(本編完結・番外編不定期更新)愛を教えてくれた人

青空一夏

文字の大きさ
44 / 58
番外編

4 莉子ちゃんの恋ーその1(莉子ちゃん視点)

しおりを挟む
 私は吉田莉子、お父さんはマドレーヌポプリンのオーナシェフだ。

 私の初恋は幼馴染みで東医院の長男の暖くん。中学卒業前後でお互いの気持ちを確かめあって付き合ってきたけれど、高校が離れ離れになってお互いの目標が違ってくると、やっぱりすれ違いって多くなる。

 だから、私達は紬ちゃんにはナイショだけれど何度も別れの危機を迎えていたんだ。忙しいとお互い連絡できないことも多くなっていた。

 でも、暖君には連絡しなくても紬ちゃんには連絡するし、暖君の電話より紬ちゃんの電話を優先する私だった。なんでって? 暖君は好きだけれど、一生絶対死ぬまでつきあうのは多分紬ちゃんだから。男に冷めてるって言わないでほしいな・・・・・・

 私は、彼氏中心の生活は送りたくないだけだ。自分の時間は限られているから、計画的に使う必要がある。優先順位をきっちりつけて生活するのが私のスタイル。

 私の優先順位は料理と紬ちゃんが同列で1番。2番が家族で3番が暖君。


 紬ちゃんだって、柊君は1番じゃないって言う。柊君とあんなにべったりで、お互いが絶対一緒にいないとダメってぐらい熱々だけれど、それでも紬ちゃんの1番大事な人は礼子さんだ。

 私達女って割と冷静で頭を働かせる生物だよ。彼氏が1番なんてダメだ。今の時代は仕事や親友、紬ちゃんの場合なら大恩人礼子さん、それが彼氏より優先されてもいいと思う。




 高校を卒業すると暖君は地元の大学の医学部に入って、私はマドレーヌポプリンで修行の日々をおくった。医学部は大変そうだったけれど、大学生同士で合コンがあったり女の子からたくさんの告白をうけるようになった暖君は、私に「もっとデートの時間が取れないか?」と聞いてきた。

「ごめん、無理! 私は暖君と違って学生じゃないんだよ。もう社会人なんだ」

「だって、お父さんの店でしょ? 休むことなんて簡単だよね?」

 暖君が言った何気ないその言葉は、私を一気に冷めさせたんだ。私はこの仕事に誇りをもっているし、将来お父さんに負けないくらいのシェフになろうと思っている。簡単に休みなんてとれないし、そんな気持ちにはなれないってなんでわかってくれないのかな? もちろん、紬ちゃんにはこんなことは相談できなかったから、兄貴に聞いてみたんだ。

「暖君って間違ってるよね。こんなに頑張っている私に店をずる休みしろ、ってそそのかすなんてさ」

「莉子、人それぞれ生きる世界があって、どれが正解じゃねーーんだよ。暖君の世界はそうでも、莉子の世界はそうじゃねーーってだけさ。どっちも悪くねーーけど、そんなんで壊れるなら、それだけの仲だったってことさ」


 そうだよね。確かに、それで壊れたらそれまでだよね。私はいろいろ考えていったん距離を置くことに決めたんだ。

「ごめんね。私は今、この仕事を精一杯しなきゃならないんだよ。だから、それで寂しいって言うのなら、学生は学生同士で、同じ時間のサイクルで生活している彼女をつくりなよ」

 私が暖君にそう宣言したのは高校を卒業した年の秋だった。


 暖君との恋は一度終わったけれど、紬ちゃんとはラブラブだったよ。紬ちゃんも今大学生で、おまけに都内で滅多に会えなくなった。彼女の休みは土日だし、絵を描き始めると集中するから真夜中に描いて朝方寝ることもある。それは彼女の常識。

 一方、私は土日祭日は超絶忙しい。夜中なんかに起きてたら朝の仕込みに起きられないから夜は早く就寝する。生活リズムは全く違う。それでも、お互いラインできるときはして、返信はお互いの都合がいい時に返す。

 尊重し合って尊敬しあって認め合っているから、返信が遅くなっても許せるし全然気にならない。これが1番の距離感。

 友情と恋は違うけれど暖君ともこんな距離感でいたかったよ・・・・・・
しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...