(本編完結・番外編不定期更新)愛を教えてくれた人

青空一夏

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35 お向かいのパン屋さん(閑話)その2

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ーー莉子ちゃん視点ーー

 大都会の大学で学ぶ為に、一時的に引っ越した我が親友の紬ちゃんは私の自慢だ。小学生の3年の頃からの付き合いの彼女は、すっごく絵が上手だった。いわゆる天才ってやつだ。

 有名なレイコ・ササキの養女の彼女は、少しだけ落ち着きのない子だった。でも、自分でそれを意識していて気をつけようとしているのが感じられたんだ。

 なんにでも頑張れる子で、素直なところも可愛いの! なんていうのかなぁーー。同じ歳だけれど守ってあげたくなっちゃうんだよねぇーー。

 だから私は、「私の親友を虐めんな!」って、いつもにらみをきかしていた。ひとつ上の兄は、生意気にも海外修行に行ってしまったが、私は食物調理科のある高校に通って卒業と同時に調理師免許を取得し、今はお父さんのレストランで修業中だ。




 ある日、その大親友の紬ちゃんから「力を貸して!」という電話をもらったんだ。私にできることなら、なんでもするよって、もちろん言ったよ。

 あんなにすごい才能の子が私を頼ってくれるなんて素直に嬉しい!

「あのね、近所にあるパン屋さんが店を閉めるっていうんだよ。近くには有名なパン屋さんがあってね・・・・・・」

 なんですと!?・・・・・・そんな話はどこにでも溢れている話だ。けれど、これは大親友のSOSよ? この莉子さんが立ち上げらないわけがない!



ꕤ୭*


「お父さん! 私、ちょっと紬ちゃんとこに行きたいのよ。何日かお休みをくれないかな? お願い!」

「こら、こら! 紬ちゃんと会いたいのはわかるけど、莉子は修業中だよ? 夏休みには紬ちゃんもこっちに来るだろう? もう少し待っていれば会えるだろう?」

「ううん。違うんだよ。遊びに行くんじゃないんだ! 実は・・・・・・雑誌に載ってるヴィロってお店がね・・・・・・んで、ヤマダパンのおばちゃんが・・・・・・」

 私は紬ちゃんの話をわかりやすく説明した。特に都会の有名な雑誌に載ったベーカリーっていうのを強調してみた。

 私のお父さんは昔都内の一流ホテルで修行し、さらに海外にも修行に行った強者だ。そして、料理人の心構えとかお客様への姿勢のような精神論も大好きなんだ。

「ね? 私はそんな心の温かい人達のお店が閉店なんて悲しいと思うんだよ? なにか手助けができないかな。例えば、私がお惣菜パンの中身を考えるとか? 共同開発みたいな? うちのマドレーヌポプリンは、地元の名店だしよく観光雑誌にも載ってるよね? ネットでも宣伝しているし、シチューやグラタンは日本一って言ってくれるお得意様もいるよね・・・・・・」


「あぁ、莉子の言いたいことはわかるよ」

 私とお父さんは莉子ちゃんのいる都会に行くことになったんだ。なんで、お父さんまでついてくるのよって思う。だけど、あとから考えたら当然だった。

 うちのマドレーヌポプリンのお料理を詰めた惣菜パンを売ってもいいっていうことは、契約書できっちりかわさなければいけない。そのレシピを渡すってことはお店には大きな問題になっちゃうらしいし・・・・・・利益がからむし大人の話し合いは必要なんだって・・・・・・

 ヤマダパンの娘さんの心春さんは、私より3歳年上の底抜けに明るい人で、とても歓迎してくれた。おばちゃんの旦那さんはいつも奥でパンを焼いていて滅多にお店には顔を出さないらしいが、この人もにこにこなおじちゃんだった。

 そのおじちゃんとお父さん、心春さんと私は、初対面と思えないほど気が合った。私は心春さんに、パングラタンやバゲットにシチューを入れるものを提案してみた。お父さんも乗り気で自分の店で出しているシチューやグラタンを詰めることを許してくれた。

 もちろんあとでトラブルにならないように契約書を作っていたけれど、シチューやグラタンはうちで作ったものを冷凍配送してみたいなことになったよ。

 紬ちゃんのお陰で、都内にもマドレーヌポプリンの名前が広まるし、もともとのブランド力があるマドレーヌポプリンのものを売れば客寄せにはばっちりでお互いWin-Winの関係らしい。

 うーーん、なんか紬ちゃんの友情ではじまったものが、利益を生み出すかんじに聞こえてなにか乙女心がざわついたよ。

 私達は商談?を済ませると、紬ちゃんちにお邪魔した。さすが、礼子さんのマンションは広くて豪華でびびっちゃったよ。

 私はマンションに泊まらせてもらって、お父さんは近くのビジネスホテルに泊まった。その日は紬ちゃんと柊君で、昔のようにおしゃべりしたよ。

 あぁ、大好きな親友に会えて幸せ! この子はずっと私が支えていくよ!



ꕤ୭*紬ちゃん視点

 


 莉子ちゃんとマドレーヌポプリンのオーナーが一緒にやって来た日、それはヤマダパンが生まれ変わる記念するべき日になった。

 莉子ちゃんは、まずはじめに私に謝った。

「ごめんね。私が大親友として、無料で紬ちゃんの大好きなヤマダパンに協力したかったんだけどさ・・・・・・なんか途中からお父さんとあっちのおじちゃんとの商談みたいになっちゃってたよ・・・・・・乙女心的には人助けって気分で来たのにさぁーー」

 礼子さんは私達の会話を聞いて、優しく微笑んだ。

「マドレーヌポプリンの莉子ちゃんが関わるってことは、マドレーヌポプリンの味が流出するってことだし、お店の信用にも関わるからね。それは当然のことよ。どんなことにも約束ごとって必要なのよ。特にお金が絡む場合はね」

「うん、そうだよね。きっと、そういうことだね」
 私もうなづいた。

「莉子ちゃんの話だと、双方にメリットがあっていい形だと思うな。あのまま、お店を閉めてしまうより全然いいし、なによりマドレーヌポプリンは全国美味しい洋食屋のトップテンに必ず入る有名店でしょう? そこの売りのグラタンを詰めて売っていいなんて、かなりのいい話だと思うよ。それで雑誌にも載るだろうし」

 柊君は冷静に分析して、礼子さんもうなづいていた。

「よしっ! これで戦いの火蓋が切って落とされたね! ベーカリーヴィロ対マドレーヌポプリンだね!」

 莉子ちゃんが声を張り上げて、高々と宣言した。

「え? そういうこと?」

 当初のちょっとした私の思いつきが、どんどん大がかりなものになっていったのだった。

 



ꕤ୭*



 礼子さんと私はヤマダパンの店の絵を描いてプレゼントした。礼子さんの芸術家の仲間もこぞってそこを訪れたし、柊君は自分のブログにヤマダパンのことを書いていた。

 私と柊君の大学の仲良しにもそれぞれ呼びかけツイッターしまくったし、マドレーヌポプリンのホームページにもヤマダパンの掲載がされた。いろいろなところから広まっていったヤマダパンの人気はうなぎ登りだった。

 雑誌やテレビに取り上げられると、ますます人は来る。おじさんと心春さんが心をこめて焼いたパンは種類はそれほど多くなかったけれど、それもこだわりの厳選されたパンと表現をされて好意的に受け止められた。心春さんと莉子ちゃんも頻繁に連絡を取り合って、いろいろな惣菜パンができていった。

 今では、マドレーヌポプリンのシチューやグラタンの入った惣菜パンが買える店というばかりでなく、おじさんが焼く定番パンや心春さんの焼くバゲットと食パンも、とても有名になったんだ。

 おまけに最高の笑顔と温かい言葉が聞けるお店だよ! そうとなれば、お客さんはどうしたってヤマダパンにやって来るよね。

 その2年後、完全勝利のヤマダパンは生き残り、ベーカリーヴィロは閉店した。

 ヤマダパンは有名店になったけれど、おばちゃんは相変わらず誰にでも話しかけてニコニコしているし心春さんもおじちゃんも変らない。

「実るほどに頭を垂れる稲穂かな」
 柊君はどや顔でいうけれど、これって本当にそうだなって思う。私の絵も、たくさんのコンクールで賞をとり、着実に有名になっていったけれど天狗になってはいけないって思っている。

 でも、考えたら天狗になんかならないなぁ。

 だって、私は礼子さんの娘だもん! 自然体でいたい。


  誰に対しても・・・・・・



 
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