【完結】夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!

青空一夏

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41 恥をかくドネロン伯爵夫人。そして腹いせに……

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 旦那様の目がルカの頬の涙の跡と、男の子の手に握られた騎士の人形に向けられる。

「おや……そのおもちゃ、俺の息子の大事な物だな。どうして君が持っている?」

 いつもの穏やかな声だったけれど、空気がひんやりと引き締まるのを感じた。

「子供のしたことですから、大ごとにしないでくださいまし」
  割って入ったのは、やはり母親のドネロン伯爵夫人だ。

 旦那様はその言葉を無言で受け流しながら、ぐったりと床に身を横たえたアルトの姿に目を止めた。

「……アルト。おまえ、背中に翼……? 伝説の神獣そっくりじゃないか。いや、まさか本当に?」

 そう言いながらも、旦那様はアルトに駆け寄りひざをつき、優しく撫でてやる。私も後に続いて顔を覗き込むと、アルトはスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていただけだった。

「神獣様は力を使ったあとは、しばらくお休みになるという記述が、神殿にありましたわね」

 ヴェルツェル公爵夫人が、ふとそんなことを口にした。なるほど、そんな記述を、どこかの文献で目にした記憶がある。

 すると、ルカがぺたんとアルトのお腹の横に座った。

「あると、えらかったね。ぼく、まもってくれたの。すごいよ」

 そう言って、ふわふわの首元に小さな腕を回し、ぽふんと頬を寄せる。
 そのままウトウトと……その寝顔は、心の底から安心しきっているようだった。

「まるで神話の一場面いちばめんみたいですわね。神獣と、愛らしい幼子……。ルカちゃんは、神獣を従えた騎士になるのかしら? まぁ、なんて素敵な未来でしょう」

 ヴェルツェル公爵夫人がぽつりと呟くと、貴婦人たちの間からも、うっとりとしたようなため息がこぼれた。

 旦那様はその光景を静かに見守りながら、小さく息を吐く。

「……ああ、俺の家族って、本当に誇らしいな。最愛の妻と、愛らしくも優しい息子。それに神獣までついてくるとは、贅沢な話だ」

 そのとき、ドネロン伯爵夫人が、どさくさに紛れて子息の手を引き、こっそりその場を離れようとしていた。

「お待ちを。まだ話は終わっていない」

 旦那様の声が低く響くと、夫人の肩がピクリと揺れた。

「あなたは平民をお嫌いだそうだが――俺の妻はグリーンウッド侯爵夫人だ。そして、ルカは俺の息子。たとえ血が繋がっていなくとも、かけがえのない大切な子だ。正式にドネロン伯爵家宛てに抗議文を送らせてもらう。……そのつもりで」

「まったく……。平民を蔑むほどの家柄でもありませんでしょうに。たしか、ドネロン伯爵夫人のご実家は、一代限りの男爵家だったと記憶していますわ。――片腹痛いこと」

 ヴェルツェル公爵夫人の言葉に、ドネロン伯爵夫人は顔を真っ赤に染めながら、足早に立ち去った。

 ――あの子供、大丈夫かしら? ドネロン伯爵夫人も、少しでも考えを改めてくれるといいのだけれど……

 

 ※ドネロン伯爵夫人視点

 ――……許せないわ、絶対に。

 なによ、あの女。平民のくせに、あんなに余裕のある顔で、貴婦人たちの前に立つなんて……。
 しかも夫は王都騎士団長? 子どもは神獣に守られてるですって? ふざけないで!

 どうせ“いい人ぶってる”だけ。裏ではきっと、なにかやましいことをしてるのよ。
 あんなすごい“神獣”を手懐けてるなんて――気に入らない。

 ……そうよ。神殿に報告しなくちゃ。
 私はその足で、すぐに神殿へ向かった。

「レオン王都騎士団長の奥様、グリーンウッド侯爵夫人のことなのですけれど――神獣を手なずけて、もとは平民の騎士だったくせに、レオン様まで誘惑して今の地位を手に入れて……。きっと、あの女は悪い魔女ですわ!」

 私は腹いせに、そうまくし立てるように言った。

「……なるほど。それは、看過できませんな。上にも報告いたします」

 思ったよりも真面目に聖務官に受け止められて、私は少し意外だった。
 どうせ神殿なんて、形ばかりの対応しかしないと思っていたのに。

 しばらく待たされた後、奥の扉が音もなく開いた。
 そして現れたのは――神殿の頂点、コルネリオ大神官。

 ――え? まさか……本当に?

 コルネリオ大神官は、まるで愉快な玩具でも見つけたかのように微笑んで呟いた。

「大層貴重な情報をいただきまして、感謝に堪えません。この件、私が直接預かりましょう」

 ――……まさか、コルネリオ大神官ご本人が出てくるなんて。
 私、ほんの“ちょっと”言ってやりたかっただけなのに――

 ふふ……でも。これは、思った以上に、面白いことになりそうですわね。

 

 つづく



 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 ※お知らせ:
 これまで、ほぼ、決まった時間、朝6時・夕方18時の1日2回更新でしたが、今後は【18】の11に変更させていただきます。
 無理のないペースで、丁寧に続きをお届けしていきますので、どうか変わらずお付き合いいただければ嬉しいです!
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