[完結]死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー処刑された侯爵令嬢、お局魂でリベンジ開始!

青空一夏

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15 最終話

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「……ねえ、ルシアン。なんで今まで黙ってたの?」

 私は彼の袖をツンツンと引っぱりながら尋ねる。

「聞かれなかったから」
「え、それだけ?」
「うん」

 ……あっけらかんと答えるな、この人。
 どう考えても、すごく重大なことだと思うんだけど。

 なんでも彼の母親は、先王の二番目の正妃様だったそうで。つまり、今の国王とは異母兄弟ってことになる。
 しかもお母様は、ブランデン公爵家の一人娘。超名門出身だ。

 え、ちょっと待って。じゃあルシアンって、血筋的には今の王様より格上ってこと⁉
 今の王様のお母様は、確かダークネス男爵家出身だったはず。産後すぐに亡くなられたのよね。

「まあ、王位争いなんて面倒だったし、私は毒の研究がしたかったからね。早めに母方の家を継いだだけさ」

 ……サラッと言ってるけど、内容が重いのよ!?
 ていうか、そんな由緒正しい王族血統のくせに、日々、毒の調合してニコニコしてるの、本当にどうかしてると思う。
 私たちが仲良く話し込んでいるものだから、リック王太子が不満げに、口を挟んできた。

「叔父上。なぜ、ブロッサムなんかと? こいつはいつもビオラを虐めていた悪女ですよ?」

「ほぉ、虐めていただと? いったい、いつ虐めていたんだ?」

「そ、それは……よくお茶の時間に私の膝に熱いお茶をこぼすとか、読書の時間を邪魔するとか、せっかく仕上げた刺繍を台無しにするとか……、ですわ」
 ビオラの瞳が潤みはじめる。まるで、庇護欲をそそる小動物のような表情。でも、残念。ルシアンの興味を引くのは、美しい涙でも芝居がかった声でもない。毒、それだけよ。

「その主張には無理があるな」
 ルシアンはひときわ冷ややかな声で言い放った。
「ブロッサムは、ほぼ毎日私の屋敷に来ていた。新薬や毒の研究のためにな。彼女は私の師であり、共同研究者だ。それはローズミント侯爵も了承済みのはずだが?」

 その視線が、まっすぐ父へと向けられた。

「……は、はい。その通りです」
 父は一瞬たじろぎながらも、静かに真実を口にした。――まぁ、良しとしよう。

 その瞬間、私の視線は自然とイザベルの手元へと移った。
 毒鑑定眼が静かに起動し、手袋のレースの端にかすかな毒素の反応を捉える。
 続けてビオラの手袋の指先にも、同じ毒の痕跡が浮かび上がる。

「イザベルお母様、その手袋、とても素敵ですね。どちらでお求めになったのですか?」
「まぁ、わかる? これはマダム・ココの特注品なのよ。レースの繊細さが違うでしょう?」
「ええ、とても上品ですわ。他の手袋とは段違い」

 そう言いながら、私はイザベルの手にそっと触れ、次の瞬間、その手袋を迷いなく剥ぎ取った。

「なっ、なにをするんですの⁉ それは私の大切な……!」
「ここに証拠がございます。毒の痕跡が残っているはずです。私の香水瓶の中身と、まったく同じ成分が見つかるはずですわ。ルシアン、お願いできる? ビオラ、あなたの手袋もこちらに寄こしなさい」

 ルシアンはすぐにブランデン公爵邸の地下から、魔道具を取り寄せ、毒の成分を解析。
 結果、イザベルの手袋には、香水瓶と一致する毒性アルカロイド——特にアコニチン系の痕跡が明確に付着していたことが判明。ビオラの手袋にも同じ反応があった。

「イザベルお母様……私は、本当にあなたが好きでしたのに。まさか、殺人未遂の罪を私に擦りつけようとするほど、憎まれていたなんて……ビオラにまで虚言癖があったなんて、知りませんでしたわ。ああ……悲しくて、胸が張り裂けそうですの」

 そう言って、私はビオラの得意な“うるうる上目遣い”を、少しだけ誇張して真似てみせた。
 このくらいの皮肉は、許されるでしょう?

 周囲の視線は、まるで氷のように冷ややかだった。
リック王太子がビオラを庇おうとするも、ルシアンが鋭い眼差しで睨みをきかせている。
その彼の手が、なぜか自然と私の腰に回されていた。

この光景、まるで1度目の転生時と真逆だわ。
かつて私は孤立し、王太子にすがるビオラをただ見ていることしかできなかった。
けれど今は違う。
ビオラと王太子が責められ、私はルシアンに護られている。

時を越え、立場は完全に反転したのだ。

 騒動のあと――イザベルとビオラには、王命によって斬首刑が言い渡された。王家主催の舞踏会という公の場で、王族の婚約者になった私に、罪をかぶせようとした行為は、反逆未遂に等しい重罪とされたのだ。
 父は監督責任を問われ、爵位と領地のすべてを剥奪された。

 そして私は、気がつけば——あっという間に、ブランデン公爵夫人になっていた。
 あまりに急な展開に、この私ですら頭が追いつかない。
 ……だって、ルシアンの興味って、毒だけだと思っていたのに。

 あれから一年。
 私たちにはまだ子どもはいない。——でも、私たちの日々はとても充実している。

 私たちがいつも過ごすのはあの地下室。
 薬草のかすかな香りと、ガラス器具が触れ合う音が、私たちの時間を優しく満たしている。

「ブロッサム、聞いて。すごい毒を発見したんだ」
 ルシアンの目がわずかに輝く。
「微量摂取で人間の自制機能を一時的に低下させて、外部からの指示に“従いたい”という錯覚を与える。言葉ひとつで人間の意志を操れるかもしれない。どう思う?」

 私はくすりと笑って、小首をかしげた。

「人の心まで毒で操ろうなんて、悪趣味ね。でも……嫌いじゃないわ。さすが私の旦那様」
「君も何か作ったのかい?」
「ええ。“何を食べても美味しい”と錯覚させる毒よ。失敗料理すら絶品に変わるわ」
「実用的だな。料理人が泣いて喜びそうだ」
 
 私たちは、今日も穏やかに毒の話をする。
 お互いの愛情を確かめるように、毒のレシピと効果を語り合いながら。

 たまに毒絡みの事件で王城に呼び出されることもあるけれど、それ以外は平和そのものよ。

 毒が繋いだ縁——少し変わっているけれど、これが私たちの愛のかたち。

 終わりのようで、これからも続いていく物語。
 毒と共に、優雅に、幸せに。

 ポンコツ神様、今度は長生きできそうよ!


 おしまい

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