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6 (ベンジャミン・ジュード公爵視点)
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(ベンジャミン・ジュード公爵視点)
私は王弟夫妻の次男としてジュード公爵家で生を受けた。次男なのでジュード公爵家は継げない。だとしたらやることは一つだ。騎士として身を立て、王家に仕えることを選んだ。幼い頃からの目標は、もちろん騎士団長だ。やるからにはトップを狙いたい。
貴族学園は王立の学園で騎士科と普通科に別れていた。もちろん騎士科に通い、幹部を目指す以上は戦術を学ぼうとした。剣の捌きや腕を磨くとともに、戦の方法技術論を学ぶため足繁く図書館に通う。学園の敷地の中央にある図書館に通い詰める生徒はそれほど多くはない。
いつも見かけるのはスラリと背が高く、銀髪に知的なエメラルドグリーンの瞳を持つクールビューティな女生徒だ。
天文学の本をとても幸せそうな表情を浮かべて読んでいる。次第に挨拶をするようになって、いつも彼女の姿を目で追う。
勇気を出して一歩踏み出そうとしていた時に、普通科に通う男子生徒が頻繁に接触するようになった。そいつの名前はローリー・マカロン。侯爵家の息子で外見は優男というかんじ、目つきが蛇のように執拗で少し不気味な感じのする男だ。
「僕は侯爵家を必ず継げますが、ベンジャミン様は次男ですよね? やはり、同じ公爵家か侯爵家に婿入りするのでしょう? いくら国王陛下の甥でも特別扱いはしないでしょうからね」
そいつは俺に近づいて牽制してきた。
「君は、なにが言いたいのかな?」
「ジョージアは僕と一緒にいた方が幸せだということですよ。ベンジャミン様はストーカーみたいにジョージアがいる場所に必ずいる。気持ち悪いと思われる前に、やめた方がいいのでは?」
「はぁ? 私はいずれ王家の騎士団のトップに立つことを望んでいる。それには、隊の編成、装備、配置、戦力指向の方法など多岐にわたる戦術論を学ぶ必要があるのだ。図書館にはジョージア目当てで来ているわけではない! そういうのを下衆の勘繰り、というのだ」
「ふーーん、ジョージアには全く興味がないということでよろしいですね?」
「あ? ま、まぁ、ただの図書館仲間だ。挨拶してほんの少し会話をする・・・・・・」
「あぁ、それを聞いて安心しましたよ。ジュード公爵家のご令息がライバルだとやりにくいですからね。僕は彼女に婚約を申し込みますよ。邪魔しないでくださいね? 男に二言はないですよね」
耳障りな笑い声をあげて去っていく後ろ姿を、どれだけはっ倒してやりたかったか!! 今、考えればあの時迷わず私もジョージアに交際を申し込めば良かったんだ。
爵位を継げなくても騎士として身を立てればいいことだし、その自信があったのに。ストーカーなんて言われてつい動揺して、ジョージアへの好意を否定した私は愚かだった。
ずっとその思いを引きずり婚約者も作らないで、ひたすら騎士として精進し若くして副騎士団長の地位を手に入れた。今回の戦いでも最前線に立ち、指揮監督したのは私なのだ。
ところが戦いが終わり帰還すると同時に、病弱ゆえに出征しなかった兄上がレッドブル公爵家ジェシカ嬢の婿養子になるという話を聞かされた。
兄上がジェシカ嬢と愛を育んでいたことを初めて知り、いきなりジュード公爵家を継ぐことになった。
早く妻を娶れ、という父上の言葉にやはりジョージアを思い出す。ジョージアの婚約者は死んだが、今なおジョージアが男の実家に通っているのは噂になっていた。
「ジョージアはローリーが忘れられなくてマカロン侯爵夫人に尽くしている」というのが噂の大筋で、それほど大好きな男だったのかと落胆したものだ。
ジョージアがマカロン侯爵家に通わなくなったら結婚を申し込みに行こう、そう考えていた男は私だけじゃ無いんだ!
だから、たまたま伯父上と会議をしていた時に、チェリル伯爵が娘と謁見を申し出にやって来たと知り、伯父上にすぐに応じるように説得した。
そして、今この瞬間は神が私に祝福を与えたような展開になっている。あのクソローリーはジョージアを裏切り、女と子供を連れてご帰還。怪しい匂いがぷんぷんする。きっとこの私が暴いて、ジョージアの仇をとってやろう!
でも、その前にジョージアを私の物にしておかないとな・・・・・・
だから私は彼女に聞いた。
「ちなみに私はまだ独身だ。しかも爵位を継いだばかりなので、急遽妻を募集している。それからジュード公爵家は金持ちなので、外国の天文学者ぐらい屋敷に招き、いくらでも専属家庭教師にしてあげられるよ?」
と。
彼女は「へ?」と可愛い声で首を傾げて、私を見つめた。
(どうか、怖がらないで。性急に迫りすぎたかな・・・・・・これで断られたら・・・・・・しばらくは立ち直れないな・・・・・・)
「あのぅーー、それは同情からでしょうか? 本当に私を望んでくださったからでしょうか?」
真っ赤な顔でエメラルドグリーンの瞳を遠慮がちに私に向ける君に、私はきっちりと自分の思いを伝えよう。
「同情ではないよ。図書館で初めて見た時からずっとジョージアが好きだったんだ。ローリーに先を越されて後悔していたが、これもきっと私達が幸せになる為の伏線だったのかもしれない。ジョージアがいつも笑顔でいられるように守っていきたいのだ」
ジョージアの前で片膝をついてプロポーズの言葉を紡ぎ出す。
「私と結婚していただけませんか?」
「・・・・・・え? えっと・・・・・・ベンジャミン様、ここは謁見室でしかも国王陛下もいらっしゃいますよ・・・・・・不敬罪では?・・・・・・」
「ん? 余はなにも聞こえておらんし、見てもいない。若い者で決めるといいだろう。ただ、優秀な副騎士団長であり余の甥であるベンジャミン・ジュード公爵は立派な男だということは保証しよう」
伯父上のプッシュがいい感じで、ジョージアの気持ちを前向きにしている気がする。もう一押しな気がするなぁ・・・・・・チラリとチェリル伯爵に視線を移せばキラキラと輝く瞳で、私に何度も頷いた。
「ジョージアよ、お父様はとても良いお話だと思うよ。ベンジャミン・ジュード公爵閣下とならお前も幸せになれると思う。これ以上のご縁はもうないと思いなさい」
ナイスな後押し。チェリル伯爵とはいい関係が築けそうだ。
「・・・・・・えぇ、本当にそう思います。ただ、私のような者がベンジャミン様に相応しいのかなって・・・・・・婚約者に捨てられたような立場ですから・・・・・・」
「違うな。君がローリーを捨てるんだよ。今、この私を選んでローリーの思い出は全部捨てるといい」
「・・・・・・そう・・・・・・ですね。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
私の喜びは言葉では言い表せない・・・・・・感無量。今まで待っていて良かった!
チェリル伯爵と令嬢が帰った後、また私達は会議に戻っていく。議題はもちろん、ローリー・マカロンのことだ。まずは、野戦病院の看護師達に聞き込みを行うべく、部下に指示をだした。
翌日にはその看護師を数人見つけだし、話を聞くことが出来た。
「当時の看護師は25人だったんです。でも途中26人に増えていて、また25人にいつの間にか戻っていました。皆、気味悪がっていましたよ。あの頃はどこもかしこも患者の血の匂いで充満していて、看護師の数はかぞえる度に違う。あそこで亡くなった看護師も何人かいたので幽霊じゃないかっていう噂までたって・・・・・・」
「幽霊だと? ばかばかしい! 一番怖いのは生きている人間なのさ。きっと泥棒が看護師のふりでもして、患者の金品をくすねていたのだろう。あいつらは死人からでも平気で物を盗る。悪魔だぞ」
私は冷静に意見を述べる。
「死体がなくなったり、なかったはずの死体が増えていたり。奇妙なことはたくさんありました。一番奇妙だったのは、顔が焼けただれていた死体かしら?」
私はその顔の焼けただれたという死体にとても興味が湧いた。誰の死体なんだ?
ほどなくして、あの辺り一帯をなわばりとする戦場稼ぎの話もきけたが、そのボスが黒髪の女だという情報も得ることができた。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
戦場稼ぎ:戦場で死んだ者から金品を奪う者達のこと
私は王弟夫妻の次男としてジュード公爵家で生を受けた。次男なのでジュード公爵家は継げない。だとしたらやることは一つだ。騎士として身を立て、王家に仕えることを選んだ。幼い頃からの目標は、もちろん騎士団長だ。やるからにはトップを狙いたい。
貴族学園は王立の学園で騎士科と普通科に別れていた。もちろん騎士科に通い、幹部を目指す以上は戦術を学ぼうとした。剣の捌きや腕を磨くとともに、戦の方法技術論を学ぶため足繁く図書館に通う。学園の敷地の中央にある図書館に通い詰める生徒はそれほど多くはない。
いつも見かけるのはスラリと背が高く、銀髪に知的なエメラルドグリーンの瞳を持つクールビューティな女生徒だ。
天文学の本をとても幸せそうな表情を浮かべて読んでいる。次第に挨拶をするようになって、いつも彼女の姿を目で追う。
勇気を出して一歩踏み出そうとしていた時に、普通科に通う男子生徒が頻繁に接触するようになった。そいつの名前はローリー・マカロン。侯爵家の息子で外見は優男というかんじ、目つきが蛇のように執拗で少し不気味な感じのする男だ。
「僕は侯爵家を必ず継げますが、ベンジャミン様は次男ですよね? やはり、同じ公爵家か侯爵家に婿入りするのでしょう? いくら国王陛下の甥でも特別扱いはしないでしょうからね」
そいつは俺に近づいて牽制してきた。
「君は、なにが言いたいのかな?」
「ジョージアは僕と一緒にいた方が幸せだということですよ。ベンジャミン様はストーカーみたいにジョージアがいる場所に必ずいる。気持ち悪いと思われる前に、やめた方がいいのでは?」
「はぁ? 私はいずれ王家の騎士団のトップに立つことを望んでいる。それには、隊の編成、装備、配置、戦力指向の方法など多岐にわたる戦術論を学ぶ必要があるのだ。図書館にはジョージア目当てで来ているわけではない! そういうのを下衆の勘繰り、というのだ」
「ふーーん、ジョージアには全く興味がないということでよろしいですね?」
「あ? ま、まぁ、ただの図書館仲間だ。挨拶してほんの少し会話をする・・・・・・」
「あぁ、それを聞いて安心しましたよ。ジュード公爵家のご令息がライバルだとやりにくいですからね。僕は彼女に婚約を申し込みますよ。邪魔しないでくださいね? 男に二言はないですよね」
耳障りな笑い声をあげて去っていく後ろ姿を、どれだけはっ倒してやりたかったか!! 今、考えればあの時迷わず私もジョージアに交際を申し込めば良かったんだ。
爵位を継げなくても騎士として身を立てればいいことだし、その自信があったのに。ストーカーなんて言われてつい動揺して、ジョージアへの好意を否定した私は愚かだった。
ずっとその思いを引きずり婚約者も作らないで、ひたすら騎士として精進し若くして副騎士団長の地位を手に入れた。今回の戦いでも最前線に立ち、指揮監督したのは私なのだ。
ところが戦いが終わり帰還すると同時に、病弱ゆえに出征しなかった兄上がレッドブル公爵家ジェシカ嬢の婿養子になるという話を聞かされた。
兄上がジェシカ嬢と愛を育んでいたことを初めて知り、いきなりジュード公爵家を継ぐことになった。
早く妻を娶れ、という父上の言葉にやはりジョージアを思い出す。ジョージアの婚約者は死んだが、今なおジョージアが男の実家に通っているのは噂になっていた。
「ジョージアはローリーが忘れられなくてマカロン侯爵夫人に尽くしている」というのが噂の大筋で、それほど大好きな男だったのかと落胆したものだ。
ジョージアがマカロン侯爵家に通わなくなったら結婚を申し込みに行こう、そう考えていた男は私だけじゃ無いんだ!
だから、たまたま伯父上と会議をしていた時に、チェリル伯爵が娘と謁見を申し出にやって来たと知り、伯父上にすぐに応じるように説得した。
そして、今この瞬間は神が私に祝福を与えたような展開になっている。あのクソローリーはジョージアを裏切り、女と子供を連れてご帰還。怪しい匂いがぷんぷんする。きっとこの私が暴いて、ジョージアの仇をとってやろう!
でも、その前にジョージアを私の物にしておかないとな・・・・・・
だから私は彼女に聞いた。
「ちなみに私はまだ独身だ。しかも爵位を継いだばかりなので、急遽妻を募集している。それからジュード公爵家は金持ちなので、外国の天文学者ぐらい屋敷に招き、いくらでも専属家庭教師にしてあげられるよ?」
と。
彼女は「へ?」と可愛い声で首を傾げて、私を見つめた。
(どうか、怖がらないで。性急に迫りすぎたかな・・・・・・これで断られたら・・・・・・しばらくは立ち直れないな・・・・・・)
「あのぅーー、それは同情からでしょうか? 本当に私を望んでくださったからでしょうか?」
真っ赤な顔でエメラルドグリーンの瞳を遠慮がちに私に向ける君に、私はきっちりと自分の思いを伝えよう。
「同情ではないよ。図書館で初めて見た時からずっとジョージアが好きだったんだ。ローリーに先を越されて後悔していたが、これもきっと私達が幸せになる為の伏線だったのかもしれない。ジョージアがいつも笑顔でいられるように守っていきたいのだ」
ジョージアの前で片膝をついてプロポーズの言葉を紡ぎ出す。
「私と結婚していただけませんか?」
「・・・・・・え? えっと・・・・・・ベンジャミン様、ここは謁見室でしかも国王陛下もいらっしゃいますよ・・・・・・不敬罪では?・・・・・・」
「ん? 余はなにも聞こえておらんし、見てもいない。若い者で決めるといいだろう。ただ、優秀な副騎士団長であり余の甥であるベンジャミン・ジュード公爵は立派な男だということは保証しよう」
伯父上のプッシュがいい感じで、ジョージアの気持ちを前向きにしている気がする。もう一押しな気がするなぁ・・・・・・チラリとチェリル伯爵に視線を移せばキラキラと輝く瞳で、私に何度も頷いた。
「ジョージアよ、お父様はとても良いお話だと思うよ。ベンジャミン・ジュード公爵閣下とならお前も幸せになれると思う。これ以上のご縁はもうないと思いなさい」
ナイスな後押し。チェリル伯爵とはいい関係が築けそうだ。
「・・・・・・えぇ、本当にそう思います。ただ、私のような者がベンジャミン様に相応しいのかなって・・・・・・婚約者に捨てられたような立場ですから・・・・・・」
「違うな。君がローリーを捨てるんだよ。今、この私を選んでローリーの思い出は全部捨てるといい」
「・・・・・・そう・・・・・・ですね。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
私の喜びは言葉では言い表せない・・・・・・感無量。今まで待っていて良かった!
チェリル伯爵と令嬢が帰った後、また私達は会議に戻っていく。議題はもちろん、ローリー・マカロンのことだ。まずは、野戦病院の看護師達に聞き込みを行うべく、部下に指示をだした。
翌日にはその看護師を数人見つけだし、話を聞くことが出来た。
「当時の看護師は25人だったんです。でも途中26人に増えていて、また25人にいつの間にか戻っていました。皆、気味悪がっていましたよ。あの頃はどこもかしこも患者の血の匂いで充満していて、看護師の数はかぞえる度に違う。あそこで亡くなった看護師も何人かいたので幽霊じゃないかっていう噂までたって・・・・・・」
「幽霊だと? ばかばかしい! 一番怖いのは生きている人間なのさ。きっと泥棒が看護師のふりでもして、患者の金品をくすねていたのだろう。あいつらは死人からでも平気で物を盗る。悪魔だぞ」
私は冷静に意見を述べる。
「死体がなくなったり、なかったはずの死体が増えていたり。奇妙なことはたくさんありました。一番奇妙だったのは、顔が焼けただれていた死体かしら?」
私はその顔の焼けただれたという死体にとても興味が湧いた。誰の死体なんだ?
ほどなくして、あの辺り一帯をなわばりとする戦場稼ぎの話もきけたが、そのボスが黒髪の女だという情報も得ることができた。
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戦場稼ぎ:戦場で死んだ者から金品を奪う者達のこと
応援ありがとうございます!
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