[完結]愛する人たちに裏切られた私は……

青空一夏

文字の大きさ
36 / 46

36 レティシアの幸せ−13

しおりを挟む
 澄み渡る青空の下、今日は私の結婚式。人生で最高に幸せな日が始まろうとしている。

 厳かに響く鐘の音が、ノルディアン公国の城塔の上から鳴り渡った。
 目の前にそびえるのは、金と白を基調とした荘厳な大聖堂。その姿はまるで、天へと祈りを捧げるように伸び、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 扉が開かれる。私は、足を踏み入れた。
 高く広がる天井。そこには精巧な細工が施された水晶のシャンデリアが吊るされているが、昼間の今は静かにその存在を示している。
 祭壇の奥から差し込む陽光がステンドグラスを透かし、床に美しい虹の模様を描いていた。

 私は、ゆっくりと歩を進めた。
 ──そう、これはただの結婚式じゃない。ノルディアン公国の未来を賭けた、「大公妃戴冠の儀」。
 私の人生を決定づける、最初で最後の「婚礼」だ。

 視線が一斉に注がれているのを感じる。
 公国の貴族たち、祖国グランセリカ王国の面々、遠方から訪れた使節団――そして、長年私を支えてくれたオックスリー商会の人々。

 その中には、もちろんユリウスの姿もあった。彼はいつもと変わらぬ落ち着いた笑顔で、「仕事ではこれからも支えますよ」と軽く言ってくれた。
 そして最後に、「何より、レティシア様の幸せが一番です」と、心からの祝福を贈ってくれたのだ。

 そんな彼ら全員が、今、息を呑むようにしてこちらを見つめていた。
 
 胸の奥に、わずかな緊張が残っていた。
 けれど、ノルディアン大公が愛しさをたたえた瞳で見つめ、そっと微笑んでくれた瞬間――その柔らかな笑顔に包まれるようにして、私は少しずつ落ち着きを取り戻していった。



 私のドレスは、オックスリー商会傘下の仕立て屋たちが、丹精込めて仕立ててくれたものだ。柔らかな絹が幾重にも重ねられ、淡い金糸の刺繍が光を受けて静かに輝いている。身にまとう感触は驚くほど軽やかで、まるで羽根のようだった。

 けれど、心のどこかにずしりと重さを感じていた。
 それはこのドレスの重みではなく――今日、私は大公妃になる。
 この国を背負う者として歩む、その責任の重さだった。

 でも、不思議と足取りは軽かった。
 過去の涙も痛みも、すべてが私の背中を押している。だからこそ、私は前を向いて歩ける。

「レティシア、汝はこの国の未来を担う大公妃たる者として、ここに誓いを立てるか」

 司祭の声が大聖堂に響き渡る。私は、真っ直ぐにノルディアン大公の目を見つめて、誓う。
 迷いなど、もうひとつもなかった。

「はい。私、レティシアは……ノルディアン大公閣下と、この国と、そして民に誓います。命尽きるその日まで、共に歩み、守り抜くと」

 大聖堂に、一拍の静寂。
 次の瞬間、花びらが舞った。天井から舞い落ちた薔薇の花びらが、私の肩に、髪に降り注ぐ。
 そして、ノルディアン大公が近づいてくる。

 「……美しいな」

 その言葉は、他の誰にも聞こえないほど小さく、でも私の胸にはっきりと届いた。

 私は彼の手を取り、かつて感じたことのないほどの喜びを胸いっぱいに抱きしめる。
 こんな日が本当に来るなんて、夢のようで――でも、確かに私は今、ここにいる。

 あの日々があったからこそ、私はここまで来られた。
 裏切りも、痛みも、不安も。何度も立ち止まりそうになったけれど、それでも諦めずに、自分自身を信じて歩いてきた。
 そのすべてが、今、報われた気がした。

 ノルディアン大公の隣に立つことは、ただの幸せではない。
 この国の未来を共に担うという、大きな責任を意味する。
 けれど私は、もう迷わない。
 彼となら、どんな道でも歩いていけると、心からそう思えるから。

 大聖堂に、祝福の鐘が何度も鳴り響く。
 金糸のドレスが光を受けて揺れ、花の舞う中、私たちは一歩、未来へと踏み出した。

 ──これが、私の物語の結末。
 私は、大好きな人と結ばれて、幸せになった。
 


本編完結
⊹ ࣪˖ ┈ ┈ ˖ ࣪⊹ ┈ ┈ ⊹ ࣪˖ ┈ ┈ ˖ ࣪⊹

あと数話、結婚後のレティシアたちの様子や、ユリウスの恋なども描いていくかもしれないので、本編完結としておきますね。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
たくさんの❤️や応援、感想も感謝しております。
引き続き、お読みいただけるとうれしいです( *ᴗˬᴗ)⁾⁾ 
しおりを挟む
感想 158

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

あなたの破滅のはじまり

nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。 え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか? あなたを待っているのは破滅ですよ。 ※Ep.2 追加しました。 マルグリッタの魔女の血を色濃く受け継ぐ娘ヴィヴィアン。そんなヴィヴィアンの元に隣の大陸の王ジェハスより婚姻の話が舞い込む。 子爵の五男アレクに淡い恋心を抱くも、行き違いから失恋したと思い込んでいるヴィヴィアン。アレクのことが忘れられずにいたヴィヴィアンは婚姻話を断るつもりだったが、王命により強制的に婚姻させられてしまう。 だが、ジェハス王はゴールダー家の巨万の富が目的だった。王妃として迎えられたヴィヴィアンだったが、お飾りの王妃として扱われて冷遇される。しかも、ジェハスには側妃がすでに5人もいた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

処理中です...