった。
「おや、てっきり香織様にも連絡入れていると思ったのですが…。」
そう言って、スマホの画面を見せてきた。
「どうやら、体調を崩したらしいですよ。」
講義が終わった後、そのまま帰宅するとメッセージが来ていた。
「珍しいですね…。」
新庄さんの言葉に、私も頷いた。だが、心当たりがあった。
ここ数日、猛暑日が続き、夕立が降る事も増えた。ちょうど昨日も彼が、買い出しに出た隙に、降られてしまった。
ちょうど淹れ終わったコーヒーを、新庄さんの前に出した。
寧々が来たのは、彼女がコーヒーを啜り始めた時だった。
手には紙袋を持っていた。
「すみません。午後から講義なくて、そのまま病院寄っていました。」
そう言い、足早と休憩室に消えて行った。
その日は特に忙しくもなく、終わってしまった。
九条さんが休みなので、夜の方は、古川マスターが代わりにやってくれるらしい。
「申し訳ないですが、これだけ、彼に渡してきてもらって良いですか?」
渡されたのは、車のキーだった。どうやら、昨日来た時に、忘れて行ったらしかった。
九条さんの自宅はここからそう遠くないと聞いているが、当然行ったことがない。
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