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5 思いがけない嫌な出会い(お母さん)と嬉しい出会い(お医者さん家族)
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カーテンも絨毯も同じ家具屋さんで、淡い色合いのピンクのものを選んだ。鏡台や小さなソファも買って、なにもかもが新品でわくわくした。
「さてと、お腹空いたね? カフェを予約してあるから、食べに行こう! そこは、カフェとは言っても洋食のレストランみたいなものよ。とても、美味しいんだから! 多分、週に二回は行くことになるわ。」
「うん」
私は礼子さんとカフェ・マドレーヌポプリンに着いた。初めて来たその店内はとても広くて綺麗だ。ログハウスの趣あるつくりで、高い天井は解放感があってレトロなシャンデリアがさがっていた。
「うわぁーー。素敵!」
「でしょう? ここは私のお気に入りで、しかもお得意様よ」
☆彡★彡☆彡
店内に入ろうとすると「紬?」と呼びかけられた。振り向くと、入店を待つ列のなかにお母さんとお父さん、そして結月がいた。
「なんで、礼子達がこんなところにいるのよ? ここって、別荘族がお気に入りで来る高級店よ?」
お母さんが礼子さんを見てせせら笑った。礼子さんはそれを無視して受け付けの女性に、「予約していた佐々木です」と告げる。
すぐに奥から恰幅のいい男性がでてきて、
「いらっしゃい! ササキ先生! このあいだの個展は素晴らしかったですなぁーー。あの牧場の馬を描いたものが秀逸でした。あの、躍動感! あれ、買わせてもらっていいですかねぇーー。この店に飾らしてもらいます」
礼子さんに嬉しそうに挨拶して、私達を案内しようとした時にお母さんが割って入ってきた。
「ちょっと、待ってください。えっと、この人達の連れです。礼子の姉ですから」
男性は戸惑って礼子さんを見るが、礼子さんは首を横に振った。
「困りますねぇ。貴女なんて知りませんよ? 人まちがいではないですか?」
「嫌だぁーー。この子ったら、冗談が上手いんだからぁ。その子は私の娘で、礼子は私の妹でしょう! ねぇ、同席させてよ? 今日は、これからひと遊びしてから、家に残っていた紬のものを渡そうと思って来たのよ。ほら、夏休みで結月もどっかに行きたいって言うから、こっちに来てあげたのよ」
なおも話つづけるお母さんに、礼子さんはため息をついた。
「じゃぁ、一緒に……席はいつものところですか?」
「えぇ、もちろんですよ。佐々木先生が好きなお気に入りの奥の個室です」
「えぇーー。個室! すごいじゃない!」
お母さんと結月は、はしゃいでいたけれど私と礼子さんは無言だった。
その奥の個室の窓からは壮大な山々が見え、手前の庭園にはたくさんの色とりどりの百合が植えられていた。
「綺麗ーー。礼子さん、すごく素敵だね」
その言葉に礼子さんは、にっこりした。
「ここのお料理は、なんでも美味しいからね。どれでも、注文していいわよ」
「うん」
私と礼子さんはメニューを見ながら、微笑みあった。お母さんなんて、もう関係ないんだ。私は気にしないことにした。
「ちょっとぉ、礼子! 先生ってどういうことよ? 貴女、私が東京の大学に行った時は二流高校の2年生だったっけ? あんなんで、美大でも進学したっていうの? まさかでしょ? 雅号はなによ?」
「『レイコ ササキ』よ。私が誰であろうと、真理子さんには関係ないと思うわ。なんで、今更こんなとこで会うのかしら? 偶然って怖いね……」
「真理子さん、って他人行儀ねぇ。私は、貴女の姉なのよ? それに紬は私の子供じゃない?」
「えぇ! ササキ レイコってあの『ササキ レイコ』? 芸大卒業後、留学して……山の絵や自然を描かせたら右に出る者がいないって言われてる……すっごく有名な……うっそだろ? なんだよ? 真理子! お前の妹って、学がないどころじゃないじゃないかっ! すごいですね! そんな人と親戚だなんて思わなかったなぁ。これから、よろしくお願いします」
お父さんはペコペコと頭を下げていた。お母さんは携帯で、その名前を調べて青ざめていた。
「ちょ、ちょっとぉーー、こういうことは家族なんだからちゃんと言ってくれないと困るわよぉ。なんで、教えてくれなかったのよぉ!」
「……教える義務なんてありませんから……」
お母さんは嬉しそうに昔の話をしていたが、礼子さんは相づちも打たなかった。空気のように扱って食事が済むと黙って帰ろうとしたけれど、お母さんが信じられないことを言ってきた。
「ねぇ、もう帰るなら私達の食事の分も払ってよ。礼子の絵って一枚、すごい高額で取引されているじゃない。さっき、ネットで調べちゃった。ちゃっちゃっと描くだけでこんなに? すごいじゃない! あ、ついでだから車に詰んである紬の体操着とか給食袋を渡すわよ」
お母さんだけ立ち上がり私達に着いてくる。礼子さんの支払いの為に出したカードを見て、なぜか顔をゆがめた。まだ私達の跡をついて来て、自分の車に駆け寄り私の体操着や家庭科で使っていたお道具箱を取り出した。車に乗り込もうとする私に、それを手渡しながら礼子さんの車を仰天して見つめていた。
「あ、あぁ、……あのさぁ、礼子がこんなに成功してた子だなんて知らなくてさ……。あのぅ、これをきっかけに、また仲良くしない? ほら、紬っていう私達同士の絆があるわけだし……」
礼子さんは、お母さんの言葉にピシッとこう言った。
「絆? ふざけないでよ! 二度と、私や紬ちゃんの前に現れないでよ! いい? もしつきまとうようなら警察を呼びます。子供を平気で捨てるような人は姉じゃないから。紬ちゃんは私の養女にしましたから、今後は一切関わらないでくださいね!」
「え! ちょっと、待ってよ! 礼子は独身でしょう? 貴女が稼いだお金とか資産って、いずれ紬のものよねぇ?ということは、養女にあげたって特別養子縁組じゃない限り、私と紬の親子の縁は切れないからぁーー。うふふ。すごいわね。紬ってば、得したじゃない。私に捨てられて感謝しなさいよ?」
礼子さんは、途中から私の耳を両手でふさいだ。
「どこまでも、酷い人だね……」
礼子さんはそう言うと車に乗り込み、エンジンをかけた。お母さんはまだ話し掛けていたけれど、礼子さんは構わずに車を走らせようとした。私達の車を追いかけようとしたお母さんが、駐車場に入ろうとした車に轢かれそうになって転ぶのが見えた。
「礼子さん、お母さんが転んじゃったみたい……」
「あぁ、大丈夫よ。あんなかんじの人間って、元気だから。怪我もしないと思うよ。でも、なんで会いたい人には会わなくて、ああいうのには会うのかしらね? 私になにかあったら紬ちゃんが心配だね? 礼子さんは、長生きしないといけないねぇ」
「うん。絶対、あのお母さんより長生きしてね」
私はこの時、ずっと礼子さんと一緒にいられると思い込んでいたのだった。ずっと……
☆彡★彡☆彡
文房具屋さんでは手帖と可愛いボールペンを買ってもらい、新しいノートも学校に必要なものは、大抵揃えてもらった。
洋服屋さんにも行って、可愛いワンピースやパジャマも買ってもらった。
「わぁ、この靴下、かわいい!」
私が言うと礼子さんは、それを10足もカゴにいれた。おんなじ柄の靴下をたくさん買ったほうが、片っぽなくしても大丈夫だからって笑った。
礼子さんと手を繋いでいろいろなお店を見て回り、最後には病院に行った。
「こんにちはぁーー。啓吾先生はいますか?」
「あらぁ、佐々木先生。いますよ、お待ちしていました」
受付のお姉さんが愛想良く私達を迎えてくれた。啓吾先生と呼ばれるお医者様は、礼子さんの絵のお弟子さんだという。
「啓吾先生! 私の娘を紹介しまぁす!」
「えぇーー! いつの間に、隠し子がぁ?」
「ふふふ。可愛いでしょ? でね、私と同じで個性的な子なんです。ちょっと、見てあげてほしいのよ」
「了解ーー」
私は、たくさんの質問をされて、『はい・いいえ』で答えさせられた。
「うーーん。確かにそんなかんじだねぇーー。でも、一種の個性って受け止めて上手にそれと付き合っていけばいいよ」
啓吾先生は私にそう言ってくれて、これまでのことも丁寧に聞いてくれた。
「あらぁーー。佐々木先生、いらしゃっていたんですねぇーー。あら、この子は?」
「うふふ、私の娘で紬っていいます。姉の子を養女にしたんです。いろいろあってね、でも、今はすごく嬉しいの。自分と同じような娘ができて最高よ!」
私のほうこそ、そう言ってくれる礼子さんがいてくれて最高だと思った。
「初めまして、紬ちゃん。私は真美よ。よろしくね。学校はどこに行くのかしら? もしかしたら、うちの子と同じ学校に? あら、まぁ、そうなのねぇ。 ちょっと、待ってね! うちの息子達を呼んでくるわ」
しばらくしてやって来たのは、二人の男の子だった。
「紬ちゃん。柊と暖よ。私と啓吾の息子なのよ。仲良くしてね!」
「柊、暖。今度、同じ学校に通う紬ちゃんよ。なにか、あったら守るのよ」
「「うん」」
柊と暖に会った最初の瞬間だった。もう病院は診察時間が終わっていて、暗くなりかけている。
「そうだ、ササキ先生。私の絵にアドバイスしてほしいわ。夕食を食べていきません?」
真美さんがいいことを思いついたというように、にこにこと笑いながら提案してきた。
「あら、悪いわよ。そんないきなりお夕飯をご馳走になるなんて。また出直して……」
「いや、いいことだと思うよ。遠慮しないで食べていくといいよ。紬ちゃんにはね、いろんな人を関わらせたほうがいいからね」
啓吾先生は礼子さんにそう言って、私にウィンクしてきた。
「うん、確かにね……」
「じゃぁ、決まりだわ。紬ちゃんも、一緒に夕食のお手伝いをお願いね! 皆で作って食べると美味しいぞぉーー」
「うん!」
そんなわけで、私と礼子さんはこのお医者さんの家にお邪魔することになったのだった。
礼子さんといると、たくさんのところに知り合いがいて、みんなが温かく接してくれる。今までは、学校と家の間だけを往復していた。お母さんが友人と会うときは結月だけを連れて行っていたから、こんなふうに誰かの家を訪問するなんて初めてだった。
「さてと、お腹空いたね? カフェを予約してあるから、食べに行こう! そこは、カフェとは言っても洋食のレストランみたいなものよ。とても、美味しいんだから! 多分、週に二回は行くことになるわ。」
「うん」
私は礼子さんとカフェ・マドレーヌポプリンに着いた。初めて来たその店内はとても広くて綺麗だ。ログハウスの趣あるつくりで、高い天井は解放感があってレトロなシャンデリアがさがっていた。
「うわぁーー。素敵!」
「でしょう? ここは私のお気に入りで、しかもお得意様よ」
☆彡★彡☆彡
店内に入ろうとすると「紬?」と呼びかけられた。振り向くと、入店を待つ列のなかにお母さんとお父さん、そして結月がいた。
「なんで、礼子達がこんなところにいるのよ? ここって、別荘族がお気に入りで来る高級店よ?」
お母さんが礼子さんを見てせせら笑った。礼子さんはそれを無視して受け付けの女性に、「予約していた佐々木です」と告げる。
すぐに奥から恰幅のいい男性がでてきて、
「いらっしゃい! ササキ先生! このあいだの個展は素晴らしかったですなぁーー。あの牧場の馬を描いたものが秀逸でした。あの、躍動感! あれ、買わせてもらっていいですかねぇーー。この店に飾らしてもらいます」
礼子さんに嬉しそうに挨拶して、私達を案内しようとした時にお母さんが割って入ってきた。
「ちょっと、待ってください。えっと、この人達の連れです。礼子の姉ですから」
男性は戸惑って礼子さんを見るが、礼子さんは首を横に振った。
「困りますねぇ。貴女なんて知りませんよ? 人まちがいではないですか?」
「嫌だぁーー。この子ったら、冗談が上手いんだからぁ。その子は私の娘で、礼子は私の妹でしょう! ねぇ、同席させてよ? 今日は、これからひと遊びしてから、家に残っていた紬のものを渡そうと思って来たのよ。ほら、夏休みで結月もどっかに行きたいって言うから、こっちに来てあげたのよ」
なおも話つづけるお母さんに、礼子さんはため息をついた。
「じゃぁ、一緒に……席はいつものところですか?」
「えぇ、もちろんですよ。佐々木先生が好きなお気に入りの奥の個室です」
「えぇーー。個室! すごいじゃない!」
お母さんと結月は、はしゃいでいたけれど私と礼子さんは無言だった。
その奥の個室の窓からは壮大な山々が見え、手前の庭園にはたくさんの色とりどりの百合が植えられていた。
「綺麗ーー。礼子さん、すごく素敵だね」
その言葉に礼子さんは、にっこりした。
「ここのお料理は、なんでも美味しいからね。どれでも、注文していいわよ」
「うん」
私と礼子さんはメニューを見ながら、微笑みあった。お母さんなんて、もう関係ないんだ。私は気にしないことにした。
「ちょっとぉ、礼子! 先生ってどういうことよ? 貴女、私が東京の大学に行った時は二流高校の2年生だったっけ? あんなんで、美大でも進学したっていうの? まさかでしょ? 雅号はなによ?」
「『レイコ ササキ』よ。私が誰であろうと、真理子さんには関係ないと思うわ。なんで、今更こんなとこで会うのかしら? 偶然って怖いね……」
「真理子さん、って他人行儀ねぇ。私は、貴女の姉なのよ? それに紬は私の子供じゃない?」
「えぇ! ササキ レイコってあの『ササキ レイコ』? 芸大卒業後、留学して……山の絵や自然を描かせたら右に出る者がいないって言われてる……すっごく有名な……うっそだろ? なんだよ? 真理子! お前の妹って、学がないどころじゃないじゃないかっ! すごいですね! そんな人と親戚だなんて思わなかったなぁ。これから、よろしくお願いします」
お父さんはペコペコと頭を下げていた。お母さんは携帯で、その名前を調べて青ざめていた。
「ちょ、ちょっとぉーー、こういうことは家族なんだからちゃんと言ってくれないと困るわよぉ。なんで、教えてくれなかったのよぉ!」
「……教える義務なんてありませんから……」
お母さんは嬉しそうに昔の話をしていたが、礼子さんは相づちも打たなかった。空気のように扱って食事が済むと黙って帰ろうとしたけれど、お母さんが信じられないことを言ってきた。
「ねぇ、もう帰るなら私達の食事の分も払ってよ。礼子の絵って一枚、すごい高額で取引されているじゃない。さっき、ネットで調べちゃった。ちゃっちゃっと描くだけでこんなに? すごいじゃない! あ、ついでだから車に詰んである紬の体操着とか給食袋を渡すわよ」
お母さんだけ立ち上がり私達に着いてくる。礼子さんの支払いの為に出したカードを見て、なぜか顔をゆがめた。まだ私達の跡をついて来て、自分の車に駆け寄り私の体操着や家庭科で使っていたお道具箱を取り出した。車に乗り込もうとする私に、それを手渡しながら礼子さんの車を仰天して見つめていた。
「あ、あぁ、……あのさぁ、礼子がこんなに成功してた子だなんて知らなくてさ……。あのぅ、これをきっかけに、また仲良くしない? ほら、紬っていう私達同士の絆があるわけだし……」
礼子さんは、お母さんの言葉にピシッとこう言った。
「絆? ふざけないでよ! 二度と、私や紬ちゃんの前に現れないでよ! いい? もしつきまとうようなら警察を呼びます。子供を平気で捨てるような人は姉じゃないから。紬ちゃんは私の養女にしましたから、今後は一切関わらないでくださいね!」
「え! ちょっと、待ってよ! 礼子は独身でしょう? 貴女が稼いだお金とか資産って、いずれ紬のものよねぇ?ということは、養女にあげたって特別養子縁組じゃない限り、私と紬の親子の縁は切れないからぁーー。うふふ。すごいわね。紬ってば、得したじゃない。私に捨てられて感謝しなさいよ?」
礼子さんは、途中から私の耳を両手でふさいだ。
「どこまでも、酷い人だね……」
礼子さんはそう言うと車に乗り込み、エンジンをかけた。お母さんはまだ話し掛けていたけれど、礼子さんは構わずに車を走らせようとした。私達の車を追いかけようとしたお母さんが、駐車場に入ろうとした車に轢かれそうになって転ぶのが見えた。
「礼子さん、お母さんが転んじゃったみたい……」
「あぁ、大丈夫よ。あんなかんじの人間って、元気だから。怪我もしないと思うよ。でも、なんで会いたい人には会わなくて、ああいうのには会うのかしらね? 私になにかあったら紬ちゃんが心配だね? 礼子さんは、長生きしないといけないねぇ」
「うん。絶対、あのお母さんより長生きしてね」
私はこの時、ずっと礼子さんと一緒にいられると思い込んでいたのだった。ずっと……
☆彡★彡☆彡
文房具屋さんでは手帖と可愛いボールペンを買ってもらい、新しいノートも学校に必要なものは、大抵揃えてもらった。
洋服屋さんにも行って、可愛いワンピースやパジャマも買ってもらった。
「わぁ、この靴下、かわいい!」
私が言うと礼子さんは、それを10足もカゴにいれた。おんなじ柄の靴下をたくさん買ったほうが、片っぽなくしても大丈夫だからって笑った。
礼子さんと手を繋いでいろいろなお店を見て回り、最後には病院に行った。
「こんにちはぁーー。啓吾先生はいますか?」
「あらぁ、佐々木先生。いますよ、お待ちしていました」
受付のお姉さんが愛想良く私達を迎えてくれた。啓吾先生と呼ばれるお医者様は、礼子さんの絵のお弟子さんだという。
「啓吾先生! 私の娘を紹介しまぁす!」
「えぇーー! いつの間に、隠し子がぁ?」
「ふふふ。可愛いでしょ? でね、私と同じで個性的な子なんです。ちょっと、見てあげてほしいのよ」
「了解ーー」
私は、たくさんの質問をされて、『はい・いいえ』で答えさせられた。
「うーーん。確かにそんなかんじだねぇーー。でも、一種の個性って受け止めて上手にそれと付き合っていけばいいよ」
啓吾先生は私にそう言ってくれて、これまでのことも丁寧に聞いてくれた。
「あらぁーー。佐々木先生、いらしゃっていたんですねぇーー。あら、この子は?」
「うふふ、私の娘で紬っていいます。姉の子を養女にしたんです。いろいろあってね、でも、今はすごく嬉しいの。自分と同じような娘ができて最高よ!」
私のほうこそ、そう言ってくれる礼子さんがいてくれて最高だと思った。
「初めまして、紬ちゃん。私は真美よ。よろしくね。学校はどこに行くのかしら? もしかしたら、うちの子と同じ学校に? あら、まぁ、そうなのねぇ。 ちょっと、待ってね! うちの息子達を呼んでくるわ」
しばらくしてやって来たのは、二人の男の子だった。
「紬ちゃん。柊と暖よ。私と啓吾の息子なのよ。仲良くしてね!」
「柊、暖。今度、同じ学校に通う紬ちゃんよ。なにか、あったら守るのよ」
「「うん」」
柊と暖に会った最初の瞬間だった。もう病院は診察時間が終わっていて、暗くなりかけている。
「そうだ、ササキ先生。私の絵にアドバイスしてほしいわ。夕食を食べていきません?」
真美さんがいいことを思いついたというように、にこにこと笑いながら提案してきた。
「あら、悪いわよ。そんないきなりお夕飯をご馳走になるなんて。また出直して……」
「いや、いいことだと思うよ。遠慮しないで食べていくといいよ。紬ちゃんにはね、いろんな人を関わらせたほうがいいからね」
啓吾先生は礼子さんにそう言って、私にウィンクしてきた。
「うん、確かにね……」
「じゃぁ、決まりだわ。紬ちゃんも、一緒に夕食のお手伝いをお願いね! 皆で作って食べると美味しいぞぉーー」
「うん!」
そんなわけで、私と礼子さんはこのお医者さんの家にお邪魔することになったのだった。
礼子さんといると、たくさんのところに知り合いがいて、みんなが温かく接してくれる。今までは、学校と家の間だけを往復していた。お母さんが友人と会うときは結月だけを連れて行っていたから、こんなふうに誰かの家を訪問するなんて初めてだった。
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