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ビニ公爵邸で過ごす二日目の朝は爽やかな快晴で、空は深い青色に輝き、陽光は穏やかな明るさを湛え、周りの景色を生き生きと輝かせていた。空は一つの雲もなく、まるで青いキャンバスのようだったわ。
風は軽やかに吹き、庭園の木々の葉がさらさらと音を立てて揺れていた。鳥たちは木々の枝に集まり、美しい歌声で、私を祝福しているみたい。お部屋の広い優雅なバルコニーから庭園を見下ろしながら、幸せで満ち足りた気持ちだった。
「お嬢様、おはようございます」
ノックの音がしてひと呼吸おいた後に、私の専属侍女のスザンナが二人の侍女を伴って入ってきた。顔を洗うと、シルクのタオルで優しく拭き取られ、肌に潤いを与える化粧水とクリームが塗られる。
フローラルスキンヴェール(ファンデーション)は自然の花々から抽出された成分を用いて作ったもので、肌を均一で美しく見せてくれる。
目元にはアイラインが引かれ、淡い水色のアイシャドウが、私のグレーの瞳をより輝かせた。まつげには丁寧に長い繊細入りマスカラが塗られた。
頬にはピンクのチークが軽く乗せられ、自然な血色感を引き立てる。そして、口紅は淡いピンクだ。
ドレスは淡い水色と白のシルクのワンショルダーのデザインで、肩から腰にかけてシンプルな刺繍が施されている。ウエストラインは絞られ、裾に向かって広がるフレアスカートが、風に舞う花びらのように美しい。
「本日の予定は、ビニ公爵領の湖でのピクニックです」
スザンナが朗らかに、微笑みながら教えてくれた。
髪は湖風で乱れないようにと優雅にまとめられ、湖岸で歩きやすいようにかかとが低めのフラットシューズを履かされた。それはドレスに合わせた水色だった。
支度を済ませて階下のファミリールーム(家族用居間)に行くと、ボナデア伯母様がすでに出かける用意を済ませていた。
「ここから半時(30分)くらいの綺麗な湖ですよ。朝食は湖を眺めながらいただきましょう」
わくわくして馬車に乗り込んだ。メイド達がピクニックバスケットを、次々と荷物用馬車に積み込んでいく。とてもたくさんのバスケットに思わず目を丸くした。
「簡単なサンドイッチ、ローストされたお肉とサラダ、それからシャンパンよ。どれもピクニックには欠かせませんからね。フルーツやデザートケーキもあります。ですが、必要な物は他にもたくさんありますよ」
ボナデア伯母様は私にひとつひとつのピクニックバスケットの中身を確認するようにおっしゃった。
ピクニック用の美しい装飾が施されたテーブルクロス。
折りたたみ式の椅子や、地面に座るためのクッション、ブランケット。
食事を楽しむための銀製のカトラリーや食器、ガラス製のコップ。
陽から保護するための傘やテント。
そのような物がそれぞれのバスケットに整然と収まっていたのよ。
ピクニックって行くまでの準備がこれほど大変なのね。ラバジェ伯爵家では一度も体験したことがなかったから、とてもお勉強になった。
私が持ち物を確認して感心している様子を、にこにこと見ていたボナデア伯母様のドレスは私とお揃いだった。
「ボナデア伯母様とお揃いなんて嬉しいです!」
私とボナデア伯母様はにっこりと笑い合う。とても居心地が良い。ここが、私の居場所だと、そう信じられるのが嬉しいし、とても安心できた。
「あぁ、母娘みたいだね。二人とも、とても綺麗だよ」
ビニ公爵様が愛おしそうにボナデア伯母様を見つめる眼差しに、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになった。私はクランシー様から婚約破棄された身だと思っているし、職業婦人として生きていくから、私をあのような眼差しで見つめる男性はきっと現れないだろう。
☆彡 ★彡
湖に着いて、これから乗るという船を見た時に、その素晴らしさに圧倒された。船首には彫刻されたドラゴンとフェニックスが向かい合っていた。ドラゴンは力強さを、フェニックスは優雅さを象徴している。
船体には、ローズと葡萄の葉が美しく彫刻されていた。これらのモチーフは、贅沢な食事と美しい庭園を想起させ、公爵家の富と文化を表現しているかのようだった。
船体の側面には繊細なフィリグリーの彫刻が施されており、日光が差し込むと美しい影を作り出した。これらの模様は船を芸術品のように彩る。
船首や船尾には、公爵家の家紋と紋章が掲げられており、この船が公爵家によって所有されていることを示していた。また、船の一部には水の妖精の彫刻もあった。
内部は贅沢なクッションとシルクのシートで覆われ、快適な座席が用意されていた。シートの色は湖の青と調和し、金の縁取りが高貴な雰囲気を醸し出している。
船の操縦は、熟練の操縦士が担当しており、静かに湖面を進んでいく。水面に映る美しい景色、湖岸に咲く花々、そして遠くに広がる山々がとても美しい。
湖の中央には小さな島が浮かんでおり、すでに大きなテントが設置されていた。テントは贅沢なシルクの幕で覆われ、食事のためのテーブルが用意されている。
「叔父上、先に来てテントを用意させました。ご婦人方の肌が焼けたら大変ですからね」
金髪でブルーの瞳はビニ公爵様と同じで、顔立ちも似ているような気がした。優雅さと気品を継承する同じ遺伝子が組み込まれていそう。
金髪は細かな太陽の光を受けて輝き、瞳のブルーは深淵のように澄み渡っており、どちらも王族の誇りを宿しているかのようだった。ふたりが同じ家系に属することは誰が見ても予想できた。
「ソフィ。この方はライオネル殿下ですよ。メドフォード国の第二王子です。ご挨拶なさい」
「は、はい。お会いできて光栄です。殿下におかれましはご機嫌麗しゅう・・・・・・」
カーテシーを交えながら、丁寧にご挨拶をしようとすると、慌てて止められた。
「堅苦しい挨拶はいらないよ。ボナデア叔母上は母上の信頼も厚く、私の妹の恩師だよ。その方が可愛がっている姪ならば、もっと気楽にして良い」
恐れ多いお言葉をいただいたけれど、しばらくは緊張しっぱなしだった。やがて私達が持って来たバスケットの中身が次々と並べられていった。
ローストチキンとローストビーフはお皿に盛られ、こってりとしたソースがかけられた。サーモン、キュウリ、卵など、さまざまなフィリングを使ったフィンガーサンドイッチも用意され、バラエティに富んだ味わいを楽しめた。
豪華なサラダには、ベビーレタス、ロメインレタス、トマト、キュウリ、アボカド、ナッツが入っている。そしてそこに爽やかな特製のドレッシングをかけていただく。サラダには新鮮なハーブやチーズも添えられ、色とりどりの食材が目にも美しかった。
よく冷えたシャンパンを飲みながら、おしゃべりをしていくと次第にリラックスしてきた。彼がバイオリンやフルートが得意なことや、美しい風景を描くことがお好きなこともわかった。
私も上手ではないけれど絵を描くことが好きだと伝えると、食後に二人で絵を描くことが決まったわ。
食事を終えて、私達は湖の中に浮かぶ小さな島を探索した。ここでは美しい花々が咲き乱れ、鳥の歌声が溢れ、自然の美しさを堪能できた。
湖の水面は透明で、魚の影や水底の石が見えるほど透き通っていた。湖畔に座り、柔らかなブランケットの上に風景画を描く準備をする。自然の美しさに囲まれ、風が軽やかに吹き、湖の水面が穏やかに揺れていた。
ライオネル殿下は慎重にキャンバスを広げ、筆を手にしたわ。彼の手つきは繊細で、まるで自然の美しさをキャンバスに移す魔法使いみたい。私は彼の傍らに静かに座り、湖面に広がるブルーやグリーン、太陽の光と影の踊りを、心の中に浮かび上がる感覚を大切にしながら、キャンバスに落とし込んでいった。
湖の水面には、青空が映り込み、遠くの山々が薄い霞に包まれていた。それはまるで夢の中の風景のようで、私たちはその美しさに見とれた。湖と空、山々の美しい調和を、私たちは一緒に描き、自然と心が打ち解けていくのを感じた。
絵画を描き終えると、ライオネル殿下はフルートを手にした。フルートから奏でられる音は、風のように自然に鳴り響き、とても幻想的な響きだったのよ。
自然界と調和するような美しいメロディと一緒に描いた絵は、私の一生の思い出になったのだった。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※フィリグリー(filigree)は、宝飾品や装飾品の製作技法やデザインスタイルを指す言葉。細い金属線や線状の素材を曲げ、巻き、組み合わせて、美しい模様やデザインを作り出すための技術。
※次回はソフィがエレガントローズ学院で二人の生徒達を裁きます。明日も読んでいただけると嬉しいです。🤗🙏🏻
風は軽やかに吹き、庭園の木々の葉がさらさらと音を立てて揺れていた。鳥たちは木々の枝に集まり、美しい歌声で、私を祝福しているみたい。お部屋の広い優雅なバルコニーから庭園を見下ろしながら、幸せで満ち足りた気持ちだった。
「お嬢様、おはようございます」
ノックの音がしてひと呼吸おいた後に、私の専属侍女のスザンナが二人の侍女を伴って入ってきた。顔を洗うと、シルクのタオルで優しく拭き取られ、肌に潤いを与える化粧水とクリームが塗られる。
フローラルスキンヴェール(ファンデーション)は自然の花々から抽出された成分を用いて作ったもので、肌を均一で美しく見せてくれる。
目元にはアイラインが引かれ、淡い水色のアイシャドウが、私のグレーの瞳をより輝かせた。まつげには丁寧に長い繊細入りマスカラが塗られた。
頬にはピンクのチークが軽く乗せられ、自然な血色感を引き立てる。そして、口紅は淡いピンクだ。
ドレスは淡い水色と白のシルクのワンショルダーのデザインで、肩から腰にかけてシンプルな刺繍が施されている。ウエストラインは絞られ、裾に向かって広がるフレアスカートが、風に舞う花びらのように美しい。
「本日の予定は、ビニ公爵領の湖でのピクニックです」
スザンナが朗らかに、微笑みながら教えてくれた。
髪は湖風で乱れないようにと優雅にまとめられ、湖岸で歩きやすいようにかかとが低めのフラットシューズを履かされた。それはドレスに合わせた水色だった。
支度を済ませて階下のファミリールーム(家族用居間)に行くと、ボナデア伯母様がすでに出かける用意を済ませていた。
「ここから半時(30分)くらいの綺麗な湖ですよ。朝食は湖を眺めながらいただきましょう」
わくわくして馬車に乗り込んだ。メイド達がピクニックバスケットを、次々と荷物用馬車に積み込んでいく。とてもたくさんのバスケットに思わず目を丸くした。
「簡単なサンドイッチ、ローストされたお肉とサラダ、それからシャンパンよ。どれもピクニックには欠かせませんからね。フルーツやデザートケーキもあります。ですが、必要な物は他にもたくさんありますよ」
ボナデア伯母様は私にひとつひとつのピクニックバスケットの中身を確認するようにおっしゃった。
ピクニック用の美しい装飾が施されたテーブルクロス。
折りたたみ式の椅子や、地面に座るためのクッション、ブランケット。
食事を楽しむための銀製のカトラリーや食器、ガラス製のコップ。
陽から保護するための傘やテント。
そのような物がそれぞれのバスケットに整然と収まっていたのよ。
ピクニックって行くまでの準備がこれほど大変なのね。ラバジェ伯爵家では一度も体験したことがなかったから、とてもお勉強になった。
私が持ち物を確認して感心している様子を、にこにこと見ていたボナデア伯母様のドレスは私とお揃いだった。
「ボナデア伯母様とお揃いなんて嬉しいです!」
私とボナデア伯母様はにっこりと笑い合う。とても居心地が良い。ここが、私の居場所だと、そう信じられるのが嬉しいし、とても安心できた。
「あぁ、母娘みたいだね。二人とも、とても綺麗だよ」
ビニ公爵様が愛おしそうにボナデア伯母様を見つめる眼差しに、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになった。私はクランシー様から婚約破棄された身だと思っているし、職業婦人として生きていくから、私をあのような眼差しで見つめる男性はきっと現れないだろう。
☆彡 ★彡
湖に着いて、これから乗るという船を見た時に、その素晴らしさに圧倒された。船首には彫刻されたドラゴンとフェニックスが向かい合っていた。ドラゴンは力強さを、フェニックスは優雅さを象徴している。
船体には、ローズと葡萄の葉が美しく彫刻されていた。これらのモチーフは、贅沢な食事と美しい庭園を想起させ、公爵家の富と文化を表現しているかのようだった。
船体の側面には繊細なフィリグリーの彫刻が施されており、日光が差し込むと美しい影を作り出した。これらの模様は船を芸術品のように彩る。
船首や船尾には、公爵家の家紋と紋章が掲げられており、この船が公爵家によって所有されていることを示していた。また、船の一部には水の妖精の彫刻もあった。
内部は贅沢なクッションとシルクのシートで覆われ、快適な座席が用意されていた。シートの色は湖の青と調和し、金の縁取りが高貴な雰囲気を醸し出している。
船の操縦は、熟練の操縦士が担当しており、静かに湖面を進んでいく。水面に映る美しい景色、湖岸に咲く花々、そして遠くに広がる山々がとても美しい。
湖の中央には小さな島が浮かんでおり、すでに大きなテントが設置されていた。テントは贅沢なシルクの幕で覆われ、食事のためのテーブルが用意されている。
「叔父上、先に来てテントを用意させました。ご婦人方の肌が焼けたら大変ですからね」
金髪でブルーの瞳はビニ公爵様と同じで、顔立ちも似ているような気がした。優雅さと気品を継承する同じ遺伝子が組み込まれていそう。
金髪は細かな太陽の光を受けて輝き、瞳のブルーは深淵のように澄み渡っており、どちらも王族の誇りを宿しているかのようだった。ふたりが同じ家系に属することは誰が見ても予想できた。
「ソフィ。この方はライオネル殿下ですよ。メドフォード国の第二王子です。ご挨拶なさい」
「は、はい。お会いできて光栄です。殿下におかれましはご機嫌麗しゅう・・・・・・」
カーテシーを交えながら、丁寧にご挨拶をしようとすると、慌てて止められた。
「堅苦しい挨拶はいらないよ。ボナデア叔母上は母上の信頼も厚く、私の妹の恩師だよ。その方が可愛がっている姪ならば、もっと気楽にして良い」
恐れ多いお言葉をいただいたけれど、しばらくは緊張しっぱなしだった。やがて私達が持って来たバスケットの中身が次々と並べられていった。
ローストチキンとローストビーフはお皿に盛られ、こってりとしたソースがかけられた。サーモン、キュウリ、卵など、さまざまなフィリングを使ったフィンガーサンドイッチも用意され、バラエティに富んだ味わいを楽しめた。
豪華なサラダには、ベビーレタス、ロメインレタス、トマト、キュウリ、アボカド、ナッツが入っている。そしてそこに爽やかな特製のドレッシングをかけていただく。サラダには新鮮なハーブやチーズも添えられ、色とりどりの食材が目にも美しかった。
よく冷えたシャンパンを飲みながら、おしゃべりをしていくと次第にリラックスしてきた。彼がバイオリンやフルートが得意なことや、美しい風景を描くことがお好きなこともわかった。
私も上手ではないけれど絵を描くことが好きだと伝えると、食後に二人で絵を描くことが決まったわ。
食事を終えて、私達は湖の中に浮かぶ小さな島を探索した。ここでは美しい花々が咲き乱れ、鳥の歌声が溢れ、自然の美しさを堪能できた。
湖の水面は透明で、魚の影や水底の石が見えるほど透き通っていた。湖畔に座り、柔らかなブランケットの上に風景画を描く準備をする。自然の美しさに囲まれ、風が軽やかに吹き、湖の水面が穏やかに揺れていた。
ライオネル殿下は慎重にキャンバスを広げ、筆を手にしたわ。彼の手つきは繊細で、まるで自然の美しさをキャンバスに移す魔法使いみたい。私は彼の傍らに静かに座り、湖面に広がるブルーやグリーン、太陽の光と影の踊りを、心の中に浮かび上がる感覚を大切にしながら、キャンバスに落とし込んでいった。
湖の水面には、青空が映り込み、遠くの山々が薄い霞に包まれていた。それはまるで夢の中の風景のようで、私たちはその美しさに見とれた。湖と空、山々の美しい調和を、私たちは一緒に描き、自然と心が打ち解けていくのを感じた。
絵画を描き終えると、ライオネル殿下はフルートを手にした。フルートから奏でられる音は、風のように自然に鳴り響き、とても幻想的な響きだったのよ。
自然界と調和するような美しいメロディと一緒に描いた絵は、私の一生の思い出になったのだった。
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※フィリグリー(filigree)は、宝飾品や装飾品の製作技法やデザインスタイルを指す言葉。細い金属線や線状の素材を曲げ、巻き、組み合わせて、美しい模様やデザインを作り出すための技術。
※次回はソフィがエレガントローズ学院で二人の生徒達を裁きます。明日も読んでいただけると嬉しいです。🤗🙏🏻
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