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22 ルーファスの幸せ-2
※ルーファス視点
会長さん――レティシア会長が、ぼくの手を取った。
その手はあたたかくて、やさしくて、すこしだけ甘い香りがした。
広い建物の中を歩いていく。大きな階段をのぼって、きれいな模様が彫られた扉の前で立ち止まった。
扉が静かに開いて、レティシア会長が中に入る。
ぼくも続いて中に入ると、思わず立ち止まりそうになった。
天井が高くて、床はぴかぴか。窓にはきれいな色のカーテンがかかっていて、外の光がやわらかく入っていた。
机も椅子も重たそうで、ぴかぴかに磨かれている。
でも、きょろきょろしちゃいけないと思って、足元を見ながらついていった。
「ここが、私の部屋よ。どうぞ座って」
やさしい声にうながされて、そっと椅子に腰を下ろす。
足がぶらぶらして、ちょっと恥ずかしかった。
ぼくは、ぎゅっと握りしめていた手紙を、レティシア会長に差し出す。
「これ……お父さまが、わたしてって」
レティシア会長は手紙を受け取り、ゆっくりと開いて中を読みはじめた。
ぼくはじっと下を向いたまま、顔を上げなかった。
何て書いてあるのかはわからない。でも、怒られたりしませんように、ってお祈りした。
目の前に、静かにカップが置かれた。
甘い香りがして、ぼくは両手でカップを包み込むように持つ。
「……ありがと、ございます」
すぐに立ち上がって、深くおじぎをした。
それはマリーに教えられていたことで、すっかりぼくに身についていた。
「あなたは生まれてきちゃいけない子だったのだから、何かしてもらったら、立ち上がって九十度の角度で頭をさげなさいよ」
そう、言われていたんだ。よく意味はわからないけど。
カップを置いた女の人が、ぼくを見て、驚いたような顔をした。
レティシア会長も不思議そうに、ぼくを見る。
「……あの。ぼく、へんなこと……しちゃいましたか?」
「わざわざ立ち上がって、そんなに深くお辞儀なんてしなくていいのよ。なぜ、そうしたのかしら?」
「マリーが、ぼくみたいな子は、ちゃんとおじぎしなきゃダメって。だって……うまれてきちゃいけない子だったから、って言ってたの」
「……マリーが、そんなことを?」
ぼくがうなづくと、なぜか温かい飲み物を持って来てくれた女の人が、顔を手で覆って泣き出した。レティシア会長の目も赤くなっている。
ぼく、なにかしたの?
その女の人は、ビッキーさんっていって、レティシア会長の秘書なんだって。
だんなさまも、この商館で働いているって教えてくれた。
ぼくは、ふたりにいろいろ聞かれて、今までのことをぜんぶ話したよ。
そうしたら、ビッキーさんが急に立ち上がって、レティシア会長に向かって言った。
「ボス。私に任せてください! 私がこの子を育てます!」
声はふるえていたけど、すごく本気みたいだった。
「私たち夫婦は子供に恵まれず、つい最近まで孤児院を回って養子を探していたんです。でも……こんな子が、こんなふうに耐えてきたなんて、放っておけません。これは運命ですわ。この子の心の傷は、私がきっと癒します!」
それから、ビッキーさんはぼくの方を向いて、ふわりと笑った。
「さて、ルーファスちゃん。おばさんの家に来てみない?」
それからのぼくの生活は、がらりと変わった。
ビッキーさんたちの家は、レティシア会長の屋敷のすぐ隣だった。
ぼくの部屋も用意してくれて、毎日あたたかい食事が食べられて、ふかふかの布団で寝ることができた。部屋はきれいだし、ビッキーさんは優しい。
昼間はビッキーさんといっしょに商会に行く。秘書室にはやさしいおねえさんたちがいて、みんなが微笑みながら話しかけてくれる。
会長室でお昼ごはんをレティシア会長と一緒に食べたり、ビッキーさんが絵本を読んでくれたりもするんだ。
「すごいな。お母さまも、お父さまもいないけど、ぼく、もうさびしくないよ」
そう言ってにっこり笑ったら、レティシア会長とビッキーさんに、同時にぎゅっと抱きしめられた。
秘書室のおねえさんたちまで、順番にぼくを抱きしめてくれた。
「ルーファス。あなたには、ふたりもお母様がいるわ。ビッキーと私よ。それから、この商会の人たちみんなが、あなたを守る家族よ」
そっか……ぼくはもう、ひとりじゃないんだね。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※今回、優しい世界観でお話を書きました。
※宣伝です。「死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー」の読者様リクエスト書きました。暇つぶしにお読みいただけると嬉しいです。コメディ寄りざまぁ、です。最終話の次に書いてあります。よろしくお願いします!
会長さん――レティシア会長が、ぼくの手を取った。
その手はあたたかくて、やさしくて、すこしだけ甘い香りがした。
広い建物の中を歩いていく。大きな階段をのぼって、きれいな模様が彫られた扉の前で立ち止まった。
扉が静かに開いて、レティシア会長が中に入る。
ぼくも続いて中に入ると、思わず立ち止まりそうになった。
天井が高くて、床はぴかぴか。窓にはきれいな色のカーテンがかかっていて、外の光がやわらかく入っていた。
机も椅子も重たそうで、ぴかぴかに磨かれている。
でも、きょろきょろしちゃいけないと思って、足元を見ながらついていった。
「ここが、私の部屋よ。どうぞ座って」
やさしい声にうながされて、そっと椅子に腰を下ろす。
足がぶらぶらして、ちょっと恥ずかしかった。
ぼくは、ぎゅっと握りしめていた手紙を、レティシア会長に差し出す。
「これ……お父さまが、わたしてって」
レティシア会長は手紙を受け取り、ゆっくりと開いて中を読みはじめた。
ぼくはじっと下を向いたまま、顔を上げなかった。
何て書いてあるのかはわからない。でも、怒られたりしませんように、ってお祈りした。
目の前に、静かにカップが置かれた。
甘い香りがして、ぼくは両手でカップを包み込むように持つ。
「……ありがと、ございます」
すぐに立ち上がって、深くおじぎをした。
それはマリーに教えられていたことで、すっかりぼくに身についていた。
「あなたは生まれてきちゃいけない子だったのだから、何かしてもらったら、立ち上がって九十度の角度で頭をさげなさいよ」
そう、言われていたんだ。よく意味はわからないけど。
カップを置いた女の人が、ぼくを見て、驚いたような顔をした。
レティシア会長も不思議そうに、ぼくを見る。
「……あの。ぼく、へんなこと……しちゃいましたか?」
「わざわざ立ち上がって、そんなに深くお辞儀なんてしなくていいのよ。なぜ、そうしたのかしら?」
「マリーが、ぼくみたいな子は、ちゃんとおじぎしなきゃダメって。だって……うまれてきちゃいけない子だったから、って言ってたの」
「……マリーが、そんなことを?」
ぼくがうなづくと、なぜか温かい飲み物を持って来てくれた女の人が、顔を手で覆って泣き出した。レティシア会長の目も赤くなっている。
ぼく、なにかしたの?
その女の人は、ビッキーさんっていって、レティシア会長の秘書なんだって。
だんなさまも、この商館で働いているって教えてくれた。
ぼくは、ふたりにいろいろ聞かれて、今までのことをぜんぶ話したよ。
そうしたら、ビッキーさんが急に立ち上がって、レティシア会長に向かって言った。
「ボス。私に任せてください! 私がこの子を育てます!」
声はふるえていたけど、すごく本気みたいだった。
「私たち夫婦は子供に恵まれず、つい最近まで孤児院を回って養子を探していたんです。でも……こんな子が、こんなふうに耐えてきたなんて、放っておけません。これは運命ですわ。この子の心の傷は、私がきっと癒します!」
それから、ビッキーさんはぼくの方を向いて、ふわりと笑った。
「さて、ルーファスちゃん。おばさんの家に来てみない?」
それからのぼくの生活は、がらりと変わった。
ビッキーさんたちの家は、レティシア会長の屋敷のすぐ隣だった。
ぼくの部屋も用意してくれて、毎日あたたかい食事が食べられて、ふかふかの布団で寝ることができた。部屋はきれいだし、ビッキーさんは優しい。
昼間はビッキーさんといっしょに商会に行く。秘書室にはやさしいおねえさんたちがいて、みんなが微笑みながら話しかけてくれる。
会長室でお昼ごはんをレティシア会長と一緒に食べたり、ビッキーさんが絵本を読んでくれたりもするんだ。
「すごいな。お母さまも、お父さまもいないけど、ぼく、もうさびしくないよ」
そう言ってにっこり笑ったら、レティシア会長とビッキーさんに、同時にぎゅっと抱きしめられた。
秘書室のおねえさんたちまで、順番にぼくを抱きしめてくれた。
「ルーファス。あなたには、ふたりもお母様がいるわ。ビッキーと私よ。それから、この商会の人たちみんなが、あなたを守る家族よ」
そっか……ぼくはもう、ひとりじゃないんだね。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※今回、優しい世界観でお話を書きました。
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