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2 パンツを洗わない者はパンを食うべからず!
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「うーーん。眩しいなぁーー。ここはどこ?」
目が覚めた私は、ここが以前住んでいた修道院の一室であることに気がつく。修道院の前に捨てられた赤ちゃんだった私は、ここでシスター達に育てられたのだ。
「アネット! 今日は聖女鑑定の日ですよ。支度をなさい」
シスターの言葉に一瞬ポカンとしたが、この世には神様がいるのだと納得した私だ。
――奇跡? なぜだか時間が巻き戻ってる! 嬉しい。もう絶対、必死には働かない!
「ハニワ・コフン侯爵令嬢は今世紀最高の魔力です! ご神託の大聖女様はハニワ様ですーー」
聖女鑑定の測定器具の針が中ほどまで振れて、神官達が納得の表情で微笑んでいる。
「アネットは、聖女とは言えませんな。針が一回揺れただけ。出来損ないですが一応微量な魔力があるので聖女のおまけってことで」
「えぇーー! そんな子なんていらないわよ! この私がいればどんな魔獣だって怖くないし、どんな病気も治してあげられるんだからぁーー。薄汚い孤児なんておまけでも邪魔なだけよ!」
――しめた! もっと言って~~! もっと無能だと宣伝してよ。そうしたら神殿に連れて行かれなくて済む。
わざと魔力放出を抑え魔力なしを装った私に、ハニワの悪口は天使からの祝福に聞こえる。
「まぁ、おまけを連れていけば面倒な雑用を押しつけられますよ」
神官の一人がハニワを説得する様子に、私は思わずその男の頭部をイライラと睨み付けた。
――それ以上説得するんじゃないわよ。ロキデゲーーハ1フラン(1フラン=1円)!!
「あち、あち! 頭が熱い。ん? あれ? ん? 髪がないよ。ちょうど1フラン硬貨の大きさで髪が生えてない?」
その神官の後頭部の髪だけを一カ所だけ焦がしてやった。きれいに頭皮が現れて涼しそう。うん、夏にはいいわね。
その神官は泣きそうな表情で後頭部を手でさすっていた。
ーーちょっとかわいそうだったかな。でも、毛はまた生えてくるからちょっとの我慢よ。ごめんね!
「そうか・・・・・・雑用があるのねぇ。じゃぁ、アネットもおまけで神殿に行きましょう。孤児が侯爵令嬢と一緒に神殿に行けるのよ? 感謝しなさいよ」
ーーちっ! 説得されちゃったじゃないの。あぁ、残念・・・・・・やっぱ、もう一個1フランハゲ増やしてやりたい!
「はい、ありがたき幸せでございます」
私はおとなしく従うしかない。とにかく目立たないこと、長いものには自ら巻かれに行ってやれ。
神殿での生活は前よりずっと楽だった。力のない聖女達は雑用が仕事で、力のある聖女のパシリ扱いだったが、寝る時間はあるし食事だって前よりずっと豪華だった。
「アネット! 今日の夕食は揚げ鳥と揚げパンだって。この献立が一番好き! スープとサラダはお代わり自由よ」
同じく大部屋聖女のイルカがはしゃいだ。
――まじか・・・・・・くっそ! 私の大聖女時代の食事はなんだったのよ ! 嫌がらせだったのね。ほんとむかつく。
今はハニワが大聖女様と呼ばれているが、彼女の食事にはワインと魚料理までついていた。肉と魚のツーメインディッシュ!! 貴族かよ? あ、お貴族様でした。
しかも治療は午後の3時間しかしない。どんだけ~~!! やり直し前の私、不憫すぎるーー
神殿を出た階段の隅で立ち話を始める、聖女様の治療を受け終わった人達。ハニワの患者さんが愚痴る声も聞こえた。
「なんかさ、大聖女様に診てもらった指がさぁ、かえって痛いったらないの。火傷だったのに治るどころか悪化してる気がして、それを言ったら大聖女様の護衛騎士が鞭で背中を叩こうとするのよ? 侯爵令嬢の聖女様なんて怖いだけだよ」
通りすがりに見れば確かに手が赤くただれていた。これは治癒魔法が適切に施されていないパターンね。
「ドケヤ治れクナモタカトア!」
すれ違いに呪文をとなえてあげた。
「ん? あれ? 治ってる! あぁ、やっぱりハニワ様は大聖女様だ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
私はそのまま通り過ぎてハニワに言いつけられた用事をこなす。洗濯は基本神殿の下女がやるけれど、高級レースをあしらった下着だけは貴族のご令嬢様といえど自分で洗うのに、ハニワときたら私にポンとパンツを投げてよこした。
「ねぇ、おまけ! 私の下着もあんたのと一緒に洗って! いい? そのパンツは高級レース付きだからね、ちゃんと丁寧に洗うのよ!」
「はい、かしこまりました」
「パンツを洗わない者はぁーー♫ パンを食うべからずぅううぅーー♪」
私は歌いながらパンツをゴシゴシ。泡はぶくぶく、夏だから涼しくて洗濯も楽しかった。
夕食後のハニワが「今日はパンが少ししか食べられないわ」とこぼすのを聞き、自分の魔力の高さを呪った。
呪文(逆さ言葉)にしなくても、わずかではあるが影響を及ぼせるほどの魔力。我ながら恐ろしや・・・・・・
でもさ、パンツ洗わせるお嬢が悪いよね? 私のなかで、お嬢とは貴族のからっぽ頭のお嬢様を指す差別用語なのであった。
目が覚めた私は、ここが以前住んでいた修道院の一室であることに気がつく。修道院の前に捨てられた赤ちゃんだった私は、ここでシスター達に育てられたのだ。
「アネット! 今日は聖女鑑定の日ですよ。支度をなさい」
シスターの言葉に一瞬ポカンとしたが、この世には神様がいるのだと納得した私だ。
――奇跡? なぜだか時間が巻き戻ってる! 嬉しい。もう絶対、必死には働かない!
「ハニワ・コフン侯爵令嬢は今世紀最高の魔力です! ご神託の大聖女様はハニワ様ですーー」
聖女鑑定の測定器具の針が中ほどまで振れて、神官達が納得の表情で微笑んでいる。
「アネットは、聖女とは言えませんな。針が一回揺れただけ。出来損ないですが一応微量な魔力があるので聖女のおまけってことで」
「えぇーー! そんな子なんていらないわよ! この私がいればどんな魔獣だって怖くないし、どんな病気も治してあげられるんだからぁーー。薄汚い孤児なんておまけでも邪魔なだけよ!」
――しめた! もっと言って~~! もっと無能だと宣伝してよ。そうしたら神殿に連れて行かれなくて済む。
わざと魔力放出を抑え魔力なしを装った私に、ハニワの悪口は天使からの祝福に聞こえる。
「まぁ、おまけを連れていけば面倒な雑用を押しつけられますよ」
神官の一人がハニワを説得する様子に、私は思わずその男の頭部をイライラと睨み付けた。
――それ以上説得するんじゃないわよ。ロキデゲーーハ1フラン(1フラン=1円)!!
「あち、あち! 頭が熱い。ん? あれ? ん? 髪がないよ。ちょうど1フラン硬貨の大きさで髪が生えてない?」
その神官の後頭部の髪だけを一カ所だけ焦がしてやった。きれいに頭皮が現れて涼しそう。うん、夏にはいいわね。
その神官は泣きそうな表情で後頭部を手でさすっていた。
ーーちょっとかわいそうだったかな。でも、毛はまた生えてくるからちょっとの我慢よ。ごめんね!
「そうか・・・・・・雑用があるのねぇ。じゃぁ、アネットもおまけで神殿に行きましょう。孤児が侯爵令嬢と一緒に神殿に行けるのよ? 感謝しなさいよ」
ーーちっ! 説得されちゃったじゃないの。あぁ、残念・・・・・・やっぱ、もう一個1フランハゲ増やしてやりたい!
「はい、ありがたき幸せでございます」
私はおとなしく従うしかない。とにかく目立たないこと、長いものには自ら巻かれに行ってやれ。
神殿での生活は前よりずっと楽だった。力のない聖女達は雑用が仕事で、力のある聖女のパシリ扱いだったが、寝る時間はあるし食事だって前よりずっと豪華だった。
「アネット! 今日の夕食は揚げ鳥と揚げパンだって。この献立が一番好き! スープとサラダはお代わり自由よ」
同じく大部屋聖女のイルカがはしゃいだ。
――まじか・・・・・・くっそ! 私の大聖女時代の食事はなんだったのよ ! 嫌がらせだったのね。ほんとむかつく。
今はハニワが大聖女様と呼ばれているが、彼女の食事にはワインと魚料理までついていた。肉と魚のツーメインディッシュ!! 貴族かよ? あ、お貴族様でした。
しかも治療は午後の3時間しかしない。どんだけ~~!! やり直し前の私、不憫すぎるーー
神殿を出た階段の隅で立ち話を始める、聖女様の治療を受け終わった人達。ハニワの患者さんが愚痴る声も聞こえた。
「なんかさ、大聖女様に診てもらった指がさぁ、かえって痛いったらないの。火傷だったのに治るどころか悪化してる気がして、それを言ったら大聖女様の護衛騎士が鞭で背中を叩こうとするのよ? 侯爵令嬢の聖女様なんて怖いだけだよ」
通りすがりに見れば確かに手が赤くただれていた。これは治癒魔法が適切に施されていないパターンね。
「ドケヤ治れクナモタカトア!」
すれ違いに呪文をとなえてあげた。
「ん? あれ? 治ってる! あぁ、やっぱりハニワ様は大聖女様だ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
私はそのまま通り過ぎてハニワに言いつけられた用事をこなす。洗濯は基本神殿の下女がやるけれど、高級レースをあしらった下着だけは貴族のご令嬢様といえど自分で洗うのに、ハニワときたら私にポンとパンツを投げてよこした。
「ねぇ、おまけ! 私の下着もあんたのと一緒に洗って! いい? そのパンツは高級レース付きだからね、ちゃんと丁寧に洗うのよ!」
「はい、かしこまりました」
「パンツを洗わない者はぁーー♫ パンを食うべからずぅううぅーー♪」
私は歌いながらパンツをゴシゴシ。泡はぶくぶく、夏だから涼しくて洗濯も楽しかった。
夕食後のハニワが「今日はパンが少ししか食べられないわ」とこぼすのを聞き、自分の魔力の高さを呪った。
呪文(逆さ言葉)にしなくても、わずかではあるが影響を及ぼせるほどの魔力。我ながら恐ろしや・・・・・・
でもさ、パンツ洗わせるお嬢が悪いよね? 私のなかで、お嬢とは貴族のからっぽ頭のお嬢様を指す差別用語なのであった。
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