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番外編
10 紬ちゃん、子供を産む
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「柊、お腹が壊れる・・・・・・助けて」
ーー私は苦痛に顔を歪めた。痛いよ、痛いよぉー!! 神様、仏様、お母さん(礼子さん)助けて!!
「柊、柊、柊! 死んじゃう。こんなに痛かったら紬は死んじゃうよぉ」
「大丈夫、大丈夫だから」
健一おじさんが運転する車ですぐに病院に向かった。私は地元の産婦人科で産むことを決め、予定日の週に柊はずっと側にいてくれたから、今こうして私の手を握りしめてくれている。
柊のお母さんの真美さんも病院に駆けつけてくれた。私は柊の手をますますきつく握りしめて、看護師さんに教わった呼吸法をする。
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
看護師さんが私に呼びかけ、それに合わせてしてみるがこんなのは気休めだ。忠実にそのラマーズ法とかいうのをやってみても痛いことには変わりはない。こんなに痛くて苦しいなんて思わなかった。私はもっと簡単に考えていたんだ。
『産みの苦しみ』とはよく言ったものだ。ものすごく痛いよ。この痛みは形容しがたいけれど、苦手な歯医者さんも出産を経験した後では、楽勝と思えるようになったぐらい。今まで経験した痛みのなかで最大級のものだ。
お祖母ちゃんも真美さんも聡子さんも私を見守っていて、柊は私の手をずっと握り続ける。私が痛みのため強く握るから、柊の手の甲に私の爪が食い込んでいることにも気がつかなかった。
「紬ちゃん。柊君の手からちょっと血がでてるよ。ほら、こっちにしなさい」
お祖母ちゃんは私に自分の手を差し出した。よく見れば柊の手の甲に浅い傷ができて、うっすら血がにじんでいた。
「柊、ごめん、ごめんね。でも、い、痛くてぇーー。あぁーー!!」
私は柊の手を離し病室のタオルケットを握りしめた。とにかくなにかを握りしめ、あの呼吸法をひたすらするしかない。そしていよいよというときに分娩室に移され、そこからも地獄のような痛み。
この子供を産めば楽になるの? 大きな大きな波が押し寄せ思いっきりふんばると、するっと桜がこの世に姿を現した。
「元気な女の子ですよ! おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「良かった、良かった」
看護師さんも立ち会った医師も柊も、皆が笑顔だった。私は壮絶な痛みから解放されてほっとしていた。出産後は裂けた会陰を縫われるんだけれど、出産の痛みが強烈過ぎて縫われる痛みはさほどでもなかった。
こんな痛みを経験して人が産まれてくることの不思議。新しい命はくしゃくしゃのお猿さんみたいな顔で、お世辞にも可愛いとは言えなかった。それでも、私と柊にとっては愛しい命だ。
「すっごく美人だ。この子は、僕達のいいところを全部受け継いでるよ」
柊は早くも親馬鹿ぶりを発揮したし、真美さんとお祖母ちゃんは「絶対、天才だわ」とつぶやいている。
私は桜に心の中で呼びかけたよ。
(才能なんてなくてもいいんだからね! 明るく元気でまっすぐに育ってくれれば、それだけでいいんだ)
そう、お母さん(礼子さん)は、私にかつて教えてくれた。人間はなにかしら才能があって、それは特殊な能力でなくてもいいんだって。
だから、私はこの子にいつだって言ってあげたい。
桜のありのままを、存在そのものが愛おしいよ。桜が明るく笑って生きているだけで、お母さんは嬉しいよ!
私の子供に産まれてきてくれてありがとう!
疲れて眠ってしまった私が目覚めると、夕焼けのオレンジ色に染まった空が病室の窓から見えた。
「柊、そこの窓を少しだけ開けて」
「うん、いいよ」
開け放たれた病室の窓から、優しい風が舞い降りた気がした。お母さん(礼子さん)、そこにいるんだよね? 見てよ。桜を無事に産んだよ。
私、お母さん(礼子さん)のようなお母さんになれるよう、頑張るよ!
ーー私は苦痛に顔を歪めた。痛いよ、痛いよぉー!! 神様、仏様、お母さん(礼子さん)助けて!!
「柊、柊、柊! 死んじゃう。こんなに痛かったら紬は死んじゃうよぉ」
「大丈夫、大丈夫だから」
健一おじさんが運転する車ですぐに病院に向かった。私は地元の産婦人科で産むことを決め、予定日の週に柊はずっと側にいてくれたから、今こうして私の手を握りしめてくれている。
柊のお母さんの真美さんも病院に駆けつけてくれた。私は柊の手をますますきつく握りしめて、看護師さんに教わった呼吸法をする。
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
看護師さんが私に呼びかけ、それに合わせてしてみるがこんなのは気休めだ。忠実にそのラマーズ法とかいうのをやってみても痛いことには変わりはない。こんなに痛くて苦しいなんて思わなかった。私はもっと簡単に考えていたんだ。
『産みの苦しみ』とはよく言ったものだ。ものすごく痛いよ。この痛みは形容しがたいけれど、苦手な歯医者さんも出産を経験した後では、楽勝と思えるようになったぐらい。今まで経験した痛みのなかで最大級のものだ。
お祖母ちゃんも真美さんも聡子さんも私を見守っていて、柊は私の手をずっと握り続ける。私が痛みのため強く握るから、柊の手の甲に私の爪が食い込んでいることにも気がつかなかった。
「紬ちゃん。柊君の手からちょっと血がでてるよ。ほら、こっちにしなさい」
お祖母ちゃんは私に自分の手を差し出した。よく見れば柊の手の甲に浅い傷ができて、うっすら血がにじんでいた。
「柊、ごめん、ごめんね。でも、い、痛くてぇーー。あぁーー!!」
私は柊の手を離し病室のタオルケットを握りしめた。とにかくなにかを握りしめ、あの呼吸法をひたすらするしかない。そしていよいよというときに分娩室に移され、そこからも地獄のような痛み。
この子供を産めば楽になるの? 大きな大きな波が押し寄せ思いっきりふんばると、するっと桜がこの世に姿を現した。
「元気な女の子ですよ! おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「良かった、良かった」
看護師さんも立ち会った医師も柊も、皆が笑顔だった。私は壮絶な痛みから解放されてほっとしていた。出産後は裂けた会陰を縫われるんだけれど、出産の痛みが強烈過ぎて縫われる痛みはさほどでもなかった。
こんな痛みを経験して人が産まれてくることの不思議。新しい命はくしゃくしゃのお猿さんみたいな顔で、お世辞にも可愛いとは言えなかった。それでも、私と柊にとっては愛しい命だ。
「すっごく美人だ。この子は、僕達のいいところを全部受け継いでるよ」
柊は早くも親馬鹿ぶりを発揮したし、真美さんとお祖母ちゃんは「絶対、天才だわ」とつぶやいている。
私は桜に心の中で呼びかけたよ。
(才能なんてなくてもいいんだからね! 明るく元気でまっすぐに育ってくれれば、それだけでいいんだ)
そう、お母さん(礼子さん)は、私にかつて教えてくれた。人間はなにかしら才能があって、それは特殊な能力でなくてもいいんだって。
だから、私はこの子にいつだって言ってあげたい。
桜のありのままを、存在そのものが愛おしいよ。桜が明るく笑って生きているだけで、お母さんは嬉しいよ!
私の子供に産まれてきてくれてありがとう!
疲れて眠ってしまった私が目覚めると、夕焼けのオレンジ色に染まった空が病室の窓から見えた。
「柊、そこの窓を少しだけ開けて」
「うん、いいよ」
開け放たれた病室の窓から、優しい風が舞い降りた気がした。お母さん(礼子さん)、そこにいるんだよね? 見てよ。桜を無事に産んだよ。
私、お母さん(礼子さん)のようなお母さんになれるよう、頑張るよ!
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