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ヴィッキー視点
メドフォード国との国境に着くまでに、他の貴族の領地をいくつも通った。その都度、領地通行料を課され、この経路でメドフォード国まで行くことは愚かだと笑われた。
リゼめっ! 優秀だと思っていたのにがっかりだわ。ラバジェ伯爵邸に戻ったら、思いっきり鞭で打ってやろう。
メドフォード国側の国境検問所では荷物検査をされ、全部のトランクを開けて隅々まで調べられた。
「不敬罪で訴えられたくなかったら、すぐに通してちょうだい。私はボナデア・ビニ公爵夫人の妹で、これから訪ねにいくところなのよ」
そう主張しても、メドフォード国側の国境警備隊員は顔色ひとつ変えない。
「これは、禁止品や違法物の持ち込みを防ぐために行われる大事な検査です。例え、王族と親族であったとしても省略はできませんよ」
彼らは冷たくあしらうだけでなく、さらに私の荷物を徹底的に調べていた。理由は私達の訪問先がビニ公爵邸だったからだ。
国籍や身元を確認するための手続きとして、身分証明書の提示も強いられて、ここでも通行料が請求された。今まで払った領地通行料が高すぎたし、ここでは人数に応じた金額になるという。
まずいわ・・・・・・お金が足りない。
どんなに頼んでも、全額の通行料を払わなければ許可できないと、通行拒否をされてしまう。私達はしぶしぶ引き返し、ラバジェ伯爵邸に戻った。
「リゼ、リゼ!」
ラバジェ伯爵邸に戻ると、早速リゼを呼びつけて、きつくお仕置きをしようとしたのに、その姿はどこにもなかった。執事にリゼの行方を聞くと、私達が出発してすぐに、母親の病気を理由に辞めたとのことだった。
「母親の側にずっといてあげたいと申しておりました。あんなに有能な侍女だったのに残念です」
「タイミング良く辞めたわね。癪に障る!」
いない者に怒りはぶつけられず、イライラしながらも、なんとか気持ちを落ち着けた。再度の出発は、通常の街道を進むことに決めたのだった。
☆彡 ★彡
やっと到着したビニ公爵邸は、予想をはるかに上回る豪華さで、ラバジェ伯爵邸とは大きな違いがあった。それにメドフォード王国はシップトン王国よりもずっと寒かった。
門衛騎士から不審者扱いされ、なかなか門の中に入れなかったが、庭園に庭園用灯具がつき始めた頃に、漸く入ることを許された。
どこもかしこも、お金がかかっている様子で素晴らしいし、センス良く季節の花々が植えられていた。スノードロップ(ギャランサス)は、雪の下から静かに頭を出し、純白の花弁を広げていた。クリスマスローズ(ヘレボルス)は濃いピンクの花を咲かせている。その花弁は氷の結晶のように美しく、寒冷な季節にぴったりだった。
不思議なのは、これほど寒いのに水が凍らず、噴水が水しぶきを上げていることだった。馬車から降り立ち、その水に触れてみると、なんとやはり温水だった。すぐ側にある池の温度調整も適切に行われているようで、色鮮やかな魚が元気に泳ぎまわっていた。
いったいどういう仕組みなの?
出迎えてくれた厳めしい顔つきの家令が、錬金術師グレイトニッキー様の発明した魔道具のお陰です、と教えてくれた。
シップトン王国には錬金術師もいないし魔道具もないから、少しだけ羨ましく思った。
私は屋敷のなかに足を踏み入れた瞬間、その豪華さに圧倒された。けれど、すぐに玄関ホールにいた男性二人の方に見とれてしまう。
一方の男性はすらりと背が高く、細身ながらも均整のとれた身体をしていた。高い鼻梁と形の良い唇に、サラサラの艶やかな金髪が美しい。繊細で優美な顔立ちは、ため息が漏れるほど美しかった。
彼の服は紺色のベルベットで作られ、素晴らしい光沢を放っていた。袖口や襟には金糸で織り込まれた繊細な刺繍が施されている。腰には細い革のベルトが巻かれ、それにはメドフォード王国の紋章が刻まれたバックルが取り付けられていた。
もう一方の男性は鍛えられた肉体と逞しい体つきだった。鋭く輝く青い瞳は自信に溢れ、堂々とした風格がある。
彼の顎はすこしばかり角張り、力強い印象を与え、精悍な顔つきが男らしさを際立たせていた。
おまけに彼の指輪は白金で作られており、その表面にはメドフォード王国の紋章が精巧に彫り込まれていた。まさか、王位継承者の象徴としての指輪?
ということは、この方はカーマイン王太子殿下!
二人の王子達は、新聞や雑誌などの挿絵で見るより、何倍も素敵だったので気づくのが遅すぎた。
「はじめまして。私はバークレ男爵家のココと申します。お会いできて光栄ですわ。これって、運命だと思いませんか?」
ココが私を押しのけて、彼らにすり寄り甘えた声をだした。
「ちょっと、ココ! とても失礼ですよ。その方達に触ってはいけません!」
私は声を張り上げてココを後ろに引き寄せようと試みたが、その瞬間、こちらに近づいてきた令嬢と目があった。彼女は非常に美しく、素晴らしいドレスに身を包んでおり、まるで女神のようだった。
「え? どなたですか?」
その女性が返事をする前にボナデアお姉様も姿を現す。ボナデアお姉様の横にはビニ公爵。後ろには・・・・・・多分・・・・・・まずいわ。
「ソフィをヴィッキーお姉様に返してください。いくら、子供に恵まれなかったからって、姪を誘拐するなんて恥ずべきことです! それから、これは家族の問題なので、誰も口を挟まないでくださいね。ボナデアお姉様の招待でここにいる皆さんも、少しは気を利かせてお帰りになったらいかが?」
ジョハンナがあり得ない言葉を放ったのだった。
メドフォード国との国境に着くまでに、他の貴族の領地をいくつも通った。その都度、領地通行料を課され、この経路でメドフォード国まで行くことは愚かだと笑われた。
リゼめっ! 優秀だと思っていたのにがっかりだわ。ラバジェ伯爵邸に戻ったら、思いっきり鞭で打ってやろう。
メドフォード国側の国境検問所では荷物検査をされ、全部のトランクを開けて隅々まで調べられた。
「不敬罪で訴えられたくなかったら、すぐに通してちょうだい。私はボナデア・ビニ公爵夫人の妹で、これから訪ねにいくところなのよ」
そう主張しても、メドフォード国側の国境警備隊員は顔色ひとつ変えない。
「これは、禁止品や違法物の持ち込みを防ぐために行われる大事な検査です。例え、王族と親族であったとしても省略はできませんよ」
彼らは冷たくあしらうだけでなく、さらに私の荷物を徹底的に調べていた。理由は私達の訪問先がビニ公爵邸だったからだ。
国籍や身元を確認するための手続きとして、身分証明書の提示も強いられて、ここでも通行料が請求された。今まで払った領地通行料が高すぎたし、ここでは人数に応じた金額になるという。
まずいわ・・・・・・お金が足りない。
どんなに頼んでも、全額の通行料を払わなければ許可できないと、通行拒否をされてしまう。私達はしぶしぶ引き返し、ラバジェ伯爵邸に戻った。
「リゼ、リゼ!」
ラバジェ伯爵邸に戻ると、早速リゼを呼びつけて、きつくお仕置きをしようとしたのに、その姿はどこにもなかった。執事にリゼの行方を聞くと、私達が出発してすぐに、母親の病気を理由に辞めたとのことだった。
「母親の側にずっといてあげたいと申しておりました。あんなに有能な侍女だったのに残念です」
「タイミング良く辞めたわね。癪に障る!」
いない者に怒りはぶつけられず、イライラしながらも、なんとか気持ちを落ち着けた。再度の出発は、通常の街道を進むことに決めたのだった。
☆彡 ★彡
やっと到着したビニ公爵邸は、予想をはるかに上回る豪華さで、ラバジェ伯爵邸とは大きな違いがあった。それにメドフォード王国はシップトン王国よりもずっと寒かった。
門衛騎士から不審者扱いされ、なかなか門の中に入れなかったが、庭園に庭園用灯具がつき始めた頃に、漸く入ることを許された。
どこもかしこも、お金がかかっている様子で素晴らしいし、センス良く季節の花々が植えられていた。スノードロップ(ギャランサス)は、雪の下から静かに頭を出し、純白の花弁を広げていた。クリスマスローズ(ヘレボルス)は濃いピンクの花を咲かせている。その花弁は氷の結晶のように美しく、寒冷な季節にぴったりだった。
不思議なのは、これほど寒いのに水が凍らず、噴水が水しぶきを上げていることだった。馬車から降り立ち、その水に触れてみると、なんとやはり温水だった。すぐ側にある池の温度調整も適切に行われているようで、色鮮やかな魚が元気に泳ぎまわっていた。
いったいどういう仕組みなの?
出迎えてくれた厳めしい顔つきの家令が、錬金術師グレイトニッキー様の発明した魔道具のお陰です、と教えてくれた。
シップトン王国には錬金術師もいないし魔道具もないから、少しだけ羨ましく思った。
私は屋敷のなかに足を踏み入れた瞬間、その豪華さに圧倒された。けれど、すぐに玄関ホールにいた男性二人の方に見とれてしまう。
一方の男性はすらりと背が高く、細身ながらも均整のとれた身体をしていた。高い鼻梁と形の良い唇に、サラサラの艶やかな金髪が美しい。繊細で優美な顔立ちは、ため息が漏れるほど美しかった。
彼の服は紺色のベルベットで作られ、素晴らしい光沢を放っていた。袖口や襟には金糸で織り込まれた繊細な刺繍が施されている。腰には細い革のベルトが巻かれ、それにはメドフォード王国の紋章が刻まれたバックルが取り付けられていた。
もう一方の男性は鍛えられた肉体と逞しい体つきだった。鋭く輝く青い瞳は自信に溢れ、堂々とした風格がある。
彼の顎はすこしばかり角張り、力強い印象を与え、精悍な顔つきが男らしさを際立たせていた。
おまけに彼の指輪は白金で作られており、その表面にはメドフォード王国の紋章が精巧に彫り込まれていた。まさか、王位継承者の象徴としての指輪?
ということは、この方はカーマイン王太子殿下!
二人の王子達は、新聞や雑誌などの挿絵で見るより、何倍も素敵だったので気づくのが遅すぎた。
「はじめまして。私はバークレ男爵家のココと申します。お会いできて光栄ですわ。これって、運命だと思いませんか?」
ココが私を押しのけて、彼らにすり寄り甘えた声をだした。
「ちょっと、ココ! とても失礼ですよ。その方達に触ってはいけません!」
私は声を張り上げてココを後ろに引き寄せようと試みたが、その瞬間、こちらに近づいてきた令嬢と目があった。彼女は非常に美しく、素晴らしいドレスに身を包んでおり、まるで女神のようだった。
「え? どなたですか?」
その女性が返事をする前にボナデアお姉様も姿を現す。ボナデアお姉様の横にはビニ公爵。後ろには・・・・・・多分・・・・・・まずいわ。
「ソフィをヴィッキーお姉様に返してください。いくら、子供に恵まれなかったからって、姪を誘拐するなんて恥ずべきことです! それから、これは家族の問題なので、誰も口を挟まないでくださいね。ボナデアお姉様の招待でここにいる皆さんも、少しは気を利かせてお帰りになったらいかが?」
ジョハンナがあり得ない言葉を放ったのだった。
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