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番外編
3 ヤマダパンの心春さんの恋 その3(心春さん視点)
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ヤマダパンはますます売り上げを伸ばし、嬉しい悲鳴を上げていた。私と両親だけでは到底まわしきれないお客様が来て、『なかなか手に入らない幻のパン』なんて形容詞もいただくようになった。
人を増やしベーカリーオーブンも1台増やしたらという意見も出たが、母は今のこじんまりとした規模で近所の人達との会話を楽しみたいと言う。
そこが、私のような若い世代と違うところだなって思う。今はネットの時代だから『お取り寄せ』のパンも流行っていてかなりの売り上げを誇るところも少なくない。
多くの人にヤマダパンの味を楽しんでもらいたいと思う私は、規模も大きくしてネット通販も手がけていきたいとは思っていたが、言い出せずにいた。
ある日紬ちゃんから、夕飯を作ろうとしていた私に電話がかかってきた。
「こんばんはぁ! 紬です。えっと、お夕飯はまだ食べていないですよね? 良かったら今から夕食を食べに来ませんか? 莉子ちゃんのお兄さんがね、フランスから帰って来て料理を作ってくれたの」
「え? 莉子さんのお兄さん? わぁーー、行きます。お言葉に甘えてお邪魔させてもらいますね」
私と両親は緊張しながらも、礼子さんのマンションに向かった。
「お邪魔しまぁす」
広いリビングルームの隣にお洒落なキッチンがあり、大きなダイニングセットがおかれている。
大きなテーブルにコーナー型の横長ソファが二つ。これなら7人は余裕で座れる。お洒落なインテリアは高級家具売り場の展示場みたいだった。ここは別世界で、雑誌にでるような暮らしだ。
そこに似つかわしくない野性味溢れる日焼けした男がいた。彼は背が高く、筋肉が盛り上がった格闘家タイプだった。腕っ節が強さそうで料理人には見えない。
「初めまして。えっと心春といいます。ヤマダパンの・・・・・・」
「あぁ、知っていますよ。莉子やオヤジから聞いています。明日、お邪魔しようとは思っていたんですよ」
そんなふうに言って微笑む律さんはワイルドな、ちょい悪イケメン。
ところが話すと少しも悪い人ではなくて、趣味が筋トレなだけで根っからの料理を愛する平和主義者だった。
「旨いもんを皆で食ってさ、腹を割って話せば大抵の誤解は解ける!」
と、真顔で笑いながら言う人だった。
『旨い料理は人種や国籍を超えて、皆が仲良くできるきっかけになる!』この彼の持論には、もちろん私も賛成だ。
世の中にはいろいろな職業の人がいて料理人やパン職人を馬鹿にする人達もいるけれど、私は自分の仕事が素晴らしいと思っていた。
人間は食べなくては生きていけない。その食は皆が楽しめて仲良くできる最高の手段だ。私はそんなことを律さんに言うと、彼はとても嬉しそうにこう言ったのよ。
「長い付き合いになりそうだね。どうぞ、よろしくね! えっと、ところでさ・・・・・・心春さんは彼氏はいるのかな? これから、定期的に仕事のことでヤマダパンさんにお邪魔すると思うんだ。その時に、映画や食事に誘ってもいいかな?」
「うわぉ。律くん。さすがイタリア&フランス帰り。どストレートな好意をぶつけるってすごいよ」
「俺は、お前みたいなへたれじゃねーーからな。好きな女には、きっちり初めから言うよ」
からかう柊さんの頭をがしっと腕で羽交い締めにして、頭をぐりぐりしている律さんは私に向かってウィンクしたのよ。
ーーさすが、イタリア&フランス帰り・・・・・・って思った私だったけれど、UFCファンの私はまんざらでもなく頬を赤く染めたのだった。
人を増やしベーカリーオーブンも1台増やしたらという意見も出たが、母は今のこじんまりとした規模で近所の人達との会話を楽しみたいと言う。
そこが、私のような若い世代と違うところだなって思う。今はネットの時代だから『お取り寄せ』のパンも流行っていてかなりの売り上げを誇るところも少なくない。
多くの人にヤマダパンの味を楽しんでもらいたいと思う私は、規模も大きくしてネット通販も手がけていきたいとは思っていたが、言い出せずにいた。
ある日紬ちゃんから、夕飯を作ろうとしていた私に電話がかかってきた。
「こんばんはぁ! 紬です。えっと、お夕飯はまだ食べていないですよね? 良かったら今から夕食を食べに来ませんか? 莉子ちゃんのお兄さんがね、フランスから帰って来て料理を作ってくれたの」
「え? 莉子さんのお兄さん? わぁーー、行きます。お言葉に甘えてお邪魔させてもらいますね」
私と両親は緊張しながらも、礼子さんのマンションに向かった。
「お邪魔しまぁす」
広いリビングルームの隣にお洒落なキッチンがあり、大きなダイニングセットがおかれている。
大きなテーブルにコーナー型の横長ソファが二つ。これなら7人は余裕で座れる。お洒落なインテリアは高級家具売り場の展示場みたいだった。ここは別世界で、雑誌にでるような暮らしだ。
そこに似つかわしくない野性味溢れる日焼けした男がいた。彼は背が高く、筋肉が盛り上がった格闘家タイプだった。腕っ節が強さそうで料理人には見えない。
「初めまして。えっと心春といいます。ヤマダパンの・・・・・・」
「あぁ、知っていますよ。莉子やオヤジから聞いています。明日、お邪魔しようとは思っていたんですよ」
そんなふうに言って微笑む律さんはワイルドな、ちょい悪イケメン。
ところが話すと少しも悪い人ではなくて、趣味が筋トレなだけで根っからの料理を愛する平和主義者だった。
「旨いもんを皆で食ってさ、腹を割って話せば大抵の誤解は解ける!」
と、真顔で笑いながら言う人だった。
『旨い料理は人種や国籍を超えて、皆が仲良くできるきっかけになる!』この彼の持論には、もちろん私も賛成だ。
世の中にはいろいろな職業の人がいて料理人やパン職人を馬鹿にする人達もいるけれど、私は自分の仕事が素晴らしいと思っていた。
人間は食べなくては生きていけない。その食は皆が楽しめて仲良くできる最高の手段だ。私はそんなことを律さんに言うと、彼はとても嬉しそうにこう言ったのよ。
「長い付き合いになりそうだね。どうぞ、よろしくね! えっと、ところでさ・・・・・・心春さんは彼氏はいるのかな? これから、定期的に仕事のことでヤマダパンさんにお邪魔すると思うんだ。その時に、映画や食事に誘ってもいいかな?」
「うわぉ。律くん。さすがイタリア&フランス帰り。どストレートな好意をぶつけるってすごいよ」
「俺は、お前みたいなへたれじゃねーーからな。好きな女には、きっちり初めから言うよ」
からかう柊さんの頭をがしっと腕で羽交い締めにして、頭をぐりぐりしている律さんは私に向かってウィンクしたのよ。
ーーさすが、イタリア&フランス帰り・・・・・・って思った私だったけれど、UFCファンの私はまんざらでもなく頬を赤く染めたのだった。
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