4 / 6
4 イーサンからの解放
しおりを挟む
イーサン様がダーシィを選んだことで諦めて忘れたいと思うのに、二人がいつも私に付きまとうからすっかり心が疲労してしまう。
ダーシィはマウントをとるようにイーサン様との仲睦まじい様子を見せつけようとしてくるし、その後で必ず優しくベタベタしてくるイーサン様にもすっかり頭が混乱していた。
(なぜ、イーサン様は私を放っておいてくださらないの?)
もう期待させられて、どん底に突き落とされるのは辛すぎた。お母様はそんな私を見かねて学園をやめさせた。
「学園はあそこだけではないわ。隣国アイルルニア王国に留学なさい。きっと、やりたいことが見つかるわ」
お母様の言葉に従い、私はアイルルニア王国に旅立つ。あちらの王立学園は寄宿舎もあって、私はそこで生活することになった。
ここに来てまず驚いたことは、あまり人間関係が密ではないことだ。ランチ時も一人で食事を楽しみ、午後の授業が始まるまで本を読むなどして、自由に過ごす生徒が多かった。
私にとってはありがたい。人と関わることに臆病になっていたから。
でも、そんな私にも友人が一人だけできた。セアラという平民出身の子で、彼女は元々人より動物が好きだと言う。
「私のお父様は獣医なんです。お母様はドッグ&キャットサロンのオーナーで、トリマー(犬の美容師)とグルーマー(猫の美容師)の資格を持っているの。だから私も自然と動物とふれあうことが多くて、結果的に人間が苦手かも。動物といる方がホッとするわ」
私の国では飼う動物といえば馬ぐらいで、犬や猫を飼う貴族は一般的ではなかった。祖国での犬は救助犬として活躍するだけだったし、猫はねずみ取りのために農民が飼うイメージだった。
でも、ここアイルルニア王国では、愛玩用に犬や猫を飼う人がとても多い。貴族ばかりではなく平民も、動物を家族の一員に迎え大事にしている。
セアラの屋敷は学園の近くにあったから、彼女はそこから学園に通っていた。親しくなってセアラの屋敷に招待されると、たくさんの動物がいてびっくりする。
犬や猫、オウムなどの大型の鳥、は虫類などもいて、屋敷全体が動物園みたい! 隣接した動物病院とサロンも大きくて立派で多くの人が働いていた。
たくさんの動物がいるのに屋敷のなかは清潔に保たれていて、動物の匂いが籠もらないように換気口がところどころに設置されている。
まさに動物と共存する為に建てられた館なのだ。こんな生活って憧れる! 素敵だと思った。
「私は、お母様のようにトリマーになろうと思うの。お兄様は獣医になるのよ。今は獣医養成学園に通っていてもうすぐ卒業! あ、ちなみに婚約者はいなくて、今絶賛彼女募集中よ」
セアラのお兄様ダリアン様は、イーサン様とは全く正反対の容姿だった。それほど背も高くなく、優しい顔立ちの男性で目立たないタイプだ。シャイなところがあるようで、私とは目を合わせるだけで赤くなる。
「お兄様は女性とお話しするのは苦手な方だから、無口だけれど怒っているわけじゃないのよ」
とセアラ。
動物に癒やされに、毎日のようにセアラの屋敷に入り浸る私。学園を卒業したらやりたいことが決まったことも嬉しい。それはセアラのお手伝いをすること! 私もトリマーの資格をとることにしたのだ。
トリマーとグルーマーは特に明確に区別されているわけではなくて、私は犬や猫も綺麗に手入れをして可愛くしてあげたいと思う。
「一緒にアイルルニア王立美術館に行かないかい?」
ある日、ダリアン様が私を誘ってくださった。私は困ったように眉を寄せる。昔の嫌な思い出(イーサンとダーシィとの王立美術館に行った時のこと)が蘇ってしまったからだ。
「嫌なら断っていいからね。無理にとは言わないよ」
寂しそうに微笑むダリアン様に私は首を横に振る。
「嫌ではないんです!! 行きたい気持ちでいっぱいですわ。あの美術館にはずっと行ってみたかったし」
「それなら決まりだね。僕は絵に詳しくないから、いろいろ教えてくれると嬉しいよ」
アイルルニア王国の美術館には、私好みの絵画がずらりと飾られ夢中になって見惚れた。黙って同じように絵画を見つめるダリアン様の沈黙も心地良い。
なにも話さなくても、一緒にいて寛げる男性って初めてだ。これがイーサン様だったら、沈黙のたびにそわそわして無理に話題を探して冷笑されただろう。でもダリアン様だったら気にならない。
「ダリアン様はいつも穏やかですね。急にイライラしたり冷たくしないから安心できます」
「え? うん。いつも動物を相手にしているからね。動物って人間より敏感だから、急にイライラして怒ったり意地悪したら治療する前に噛みつかれちゃうよ」
ダリアン様が笑いながらそう言った。
「ぷっ、あっははは。じゃぁ、私は噛みつけば良かったのかな」
私の言葉にぎょっとしたダリアン様に、イーサン様のことを話す。
「そんなことをする男がいるなんて信じられないよ。僕は好きな子に冷たくなんてできないからね。自分がされたら辛いと思うことは、誰に対してもしたいとは思わないし・・・・・・そのイーサンって男は、よほど自分に自信があるのかな? 冷たくしたら普通は嫌われてしまうことを心配するよね?」
それから、ダリアン様と何度もデートを重ねたが、ただの一度も悲しい思いはしたことがない。他の女性を連れて来ることもなければ、他の女性の話題すらしなかった。
「これが普通だよ。そのイーサンってのは異常だから。ようこそ、普通の世界へ!!」
「・・・・・・ぷっ。あっははは。私のいた世界が異常だったのですね?」
私は、やっと普通の恋愛ができそうだ。
「で、相談なんだけど、クララ。結婚を前提として僕とお付き合いしていただけませんか?」
「はい!!」
元気よく答えた私はもう大丈夫。イーサン様から受けた心の傷は、今しっかりと閉じられたのだから。
イーサン様はダリアン様よりずっと背が高くて美しかった。見た目だけならイーサン様の方が素敵だと思う女性が大半だと思う。
でも、中身はダリアン様の方が100万倍美しくて素敵なことを私は知っている。
だから、私は今このアイルルニア王国にいて、ダリアン様の側にいられることが嬉しくて堪らない。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※全4話で完結予定でしたが、イーサンのざまぁがほしいとの多数ご意見を頂き、明日またおまけとしてイーサンのざまぁを書かせていただきます。
ダーシィはマウントをとるようにイーサン様との仲睦まじい様子を見せつけようとしてくるし、その後で必ず優しくベタベタしてくるイーサン様にもすっかり頭が混乱していた。
(なぜ、イーサン様は私を放っておいてくださらないの?)
もう期待させられて、どん底に突き落とされるのは辛すぎた。お母様はそんな私を見かねて学園をやめさせた。
「学園はあそこだけではないわ。隣国アイルルニア王国に留学なさい。きっと、やりたいことが見つかるわ」
お母様の言葉に従い、私はアイルルニア王国に旅立つ。あちらの王立学園は寄宿舎もあって、私はそこで生活することになった。
ここに来てまず驚いたことは、あまり人間関係が密ではないことだ。ランチ時も一人で食事を楽しみ、午後の授業が始まるまで本を読むなどして、自由に過ごす生徒が多かった。
私にとってはありがたい。人と関わることに臆病になっていたから。
でも、そんな私にも友人が一人だけできた。セアラという平民出身の子で、彼女は元々人より動物が好きだと言う。
「私のお父様は獣医なんです。お母様はドッグ&キャットサロンのオーナーで、トリマー(犬の美容師)とグルーマー(猫の美容師)の資格を持っているの。だから私も自然と動物とふれあうことが多くて、結果的に人間が苦手かも。動物といる方がホッとするわ」
私の国では飼う動物といえば馬ぐらいで、犬や猫を飼う貴族は一般的ではなかった。祖国での犬は救助犬として活躍するだけだったし、猫はねずみ取りのために農民が飼うイメージだった。
でも、ここアイルルニア王国では、愛玩用に犬や猫を飼う人がとても多い。貴族ばかりではなく平民も、動物を家族の一員に迎え大事にしている。
セアラの屋敷は学園の近くにあったから、彼女はそこから学園に通っていた。親しくなってセアラの屋敷に招待されると、たくさんの動物がいてびっくりする。
犬や猫、オウムなどの大型の鳥、は虫類などもいて、屋敷全体が動物園みたい! 隣接した動物病院とサロンも大きくて立派で多くの人が働いていた。
たくさんの動物がいるのに屋敷のなかは清潔に保たれていて、動物の匂いが籠もらないように換気口がところどころに設置されている。
まさに動物と共存する為に建てられた館なのだ。こんな生活って憧れる! 素敵だと思った。
「私は、お母様のようにトリマーになろうと思うの。お兄様は獣医になるのよ。今は獣医養成学園に通っていてもうすぐ卒業! あ、ちなみに婚約者はいなくて、今絶賛彼女募集中よ」
セアラのお兄様ダリアン様は、イーサン様とは全く正反対の容姿だった。それほど背も高くなく、優しい顔立ちの男性で目立たないタイプだ。シャイなところがあるようで、私とは目を合わせるだけで赤くなる。
「お兄様は女性とお話しするのは苦手な方だから、無口だけれど怒っているわけじゃないのよ」
とセアラ。
動物に癒やされに、毎日のようにセアラの屋敷に入り浸る私。学園を卒業したらやりたいことが決まったことも嬉しい。それはセアラのお手伝いをすること! 私もトリマーの資格をとることにしたのだ。
トリマーとグルーマーは特に明確に区別されているわけではなくて、私は犬や猫も綺麗に手入れをして可愛くしてあげたいと思う。
「一緒にアイルルニア王立美術館に行かないかい?」
ある日、ダリアン様が私を誘ってくださった。私は困ったように眉を寄せる。昔の嫌な思い出(イーサンとダーシィとの王立美術館に行った時のこと)が蘇ってしまったからだ。
「嫌なら断っていいからね。無理にとは言わないよ」
寂しそうに微笑むダリアン様に私は首を横に振る。
「嫌ではないんです!! 行きたい気持ちでいっぱいですわ。あの美術館にはずっと行ってみたかったし」
「それなら決まりだね。僕は絵に詳しくないから、いろいろ教えてくれると嬉しいよ」
アイルルニア王国の美術館には、私好みの絵画がずらりと飾られ夢中になって見惚れた。黙って同じように絵画を見つめるダリアン様の沈黙も心地良い。
なにも話さなくても、一緒にいて寛げる男性って初めてだ。これがイーサン様だったら、沈黙のたびにそわそわして無理に話題を探して冷笑されただろう。でもダリアン様だったら気にならない。
「ダリアン様はいつも穏やかですね。急にイライラしたり冷たくしないから安心できます」
「え? うん。いつも動物を相手にしているからね。動物って人間より敏感だから、急にイライラして怒ったり意地悪したら治療する前に噛みつかれちゃうよ」
ダリアン様が笑いながらそう言った。
「ぷっ、あっははは。じゃぁ、私は噛みつけば良かったのかな」
私の言葉にぎょっとしたダリアン様に、イーサン様のことを話す。
「そんなことをする男がいるなんて信じられないよ。僕は好きな子に冷たくなんてできないからね。自分がされたら辛いと思うことは、誰に対してもしたいとは思わないし・・・・・・そのイーサンって男は、よほど自分に自信があるのかな? 冷たくしたら普通は嫌われてしまうことを心配するよね?」
それから、ダリアン様と何度もデートを重ねたが、ただの一度も悲しい思いはしたことがない。他の女性を連れて来ることもなければ、他の女性の話題すらしなかった。
「これが普通だよ。そのイーサンってのは異常だから。ようこそ、普通の世界へ!!」
「・・・・・・ぷっ。あっははは。私のいた世界が異常だったのですね?」
私は、やっと普通の恋愛ができそうだ。
「で、相談なんだけど、クララ。結婚を前提として僕とお付き合いしていただけませんか?」
「はい!!」
元気よく答えた私はもう大丈夫。イーサン様から受けた心の傷は、今しっかりと閉じられたのだから。
イーサン様はダリアン様よりずっと背が高くて美しかった。見た目だけならイーサン様の方が素敵だと思う女性が大半だと思う。
でも、中身はダリアン様の方が100万倍美しくて素敵なことを私は知っている。
だから、私は今このアイルルニア王国にいて、ダリアン様の側にいられることが嬉しくて堪らない。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※全4話で完結予定でしたが、イーサンのざまぁがほしいとの多数ご意見を頂き、明日またおまけとしてイーサンのざまぁを書かせていただきます。
1,659
あなたにおすすめの小説
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる