[完結]アレクサンダー皇帝の恋

青空一夏

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5 強力な味方を得たロザモンド

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※ロザモンド視点



 私はアレクサンダー皇帝に取り入ろうと、一心不乱に可愛らしさを振りまくセシリーの姿に呆れていた。けれど、その皇帝は彼女に一切興味を示さず、なぜか私の顔ばかりをじっと見つめている。理由もわからず落ち着かない気持ちでいっぱいだったが、表情には出さず、気づかないふりをしてその場をやり過ごそうと心に決めた。

 今日のお茶会が終われば、すぐにお見合いが控えている――父がそう言っていた。だが期待する気にはなれない。父が支度金を見込んで上機嫌だったからだ。
 見合いと称して、私は売られるのだ。そんな確信を抱いていた。

 だが、そんな私の運命は、突然の出来事で大きく揺れ動くことになる。アレクサンダー皇帝が飲んでいた紅茶が、私のメイド服に故意にこぼされたのだ。それを機に、私は全く予想外の場所に連れて行かれることになった。

 案内されたのは「皇女宮」と呼ばれる豪奢な宮殿。そこで驚くほど煌びやかなドレスを着せられた。

「これって、まさかアグネス皇女様のドレスですか?」
「さようでございます」

 にこやかな笑みを浮かべる女官の言葉に、私は驚きのあまり声も出ない。ただ訳もわからないままサロンに戻ると、アレクサンダー皇帝陛下が目元を潤ませながら私の手を握りしめてきた。

「アグネスのドレスがぴったりだな。髪も瞳の色も違うが、雰囲気がよく似ている……。私の妹も、さまざまな出来事に傷つき、死のうとしたことがあった。その時とほぼ同じような表情を浮かべる君がとても心配だ。よいか? 君には私がついている。もうひとりで泣くことはないんだよ」

 皇帝の目に浮かぶ慈愛の深さに戸惑っていると、突然、別の男性が私に向かって手を広げて駆け寄ってきた。その顔は、驚くほど儚くなった母に似ている。

「ロザモンド! なんて姉上そっくりなんだ。やっと会えた……!  叔父さんは嬉しいよ!」

 勢いよく抱擁され、私の手はその男性にもしっかりと握られた。目を潤ませた二人の男性に囲まれ、同時に頭を撫でられるという信じがたい状況の中、私はただ呆然と立ち尽くしていた。

 私を庇ってくれる人など誰一人いないと思っていた。それが突然二人も現れ、しかもどちらも涙ぐみながら私を慈しむ様子を見せるのだから、戸惑うなと言う方が無理だ。


 けれどその温もりが泣きたいほど嬉しく感じられたのは、きっと私の心がずっと誰かの助けを渇望していたから。

 その後、叔父から今までの経緯を聞かされる。私の誕生日ごとに贈ったという宝石やドレスのこと。母が亡くなってからは、私を引き取りたいと何度も申し出ていたこと。しかし、そのたびに父が「ロザモンドは叔父を嫌っている」と嘘をついていたというのだ。

 私はその事実を打ち消すように、これまでの状況をすべて伝えた。叔父からは一度も贈り物を受け取ったことがないこと。父が母を愛していなかったと言い切ったこと。そして、母と私の部屋を奪い、平然と暮らしている継母と腹違いの妹の存在。さらには、今まさに金で売られるような結婚をさせられようとしていること――すべてを、隠さず話した。

 「なるほどね。そんな結婚を私の姪にさせようなんて……到底許せることではない」
 叔父は深く息を吐き、厳しい口調で言った。
 
 「まったくだ。なぜ、愚か者は同じようなことを考えるんだろうか? かつてのモーガン男爵のような目に遭わせてやろう。とにかく、私はロザモンドを守ることを約束しよう」
 アレクサンダー皇帝陛下が聞いたことのない貴族の名を口にする。 叔父様が私を庇ってくれる理由は分かる。でも、なぜアレクサンダー皇帝陛下までが、ここまで私を救おうとするのか――それだけは理解できなかった。

 それから私は、皇太后陛下とお会いし、アグネス皇女殿下の生い立ちについて詳しく伺った。その内容はあまりに辛いもので、話を聞き終えたとき、私は思わず涙をこぼしていた。

 ――そうか……私をアグネス皇女様と重ねていらっしゃるから、こんなにも親身になってくださるのね。

 胸の奥からこみ上げる妹への思いから、つい私に同情してくださったのだ。初めはその思いに感謝したのだけれど――



 
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