(本編完結・番外編不定期更新)愛を教えてくれた人

青空一夏

文字の大きさ
51 / 58
番外編

11 なかなか寝ない桜ちゃん

しおりを挟む
  子供が小学校にあがるまでは、私は地元で子育てをすると決めていた。柊は都内の帝都大学にまだ通っており、卒業してもその系列の帝都大学病院に勤務するつもりでいた。最新の医学を学び地元で開業することが目標の柊の夢に大賛成の私は、しばらくはお互いが行ったり来たりする夫婦になっている。寂しくはないよ。今はパソコンでいくらでも顔を見ながら話せるものね。 


 桜はとてもよく泣いた。赤ちゃんってこんなに泣くの? 抱いている時は機嫌が良くても、ベビーベッドにおろそうとすると火が付いたように泣き始める。

 昼間はまだ良いけれど、夜泣きがすごい。夜は寝てくれなくて朝方になってようやく寝る。それでも眠りが浅いから頻繁に泣いては私を起こした。

 ぐっすり寝るのは昼間の午後の2時から夕方の6時まで。この4時間だけは熟睡してくれる代わりに夜はらんらんと目が冴える。どんなに時間のサイクルを治させようとしても難しかった。

 桜の身体に異変がおきた時からこうなった。身体のそこかしこが赤くなり、目の周りや口、耳のまわりやおでこや腕に赤い発疹が現れた。盛り上げっているものも、ガサガサと固くなった部分もあり、耳の付け根は切れて膿のようなものがでてジュクジュクする。これが現れてからなんだ!

 

 まだ軽い赤みが目の辺りにでたときに、啓吾先生の東病院に行くと、アトピー性皮膚炎だと言われてびっくりした。

「アレルギーの一種だよ。とても痒みが強くて原因も特定しづらい。検査しないといけないなぁ」

 採血をされて、塗り薬を処方された。あまり強い薬は良くないと言われて、非ステロイド系の軟膏を塗るけれど少しも良くはならない。

 特にお風呂に入った後は身体が温まって痒くなるのかな? 激しい痒みのせいか、眠りが浅く寝付きも悪い。なかなか寝ないし、ベビーベッドにおろすと泣いた。

 私はちょっとしたパニックに陥る。だって、テレビの宣伝では、赤ちゃんはいつもにこにこしていて、天使に見えるよね。なのに、この桜は違う・・・・・・

 こんな時に本当に良かったと思ったのは、隣の家にお祖母ちゃんがいてくれたことだ。お祖母ちゃんは率先して桜を世話しておんぶまでしてあやしてくれた。もちろん、その隣の家には聡子さんがいて来てくれたけれど、聡子さん自身も引き取ったすみれちゃんと優君がいるから大変だ。でも、お互いの子育てで相談し合えるのは心強かったよ。

 柊のお母さんの真美さんも、月に3回は泊まりがけでお世話を手伝ってくれたのもありがたかった。夜中の夜泣きが辛くて寝不足になりそうだったから、昼間にベビーシッターをたまに頼み寝ることもあった。

 そうそう、莉子ちゃんにも助けてもらったんだ。お店がお休みの日には朝から来てくれて1日、桜の相手をしてくれたの。

「桜ちゃぁん。莉子おねえさんだよぉーー。お母さんの1番の親友よぉ」

 そんなふうに明るくおどけて桜をあやす莉子ちゃんに、桜はキャッキャと笑い声をあげた。

「ちょっと、ちょっとぉ。紬ちゃん! 私って桜ちゃんのお気に入りになれたんじゃないかなぁ? ねぇ、そうだよね? 絶対そうだ!」

 満足そうな私の親友莉子ちゃんが、私に笑いかけてくる。優しくてホッとする時間だ。






 定期検診でたまに話すママ達は、私の話に驚く人が多かった。

「普通、そんなに泣かないわよ?」

「そうね、少しは泣いても夜中じゅうはないかな」

「アトピーって母親が妊娠中に偏食するとなるっていうじゃない? 紬さんのせいじゃない?」

 そんなふうに意地悪く言われることもあって落ち込んだ。


 柊に電話すると、「紬ちゃんのせいじゃないよ。そんなことを言うママ友なんて友達じゃないから」と優しく慰めてくれる。

「うん、そうだよね。あとね、昨日湖畔を桜を抱っこして散歩してたら知らないおばさんに、『ずいぶん皮膚が汚い子だね』って、言われちゃった」

「そんなの気にしなくていい。そんなことを言ってくる人間は不幸な人で、他人を不快にさせるしか生き甲斐のないつまらない人間さ」

 そっか。最近はそんな残念な人ともたくさん話す機会が増えて、微妙な気持ちになるよ。お母さん(礼子さん)がいたら、きっとすっごくその人のことを怒ってくれただろうなぁ。

 柔らかな夜の風が窓から入って来て、ほんのちょっとだけ私の髪を揺らす。

 わかっているよ、お母さん(礼子さん)! こんなことで、へこたれないよ! だって、私はお母さん(礼子さん)の自慢の娘だもんね。


しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...