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22 おまけ(カーク視点)※カークさん、かわいそうと思う方だけ読んでくださいませ。最終話
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私は女男爵のエリザベス・コウセイと結婚し、とても不幸だと感じていた。このエリザベスは私をペット君と呼び、名前は絶対に呼んでくれない。
「私にはカークという名前がありますよ。なぜそのように私を辱めるのですか?」
「あら、人間に昇格したいのならもう少し努力なさいな。まずは、身体を鍛えましょうか?」
私にはトレーニングのコーチがつき、まずは筋トレからはじまり、剣の稽古に弓やら槍やらナイフやらの使い方の講師がついた。
「私を傭兵にでもするつもりですか? こんなの王家お抱えの騎士団だってやらないでしょう?」
私が汗だくになりながら文句を言うと、
「ペット君、貴方は私の夫ですが年齢が離れていますでしょう? もう私は子供が産めませんし、私が亡くなれば先夫とのあいだの嫡男が爵位を継ぎます。それがどういうことかおわかりですか?」
「……えっと、エリザベス様が亡くなると私は放り出される?」
「その通りです。まだ若いからいいようなものの、あと10年もしてごらんなさい? 私が亡くなったら少しばかりの遺産はもらえるでしょうが、一生食べていくには足りないでしょうね。つまりは、自分のエサは自分でとってくる賢いペット君にならないと、この後困るのは貴方です」
「…………わかりました……その通りですね……」
説得力のある言葉に私はうな垂れた。自分でエサをとってくるペットになる……それが目標になった。それからは積極的に身体を鍛え、豆知識的な役立つ本や各国のマナーの本なども読みあさった。
☆彡★彡☆彡
王立図書館で本を読みふけっていると、聞き覚えのある声に顔をあげる。
「珍しいな。驚いたよ。お前が熱心にそんな難しい本を読んでいるなんて!」
兄上とは5年ぶりかもしれない。思わず緊張して視線が泳いでしまう。兄とはいえ相手はキナン伯爵で私は女男爵の婿というだけ。もう、馴れ馴れしく話しかけられない身分の差があった。
「痩せたな? いや、引き締まったと言ったらいいのかな? 週末に親しい者ばかりを呼んでパーティをする。お前も奥方を伴って来るといい」
思いがけない言葉に耳を疑った。屋敷に戻りエリザベス様に報告したら満面の笑みで頷いた。
「まぁ、それは吉報ですね。貴方の頑張りにキナン伯爵もお気づきになったのでしょう。あの方は賢く公正な目をお持ちですからね」
確かにできる限りのことはしてきたつもりだったが、エイヴリーに会うには少しばかり緊張する。昔のことが謝れたらいいな……
☆彡★彡☆彡
キナン伯爵邸に夫婦揃ってお邪魔すると、昔よりとても明るい内装に変わっていて驚いた。アイボリーとベージュを基調に、ソファのクッションなどは淡い上品なピンクで暖かみを感じさせる。
サロンに飾ってある絵画はおそらくはエイヴリーが描いたのだろう。妖精と戯れる美しい女性と子供が描かれ、その背後には一面の花畑が広がっていた。
幸せなんだな……そう思った。このように夢のある綺麗な絵画を描けるのは、兄上と一緒になったからなのだろう。私と一緒にならなくて良かったんだな……そうしみじみと考える……
「はじめまちゅて。おじたま」
「お会いできゅて、うれしゅいでしゅ」
まだ幼い口からでる、その愉快な発音は招待客を和ませ笑わせた。兄上とエイヴリーは寄り添い合って、私にニコニコと笑いかけた。
「まぁ、よく来てくださいました! 私達の娘のアスペンと息子のエステバンよ」
エイヴリーがその子供達を私達夫婦に紹介した。
「まぁーー、かわいいこと! さぁ、この叔母様となにをして遊びましょうか?」
エリザベス様は早速その子供達と仲良くなり、積み木やら絵本に囲まれ嬉しそうに笑っていた。エリザベス様は子供が大好きで使用人の子達ともよく遊んでいたから慣れているようだ。
「あの……エイヴリー、昔のことは……本当に申し訳なかったと思う……」
「あら? なんのことでしょう? カーク・コウセイ様。今の貴方は別人ですわ。歳月は人を成長させるものですわね。それにエリザベス様は、温かい心の持ち主ですわ。あの方は私が設立した手話学校のお手伝いもしてくださっているのですよ」
「え? はじめて聞きました!」
「昔のことは水に流そう。お前は努力して変わったと思うよ。その頑張りが続けられるようなら、キナン伯爵家とオマリ伯爵家で雇ってやろう。その体つきを見たら腕も立ちそうだし一般教養は充分だろうから、護衛兼見習い執事として仕えなさい。兄弟でいがみ合うより、支え合って生きた方が何倍も楽しいし有益だ」
私はその帰りに初めてエリザベス様から名前を呼ばれた。
「さぁ、カーク様。少し疲れましたわね。帰ったら、酔い覚ましに熱いコーヒーを飲みましょう?」
完
「私にはカークという名前がありますよ。なぜそのように私を辱めるのですか?」
「あら、人間に昇格したいのならもう少し努力なさいな。まずは、身体を鍛えましょうか?」
私にはトレーニングのコーチがつき、まずは筋トレからはじまり、剣の稽古に弓やら槍やらナイフやらの使い方の講師がついた。
「私を傭兵にでもするつもりですか? こんなの王家お抱えの騎士団だってやらないでしょう?」
私が汗だくになりながら文句を言うと、
「ペット君、貴方は私の夫ですが年齢が離れていますでしょう? もう私は子供が産めませんし、私が亡くなれば先夫とのあいだの嫡男が爵位を継ぎます。それがどういうことかおわかりですか?」
「……えっと、エリザベス様が亡くなると私は放り出される?」
「その通りです。まだ若いからいいようなものの、あと10年もしてごらんなさい? 私が亡くなったら少しばかりの遺産はもらえるでしょうが、一生食べていくには足りないでしょうね。つまりは、自分のエサは自分でとってくる賢いペット君にならないと、この後困るのは貴方です」
「…………わかりました……その通りですね……」
説得力のある言葉に私はうな垂れた。自分でエサをとってくるペットになる……それが目標になった。それからは積極的に身体を鍛え、豆知識的な役立つ本や各国のマナーの本なども読みあさった。
☆彡★彡☆彡
王立図書館で本を読みふけっていると、聞き覚えのある声に顔をあげる。
「珍しいな。驚いたよ。お前が熱心にそんな難しい本を読んでいるなんて!」
兄上とは5年ぶりかもしれない。思わず緊張して視線が泳いでしまう。兄とはいえ相手はキナン伯爵で私は女男爵の婿というだけ。もう、馴れ馴れしく話しかけられない身分の差があった。
「痩せたな? いや、引き締まったと言ったらいいのかな? 週末に親しい者ばかりを呼んでパーティをする。お前も奥方を伴って来るといい」
思いがけない言葉に耳を疑った。屋敷に戻りエリザベス様に報告したら満面の笑みで頷いた。
「まぁ、それは吉報ですね。貴方の頑張りにキナン伯爵もお気づきになったのでしょう。あの方は賢く公正な目をお持ちですからね」
確かにできる限りのことはしてきたつもりだったが、エイヴリーに会うには少しばかり緊張する。昔のことが謝れたらいいな……
☆彡★彡☆彡
キナン伯爵邸に夫婦揃ってお邪魔すると、昔よりとても明るい内装に変わっていて驚いた。アイボリーとベージュを基調に、ソファのクッションなどは淡い上品なピンクで暖かみを感じさせる。
サロンに飾ってある絵画はおそらくはエイヴリーが描いたのだろう。妖精と戯れる美しい女性と子供が描かれ、その背後には一面の花畑が広がっていた。
幸せなんだな……そう思った。このように夢のある綺麗な絵画を描けるのは、兄上と一緒になったからなのだろう。私と一緒にならなくて良かったんだな……そうしみじみと考える……
「はじめまちゅて。おじたま」
「お会いできゅて、うれしゅいでしゅ」
まだ幼い口からでる、その愉快な発音は招待客を和ませ笑わせた。兄上とエイヴリーは寄り添い合って、私にニコニコと笑いかけた。
「まぁ、よく来てくださいました! 私達の娘のアスペンと息子のエステバンよ」
エイヴリーがその子供達を私達夫婦に紹介した。
「まぁーー、かわいいこと! さぁ、この叔母様となにをして遊びましょうか?」
エリザベス様は早速その子供達と仲良くなり、積み木やら絵本に囲まれ嬉しそうに笑っていた。エリザベス様は子供が大好きで使用人の子達ともよく遊んでいたから慣れているようだ。
「あの……エイヴリー、昔のことは……本当に申し訳なかったと思う……」
「あら? なんのことでしょう? カーク・コウセイ様。今の貴方は別人ですわ。歳月は人を成長させるものですわね。それにエリザベス様は、温かい心の持ち主ですわ。あの方は私が設立した手話学校のお手伝いもしてくださっているのですよ」
「え? はじめて聞きました!」
「昔のことは水に流そう。お前は努力して変わったと思うよ。その頑張りが続けられるようなら、キナン伯爵家とオマリ伯爵家で雇ってやろう。その体つきを見たら腕も立ちそうだし一般教養は充分だろうから、護衛兼見習い執事として仕えなさい。兄弟でいがみ合うより、支え合って生きた方が何倍も楽しいし有益だ」
私はその帰りに初めてエリザベス様から名前を呼ばれた。
「さぁ、カーク様。少し疲れましたわね。帰ったら、酔い覚ましに熱いコーヒーを飲みましょう?」
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・・・まぁ話の展開上仕方ないとはわかるんだけどw
王様ノリノリ加減が最高ですね
主人公は公爵家ですか?伯爵家ですか?
混在しているよう気がするのですが、読み間違いですかね?
感想ありがとうございます🌈🎶
混在していましたか?
それはあり得ます😅
ごめんなさい🙇♀️
とても誤字が多い作者なのです💦
時間があれば見直して直したいと思います😰