[完結]愛する人たちに裏切られた私は……

青空一夏

文字の大きさ
22 / 46

22 ルーファスの幸せ-2

しおりを挟む
 ※ルーファス視点


 会長さん――レティシア会長が、ぼくの手を取った。
 その手はあたたかくて、やさしくて、すこしだけ甘い香りがした。

 広い建物の中を歩いていく。大きな階段をのぼって、きれいな模様が彫られた扉の前で立ち止まった。
 扉が静かに開いて、レティシア会長が中に入る。

 ぼくも続いて中に入ると、思わず立ち止まりそうになった。

 天井が高くて、床はぴかぴか。窓にはきれいな色のカーテンがかかっていて、外の光がやわらかく入っていた。
 机も椅子も重たそうで、ぴかぴかに磨かれている。

 でも、きょろきょろしちゃいけないと思って、足元を見ながらついていった。

「ここが、私の部屋よ。どうぞ座って」

 やさしい声にうながされて、そっと椅子に腰を下ろす。
 足がぶらぶらして、ちょっと恥ずかしかった。

 ぼくは、ぎゅっと握りしめていた手紙を、レティシア会長に差し出す。

「これ……お父さまが、わたしてって」

 レティシア会長は手紙を受け取り、ゆっくりと開いて中を読みはじめた。
 ぼくはじっと下を向いたまま、顔を上げなかった。
 何て書いてあるのかはわからない。でも、怒られたりしませんように、ってお祈りした。

 目の前に、静かにカップが置かれた。
 甘い香りがして、ぼくは両手でカップを包み込むように持つ。

「……ありがと、ございます」

 すぐに立ち上がって、深くおじぎをした。
 それはマリーに教えられていたことで、すっかりぼくに身についていた。

「あなたは生まれてきちゃいけない子だったのだから、何かしてもらったら、立ち上がって九十度の角度で頭をさげなさいよ」
 そう、言われていたんだ。よく意味はわからないけど。

 カップを置いた女の人が、ぼくを見て、驚いたような顔をした。
 レティシア会長も不思議そうに、ぼくを見る。

「……あの。ぼく、へんなこと……しちゃいましたか?」

「わざわざ立ち上がって、そんなに深くお辞儀なんてしなくていいのよ。なぜ、そうしたのかしら?」

「マリーが、ぼくみたいな子は、ちゃんとおじぎしなきゃダメって。だって……うまれてきちゃいけない子だったから、って言ってたの」

「……マリーが、そんなことを?」

 ぼくがうなづくと、なぜか温かい飲み物を持って来てくれた女の人が、顔を手で覆って泣き出した。レティシア会長の目も赤くなっている。

 ぼく、なにかしたの?

 その女の人は、ビッキーさんっていって、レティシア会長の秘書なんだって。
 だんなさまも、この商館で働いているって教えてくれた。

 ぼくは、ふたりにいろいろ聞かれて、今までのことをぜんぶ話したよ。
 そうしたら、ビッキーさんが急に立ち上がって、レティシア会長に向かって言った。

「ボス。私に任せてください! 私がこの子を育てます!」

 声はふるえていたけど、すごく本気みたいだった。

「私たち夫婦は子供に恵まれず、つい最近まで孤児院を回って養子を探していたんです。でも……こんな子が、こんなふうに耐えてきたなんて、放っておけません。これは運命ですわ。この子の心の傷は、私がきっと癒します!」
 それから、ビッキーさんはぼくの方を向いて、ふわりと笑った。
「さて、ルーファスちゃん。おばさんの家に来てみない?」

 それからのぼくの生活は、がらりと変わった。

 ビッキーさんたちの家は、レティシア会長の屋敷のすぐ隣だった。
 ぼくの部屋も用意してくれて、毎日あたたかい食事が食べられて、ふかふかの布団で寝ることができた。部屋はきれいだし、ビッキーさんは優しい。

 昼間はビッキーさんといっしょに商会に行く。秘書室にはやさしいおねえさんたちがいて、みんなが微笑みながら話しかけてくれる。

 会長室でお昼ごはんをレティシア会長と一緒に食べたり、ビッキーさんが絵本を読んでくれたりもするんだ。

「すごいな。お母さまも、お父さまもいないけど、ぼく、もうさびしくないよ」

 そう言ってにっこり笑ったら、レティシア会長とビッキーさんに、同時にぎゅっと抱きしめられた。
 秘書室のおねえさんたちまで、順番にぼくを抱きしめてくれた。

「ルーファス。あなたには、ふたりもお母様がいるわ。ビッキーと私よ。それから、この商会の人たちみんなが、あなたを守る家族よ」 

 そっか……ぼくはもう、ひとりじゃないんだね。
 

 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
 ※今回、優しい世界観でお話を書きました。

 ※宣伝です。「死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー」の読者様リクエスト書きました。暇つぶしにお読みいただけると嬉しいです。コメディ寄りざまぁ、です。最終話の次に書いてあります。よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

あなたの破滅のはじまり

nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。 え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか? あなたを待っているのは破滅ですよ。 ※Ep.2 追加しました。 マルグリッタの魔女の血を色濃く受け継ぐ娘ヴィヴィアン。そんなヴィヴィアンの元に隣の大陸の王ジェハスより婚姻の話が舞い込む。 子爵の五男アレクに淡い恋心を抱くも、行き違いから失恋したと思い込んでいるヴィヴィアン。アレクのことが忘れられずにいたヴィヴィアンは婚姻話を断るつもりだったが、王命により強制的に婚姻させられてしまう。 だが、ジェハス王はゴールダー家の巨万の富が目的だった。王妃として迎えられたヴィヴィアンだったが、お飾りの王妃として扱われて冷遇される。しかも、ジェハスには側妃がすでに5人もいた。

婚約破棄は喜んで

nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」 他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。 え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

処理中です...