【完結】夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!

青空一夏

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33 事件の真相

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 門の脇には、魔導チャイムが備え付けられていた。レオン団長がそれに手をかざし名を告げると、数秒後、奥から門番と思しき兵士が現れた。

「これは……王都騎士団、レオン団長!? どういったご用件で……」

 団長は冷静に、けれど有無を言わせぬ口調で告げた。

「通せ。緊急の用件だ」

 兵士は慌てて門を開き、私たちはそのまま敷地の中へと足を踏み入れた。整然と整えられた芝の向こうに、優雅なドレス姿の令嬢と、ルカの小さな姿が見える。

 やっぱりルカだわ。あの愛らしい声は、まぎれもなくルカの声だったんだ。

 「……ルカ!?」

 思わず駆け出そうとする私の腕を、レオン団長がそっと制した。そのまま彼は、足音も荒々しく庭園へと踏み入れる。

 「テオドラ嬢。これはどういうことだ?」

 レオン団長の声は、低く押し殺していたが、怒りが滲んでいた。 

 令嬢――テオドラは、はっとした表情を浮かべるも、すぐに微笑みを装った。

 ――さすがに伯爵令嬢。表情を咄嗟に切り替えるのが上手ね。

 「まぁ、レオン様。ようこそ。ルカちゃんと私は、すっかり仲良しなのですよ。本日はどのようなご用件で?」

 まるで何も問題がないかのように、無垢な微笑を浮かべる。その態度に、私は背筋が寒くなる思いだった。

 レオン団長は軽く舌打ちをし、屋敷の侍女のひとりに声をかけた。

 「当主は在宅か?」

 「……は、はい。奥の書斎に……」

 侍女は怯えたようにうなずいた。

 「案内してくれたまえ。テオドラ嬢とは話にならん」

 「お父様はお忙しいのです。お話なら、私が――」

 テオドラの制止も聞かず、レオン団長は足早に屋敷の奥へと向かった。私もそれに続く。

 ほどなくして通されたサロンで、ミランディス伯爵が応対に現れた。

 「どういうことです、団長? 娘が何か……」

 レオン団長は軽く一礼したあと、無駄のない言葉で事情を説明する。

 「……その子が、行方不明になった子供です。そして、こちらが母親のエルナです」

 伯爵の表情が険しくなった。

 「テオドラ! これは一体どういうことだ!? その子は友人の子で、しばらく預かるのではなかったのか?」

 ついに言い逃れができないと悟ったのか、テオドラは顔を伏せ、震える声で呟いた。

 「……困らせたかったんです、その女を……レオン様が、私ではなく、彼女に心を寄せているのが……どうしても許せなかった……」

 そして、震える指先が、私を指し示した。

 「だって……レオン様は、あの時……私に、ハンカチをくださったんです」

 レオン団長が眉をひそめる。

 「……いつの話だ?」

 テオドラは、まるで夢を語るように目を潤ませながら続けた。

「私が17のときでしたわ。社交界デビューの夜、舞踏会で見知らぬ男性に絡まれていたところを、レオン団長が助けてくださったの。あのとき、私にそっとハンカチを差し出してくださって――“たいしたものじゃないから、返さなくていい”って……」
 テオドラはうっとりと目を細め、両手を胸にあてた。
「私はその瞬間、運命を感じたんです。あれは、レオン団長が私だけにくれた“心の証”だって。だから私たちは、きっと結ばれる運命にあるのですわ!」

 その瞬間、私の中で何かがはじけた。
 気づけば、私は彼女の頬を思いっきり叩いていた。

「どんな想いがあったにせよ、ルカを連れ去る理由になどなりません。私に対して何か言いたいことがあるのなら、私に直接言えばよかった。まだ何も知らない、一番弱い存在を巻き込むなんて、最低よ!」

「ちゃんと返すつもりだったのよ? 3日くらい、あなたが辛い思いをして泣き続ければ、それで私は満足だった。……それよりなによ、その叩き方。すごい力だったじゃない。私の綺麗な顔に痣でも残ったら、どうしてくれるの? ひどいわ」

 ――私の大事なルカを連れ去っておいて、よくそんなことが言えるわね。
 もう一度、今度は拳で殴ってやりたいくらいよ。

「テオドラ嬢。これは誘拐にあたる。どんな理由があろうと、許される行為じゃない。君はもう、法の下で裁かれる立場なんだ――それを理解しているのか?」
 レオン団長の鋭い声に、テオドラはビクリと肩を揺らす。ようやく、これが冗談では済まない――重大な事態なのだと気づいたようだった。




 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 ※子供を誘拐するなんて、最低、と思った方は、💓を連打してください。作者への抗議とともに💦指をタップタップ。ストレス解消になると、思います。次回、テオドラの断罪の後に、やっとエルナとレオンのすれ違いが……
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