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9-1 娼婦より掃除婦がいい(ピンクナ視点)

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ピンクナ視点

「ピンクナの働ける仕事は何があるかしら?」
お母様は私を上から下まで見つめて首をかしげた。

「そうだなぁ、あまり利口ではないから体を使って働くしかないだろ。どうすれば……一番手っ取り早い方法はあそこしかないだろうなぁ」

「そうですね、こいつが働けるところなどあそこでしかありえないでしょう。一族の恥さらしにはなりますが、もうこいつはこの家の者では無いですから良いのではないでしょうか」
お兄様は下品な笑いを漏らした。

わずかな手荷物と少しばかりのお金を渡され私は馬車に乗せられた。
「到着しましたよ、お嬢様」
御者は哀れみの眼差しで私を見た。降ろされた場所はけばけばしい建物の前で、そこは娼館だった。

「ちょっと待って! ほんとにここなの? 何かの間違いでしょう?」
私の言葉を無視して後も振り返ず去っていく馬車に私は絶望した。



*💧*💧*💧




途方に暮れてその建物の前にたたずんでいると、やがてその扉が開き艶やかなドレス姿の老女が現れた。
「まぁまぁな娘が来たね! さて、あんたの名前は今日からアケミちゃんだよ。さっさと入って。まず仕事を覚えてもらわなくちゃね。しっかり勉強しておくれ」

「仕事……ですか? それならわかっています。男性と……ですよね? もう子供ではないのでそれぐらいはわかります」

「何を偉そうに知ったかぶりをしているんだい! これは仕事なの。恋愛ごっこでするような単純な話じゃないんだよ! ご奉仕というものをしなければならないのさ。いわゆるテクニック的なものだね。お金をもらうという事はそういうことさね。  それからお客様は選べないよ。どんなにタイプじゃない男性でも誠心誠意尽くすこと。お客様はね、高い金を払って夢を見にやってきてるんだ。高級娼婦は夢を売る仕事だからねっ!」

ーーばかみたい! たかが娼婦の仕事に夢もなにもないわよ!


それからのあたしは嫌々ながらもこの仕事をするしかなかった。
「もっとしっかり相手をしてくれよ! 一体いくら払っていると思ってるんだ? ここは高級娼館なんだろう? もっと気分を出してもらわないと困るよ」
モテないタイプのお客様ほどわがままで上から目線でモノを言う。

好きでもない相手と親密な行為をするのは気持ちの良いものではなかった。数を重ねるごとに嫌悪感が増していく。こんなことばかりしていると自分がとても汚れた存在のような気になってくる。

行為の後は何度も髪と体を洗う。それでもどんどん目に見えない汚れが体の奥に染み込んで蓄積していく気がした。自分が情けなくて気持ち悪くて吐きそうにさえなってくる。

「他の仕事がしたいんです。どんなに辛くて汚い仕事でも、娼婦よりはマシだから」
ある日この店のオーナーの老女に泣き付いて頼んだ。

「だったら明日から娼婦としてではなく、ここの掃除婦として働くんだね。部屋も地下の狭い場所になるけれどそれでいいのかい?」
私は迷うことなくうなずいた。


𓂃 𓈒𓏸𑁍



私は長靴を履いてモップを手に持ち、せわしなく働く掃除婦になった。侯爵令嬢だった頃のように綺麗に化粧をすることはないし、娼婦のようにけばけばしいドレスを着ることもない。むせ返るような香水はトイレの芳香剤の香りに変わる。

今の自分を以前の自分が見たらきっと笑っちゃうと思う。でもね、今の自分はそれほど嫌じゃない。確かにカッコ悪くて惨めだけれど、自分を汚いと感じることはもうないの。

続く
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