レトロな事件簿

八雲 銀次郎

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13章:香織と少年の交換日記

1-4 梟の森

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 厨房脇にある、倉庫から姿を現したのは、九条さんだった。
 「居たんですか?」
 「5分くらい前から、リキュールとコーヒー豆の在庫確認してたよ。」
 そう言うと、古川マスターにメモ用紙を渡した。
 「コーヒーの方は、ジャマイカとグァテマラ、トラジャが少なくなってた。
 リキュールの方は、ウォッカとコアントローだけ。」
 「“いつもの”ってやつですね。」
 古川マスターが、メモ用紙を見て、頷きながらそう言った。
 「人気があるものは、直ぐ無くなりますからねぇ…。」
 リキュールの方は、それ程詳しくないが、コーヒーの方は、もうお手の物だ。
 ジャマイカ、グァテマラ、トラジャは、香りが高く、爽やかな風味を楽しめるため、今の暑い時期には、ぴったりの逸品だ。
 トラジャに至っては、かつて『幻のコーヒー』と呼ばれた時期もあり、独特で芳醇な香りと、優しい苦み、深みのある甘みが特徴的な、コーヒー界の重鎮とも呼べる、銘柄だ。
 「人気ねぇ…。」
 女性客が、申し訳なさそうに、自分の手元にある、コーヒーカップを除いた。
 彼女が注文したのは、どうやら、その三種とは違うらしい…。
 「好みは、人それぞれですから…。」
 古川マスターが察した様に、女性客に声を掛けた。
 こっそりカウンター内にある、注文票を見ると、『コロンビア』と書かれていた。
 「それはそうと、グッズ、どうしましょう…。他のお客さんにも、アンケートとか取りますか?」
 「そこまでしなくても、良いんじゃないかなぁ?来た人に、今みたいな感じで聞いて、統計取っちゃえば。」
 九条さんが、腕を組みながら、そう答えた。
 「アンケートとなると、集計するのも大変ですからねぇ…。」
 古川マスターもそれに賛同する…。
 「だ、大丈夫!私はアンケートでも問題ないと思ってるから!」
 女性客に謎のフォローを入れられ、その日の、話し合いは終わった。

 「そう言えば、私が来る5分前に、九条さんここに来たって、言ってましたよね?」
 コーヒーカップとソーサーを洗いながら、厨房にいる彼に訊ねた。
 「そうだけど、どうして?」
 「店の前に小学校低学年くらいの男の子、いませんでした?」
 「男の子…あぁ…。」
 彼は、暫く考え込んだ後、思い出したように話し始めた。
 「店の前っていうか、そこの路地の前には居たね。不審者に間違われても面倒くさいから、敢えて話しかけなかったけど…。」
 「お母さんらしき人っていました?」
 「いや、居なかったと思うけどなぁ…。どうしてまた?」
 「さっき、店の前に居たので話しかけたんですけど、逃げられちゃいました。」
 そう言うと、彼がクスクスと笑った。
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