【完結】捨てられた薬師は隣国で王太子に溺愛される

青空一夏

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21 ミレイユ達の末路

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【ミレイユ視点】

 私は、広場の石畳を磨いていた。今日はエルノス国あげてのだいじな式典だとか。
 手のひらは擦り切れ、膝は泥で黒ずみ、血が滲んでいる。
 奴隷に手袋なんてない。裸足に近い格好で、雑巾と一緒に這いずるのが、今の“私”。

 そこに――突如、まばゆい光が差した。
 顔を上げた瞬間、目を疑った。

 誰? あの男……。あまりにも整った顔立ち。シルバーブルーの髪が風に揺れ、瞳は氷のように冷たいアイスブルー。
 ただ立っているだけで場の空気が変わる。圧倒的な存在感。……息を呑むしかない。

 さらに信じられないことに、エルノス国王が深々と頭を下げていた。
 一国の王が、あれほど深く……頭を下げる? どこの貴人よ?

 そして――その男の腕の中にいたのは、リーナだった。
 アイスブルーの、光を受けて銀に輝くようなドレス。
 細やかな刺繍が裾にあしらわれて、宝石のように輝いている。
 耳元にはアクアマリンのイヤリング。首元にきらめくネックレス、手首に揺れるブレスレット――すべて、あの男の瞳と同じ色。

 そうか、あれがオリオル国の王太子で、リーナは王太子妃になったというわけか……私が泥と垢にまみれて這っているこの場所で、あの女は美麗な男に抱きかかえられ、柔らかに微笑んでいた。

 あんなに美しくなっているなんて……幸せそうで余裕があって、まるで……生まれながらに王太子妃になることが決まっていた、高貴なお姫様のようだわ。

 なんでよ……! なんであんな女ばっかり、いい目を見るの!?
 私はすべてを奪われて、這いつくばって……こんな地獄にいるのに!

 ――悔しいっ! 悔しいっ! 
 なんで、あんな女が。
 なんで、私じゃないの? 

 リーナなんて、地味で、孤児で、ただの薬師で――

 気づいたときには、私は走っていた。
 地を這うような低い怒声で叫びながら。
 リーナに向かって手を伸ばす。

 「リーナッッ……ッ!!」


【リーナ視点】

「ここがエルノス国? 一瞬で着いてしまったわね。ねぇ、私のドレス、おかしくない? お化粧は?」
「もちろん完璧。綺麗だし可愛いし、文句のつけようがない。ドレスは俺の髪色とお揃いだし、お化粧なんてしなくても最高に美人だけど――今日の口紅は特に、すごく似合ってるよ」

 マクシミリアン様の腕の中で、私はそっと微笑んだ。
 彼は私がどんなドレスを着ていても、お化粧をしていなくても、必ず「完璧だ」って言ってくれる。

 今日は、王太子妃として初めての異国訪問。
 だけど――マクシミリアン様が隣にいてくれるなら、私は何も怖くない。

「さぁ、行こうか。――しっかり、俺の首に腕を巻きつけて?」
「……はい」

 この溺愛ぶり、本当に凄まじい。
 私が移動するときは、いつも彼が“お姫様抱っこ”。
 どこへ行くにも、まるで宝物のように扱われる。
 あまりに毎回なので、冗談半分に「いつまでこうするの?」と尋ねてみたら

 「俺の命が尽きる、そのときまで」と、真顔で返された。
 ……さすがに絶句した。

 そのとき、不意に空気が揺れた。
 何かの気配――殺気?

「……身の程知らずめ。――散れ」
 マクシミリアン様が、無造作に手を払うように動かした。

 視界の端で、何かがはじけ飛んだ。
 でも、私にはそれが何なのか、よく見えなかった。

「なぁに? 今の……何かあったの?」
「気にしなくていい。ただの虫さ。リーナが見る必要なんてない。……おまえは、俺だけを見ていればいい」

 マクシミリアン様がそう言って、穏やかに笑う。
 だから私も、安心して微笑み返した。

 ――私は愛されている。
 この腕の中で、ちゃんと守られているから。
 いつだって、何も怖くなんてないの。


【ギルベルト視点】

 いつもは鉱山で働く俺だが、この日は式典の警備要員として広場の端に立っていた。
 奴隷とはいえ、この場では外見を整えられ、鎖も外されている。だが、左手首には外せない“奴隷識別の黒い腕輪”が光っていた。

 突然、眩い光が広場を照らし、空気が一変した。
 次の瞬間、現れたのは見たこともないほど整った顔立ちの男――シルバーブルーの髪に、アイスブルーの瞳を持つ男が、突如として現れる。
 その腕の中に、リーナが抱かれていた。

 ……嘘だろ。

 淡いブルーのドレスが、風をはらんで輝いていた。首に揺れるネックレスは、あの男の瞳と同じ色――アイスブルーのアクアマリン。

 リーナは微笑んでいた。ただの低級薬師にすぎなかったリーナが、まるで別人のように美しくなっている。

 あの男は格が違う。圧倒的だ。俺なんかとは、初めから住む世界が違う。
 そんな男に溺愛されて、リーナは王太子妃にまでなったってわけか。
 しかも、“本物の聖女様”だという。

 ――くっそ……腹立たしいにも程がある。

 そして次の瞬間だった。
 ミレイユが、突然叫びながら走り出した。
 泥と垢にまみれたまま、髪を振り乱して――リーナに飛びかかろうとしていた。その姿は、もはや人間ではない。ただの、見苦しい獣に見えた。

 だが、王太子はただ、手をひと振りしただけだった。
 それだけで、ミレイユの身体は宙を舞い――勢いよく、広場の端の石畳へと叩きつけられた。
 悲鳴すら、かき消されるほど遠くへ。

 リーナは何が起きたのか、まるで気づいていない。
 ただ穏やかに、彼の腕に抱かれたまま微笑み、式典の貴賓席へと向かっていく。
 
 石畳に叩きつけられ、うずくまったまま動けないミレイユが、騎士たちに引きずり起こされ、どこかへ連れて行かれる。
 次いで、俺の周囲にも騎士たちが音もなく集まり、じわじわと包囲してきた。

 俺は――どうなるのかな?
 ミレイユの罪はきっと俺にも被さってくる。

 オリオル王国という大国の王太子妃を襲おうとした奴隷女。
 その夫とされている俺。

 嫌な予感しかしない。
 きっと、俺たちは――




 。:+* ゚ ゜゚ *+:。。:+* ゚ ゜゚ *+:。
 ※ここで、ふたりのざまぁはお終いです。
 後の展開は、それぞれのご想像で……。ということになります。

 22話は、リーナとマクシミリアンとのラブラブ生活の一端を描写し、23話で神獣たちのほのぼの。ここで本編完結となります。

 番外編では短い3話を用意していて、明日夜19時に3話一気に更新です。ナナ達との再会とそれぞれの恋、そして読者さんが気になった人たちのその後へと続きます。最後までお楽しみいただけると嬉しいです。
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