(完結)夫と姉(継母の連れ子)に罪を着せられた侯爵令嬢の二度目の人生ー『復讐』よりも『長生き』したい!

青空一夏

文字の大きさ
20 / 33

19 呼び戻されたアナスターシア

しおりを挟む
 病弱なカラハン第一王子の稽古は、初めは軽く走ることからだった。身体を動かすことに慣れたところで、剣や弓などを使用し、徐々に合気道などの練習も増やしていく。

 もちろん、食事の大切さも重要だ。アナスターシアはカラハン第一王子のために、みずから厨房に立ち、さまざまな薬草を混ぜて滋養強壮のスープを作った。

「神様、お願い。カラハン様を元気にしてください。病気も怪我もさせないで。彼が死んだら私も死んじゃう。目標、長生き! ふたりで長生き! あっ、伯父様も、もちろん長生きさせてください。三人で長生き、長生き!」

 アナスターシアがスープをかき混ぜながらぶつぶつとつぶやく。スープの仕上げには必ず、聖獣アスクレオスが守っている薬草をたっぷりと追加して味を調えた。その効果はてきめんで、カラハン第一王子はみるみるうちに元気になった。

 カラハン第一王子は驚くほど短期間で逞しさを増し、アナスターシアのために一層身体を鍛え続けた。その結果、適度に筋肉のついた均整の取れた体格へと成長していった。

(カラハン殿下の輝きが倍増している。眩しすぎて目が潰れそうだよーー。愛の力って恐ろしい・・・・・・じゃなくて・・・・・・素晴らしい)
 美しさと麗しさに、凜々しさと強靱な肉体美まで手に入れたカラハン第一王子に、ジュードは見とれて心のなかでつぶやいた。


 数ヶ月後、カラハン第一王子は名残惜しそうに王都へ戻っていった。しかし、忙しい時間を調整してでも、彼は何度もマッキンタイヤー公爵邸を訪れ、アナスターシアに会いにきた。カラハン第一王子にとって、アナスターシアに会うためなら、王都でどれほど激務に追われようとも全く苦にならなかったのだ。


☆彡 ★彡


 アナスターシアが15歳になった頃、マッキンタイヤー公爵家に、カッシング侯爵が病にかかったとの知らせが届いた。カッシング侯爵からのアナスターシアに会いたい、という内容の手紙を無視するわけにもいかなかった。

「ちょっと様子を見て来ますわ。でも、カッシング侯爵家にいる時でも薬草や医療・化粧品の研究は続けたいのです。どうしたら良いでしょう?」
 アナスターシアはマッキンタイヤー公爵に愚痴りながらも、ため息をついた。
「簡単なことだよ。カッシング侯爵家にも温室や研究室を建てれば良い」
「ですが、建物を建てるとなれば時間がかかりますわ」
「実は最近、事前にプレファブ(予め作られた部品)として用意しておき、現地で組み立てる技術を開発させていたのだ。巧妙に作られた木製や石造りのパーツを使用して、あっという間に建物が建てられる。私に任せておきなさい」
「まぁ、嬉しい! さすがは私の伯父様ですわ」
 
 アナスターシアはマッキンタイヤー公爵に勢いよく抱きついた。公爵も、今では姪からの愛情表現にすっかり慣れており、しっかりと抱きしめ返した。その瞬間、公爵はまるで娘を持つ父親の幸福をしみじみと味わうかのように、心の中に温かい満足感が広がっていった。

(可愛いアナスターシアの為なら、なんでもしてやるぞ!)
 
 親バカ度がますます加速するマッキンタイヤー公爵は、いそいそと石匠や職人たちを呼び出したのだった。


☆彡 ★彡
  

 こちらはカッシング侯爵邸である。

 カッシング侯爵は自室のソファに寝転び、昼から年代物のワインに酔っていた。病気というのは真っ赤な嘘だったのだ。
 アナスターシアを呼び戻した理由はひとつ。あまりにも広まっている自分の悪評を気にしたからだった。マッキンタイヤー公爵領を中心として、アナスターシアの美しさと賢さを褒め称える噂は王都にまで伝わっている。一方、カッシング侯爵は、娘をマッキンタイヤー公爵家に追いやった人でなしとして、さんざんに酷評されていた。

『カッシング侯爵は前妻が亡くなってふた月もしないのに再婚した。きっと、以前から再婚相手と付き合っていたのに違いない。そのうえ、実の娘まで追い出すとは。再婚相手とその連れ子可愛さに、なんという酷い仕打ちをするのか。もしかしたら、その連れ子というのも、本当はカッシング侯爵の子供かもしれない。カッシング侯爵は人でなしだ。冷血漢だ。極悪人だ』
 
 このような噂が広まっていたので、これを払拭するにはアナスターシアを呼び戻す必要があったのだ。カッシング侯爵は、やはりいつでも自分中心なのだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです

珠宮さくら
恋愛
ルチア・ヴァーリは、勘違いされがちな幼なじみと仲良くしていた。周りが悪く言うような令嬢ではないと心から思っていた。 そんな幼なじみが婚約をしそうだとわかったのは、いいなと思っている子息に巻き込まれてアクセサリーショップで贈り物を選んでほしいと言われた時だった。 それを拒んで、証言者まで確保したというのにルチアが幼なじみの婚約を台無しにわざとした悪女のようにされてしまい、幼なじみに勘違いされたのではないかと思って、心を痛めることになるのだが……。

見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです

珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。 だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。 それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。 そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。

処理中です...