[完結]愛する人たちに裏切られた私は……

青空一夏

文字の大きさ
2 / 46

2 信じたいレティシア 

 お茶会が終わり、深く思い悩みながら、私は庭園の小道をゆっくりと歩いていた。柔らかな夕暮れの光が空を染め、グチャグチャになった思考をほんの少しだけ和らげてくれる。

 けれど、静かな午後の余韻が残る中、ふと視線を上げると、庭園の隅にある窓に目が留まった。そこには、オズワルドとカミーユが並んで佇む姿があった。

 あれは客間の窓だろうか。それとも、オズワルドの書斎? 二人はただ静かに立っていただけなのに、その光景に胸の奥がざわついた。

 距離があったため完璧な会話までは聞こえなかったが、風に乗って、ふと耳に届いた断片がある。

 「愛してる」
 「お前だけは特別」

 オズワルドの声だった。そう思った瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。

 ――違う、違うわ。きっと空耳。聞き間違いよ。私、どうかしてる。

 愛する夫と、実の娘のように大切にしてきたカミーユが、そんな……そんなはず、あるわけがない。私は何を考えているの? どうかしてる。本当にどうかしてる。

 自分に言い聞かせるように深く息を吐き、笑みを浮かべてみた。でもそれは、口元からこぼれた自嘲に過ぎなかった。

 ――私が勝手に被害妄想になってるだけ。あんなの偶然。たまたまよ。疑うなんて、バカみたい。

 けれど、オズワルドの声が何度も頭の中で繰り返され、胸の痛みはどうしても消えなかった。立ち止まった足は、重くて動かせない。

 翌日も、その翌日も、暗い影が心に居座ったまま。夫を問い詰めるべきか、確証を得るべきか――答えは出ない。私はついに、誰よりも信頼している人に相談することにした。

「マリー、少しお話してもいいかしら?」

 いつもと変わらぬ穏やかな表情のマリーは、静かに頷いて、私の話を聞いてくれた。あの窓辺のことを語ると、少しの沈黙の後、マリーがぽつりと口を開く。

「もしかしたら、聞き間違えではないかもしれません」

 その言葉が胸に落ちて、鈍く響いた。まるで、冷たい水を背中にかけられたような感覚。

 ――そんなはずない。そんなはず……。

 顔が引きつるのを自覚しながら、私は口を開いた。

「……まさか。私の勘違いよね。気のせい。……違うと言って」

 けれど、マリーは目を伏せながら続けた。

「奥様が耳にされた言葉、私も聞いたような気がします」

 心臓が一瞬止まったかのようだった。全身の血が逆流していくような、嫌な感覚。

「……違う、そんなことあるはずない。絶対に違うわ。ねえ、マリー、そうでしょう?」

「……私も、そう思いたいです」

 マリーの言葉はやわらかかったけれど、決して「違う」とは言ってくれなかった。

 私はオズワルドを信じたい。カミーユだって、あの子がそんなことをするはずがないのよ。
 信じていたい。疑いたくなんてないのに……。
 
 ――あんな手紙なんて見なければ良かった。知らなければ、今でも、何も知らずに、幸せだったのに。



•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

「死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー」も連載中です。こちらは少しコメディ寄りです。合わせてお読みいだたけると嬉しいです!
 
 よろしくお願いします!
感想 158

あなたにおすすめの小説

あなたの破滅のはじまり

nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。 え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか? あなたを待っているのは破滅ですよ。 ※Ep.2 追加しました。 マルグリッタの魔女の血を色濃く受け継ぐ娘ヴィヴィアン。そんなヴィヴィアンの元に隣の大陸の王ジェハスより婚姻の話が舞い込む。 子爵の五男アレクに淡い恋心を抱くも、行き違いから失恋したと思い込んでいるヴィヴィアン。アレクのことが忘れられずにいたヴィヴィアンは婚姻話を断るつもりだったが、王命により強制的に婚姻させられてしまう。 だが、ジェハス王はゴールダー家の巨万の富が目的だった。王妃として迎えられたヴィヴィアンだったが、お飾りの王妃として扱われて冷遇される。しかも、ジェハスには側妃がすでに5人もいた。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

[完結]待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。 ※短編連作 ※この話はフィクションです。事実や現実とは異なります。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。