魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される

青空一夏

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「……お噂以上の美しさで、思わず言葉を失いました。僭越ながら、殿下を支える栄誉を、全身全霊で果たす覚悟です」

堂々としていて、語彙も落ち着いているけれど、 年齢は私よりも少し上なだけ。だから、ほんの一瞬だけ少年らしさが覗く。声が緊張からか、少しだけこわばっていた。

お父様とお母様も微笑んでいたから、レオニス様はお眼鏡にかなったのだろう。彼は王配として申し分ない家格の生まれで、振る舞いも洗練されていたから。
  
「アウレリア。レオニス様を庭園にご案内して差し上げてはどうかしら?」
 
お母様がにっこり微笑みながらそう促す。 私は軽く会釈し、レオニス様を伴って、薔薇が咲き誇る庭園へと歩み出た。

「……すごい!こちらには珍しい品種の薔薇がこれほどまでに……壮観ですね」
感嘆が漏れるような声音だった。
 
「えぇ。お祖母様が薔薇をこよなく愛していましたから。たぶん、この国で品種をこれほど揃えている庭園は、ここくらいですわ」

「でしょうね。あちらは遠い異国の薔薇……こちらは王太后様のご出身国の品種ですね? あっ、あそこの薔薇もとても珍しい色ですね」
 
私はこの庭園に植えられた薔薇の品種や名前、由来などもすべて覚えている。けれど、レオニス様も驚くほど詳しかった。

「レオニス様、薔薇にお詳しいのですね?」
「はい。男のくせにと思われるかもしれませんが……花はどれも好きなのです。土に触れ、種から育てることもあります。植物は、僕にとっては癒しですからね」

お祖母様が大切にしていた薔薇を、嬉しそうに目を細めて見つめる横顔。その穏やかさに、私は自然と好感を抱いていた。

レオニス様が帰ったあと、両親に感想を聞かれた。
「……とても優しい方です。花を育てるのが趣味だそうで……。話していると、穏やかで心が落ち着きました」
両親は満足げに頷いた。


次の訪問日。
私はレオニス様を薬草温室に案内した。彼は扉をくぐった瞬間、息を呑んだ。

「……ここは、天国ですね」

光の粒子が満ちる温室を見渡しながら、彼は幼い子のように目を輝かせた。
そして、一株の銀葉の薬草に膝をつき、そっとその葉を撫でる。
 
「これは……珍しい。こちらは熱を下げるだけでなく、不安を和らげる効果もあります。……ここにある薬草を民間でも広く大量に栽培できるようにすれば、助かる民たちも増えるでしょうね。今のままでは効果のある薬はどれも高くて、平民には手が届かないですから」
 
私は息を呑んだ。
「レオニス様は、平民の健康のことまでお考えなのですね……。確かに、この温室にある薬草が広く栽培できるようになれば、今より薬の値も下がって、多くの方が救われると思います。ただ……どれも育成が難しい品種ばかりで……。
品種改良ができれば良いのでしょうけれど……」
 
「そうそう、それです!僕が申し上げたかったのは、品種改良がしたいということです。実のところ、僕は薬師になりたかったのです。植物が好きなので薬草にも興味があって……それが民のためになれば、こんな素晴らしいことはありませんよね」
 
それからのレオニス様は、本当に楽しそうだった。薬草の話になると、瞳がいっそう輝いて、次々と知識を語ってくださる。その丁寧で熱のこもった説明から、どれほど時間をかけて学ばれたのかが伝わってきて、私は思わず感心してしまった。この方となら、穏やかな未来が築けるかもしれない。そう思えるほどの手応えが、そこにはあった。

そして何度かお会いする中で信頼を深めていき、良い婚約者ができたと喜んでいたところに “魔力鑑定の日”がやってきた。 
私は十歳の誕生日を迎えたのだ。王族は皆、この年齢で正式に“魔力”を測定される。

魔力鑑定当日、
一人の宮廷魔導士が大広間で厳めしい顔付きで待っていた。私の後ろには両親と、宰相や大臣たちが控えていた。みんな固唾を飲んで私の魔力の鑑定結果を待っている。
 
「アウレリア王女殿下。恐れ入りますが、こちらに手を置いてください」
 
私が魔力鑑定の水晶に触れた瞬間、水晶の内側が淡い光を放った。
はじめは白。すぐに淡く色づき、ありえないほど鮮やかなピンクに変わる。
 
「……ッ!!? これは……これは……!」
 
ざわっ、と場が揺れる。 魔導士の顔が、見る間に蒼白になった。
 
「ま、まさか……魅了……!? 魅了属性を持つ魔力……! 間違いありません……!!」

 口々にどよめきが広がる。
 
「魅了……? 魅了って……? まさか……あの邪悪な?」





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