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16 陶芸教室で交流会
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「紬ちゃん、明日は陶芸教室に行くんだって? 楽しみだねぇ」
そう言いながらお祖母ちゃんが礼子さんと夕食を作り、私はお皿やコップをテーブルに並べていた。
「うん、お皿とかお茶碗とか作るんだって。莉子ちゃんや柊君達も一緒だよ」
私はお茶碗とか作ったことはないから、どうやって作るのか興味津々だった。
「啓吾先生が主催している交流会だよね? あの先生は立派だねぇ。陶芸家の近藤先生はまだ若いよね?」
「そうね、私より年下よ。近藤先生は若くてイケメンさんだから、若い女性のファンも多いみたいよ」
「あっはは。そうなんだ。私も行こうかねぇ」
「うふふ。菊名さんも、行くって伝えておこうか? 紬ちゃん、親子3代で参加しようか?」
「うん!」
こうしてお祖母ちゃんと礼子さん、私がその陶芸教室に参加することになった。私と礼子さんとお祖母ちゃんは、お揃いのエプロンを持っていくことにした。
近藤先生の陶芸教室に着くと、もうすでに莉子ちゃんと柊君や暖君もいたけれど、他に5人ほど初めて会う子がいた。
「私は佐々木紬です。今日、初めて交流会に参加することが嬉しくて昨夜は眠れなかったです」
皆が、ニコニコして私の自己紹介を聞いてくれた。
近藤先生は確かに若いお兄さんという外見だったし、イケメンさんだった。付き添ってきたお母さん達も嬉しそうに近藤先生を見ている。
「ねぇ、近藤先生ってかっこいいでしょう?」
莉子ちゃんの問いかけに私は黙ってうなづいた。
「紬ちゃん、僕は将来あの人よりずっとかっこよくなるよ!」
いきなり、そう言った柊君に私は首を傾げた。
確かに、柊君は大きくなったら近藤先生よりかっこよくなるかもしれない。暖君も柊君も律君も、タイプは違うけれど美形だった。
「うん、そうだね。私もそう思うよ。柊君は今でもかっこいいもんね!」
私の言葉に柊君は嬉しそうに赤くなった。
「紬ちゃん、なにげに小悪魔?」
莉子ちゃんが私の袖を引っ張ってからかった。
「さてと、皆さん。早速、作っていきましょう。子供達は手回しろくろで、大人で体験に参加する方は電動ろくろも選んでいただけます。配られた粘土で、好きな形に成形してください」
私は手回しろくろで利き手で土を底から持ち上げながら、もうひとつの手でろくろをクルクルと回す。すぐに楽しくなって夢中でお茶碗の形を作っていく。
丸いお皿も一個作ると、少しいびつな『紬作ご飯セット』の完成だ。ここにご飯を盛って、お皿には大好きなハンバーグをおきたい。自分の作った食器でご飯が食べられるなんてワクワクした。隣を見ると、まだ全然形が作れない子がいた。私はその子に自然と声をかけて手伝ってあげた。
「一緒に作ると楽しいね!」
その子の言葉に私はうなづいた。知らない子同士でも粘土をいじりながら会話して、同じことに夢中になれるって素敵なんだね。
その隣の子もうまくいかないみたいで、莉子ちゃんが手伝っていた。柊君は隣の子の話を熱心に聞いてあげていたし、私は隣の女の子に『お姉ちゃん』って呼ばれた。その子は私よりほんの少し年下だったから。妹ができたみたいで、少しくすぐったい気持ちだった。
お祖母ちゃんと礼子さんや、他の付き添いの父兄の数人は、電動ろくろに挑戦していた。礼子さんはとても綺麗な形の湯のみ茶碗を3個作りあげていた。売っているものみたいに精巧で美しい。あんなに綺麗に私も作りたいなぁ。
「これって、今日持って帰れるのかな?」
「これを3日ほど乾燥させてから二度焼きするので、作品は今すぐは持って帰れませんよ」
私の独り言に近藤先生は、申し訳なさそうに言った。
そうなんだ……残念だな……ちょっとシュンとした私に礼子さんは、
「紬ちゃん、待っている時間も楽しいね! そのお皿になにをのせようかなって、ご飯のたびに想像できるよ」
と、言った。
あぁ、ほんとだね。卵焼きを食べるときだってサラダを食べるときだって、このお皿に盛ったら楽しいだろうなって考えることはたくさんできる。
「うん!」私は元気いっぱいに返事をした。皆が朗らかに笑うなか、次は皆で莉子ちゃんのお父さんのマドレーヌポプリンに移動した。
今日は交流会の貸し切りになっていて、さっきの子とは違う子と一緒にオムライスやエビフライを食べた。
少し話し方が変っている『個性的な子』で、落ち着きがなく視線をあっちこっちに、はしらせる。私と同じような子を見て、自分が特別ではないことを知ったし、上手にコントロールする術を教えてくれる礼子さんがいたことに感謝もできた。
言葉にすると難しいんだけれど、礼子さんの娘になれて私は幸せだって実感した。デザートはプリンで、皆でニコニコしながら食べる。
「莉子ちゃんのお父さんはすごいね。このプリンだけで人を何倍も幸せにできるんだね!」
私の言葉に莉子ちゃんは心から嬉しそうな顔をした。
「ふふっ、今の紬ちゃんの言葉で莉子の目標は決まったわ」
「えぇ? 目標?」
「うん、私はお父さんのようにシェフになるわ」
「すごいね! 私は礼子さんのように画家になる」
私と莉子ちゃんは、にっこりと笑い合ったのだった。
❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ
それから数週間後、私の作ったお茶碗とお皿、礼子さんの湯飲み茶碗を受け取りに近藤先生のところに行った。
近藤先生は礼子さんにしきりになにかをお願いしていて、礼子さんは困っていた。
「近藤先生、礼子さんを虐めたら許さない!」
「違うんだよ。紬ちゃんを僕のところに週に一回陶芸を習いに来させたくてお願いしてたのさ。焼き物のセンスがあると思うんだ」
私が咄嗟に礼子さんの前に飛び出したら、近藤先生は苦笑しながらそう言った。
「紬ちゃんは、陶芸をもっとしたい?」
「うん!」
礼子さんの問いかけに力強く返事をした。陶芸教室に通うきっかけはこんなふうに始まった。
その数ヶ月後に私が写生大会で書いた絵が、全国コンクールの小学生の部で最優秀賞をとったことが発表されたのだった。
「頑張ったね!」
「だって、私は礼子さんの娘だもん!」
礼子さんの言葉に、元気に答えた私だった。
そう言いながらお祖母ちゃんが礼子さんと夕食を作り、私はお皿やコップをテーブルに並べていた。
「うん、お皿とかお茶碗とか作るんだって。莉子ちゃんや柊君達も一緒だよ」
私はお茶碗とか作ったことはないから、どうやって作るのか興味津々だった。
「啓吾先生が主催している交流会だよね? あの先生は立派だねぇ。陶芸家の近藤先生はまだ若いよね?」
「そうね、私より年下よ。近藤先生は若くてイケメンさんだから、若い女性のファンも多いみたいよ」
「あっはは。そうなんだ。私も行こうかねぇ」
「うふふ。菊名さんも、行くって伝えておこうか? 紬ちゃん、親子3代で参加しようか?」
「うん!」
こうしてお祖母ちゃんと礼子さん、私がその陶芸教室に参加することになった。私と礼子さんとお祖母ちゃんは、お揃いのエプロンを持っていくことにした。
近藤先生の陶芸教室に着くと、もうすでに莉子ちゃんと柊君や暖君もいたけれど、他に5人ほど初めて会う子がいた。
「私は佐々木紬です。今日、初めて交流会に参加することが嬉しくて昨夜は眠れなかったです」
皆が、ニコニコして私の自己紹介を聞いてくれた。
近藤先生は確かに若いお兄さんという外見だったし、イケメンさんだった。付き添ってきたお母さん達も嬉しそうに近藤先生を見ている。
「ねぇ、近藤先生ってかっこいいでしょう?」
莉子ちゃんの問いかけに私は黙ってうなづいた。
「紬ちゃん、僕は将来あの人よりずっとかっこよくなるよ!」
いきなり、そう言った柊君に私は首を傾げた。
確かに、柊君は大きくなったら近藤先生よりかっこよくなるかもしれない。暖君も柊君も律君も、タイプは違うけれど美形だった。
「うん、そうだね。私もそう思うよ。柊君は今でもかっこいいもんね!」
私の言葉に柊君は嬉しそうに赤くなった。
「紬ちゃん、なにげに小悪魔?」
莉子ちゃんが私の袖を引っ張ってからかった。
「さてと、皆さん。早速、作っていきましょう。子供達は手回しろくろで、大人で体験に参加する方は電動ろくろも選んでいただけます。配られた粘土で、好きな形に成形してください」
私は手回しろくろで利き手で土を底から持ち上げながら、もうひとつの手でろくろをクルクルと回す。すぐに楽しくなって夢中でお茶碗の形を作っていく。
丸いお皿も一個作ると、少しいびつな『紬作ご飯セット』の完成だ。ここにご飯を盛って、お皿には大好きなハンバーグをおきたい。自分の作った食器でご飯が食べられるなんてワクワクした。隣を見ると、まだ全然形が作れない子がいた。私はその子に自然と声をかけて手伝ってあげた。
「一緒に作ると楽しいね!」
その子の言葉に私はうなづいた。知らない子同士でも粘土をいじりながら会話して、同じことに夢中になれるって素敵なんだね。
その隣の子もうまくいかないみたいで、莉子ちゃんが手伝っていた。柊君は隣の子の話を熱心に聞いてあげていたし、私は隣の女の子に『お姉ちゃん』って呼ばれた。その子は私よりほんの少し年下だったから。妹ができたみたいで、少しくすぐったい気持ちだった。
お祖母ちゃんと礼子さんや、他の付き添いの父兄の数人は、電動ろくろに挑戦していた。礼子さんはとても綺麗な形の湯のみ茶碗を3個作りあげていた。売っているものみたいに精巧で美しい。あんなに綺麗に私も作りたいなぁ。
「これって、今日持って帰れるのかな?」
「これを3日ほど乾燥させてから二度焼きするので、作品は今すぐは持って帰れませんよ」
私の独り言に近藤先生は、申し訳なさそうに言った。
そうなんだ……残念だな……ちょっとシュンとした私に礼子さんは、
「紬ちゃん、待っている時間も楽しいね! そのお皿になにをのせようかなって、ご飯のたびに想像できるよ」
と、言った。
あぁ、ほんとだね。卵焼きを食べるときだってサラダを食べるときだって、このお皿に盛ったら楽しいだろうなって考えることはたくさんできる。
「うん!」私は元気いっぱいに返事をした。皆が朗らかに笑うなか、次は皆で莉子ちゃんのお父さんのマドレーヌポプリンに移動した。
今日は交流会の貸し切りになっていて、さっきの子とは違う子と一緒にオムライスやエビフライを食べた。
少し話し方が変っている『個性的な子』で、落ち着きがなく視線をあっちこっちに、はしらせる。私と同じような子を見て、自分が特別ではないことを知ったし、上手にコントロールする術を教えてくれる礼子さんがいたことに感謝もできた。
言葉にすると難しいんだけれど、礼子さんの娘になれて私は幸せだって実感した。デザートはプリンで、皆でニコニコしながら食べる。
「莉子ちゃんのお父さんはすごいね。このプリンだけで人を何倍も幸せにできるんだね!」
私の言葉に莉子ちゃんは心から嬉しそうな顔をした。
「ふふっ、今の紬ちゃんの言葉で莉子の目標は決まったわ」
「えぇ? 目標?」
「うん、私はお父さんのようにシェフになるわ」
「すごいね! 私は礼子さんのように画家になる」
私と莉子ちゃんは、にっこりと笑い合ったのだった。
❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ❦ஐ*:.٭ ٭:.*ஐೄ
それから数週間後、私の作ったお茶碗とお皿、礼子さんの湯飲み茶碗を受け取りに近藤先生のところに行った。
近藤先生は礼子さんにしきりになにかをお願いしていて、礼子さんは困っていた。
「近藤先生、礼子さんを虐めたら許さない!」
「違うんだよ。紬ちゃんを僕のところに週に一回陶芸を習いに来させたくてお願いしてたのさ。焼き物のセンスがあると思うんだ」
私が咄嗟に礼子さんの前に飛び出したら、近藤先生は苦笑しながらそう言った。
「紬ちゃんは、陶芸をもっとしたい?」
「うん!」
礼子さんの問いかけに力強く返事をした。陶芸教室に通うきっかけはこんなふうに始まった。
その数ヶ月後に私が写生大会で書いた絵が、全国コンクールの小学生の部で最優秀賞をとったことが発表されたのだった。
「頑張ったね!」
「だって、私は礼子さんの娘だもん!」
礼子さんの言葉に、元気に答えた私だった。
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