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6 柊と暖は友人で理解者・啓吾先生は主治医に
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東医院の奥の扉は、啓吾先生の自宅に繋がっていた。そこはちょっとした玄関のようなつくりで、病院で履いていたスリッパは除菌の靴箱に入れて履き替える。
「さぁ、紬ちゃんはこのピンクのスリッパにしましょうね」
真美さんが、ピンクのウサギの絵が描いてあるスリッパをだしてくれた。私はそれを履いて広いリビングルームに足を踏み入れた。とても広い空間でソファは綺麗な若草色、カーテンには色とりどりのかわいい鳥がプリントされていた。絨毯はベージュの毛足が長いふわふわのものだった。
「うわぁーー! すっごい素敵だぁーー! カーテンがすっごく可愛い!」
「でしょう? 自然のなかにいるようなイメージのリビングルームにしたかったのよ? 若草色のこのソファも気に入っているのよ。でも一番のお気に入りはこの絵ね!」
そのリビングの真正面には大きな絵画が掛けられていた。陽の光が注がれた草原には野の花が咲き乱れ、その先には湖がきらめき、背後に描かれた山々は雄大で神々しくさえ見えた。
「すっごいなぁーー。この絵は?」
その言葉に、にっと私を見た礼子さんの表情でこれが礼子さんの作品だとわかった。絵のことなんて少しもわからない私だけれど、礼子さんの絵はスッと引き込まれて、そのままずっと見ていたくなる。
「ササキ先生は有名な芸術家よ? 私もお弟子さんの一人で、ここには週に2回は絵の指導に来てくれるのよ。柊や暖も、一家でお弟子さんってわけ。これからは紬ちゃんも一緒に来て、楽しく過ごしましょうね!」
ほんとうに、礼子さんって凄い人だったんだと実感した。さっきのレストランのオーナーも絵を描くのが趣味でお弟子さんの一人だという。
「絵を描くいていると、落ち着くのよねぇーー。あの集中している時間は無になれるの」
真美さんは笑顔で言いながら、私と礼子さんをキッチンに連れて行く。
まるで宣伝で見るようなオシャレなキッチンが、そこにはあって大型冷蔵庫の大きさに驚いた。
「うちは、ホームパーティーをよくやるからねぇーー。食材をたくさん入れたかったのよ」
私にレタスを渡してくれた真美さんは、それを洗って大皿にいれるように言う。
「食べやすいように手でちぎってこのお皿にいれてね? トマトやキュウリは私が切るから、それもその上に乗っけるの」
「はい」
大きなサラダボールにたくさんの野菜を盛って、渡されたゆで卵や生ハム、小エビを上に乗っけただけなのに、すごく褒められた。
「紬ちゃんは上手ね! とてもセンスがいいわ! じゃぁ、ドレッシング作りに挑戦しようか? 冷蔵庫に貼ってある白ボードのここにある分量をこの小さじと大さじではかってこの容器にいれるの。できるかな? 一緒にやってみようか?」
「うん」
真美さんが、オリーブオイルとしょうゆ、酢、砂糖、みりんを取り出して私の前に並べた。ニンジンとタマネギはフードプロセッサーに入れる。全部、書いてある分量どおりに綺麗な瓶にいれて振ればもう出来上がり。
「紬ちゃん、ドレッシングまで上手に作れたね。偉いよ! じゃぁ、今度は柊と暖も呼んで、お皿とかナイフやフォークを協力して持っていって」
真美さんの声に、柊君と暖君も来て3人で協力して食器を用意した。そのあいだに真美さんは、オーブンで焼いていたお肉の大きな塊を取り出して丁寧に切っていたし、礼子さんはバッケットを切ってお皿に並べる。
皆が協力して食事の支度をするなんて楽しい!
お母さんは「邪魔だから、紬は向こうに行ってなさい!」って、言うことが多かった。
「礼子さんはこれから車の運転があるからね。僕たちもノンアルコールにするよ。最近のノンアルって美味しいから助かるよ」
啓吾先生は、子供用のジュースと大人用のノンアルコールビールをテーブルに並べた。
皆が食卓につくと、「いただきます!」と楽しげな声が響きわたる。私も小さな声で「いただきます」って言った。
私の嬉しそうな様子に礼子さんは目を細めていた。
柊君と暖君はすごくお世話好きなようだった。
「紬ちゃんは3年生でしょう? だったら、僕と同じだね。きっと、一緒のクラスだよ。取り皿を貸してごらん。僕がとってあげるから」
柊君はサラダやお肉をバランスよく私のお皿にとってくれてドレッシングまでかけてくれた。
「ありがとう」
男の子に優しくされたことがなかった私は、戸惑いながらもにっこりした。暖君は、私のグラスにジュースをついでくれて
「いっぱい、食べてね!」
と、にっこりした。私は、初めての経験に嬉しくて涙がでてきた。お母さんに捨てられて、こんなに楽しくて温かい人達に囲まれるなんて思ってもみなかったから。
礼子さんは、私の気持ちがわかったのかな……そっとハンカチを渡してくれた。
食事の後はやっぱり皆で協力してお片付けをして、柊君と暖君とはたくさんおしゃべりをする。柊君は礼子さんみたいに芸術家になりたくて、暖君は医者になりたいと夢を語ってくれた。
「紬ちゃんは、なにになりたいの?」
そう尋ねる柊君に迷わず私は「絵描きさん」と答えていた。このリビングルームにある絵のように、皆の心を引きつける温かい絵が描けたら、とても素敵だと思った。
☆彡★彡☆彡
大人達のコーヒータイムが終わると、私達は皆で東家のアトリエに移動した。そのアトリエは離れにあって、絵の道具がたくさん並べられ、椅子がそこかしこに置かれていた。皆が山の絵に挑戦しているところだと言ったとおりに山の絵がたくさん置いてある。
そこで、皆が絵筆をとって(もちろん、私も画用紙と鉛筆、絵の具を渡されて)、山の写真を見ながら忠実に描いていこうとする。
私も、真美さんにしている礼子さんの説明を横でききながら、鉛筆をサッサとはしらせ簡単な山の輪郭を描いていった。礼子さんは、それを見て驚きの表情をした。
「ふっ、これでわかったわ。紬ちゃんは、私の娘に産まれてこなければいけなかったのに神様が間違えたようね?
明日から、基礎から少しづつ教えてあげるわ。きっと、紬ちゃんは私を超えるわ!」
啓吾先生の家族達が喜びの声をあげていたけれど、私にはさっぱりわからなかった。礼子さんを超える? そんなことできるわけがない。
「早速、才能が見つかったようだね? 紬ちゃんはラッキーだね? 多動性発達障害の子には、隠された才能がある場合がとても多いんだよ。けれど、それを見つけられるのは一握りの子だ。ササキ先生だからそれがわかったんだなぁ。同じ才能の人が側にいて、本当に良かったね!」
「僕も、そんな才能がほしいなぁ」
啓吾先生がニコニコとしている横で、柊君はポツリと言った。
「あら、柊君は才能の宝庫だよ? 柊君は色使いがダントツにいいし……それに、国語が得意なんでしょう?」
「ふぇ? うん、国語っていうか、物語とか詩を書くことが好きなんだ」
柊君が恥ずかしそうに言ったけれど、私はすごいと思った。
「物語や詩を書くの? すごいね! 今度、見てみたいなぁ」
私の言葉に顔を赤くして、柊君がうなづいた。
「あらあら、この展開は嬉しい予感かしらぁーー? 佐々木先生と親戚になれるかも? ふふふ」
真美さんが悪戯っぽく微笑むと、礼子さんは苦笑した。なんだろう? その意味が私にはわからなかった。
皆が和やかに笑っていて、私は柊君の優しい視線を感じて微笑んだ。柊君は、ますます真っ赤になった。
☆彡★彡☆彡
そしてその週末、啓吾さんの家族と、私と礼子さんは山にトレッキングに行くことを約束した。
「マドレーヌポプリンのオーナーの奥様と子供も誘いましょうよ。莉子ちゃんは、紬ちゃんと同じ学年だからお友達になったら心強いわよ! 律君は一個上で、うちの暖と同じ4年生。誰も、知り合いがいない学校に転入するのは不安でしょうけど、皆でサポートするから安心して」
「そうだな。知り合いは、多い方がいいね。僕が主催しているいくつかのイベントにも参加するといい。ササキ先生も参加してくれれば、とても盛り上がるよ」
「もちろんよ。障害を持った子の体験教室よね? 今度はどこに行くのかしら?」
「焼き物体験だよ。簡単なお皿を作るっていうイベントだ。陶芸家の近藤先生が協力してくれるって言うからね」
「近藤先生なら知ってるわ。紬ちゃんも参加させたいわ。よろしくお願いします。もちろん、私もついていきますよ」
「うっふふ。紬ちゃん! 良かったわねぇ。貴女を皆が大歓迎するわ」
「あ、その前に週末に行くトレッキングに必要なリュックがないわ。紬ちゃんのを買ってこなきゃ」
そう言いながら、あの手帖に書き込もうとする礼子さんを真美さんはとめた。
「私が使ってない新品のリュックをあげるわ。ちょっと、待ってね。今、持ってくるから」
真美さんが持ってきたリュックは、本当に新品でタグがまだついていた。水色のリュックは色鮮やかで蛍光色っぽい。
「山登りには鮮やかな色がいいからね。この色って、空の色よ! 澄み切った青空のような鮮やかさが素敵でしょう?」
「ほんとだぁーー。綺麗ぃーー。ありがとう」
私はそれを受け取り、お礼を言ってぺこりと頭を下げた。
「うっふふふ。可愛いわねぇーー。ササキ先生はとても良い子を養女にしたと思うわ。そうして並んでいると実の親子に見えるぐらい雰囲気がそっくりよ」
そう言われた礼子さんは嬉しそうに笑って、私の頭を撫でてくれた。優しくて温かい時間が、礼子さんの周りには流れている。そのなかに私も自然と取り込まれて、まるでずっと前から一緒に暮していたような感覚がするのだった。
週末のトレッキングが楽しみだなぁーー
私は帰りの車の中で、微笑みながらつぶやいた。生きているって素敵なことなんだね。礼子さんといる時間は、楽しくてキラキラしている。私は礼子さんが大好きだ。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
次回はトレッキングを楽しむ紬ちゃんです。大自然とふれあい、友人にも恵まれる様子が展開されます。
「さぁ、紬ちゃんはこのピンクのスリッパにしましょうね」
真美さんが、ピンクのウサギの絵が描いてあるスリッパをだしてくれた。私はそれを履いて広いリビングルームに足を踏み入れた。とても広い空間でソファは綺麗な若草色、カーテンには色とりどりのかわいい鳥がプリントされていた。絨毯はベージュの毛足が長いふわふわのものだった。
「うわぁーー! すっごい素敵だぁーー! カーテンがすっごく可愛い!」
「でしょう? 自然のなかにいるようなイメージのリビングルームにしたかったのよ? 若草色のこのソファも気に入っているのよ。でも一番のお気に入りはこの絵ね!」
そのリビングの真正面には大きな絵画が掛けられていた。陽の光が注がれた草原には野の花が咲き乱れ、その先には湖がきらめき、背後に描かれた山々は雄大で神々しくさえ見えた。
「すっごいなぁーー。この絵は?」
その言葉に、にっと私を見た礼子さんの表情でこれが礼子さんの作品だとわかった。絵のことなんて少しもわからない私だけれど、礼子さんの絵はスッと引き込まれて、そのままずっと見ていたくなる。
「ササキ先生は有名な芸術家よ? 私もお弟子さんの一人で、ここには週に2回は絵の指導に来てくれるのよ。柊や暖も、一家でお弟子さんってわけ。これからは紬ちゃんも一緒に来て、楽しく過ごしましょうね!」
ほんとうに、礼子さんって凄い人だったんだと実感した。さっきのレストランのオーナーも絵を描くのが趣味でお弟子さんの一人だという。
「絵を描くいていると、落ち着くのよねぇーー。あの集中している時間は無になれるの」
真美さんは笑顔で言いながら、私と礼子さんをキッチンに連れて行く。
まるで宣伝で見るようなオシャレなキッチンが、そこにはあって大型冷蔵庫の大きさに驚いた。
「うちは、ホームパーティーをよくやるからねぇーー。食材をたくさん入れたかったのよ」
私にレタスを渡してくれた真美さんは、それを洗って大皿にいれるように言う。
「食べやすいように手でちぎってこのお皿にいれてね? トマトやキュウリは私が切るから、それもその上に乗っけるの」
「はい」
大きなサラダボールにたくさんの野菜を盛って、渡されたゆで卵や生ハム、小エビを上に乗っけただけなのに、すごく褒められた。
「紬ちゃんは上手ね! とてもセンスがいいわ! じゃぁ、ドレッシング作りに挑戦しようか? 冷蔵庫に貼ってある白ボードのここにある分量をこの小さじと大さじではかってこの容器にいれるの。できるかな? 一緒にやってみようか?」
「うん」
真美さんが、オリーブオイルとしょうゆ、酢、砂糖、みりんを取り出して私の前に並べた。ニンジンとタマネギはフードプロセッサーに入れる。全部、書いてある分量どおりに綺麗な瓶にいれて振ればもう出来上がり。
「紬ちゃん、ドレッシングまで上手に作れたね。偉いよ! じゃぁ、今度は柊と暖も呼んで、お皿とかナイフやフォークを協力して持っていって」
真美さんの声に、柊君と暖君も来て3人で協力して食器を用意した。そのあいだに真美さんは、オーブンで焼いていたお肉の大きな塊を取り出して丁寧に切っていたし、礼子さんはバッケットを切ってお皿に並べる。
皆が協力して食事の支度をするなんて楽しい!
お母さんは「邪魔だから、紬は向こうに行ってなさい!」って、言うことが多かった。
「礼子さんはこれから車の運転があるからね。僕たちもノンアルコールにするよ。最近のノンアルって美味しいから助かるよ」
啓吾先生は、子供用のジュースと大人用のノンアルコールビールをテーブルに並べた。
皆が食卓につくと、「いただきます!」と楽しげな声が響きわたる。私も小さな声で「いただきます」って言った。
私の嬉しそうな様子に礼子さんは目を細めていた。
柊君と暖君はすごくお世話好きなようだった。
「紬ちゃんは3年生でしょう? だったら、僕と同じだね。きっと、一緒のクラスだよ。取り皿を貸してごらん。僕がとってあげるから」
柊君はサラダやお肉をバランスよく私のお皿にとってくれてドレッシングまでかけてくれた。
「ありがとう」
男の子に優しくされたことがなかった私は、戸惑いながらもにっこりした。暖君は、私のグラスにジュースをついでくれて
「いっぱい、食べてね!」
と、にっこりした。私は、初めての経験に嬉しくて涙がでてきた。お母さんに捨てられて、こんなに楽しくて温かい人達に囲まれるなんて思ってもみなかったから。
礼子さんは、私の気持ちがわかったのかな……そっとハンカチを渡してくれた。
食事の後はやっぱり皆で協力してお片付けをして、柊君と暖君とはたくさんおしゃべりをする。柊君は礼子さんみたいに芸術家になりたくて、暖君は医者になりたいと夢を語ってくれた。
「紬ちゃんは、なにになりたいの?」
そう尋ねる柊君に迷わず私は「絵描きさん」と答えていた。このリビングルームにある絵のように、皆の心を引きつける温かい絵が描けたら、とても素敵だと思った。
☆彡★彡☆彡
大人達のコーヒータイムが終わると、私達は皆で東家のアトリエに移動した。そのアトリエは離れにあって、絵の道具がたくさん並べられ、椅子がそこかしこに置かれていた。皆が山の絵に挑戦しているところだと言ったとおりに山の絵がたくさん置いてある。
そこで、皆が絵筆をとって(もちろん、私も画用紙と鉛筆、絵の具を渡されて)、山の写真を見ながら忠実に描いていこうとする。
私も、真美さんにしている礼子さんの説明を横でききながら、鉛筆をサッサとはしらせ簡単な山の輪郭を描いていった。礼子さんは、それを見て驚きの表情をした。
「ふっ、これでわかったわ。紬ちゃんは、私の娘に産まれてこなければいけなかったのに神様が間違えたようね?
明日から、基礎から少しづつ教えてあげるわ。きっと、紬ちゃんは私を超えるわ!」
啓吾先生の家族達が喜びの声をあげていたけれど、私にはさっぱりわからなかった。礼子さんを超える? そんなことできるわけがない。
「早速、才能が見つかったようだね? 紬ちゃんはラッキーだね? 多動性発達障害の子には、隠された才能がある場合がとても多いんだよ。けれど、それを見つけられるのは一握りの子だ。ササキ先生だからそれがわかったんだなぁ。同じ才能の人が側にいて、本当に良かったね!」
「僕も、そんな才能がほしいなぁ」
啓吾先生がニコニコとしている横で、柊君はポツリと言った。
「あら、柊君は才能の宝庫だよ? 柊君は色使いがダントツにいいし……それに、国語が得意なんでしょう?」
「ふぇ? うん、国語っていうか、物語とか詩を書くことが好きなんだ」
柊君が恥ずかしそうに言ったけれど、私はすごいと思った。
「物語や詩を書くの? すごいね! 今度、見てみたいなぁ」
私の言葉に顔を赤くして、柊君がうなづいた。
「あらあら、この展開は嬉しい予感かしらぁーー? 佐々木先生と親戚になれるかも? ふふふ」
真美さんが悪戯っぽく微笑むと、礼子さんは苦笑した。なんだろう? その意味が私にはわからなかった。
皆が和やかに笑っていて、私は柊君の優しい視線を感じて微笑んだ。柊君は、ますます真っ赤になった。
☆彡★彡☆彡
そしてその週末、啓吾さんの家族と、私と礼子さんは山にトレッキングに行くことを約束した。
「マドレーヌポプリンのオーナーの奥様と子供も誘いましょうよ。莉子ちゃんは、紬ちゃんと同じ学年だからお友達になったら心強いわよ! 律君は一個上で、うちの暖と同じ4年生。誰も、知り合いがいない学校に転入するのは不安でしょうけど、皆でサポートするから安心して」
「そうだな。知り合いは、多い方がいいね。僕が主催しているいくつかのイベントにも参加するといい。ササキ先生も参加してくれれば、とても盛り上がるよ」
「もちろんよ。障害を持った子の体験教室よね? 今度はどこに行くのかしら?」
「焼き物体験だよ。簡単なお皿を作るっていうイベントだ。陶芸家の近藤先生が協力してくれるって言うからね」
「近藤先生なら知ってるわ。紬ちゃんも参加させたいわ。よろしくお願いします。もちろん、私もついていきますよ」
「うっふふ。紬ちゃん! 良かったわねぇ。貴女を皆が大歓迎するわ」
「あ、その前に週末に行くトレッキングに必要なリュックがないわ。紬ちゃんのを買ってこなきゃ」
そう言いながら、あの手帖に書き込もうとする礼子さんを真美さんはとめた。
「私が使ってない新品のリュックをあげるわ。ちょっと、待ってね。今、持ってくるから」
真美さんが持ってきたリュックは、本当に新品でタグがまだついていた。水色のリュックは色鮮やかで蛍光色っぽい。
「山登りには鮮やかな色がいいからね。この色って、空の色よ! 澄み切った青空のような鮮やかさが素敵でしょう?」
「ほんとだぁーー。綺麗ぃーー。ありがとう」
私はそれを受け取り、お礼を言ってぺこりと頭を下げた。
「うっふふふ。可愛いわねぇーー。ササキ先生はとても良い子を養女にしたと思うわ。そうして並んでいると実の親子に見えるぐらい雰囲気がそっくりよ」
そう言われた礼子さんは嬉しそうに笑って、私の頭を撫でてくれた。優しくて温かい時間が、礼子さんの周りには流れている。そのなかに私も自然と取り込まれて、まるでずっと前から一緒に暮していたような感覚がするのだった。
週末のトレッキングが楽しみだなぁーー
私は帰りの車の中で、微笑みながらつぶやいた。生きているって素敵なことなんだね。礼子さんといる時間は、楽しくてキラキラしている。私は礼子さんが大好きだ。
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