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2 娼婦が本命か……湧き上がる怒り
しおりを挟むトミーは思いっきりさきほどまで着ていた上着もドレスシャツも残したままだ。トミーの部屋のクローゼットにもたくさんの衣服が収納されている。
(これらの衣服のポケットはパンドラの箱だものね。開けたら最後、後には引けないけれど……いざ、開けてみるしかない!)
アンナはクローゼットにかけられた上着のポケットに片っ端から手を突っ込み目当てのものを探す。すると……出てくる、出てくる、証拠の山が。小さなメモやら丁寧に書いてある手紙や秘密の暗号めいた紙の切れ端。こんなにもポケットに証拠を詰めておくのもおかしな話だが、そこを気にする様子はないアンナである。
そしてアンナが出した結論は……
「どうしても別れられない相手って娼婦じゃないよ……なによ……これ」
トミー・ルーマニアン侯爵様へ
貴方の心からの愛の告白はとても嬉しいわ。私もこれが真実の愛だと思います!
身請けしてくださるなんて本当にありがとう!
私は永遠にトミー様に愛を誓います!
愛のミツバチのアニーより
ひらりと舞い落ちた薔薇の香りの便せんに情けない思いを噛みしめるアンナであった。
「何度も娼館通いをするトミーを結局は許してしまった私のせいよね。でも娼婦に心まで持っていかれるなんて……トミーへの未練の涙なんて馬鹿らしくてでてこないけれど……今度は自分が惨めで泣けてきちゃうわ。うっ、うっ、うわぁーーん!!」
それを見ていたセバスチャンがまたそっとハーブティーをテーブルの上に置くとアンナの泣く様子をやりきれない思いで見つめたのだった。
しばらくは落ち込んでいたアンナであったがその別れられない女性に興味がおき会いに行くことを決意した。
「『愛のミツバチ』ってどこにあるのかしら? どうやって行けばいいのかわからないわ」
アンナがセバスチャンの前で呟くとその翌日には、トミーの書斎の引き出しからまたもや小さなメモを見つけ出す。
アンナはお忍びでその娼館の前まで行き、アニーを馬車まで呼び出すようにセバスチャンに頼み込んだ。
「お願い、アニーに会って話をしてみたいわ。ここに連れてこられる?」
「もちろんですよ。お嬢様の為ならばどんな不可能も可能にしましょう。少しお待ちくださいね」
セバスチャンの力強い返答に心から安堵するアンナであった。
しばらくすると娼婦には到底見えない可愛らしい清純そうな女性が現れて丁寧にお辞儀をする。アンナは彼女に向かって馬車に乗るように言い、怖がらせないように話しかけてみた。
「トミーと付き合っているそうね? 彼は私の婚約者なのよ。結婚も控えています。それは知っていましたか?」
「え? トミー・ルーマニアン次期侯爵様のことですか? あの方は恋人もいないと聞いていました。ものすごいお金持ちで私を身請けしてくださるとも約束して頂いて……婚約者の方がいたなどは聞いたこともありません。まして結婚を控えていることなど初耳ですわ。……私は身請けしてくださると思いとても感謝して彼が来てくれた際には特別にツケで接待してあげていましたのに」
「えぇ? トミーはツケで娼館に行っていたの? それってあなたの借金になるじゃないよ。思ったよりもずいぶん酷い男だったのね。トミーはお金持ちなんて大嘘ですよ。トミーの家は侯爵家だけれど次男で継げないし、ルーマニアン次期侯爵は私です。私が当主で彼は入り婿になる立場の人よ。身請けなんてできる身分ではないわ」
「そんな……知らなかったです」
「はぁーー、ここまでいくと悲しみより怒りが湧き起こるわね。これは懲らしめた方がいいわね! 私の結婚式の日取りと場所を教えるわ……だからね……」
「まぁ。それはいい案ですわ!」
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