5 / 7
5 強力な味方を得たロザモンド
しおりを挟む
※ロザモンド視点
私はアレクサンダー皇帝に取り入ろうと、一心不乱に可愛らしさを振りまくセシリーの姿に呆れていた。けれど、その皇帝は彼女に一切興味を示さず、なぜか私の顔ばかりをじっと見つめている。理由もわからず落ち着かない気持ちでいっぱいだったが、表情には出さず、気づかないふりをしてその場をやり過ごそうと心に決めた。
今日のお茶会が終われば、すぐにお見合いが控えている――父がそう言っていた。だが期待する気にはなれない。父が支度金を見込んで上機嫌だったからだ。
見合いと称して、私は売られるのだ。そんな確信を抱いていた。
だが、そんな私の運命は、突然の出来事で大きく揺れ動くことになる。アレクサンダー皇帝が飲んでいた紅茶が、私のメイド服に故意にこぼされたのだ。それを機に、私は全く予想外の場所に連れて行かれることになった。
案内されたのは「皇女宮」と呼ばれる豪奢な宮殿。そこで驚くほど煌びやかなドレスを着せられた。
「これって、まさかアグネス皇女様のドレスですか?」
「さようでございます」
にこやかな笑みを浮かべる女官の言葉に、私は驚きのあまり声も出ない。ただ訳もわからないままサロンに戻ると、アレクサンダー皇帝陛下が目元を潤ませながら私の手を握りしめてきた。
「アグネスのドレスがぴったりだな。髪も瞳の色も違うが、雰囲気がよく似ている……。私の妹も、さまざまな出来事に傷つき、死のうとしたことがあった。その時とほぼ同じような表情を浮かべる君がとても心配だ。よいか? 君には私がついている。もうひとりで泣くことはないんだよ」
皇帝の目に浮かぶ慈愛の深さに戸惑っていると、突然、別の男性が私に向かって手を広げて駆け寄ってきた。その顔は、驚くほど儚くなった母に似ている。
「ロザモンド! なんて姉上そっくりなんだ。やっと会えた……! 叔父さんは嬉しいよ!」
勢いよく抱擁され、私の手はその男性にもしっかりと握られた。目を潤ませた二人の男性に囲まれ、同時に頭を撫でられるという信じがたい状況の中、私はただ呆然と立ち尽くしていた。
私を庇ってくれる人など誰一人いないと思っていた。それが突然二人も現れ、しかもどちらも涙ぐみながら私を慈しむ様子を見せるのだから、戸惑うなと言う方が無理だ。
けれどその温もりが泣きたいほど嬉しく感じられたのは、きっと私の心がずっと誰かの助けを渇望していたから。
その後、叔父から今までの経緯を聞かされる。私の誕生日ごとに贈ったという宝石やドレスのこと。母が亡くなってからは、私を引き取りたいと何度も申し出ていたこと。しかし、そのたびに父が「ロザモンドは叔父を嫌っている」と嘘をついていたというのだ。
私はその事実を打ち消すように、これまでの状況をすべて伝えた。叔父からは一度も贈り物を受け取ったことがないこと。父が母を愛していなかったと言い切ったこと。そして、母と私の部屋を奪い、平然と暮らしている継母と腹違いの妹の存在。さらには、今まさに金で売られるような結婚をさせられようとしていること――すべてを、隠さず話した。
「なるほどね。そんな結婚を私の姪にさせようなんて……到底許せることではない」
叔父は深く息を吐き、厳しい口調で言った。
「まったくだ。なぜ、愚か者は同じようなことを考えるんだろうか? かつてのモーガン男爵のような目に遭わせてやろう。とにかく、私はロザモンドを守ることを約束しよう」
アレクサンダー皇帝陛下が聞いたことのない貴族の名を口にする。 叔父様が私を庇ってくれる理由は分かる。でも、なぜアレクサンダー皇帝陛下までが、ここまで私を救おうとするのか――それだけは理解できなかった。
それから私は、皇太后陛下とお会いし、アグネス皇女殿下の生い立ちについて詳しく伺った。その内容はあまりに辛いもので、話を聞き終えたとき、私は思わず涙をこぼしていた。
――そうか……私をアグネス皇女様と重ねていらっしゃるから、こんなにも親身になってくださるのね。
胸の奥からこみ上げる妹への思いから、つい私に同情してくださったのだ。初めはその思いに感謝したのだけれど――
私はアレクサンダー皇帝に取り入ろうと、一心不乱に可愛らしさを振りまくセシリーの姿に呆れていた。けれど、その皇帝は彼女に一切興味を示さず、なぜか私の顔ばかりをじっと見つめている。理由もわからず落ち着かない気持ちでいっぱいだったが、表情には出さず、気づかないふりをしてその場をやり過ごそうと心に決めた。
今日のお茶会が終われば、すぐにお見合いが控えている――父がそう言っていた。だが期待する気にはなれない。父が支度金を見込んで上機嫌だったからだ。
見合いと称して、私は売られるのだ。そんな確信を抱いていた。
だが、そんな私の運命は、突然の出来事で大きく揺れ動くことになる。アレクサンダー皇帝が飲んでいた紅茶が、私のメイド服に故意にこぼされたのだ。それを機に、私は全く予想外の場所に連れて行かれることになった。
案内されたのは「皇女宮」と呼ばれる豪奢な宮殿。そこで驚くほど煌びやかなドレスを着せられた。
「これって、まさかアグネス皇女様のドレスですか?」
「さようでございます」
にこやかな笑みを浮かべる女官の言葉に、私は驚きのあまり声も出ない。ただ訳もわからないままサロンに戻ると、アレクサンダー皇帝陛下が目元を潤ませながら私の手を握りしめてきた。
「アグネスのドレスがぴったりだな。髪も瞳の色も違うが、雰囲気がよく似ている……。私の妹も、さまざまな出来事に傷つき、死のうとしたことがあった。その時とほぼ同じような表情を浮かべる君がとても心配だ。よいか? 君には私がついている。もうひとりで泣くことはないんだよ」
皇帝の目に浮かぶ慈愛の深さに戸惑っていると、突然、別の男性が私に向かって手を広げて駆け寄ってきた。その顔は、驚くほど儚くなった母に似ている。
「ロザモンド! なんて姉上そっくりなんだ。やっと会えた……! 叔父さんは嬉しいよ!」
勢いよく抱擁され、私の手はその男性にもしっかりと握られた。目を潤ませた二人の男性に囲まれ、同時に頭を撫でられるという信じがたい状況の中、私はただ呆然と立ち尽くしていた。
私を庇ってくれる人など誰一人いないと思っていた。それが突然二人も現れ、しかもどちらも涙ぐみながら私を慈しむ様子を見せるのだから、戸惑うなと言う方が無理だ。
けれどその温もりが泣きたいほど嬉しく感じられたのは、きっと私の心がずっと誰かの助けを渇望していたから。
その後、叔父から今までの経緯を聞かされる。私の誕生日ごとに贈ったという宝石やドレスのこと。母が亡くなってからは、私を引き取りたいと何度も申し出ていたこと。しかし、そのたびに父が「ロザモンドは叔父を嫌っている」と嘘をついていたというのだ。
私はその事実を打ち消すように、これまでの状況をすべて伝えた。叔父からは一度も贈り物を受け取ったことがないこと。父が母を愛していなかったと言い切ったこと。そして、母と私の部屋を奪い、平然と暮らしている継母と腹違いの妹の存在。さらには、今まさに金で売られるような結婚をさせられようとしていること――すべてを、隠さず話した。
「なるほどね。そんな結婚を私の姪にさせようなんて……到底許せることではない」
叔父は深く息を吐き、厳しい口調で言った。
「まったくだ。なぜ、愚か者は同じようなことを考えるんだろうか? かつてのモーガン男爵のような目に遭わせてやろう。とにかく、私はロザモンドを守ることを約束しよう」
アレクサンダー皇帝陛下が聞いたことのない貴族の名を口にする。 叔父様が私を庇ってくれる理由は分かる。でも、なぜアレクサンダー皇帝陛下までが、ここまで私を救おうとするのか――それだけは理解できなかった。
それから私は、皇太后陛下とお会いし、アグネス皇女殿下の生い立ちについて詳しく伺った。その内容はあまりに辛いもので、話を聞き終えたとき、私は思わず涙をこぼしていた。
――そうか……私をアグネス皇女様と重ねていらっしゃるから、こんなにも親身になってくださるのね。
胸の奥からこみ上げる妹への思いから、つい私に同情してくださったのだ。初めはその思いに感謝したのだけれど――
213
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
エレナは分かっていた
喜楽直人
恋愛
王太子の婚約者候補に選ばれた伯爵令嬢エレナ・ワトーは、届いた夜会の招待状を見てついに幼い恋に終わりを告げる日がきたのだと理解した。
本当は分かっていた。選ばれるのは自分ではないことくらい。エレナだって知っていた。それでも努力することをやめられなかったのだ。
これからもあなたが幸せでありますように。
石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。
小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる