[完結]愛してもいいんですか?

青空一夏

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エレノアの決意

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 大聖堂の鐘が高らかに鳴り響き、祝福の音色が空高く舞い上がる。今日はニューマン侯爵家の令嬢エレノアと、アシュトン公爵デイミアンの結婚式だ。華やかな装飾に彩られた大聖堂には、王族や貴族をはじめとする名だたる招待客たちが、美しい装いを纏い二人の門出を祝うために列席していた。

 エレノアは純白のドレスに身を包み、その銀髪は繊細に編み込まれ、花冠のような宝石がきらめきを添えていた。まるで月光を纏った女神のような佇まいで、アメジストの瞳には喜びの色が溢れている。彼女の天性の歌声と美貌を称賛してきた多くの人々は、エレノアが新しい人生へと踏み出す姿に感動し、その幸せを心から祝福した。

 デイミアンもまた、黒髪をきっちりと整えた姿で登場し、その美しい黒瞳にはエレノアへの揺るぎない愛が映っていた。端正な顔立ちと堂々とした佇まいは、彼の知性と力強さを際立たせるとともに、アシュトン公爵として領地経営を成功に導いた卓越した才覚を物語っていた。

 祭壇に並んだ二人が誓いの言葉を交わす瞬間、大聖堂は厳かな静寂に包まれた。神父が愛と忠誠を誓った二人に祝福の言葉を述べると、エレノアとデイミアンは互いに微笑みを交わす。その姿は、参列者の誰もが息を呑むほど美しく、神聖な空気を一層際立たせた。

 デイミアンはエレノアの手を取り、そっと口づけを落とす。その仕草には彼の深い愛と決意が込められており、エレノアもまた、彼を見つめ返しながら穏やかな微笑みを浮かべていた。二人の姿はまるで絵画から抜け出したように美しく、会場にいる誰もがこの瞬間を忘れることはないだろうと感じていた。

 式が終わり、披露宴が始まる頃には、会場全体が幸福感で満ち溢れていた。笑顔の絶えないエレノアの姿に、参列者たちも微笑ましく思い、祝福の空気が隅々まで広がっている。そんな中、従姉のセリーナが朗らかな笑みを浮かべながら、そっとエレノアの耳元で囁いた。

「おめでとう、エレノア。本当に美しいわ」

 優しげな声に、エレノアは心からの祝福だと思い微笑みを返す。しかし、次の瞬間、セリーナの口元がわずかに歪んだ。

「でも、忘れないで……あなたが愛した人たちは、みんな何かしら不幸に見舞われているのよ」

 エレノアの表情がこわばるのを横目に、セリーナは続ける。

「アグネスの治ったはずの足首も、雨雲が近づくたびに鈍く疼くと言っていたわ。それに、あの可愛がっていたフィデルも虹の橋を渡ったでしょう? そして……次に不幸が訪れるのは、もしかしたらデイミアン卿かもしれないわね。だから、気をつけてね」

 セリーナは無邪気な微笑みを浮かべていたが、その瞳には計算された冷酷さが宿っていた。エレノアは一瞬動揺を見せたものの、すぐにその表情を消して微笑み返す。

 だが、胸の内では嵐が吹き荒れていた。セリーナの言葉が次々と脳裏にこだまし、彼女の喜びを徐々に蝕んでいく。自分が愛することで、大好きなデイミアンを不幸にしてしまうのではないか――その恐怖がエレノアの心を支配していった。

 エレノアの瞳から先ほどまでの輝きが失われていく。愛おしいデイミアンの凜々しい横顔を見つめながら、心の中でそっと誓った。

 ――私は距離を取らなければならない。彼を守るために。愛しすぎないこと、愛されすぎないこと……なんて難しいの? だって、私はデイミアン様が大好きなのに……

 デイミアンはエレノアの変化に気づかぬまま、幸せそうに微笑んでいた。その笑顔を見たエレノアは胸が締め付けられるような痛みを感じながらも、自分の決意を固めていた。

 こうして華々しく祝福された結婚式は、表向きには成功を収めたものの、その裏側ではエレノアの胸に新たな苦悩を宿すこととなった。


 

 披露宴が終わり、夜の帳が静かに降りる頃、豪奢な寝室で新婚の夜を迎えたエレノアとデイミアン。月光が部屋を優しく照らし、祝いの余韻を包み込むような静寂が漂っていたのだが――。 

 「……ごめんなさい。少し体調が悪いみたい。今日はひとりで休ませてもらえないかしら?」

 ついさっきまで幸せそうに微笑んでいたエレノアは、沈んだ声で呟いたのだった。
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