42 / 70
39 天然エルナ絶好調、でもルカはピンチ?
しおりを挟む ※レオン視点
まさか、新婚初夜に、こんな夜を迎えるとは思わなかった。
ベッドの真ん中には、堂々と長くなって寝そべるアルト。
いつもは食堂の隅で丸くなっているくせに、今日に限ってなぜか、どいてくれない。どかそうと押してみても、びくともしないのはどういうことだ。
さらに追い打ちをかけるように、ルカが「パパとねるー!」と元気いっぱいに潜り込んできた。
もちろん、笑顔で迎え入れたさ。あんな瞳で見上げられたら、断れるはずがない。
俺の腕の中で、ルカはすっぽりと収まり、安心しきった顔で眠っている。
背中には、ぴったりとくっついてくるアルトの体温。もふもふであったかくて、でも少し暑すぎるかな。動こうにも、前にはルカ、後ろにはアルト。完全に、寝返りの自由を奪われていた。
その向こう側から、エルナのすやすやとした寝息が静かに聞こえてくる。
アルトのせいで顔は見えないが、その呼吸だけで、どれほど安心して眠っているかが伝わってくる。
それだけで十分だった。
結局、一睡もできなかった。だが、それでもいいさ。
この温もりに包まれているだけで、家族になれたんだと実感できた。
思い描いていた“新婚の夜”とは、ちょっと――いや、だいぶ違うが。
これが俺たちらしい新しい日常なのだろう。
※エルナ視点
本当に、この国は平民にも優しいと思う。新しく増築した貴族用のカフェには、朝からたくさんの貴婦人たちが集まってくれていた。
「グリーンウッド侯爵夫人が、自らお料理をなさって、給仕までするなんて……本当に大丈夫なんですの? よく旦那様が許してくださいましたわねぇ」
そんなふうに気遣ってくださったのは、ドネロン伯爵夫人。初対面なのに、私の体調まで心配してくださるなんて、なんて優しい方なのだろう。それなりに従業員も雇ったから、前より楽になったぐらいなのに。
「ありがとうございます、でも大丈夫です。私、元は騎士でしたから、体力には少し自信があるんです。旦那様もすごく優しくて、“好きに生きればいい”って言ってくれるんですよ。もう完璧すぎて、どうして私なんかを選んでくれたのか、今でも不思議なくらいです。でも、伯爵夫人のように、初対面でここまで私を気遣ってくださる方に出会えるなんて……このカフェを始めて本当によかったって思います」
私がそう答えると、ドネロン伯爵夫人は目を瞬かせて黙り込み、そっと紅茶に口をつけた。
その様子を見ていた周囲の貴婦人たちが、顔を見合わせて、くすくすと小さく笑い合う。
――あぁ、きっと皆さんも、ドネロン伯爵夫人のような思いやりのある方に感心されているのね。
初対面なのに、体調を気遣ってくださるなんて、なかなかできることじゃない。私も見習わなくちゃ。
「レオン団長って、女性の美醜にはこだわらない方なんですね。あの方はとても人気があって、狙っていた令嬢も多かったんですのよ?」
比較的若いレーリー侯爵令嬢が、そう言って旦那様の“長所”を教えてくださった。
「まぁ、同感です! 旦那様は上辺じゃなくて、人の中身――心を見てくださるんです。それに、あれほど素敵な方なら、女性に人気があるのも当然でしょう? 本当に、あの方の妻でいられることを誇りに思っています!」
そう言うと、レーリー侯爵令嬢はなぜか一瞬きょとんとした顔をして、それからそっと目を逸らした。
――えっ、私……なにかおかしなこと、言ったかしら?
奥のソファ席から、義姉であるヴェルツェル公爵夫人のくすくすとした笑い声が聞こえてきた。
「エルナさんったら……これなら、私が守ってあげる出番はなさそうね。ふふ、なかなか、いいわよ。その調子」
なぜかヴェルツェル公爵夫人に褒められて、私は首をかしげた。
その視線の先――中庭では、ルカが少し年上の男の子におもちゃを取られていた。
相手は、たぶん4歳くらい。服装からして、上級貴族のご子息だろう。
「こんなの、平民が持ってちゃダメなんだぞ。ぼくが使う!」
男の子は、ルカがいつも大事にしている木彫りの騎士人形を奪い、得意げに振り回している。
ルカはうつむいたまま、ぽろぽろと涙をこぼしていたのだった。
まさか、新婚初夜に、こんな夜を迎えるとは思わなかった。
ベッドの真ん中には、堂々と長くなって寝そべるアルト。
いつもは食堂の隅で丸くなっているくせに、今日に限ってなぜか、どいてくれない。どかそうと押してみても、びくともしないのはどういうことだ。
さらに追い打ちをかけるように、ルカが「パパとねるー!」と元気いっぱいに潜り込んできた。
もちろん、笑顔で迎え入れたさ。あんな瞳で見上げられたら、断れるはずがない。
俺の腕の中で、ルカはすっぽりと収まり、安心しきった顔で眠っている。
背中には、ぴったりとくっついてくるアルトの体温。もふもふであったかくて、でも少し暑すぎるかな。動こうにも、前にはルカ、後ろにはアルト。完全に、寝返りの自由を奪われていた。
その向こう側から、エルナのすやすやとした寝息が静かに聞こえてくる。
アルトのせいで顔は見えないが、その呼吸だけで、どれほど安心して眠っているかが伝わってくる。
それだけで十分だった。
結局、一睡もできなかった。だが、それでもいいさ。
この温もりに包まれているだけで、家族になれたんだと実感できた。
思い描いていた“新婚の夜”とは、ちょっと――いや、だいぶ違うが。
これが俺たちらしい新しい日常なのだろう。
※エルナ視点
本当に、この国は平民にも優しいと思う。新しく増築した貴族用のカフェには、朝からたくさんの貴婦人たちが集まってくれていた。
「グリーンウッド侯爵夫人が、自らお料理をなさって、給仕までするなんて……本当に大丈夫なんですの? よく旦那様が許してくださいましたわねぇ」
そんなふうに気遣ってくださったのは、ドネロン伯爵夫人。初対面なのに、私の体調まで心配してくださるなんて、なんて優しい方なのだろう。それなりに従業員も雇ったから、前より楽になったぐらいなのに。
「ありがとうございます、でも大丈夫です。私、元は騎士でしたから、体力には少し自信があるんです。旦那様もすごく優しくて、“好きに生きればいい”って言ってくれるんですよ。もう完璧すぎて、どうして私なんかを選んでくれたのか、今でも不思議なくらいです。でも、伯爵夫人のように、初対面でここまで私を気遣ってくださる方に出会えるなんて……このカフェを始めて本当によかったって思います」
私がそう答えると、ドネロン伯爵夫人は目を瞬かせて黙り込み、そっと紅茶に口をつけた。
その様子を見ていた周囲の貴婦人たちが、顔を見合わせて、くすくすと小さく笑い合う。
――あぁ、きっと皆さんも、ドネロン伯爵夫人のような思いやりのある方に感心されているのね。
初対面なのに、体調を気遣ってくださるなんて、なかなかできることじゃない。私も見習わなくちゃ。
「レオン団長って、女性の美醜にはこだわらない方なんですね。あの方はとても人気があって、狙っていた令嬢も多かったんですのよ?」
比較的若いレーリー侯爵令嬢が、そう言って旦那様の“長所”を教えてくださった。
「まぁ、同感です! 旦那様は上辺じゃなくて、人の中身――心を見てくださるんです。それに、あれほど素敵な方なら、女性に人気があるのも当然でしょう? 本当に、あの方の妻でいられることを誇りに思っています!」
そう言うと、レーリー侯爵令嬢はなぜか一瞬きょとんとした顔をして、それからそっと目を逸らした。
――えっ、私……なにかおかしなこと、言ったかしら?
奥のソファ席から、義姉であるヴェルツェル公爵夫人のくすくすとした笑い声が聞こえてきた。
「エルナさんったら……これなら、私が守ってあげる出番はなさそうね。ふふ、なかなか、いいわよ。その調子」
なぜかヴェルツェル公爵夫人に褒められて、私は首をかしげた。
その視線の先――中庭では、ルカが少し年上の男の子におもちゃを取られていた。
相手は、たぶん4歳くらい。服装からして、上級貴族のご子息だろう。
「こんなの、平民が持ってちゃダメなんだぞ。ぼくが使う!」
男の子は、ルカがいつも大事にしている木彫りの騎士人形を奪い、得意げに振り回している。
ルカはうつむいたまま、ぽろぽろと涙をこぼしていたのだった。
2,307
お気に入りに追加
4,149
あなたにおすすめの小説


【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
不遇の王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン💞
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる