(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏

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30 王子の専属侍女?

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「ハミルトンの前婚約者クロエがベンジャミン男爵家を襲わせたんだよ。自白したし、王家の騎士たちに引き渡してやったさ」

 ゾーイから詳細な経緯を聞いたところで、エマがクロエ様の末路を予想する。

「クロエさんは極刑でしょうね。魅了の魔法と酷似した術を使って人の心を惑わしたのですから、斬首刑になるかもしれませんね」

 私は生きて罪を償うべきだと思う。

「クロエ様を生かしてほしいと国王陛下に『慈悲を乞う書簡』を送るわ」

 私は王宮に書簡を送り、後日、国王陛下から話を聞きたいとの連絡を受けた。王宮に足を踏み入れるなんて初めてのことだった。いつものようにエマたちを連れて向かう。


 王宮の正面には大きな門があり、その門をくぐると広場が広がっていた。宮殿の周りには美しい庭園や噴水があり、彩り豊かな花々が咲き誇る。庭園は宮殿を取り囲むように広がり、美しい彫像や花壇が配置されていた。高い木々や花々が風に揺れ、歩道には王族や貴族たちが散策するための場所が設けられていて、宮殿全体に穏やかで華やかな雰囲気をもたらしていた。

 王宮は白い大理石で造られ、その外壁には華麗な彫刻が刻まれていた。高い塔がそびえ立ち、王旗が風に揺れている。宮殿の内部は豪華であり、大理石の柱が天井まで続いている広間や、高い天井に豪奢なシャンデリアが垂れ下がるホールが広がる。そこに面する中庭に設けられた四阿で、すらりとした体躯の男性が、侍女を相手に怒鳴りつけている場面に遭遇してしまう。

「だから、女は嫌いなのだ! 専属侍女などいらん! その香水の匂いと嘘っぽい愛想笑いもやめろ」
 我が儘放題に育てられた男性にありがちな行動のように思う。

「お前はクビだ! 私は女など信用できん。母上にも言わなければならん。また、似たような専属侍女が雇われたら、すぐに追い出してやる」

「王子殿下、お許しくださいませ」
 侍女は泣きながら地面に頭をこすりつけていた。

「うわぁーー。最悪な王子殿下だわねぇ! 誰かさんを思い出すわぁーー」

「あぁ、わかるぞ。ハミルトンだろ? だが、あいつはファンタズマルケットで真面目に働いている。あの王子殿下よりはずいぶんとまともになったと思うぞ」

「オリビア様、こんなところはできるだけ早く退散いたしましょう。なにか嫌な予感がしますから」
 中庭に面した廊下をエマは急ぎ足で歩く。

「いけ好かない王子だよな。精神の歪みを矯正する薬物を研究して、あいつに飲ませてみたいよ」
 
「絶対、やめてよ。あの方は王子殿下なのよ。そんなことをしたら、それこそ極刑だわ」
 私は念を押すように、ゾーイの瞳を覗き込んだ。

 宮殿の中心に謁見の間はあった。王座は高く贅沢な装飾が施されていた。周囲には王の側近や重臣たちが控え、じろじろと品定めするような視線が痛い。王の座は王国の象徴であり、その上に座ることは権力と責任を象徴している。国王陛下夫妻がすでにお座りになっていて、私を待っていらっしゃった。

「クロエについては彼女の行いが極めて悪質であり、その罪状は重罪に該当する。だが、ベンジャミン男爵令嬢はあの者の命を助けるべきだというのか?」
 国王陛下は厳かな口調で私に尋ねた。

「はい。一度だけ、チャンスを与えてください。誰にでもやり直す機会を与えるべきです。それに、極刑で償わせるのは短絡的ではないでしょうか? 生き続けるということは、責任を果たすことです」
 私がそう言うと、先ほどまで興味なさげな表情をしていた王妃殿下が、初めての私の顔をじっと見つめた。

「生きることは責任を果たすことか・・・・・・なかなかしっかりしているな。そなた、王子の専属侍女になってもらえぬか?」
 王妃様は艶やかに微笑みながら私に尋ねたのだった。

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