(本編完結・番外編不定期更新)愛を教えてくれた人

青空一夏

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18 お誕生日会

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 お誕生日会は仲の良い子を家に招いて、ご馳走を食べて一緒に遊ぶ日のことを言う。招待された人はプレゼントを持っていく決まりだ。

 これは楽しい行事だけれど残酷な現実を知ることもできる。前の学校で人気者の子は、クラスのほとんどをお誕生日会によんでいた。週末に開かれたお誕生日会によばれなかったのは、クラスの女の子で私だけだった。

 週明けの月曜はその話題で盛り上がり、私だけ仲間外れにされたことを知った。そんな時は教室にいたたまれなくて、休み時間を教室から離れた校舎の隅で、独りぼっちで膝を抱えて過ごした。

 お友達のいない休み時間の過ごし方は悲しいものだった。一番奥のトイレで時間が過ぎるのを待ったりすることもある。

「あの子だけ呼ばれなかったんだよぉーー」
「うわぁーー、可哀想ーー」
 そんなふうに、聞こえるように別のクラスの子と話す子もいた。

 私のお誕生日会は結月と一緒だけれど、家には結月のお友達だけが来た。私はケーキとお料理を自分のお部屋で一人で食べた。階下のリビングからの結月とそのお友達の楽しそうな笑い声を聞きながら食べるご馳走は、少しもおいしくなかった。そんなことを思い出したら思わず涙がでてきちゃった。

 でも、今は違う。お友達はいっぱいできたし、礼子さんやお祖母ちゃんもいるもん。きっと、絶対楽しいだろうな。

「お誕生日はどこでする?」礼子さんは意外な質問をしてきた。

「え? ここじゃないの?」

「うん、ここでもいいけれど、莉子ちゃんのお店を借り切ってもいいかなって思ったのよ。だってよぶ人がいっぱいいるし、このリビングには入りきらないでしょう?」って言ったんだ。

 入りきらない? こんなに広いのに? 礼子さんは、いったい何人呼ぶつもりなのだろう?

『紬ちゃんお誕生日問題』は健一叔父さんの一言で解決した。

 牧場にある大きな四阿の横に業務用の大きなテントをはって、そこにいくつもテーブルと椅子を並べてバーベキューを皆ですればいいってことになったんだ。その日は大人もたくさん来るって言ってた。

「なんでそんなに大がかりになったの? 紬はそんなにお金をかけてもらう価値ないよ」
 思わず言わなくていいことを言った。前の家族を一瞬、思い出したからかな。

「あるよ」悲しそうに言う礼子さんは、怒っている。

「自分で価値がないなんて言っちゃだめよ。価値がない子なんてこの世に一人もいないんだからね! 大がかりになったのはね、啓吾先生一家や莉子ちゃん一家、近藤先生、健一叔父さん達や弘君や篤君。それからカフェたんぽぽでバイトしている人達が参加したいって言ったからよ。そこに紬ちゃんの他のお友達をよんでごらん? そうしたら、大人数になっちゃったのよね」

 ほんとだ……すごい人数だ。

「この日の牧場は1日、紬の貸し切りだ。子供達が楽しめるようなイベントもあるといいなぁ」
 健一叔父さんは楽しそうに笑って言った。

 弘さんが手品をするって話や、大学の漫才同好会や落語同好会の人も呼べるよって言った。礼子さんはバイオリンやトランペット奏者とも仲良しだから呼んであげるって言う。いったい、私のお誕生日会はどうなっちゃうの?

「すごいなぁ、紬! 小学校の運動会よりド派手なお誕生日会にしてやるよ!」
 健一叔父さんは、二パッと笑った。

 私がその週に学校に行くと、クラスの皆が呼んでほしくて私の周りに集まってきた。

「ねぇ、紬ちゃんのお誕生日会が、今度の土曜って聞いたんだけど呼んでもらいたいなぁ」
 今まで、全然話したこともない子まで寄ってきたけれど、それは丁寧に断った。そんな時だけ話し掛けてくる子は本当のお友達じゃないような気がしたから。
 招く子は咲良さんとその他に5人ほどの女子だけにした。莉子ちゃんや柊君は一家で来るって約束していたし、それほど仲良くない子まで招くとクラスのほとんどになって、招かれない子が目立つのは避けたかったから。




 当日は雲一つない青空で、そよ風が気持ちのいいまさにイベント日和な日だった。

「うん!やっぱり、日頃の俺の行いの良さがこの天候を招いたな。紬、良かったなぁ!」
 健一叔父さんが満足気に笑った。

 礼子さんから健一叔父さんが、こっそりてるてる坊主を牧場の隅っこにたくさん作って、つるしてくれたことを聞いた。

「健一叔父さん、ありがとう!大好きだよ!」
 私が大声で叫んだ時の照れたような顔は、嬉しそうに輝いていた。

 大きなテントをあっという間に大人達が設置して、業務用の大きなバーベキュー用グリルがいくつも準備された。   
 お肉や野菜、魚介類も用意されて、ほんとにこれがお誕生日会なんて思えないほど大がかりだった。

 この準備は明子さんをはじめとするバイトの人達や弘さん、篤さん、叔父さん達で協力してやってくれたんだって。特に健一叔父さんはバーベキューの達人だ、と自分で自慢するぐらいだったから、準備は驚くぐらいテキパキしていた。

「こんなことで驚いてちゃだめさ。来月の礼子の誕生日はもっとすごいからねぇ」おばぁちゃんはそう言って笑った。

「こんにちはぁー! 今日はお招きありがと!」まずは莉子ちゃん一家が到着。続いて柊君一家。近藤先生も続々とやって来た。私が招いた女の子達も皆やってきて祝ってくれたんだ。


 礼子さんが招いた友人の女性はバイオリンでお誕生日の曲を弾いてくれたし、それに会わせて皆が歌ってくれた。

「ハッピーバスデーツーユー♫ハッピーバースディ紬ちゃん♫ハッピバースディツーユー」
大合奏になって、嬉しくて泣いちゃった私だった。

「ほら、涙をふいて。来てくれた人達にご挨拶してごらん」

「うん! えっと、今日は紬に為にきてくれてありがとうございます。こんな素敵な誕生日は初めてです。本当にありがとう!」

「紬ちゃん、おめでとう!」

「いいお誕生日会になったねぇー。おめでとう!」

「晴れてよかったねぇ」
 口々にお祝いの言葉を言ってくれた。

 取り皿がたくさん用意されて、お肉や野菜、ホタテやイカなど、ジュウジュウと焼かれて皆が青空の下、笑い合いながら食べた。大人達はビールやワイン。車を運転する人だけはノンアルコールだって言われていたけれど。私達はオレンジジュースやアイスティーを飲みながら食べた。皆で食べるとすっごく美味しいんだね。いつもよりずっといっぱい食べられた。

「うわぁ、このお肉すっごいジューシー」

「エビ、ぷりっぷりだね!」

「こら、ピーマンとニンジンも食べなさぁい!」

「ホタテ最高――!」

 私達はぺちゃくちゃおしゃべりしながら、食べる。柊君は私の小皿にせっせとお肉やエビをのせてくれた。いっとき避けていた私だけれど、芽依さんがもう意地悪しなくなってきたから、自然ともとに戻ったんだ。

 最後はマシュマロを焼いて食べ終わると私達は、草原をかけっこしたり湖の周りを散策した。今日の湖も透きとおっていて、背後にそびえる山は雄大で美しい。今日は、見る景色全部が輝いて見えた。

 楽しく遊んでいると、「おやつよぉーー」とテントから声がきこえる。

 大きなテントには、これまた大きなバースディケーキが置かれていて、人数分に綺麗に切ってくれたのは聡子さんだ。昔、ケーキ屋さんで働いていたことがあったんだって。

 ケーキを食べる時間はショータイム。弘さんが手品を披露してくれて、漫才や落語もしてくれるお兄さん達も来てくれた。皆、嬉しそうで楽しそうだった。山のようなプレゼントも、もらった。柊君からは可愛いネックレス。暖君からはブローチ。律君はブスレットで、莉子ちゃんはお揃いの髪飾りをくれた。どれも可愛いものばかりで、文房具やアクセサリー入れをくれた子もいた。送り主の名前がちゃんとついていたから誰からなにをもらったかちゃんとメモしたよ。

 贈ってくれた人にはあとでお礼を言う時に、『こんな時に使わせてもらっているよ、ありがとう』って言うといいよっ、て礼子さんが教えてくれたからだ。

 例えば、ネックレスなら、
「おしゃれしてお出かけする時につけたよ。とても素敵だった。ありがとう」
 って言うといいんだって。

 贈る人はちゃんと喜んでもらえたか気になるから、それを伝えてあげようねっ、て言われた。これも、相手の気持ちを考えて行動するってことなんだね。

 週明けの月曜日は、私の先日の誕生日会の話題でもちきりだった。招かれた子は得意そうに話していたけれど、よんであげなかった子の気持ちを考えると複雑だった。私も少し前までは、声もかけられない子だったから。

 でも、話したこともないような仲良しでない子までよぶのは違うと思う。

 お誕生日会って嬉しくて楽しくて有り難いことだけれど、よばれない子の気持ちも考えてその子達の前ではあまり話さないようにしたよ。

 礼子さんにそれを言ったら、偉いねって褒められた。

「仲良しでない子を無理に招待する必要はないけれど、招いていない子の前で自慢げに言うのも違うね。仲良しなのに特定の子だけ招かないのも良くないよ。仲良しだってお互い思っている子は仲間外れにしちゃいけないよ。自分がされたら悲しいもんね」

「うん、悲しいのは知っているよ」
 私はその惨めさをよく知っていた。

「だったら大丈夫だよ! 楽しかったね! これからもたくさんいろんなことを経験していこうね!」
 礼子さんは私に、にっこりと笑いかけたのだった。
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