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5 アライア視点

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(アライア視点)

  ここはセロ王国。貴族裁判は国王陛下が立ち会い、裁可も陛下自身がくだす決まりとなっているらしい。貴族同士のもめ事はかなり厳しく裁かれることで有名だと聞いたことがある。あたしは平民なのにとんだとばっちりだ。

(あぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろう?)

 これでもあたしは平民が通う学園を優秀な成績で卒業していた。ある商会に就職し初めは真面目に働いていたが、経理を任され大金が動く職場で邪な思いに囚われる。

(これほど多くの金を扱っているのだから少しぐらい借りてもバレないわよね? 世の中には欲しいものがありすぎるもの)

 上手に帳簿を誤魔化してつけて、浮いたお金を着服しだした。初めはほんの少額だったけれど、バレないとわかると段々と大金になっていく。

(大丈夫よ。これまでもバレていないのだから、これからもきっと平気だわ)

 けれど悪事はいずれバレるもので、後に業務上横領罪という罪になり、利息も含めた大金の返済を求められた。とても女一人で返せる額ではないまでに膨れ上がっていた。罰として娼館に閉じ込められ、その返済が終わるまでは自由はない、と言われた。

(こうなったらお客にお金を貢がせよう)

 お人好しの口下手だったビドが店に来たとき、あたしはビドに最高に優しく接してあげた。女に免疫のない愚かな男は娼館オーナーと話し合い、借金を肩代わりしてくれる書類にすんなりとサインをしてくれた。

 晴れて自由になったあたしはビドの屋敷で暮らし、娼館で管理される娼婦ではなく個人で客を取れる娼婦になった。その金の出所もビドの立場も聞かされてわかっていたけれど、婚約者のふりをしてそこに住んでいるうちに、自分がイルヤになった気分でいたのも確かだ。

(最高の生活だったのに・・・・・・本物のイルヤが連絡も寄越さず急に来るのが悪い!)





「結論から言おう。その女を劣悪な環境の罪人用娼館に閉じ込め、一生外に出してはならない。死した場合も墓はつくられず、罪人娼婦の共同墓地に入るが良い」

 国王陛下の一方的な裁可には不満しか感じない。

「嫌です! せっかく娼館雇いから抜け出して自由に一人で稼げるようになったんです。祖国での借金は返し終わりました。今更なんで娼館に閉じ込められるのですか? あたしはなにも悪くないです」

「フレンツエ王国での借金はビドが肩代わりしているのは調べたらすぐにわかった。リカール子爵家にそのような財力はない。ビドの住んでいた屋敷では5人分の下級貴族出身の使用人が雇われているはずだった。だが実際は平民の男が一人だけしか雇われていない。シーグ侯爵家からは5人分の給金が払われていたというのにだ。つまり、お前を自由にした金はその浮いた金からきている。娼館雇いの罪人娼婦に戻ってシーグ侯爵家の金を返済してもらおう」

 厳めしい顔つきの男はシーグ侯爵であの女の父親だ。烈火のごとく怒ってあたしを睨み付けていた。

「ビドがお金を勝手にくれたのよ。そのお金がシーグ侯爵家から出ていたとしても、もらったのはビドからだわ。だからあたしには関係ない。お金に名前が書いてあるわけじゃないもの!」

「お金のことはどうでもいいですわ。それよりビドと一緒になって私を殺そうとしましたね? 国王陛下、終身刑をお願いします。娼婦が侯爵令嬢を殺そうとしたのなら当然では?」

 本物のイルヤが涼しい顔付きでそんなことを国王陛下に申し出た。

 普通、貴族のご令嬢は優しい振りをするのでしょう? そこは善人の振りをして、「軽い刑にしてあげてくださいませ」、とでも言いなさいよ! 

「俺からも終身刑をお願いします。貴族の令嬢を殺そうとした罪人を軽い罪で終わらせたら、今後もこのような犯罪者が増えますよ」

 見目麗しい近衛騎士ユーインがあたしをきつく睨み付ける。この男はさっきの色っぽい侯爵令嬢と幸せになる未来があるのか。それに比べてあたしは・・・・・・悔しい。

「あんた達はなんでもかんでもあたしのせいにするんだね? そもそも、お嬢様の婚約者の管理もできてなかったのはあんたらの怠慢もあるだろう? ビドのような男の本質も見抜けなかったくせに」

「本質ね。冴えなくて女にモテたことがない男は純粋であればあるほど、こういうたちの悪い女に感化されやすい。操っていたのはお前だろう?」

 確かにあたしはビドに娼館通いの味を覚えさせ、勤勉な彼を肉欲に溺れさせた。そうすることによって扱いやすいおバカさんになってくれるから。だからって終身刑は酷すぎる。

(本当に殺す気なんてなかったんだ)

「お嬢さんを殺す気なんてなかったよ。ただその美貌と身体だから多分高給娼館に売りに行けば、一生食うに困らない額になるかと思っただけです。これは殺人未遂じゃないです」

(殺人未遂より、人身売買未遂の方が罪が軽いはず)

「我が娘を高給娼館に売り飛ばそうとしたのか? 国王陛下、この女には拷問の末、死刑を求めます」

「へ?」

「うむ。そうしよう。拷問の後にすみやかに縛り首にせよ」

 あたしは知らなかった。このセロ王国の法律が殺人未遂より、貴族令嬢の人身売買のほうが罪がより重いことを。昔、先代の国王陛下の末っ子姫君が誘拐され、高級娼館で発見されたことがあったそうで、見つけられた王女様は気が狂われており最後には湖に身を投げて亡くなってしまったらしい。
 それを深く悲しんだ国王陛下は身分の高い貴族令嬢をそのような目に遭わせた者は厳しい拷問の末、極刑と決めた、とのことだった。

 あたしは慌てて前言撤回を試みるけれど、言ってしまったことを消すことはできない。

「待って。やっぱり殺そうとしていました。ごめんなさい。こちらの記憶違いよ。間違いなく首を絞めようとしていたの」

 なぜか売り飛ばしてさんざん娼館で働かせた後で殺すつもりだった、と受け取られますます重い罪になっていく。

(誰か助けて・・・・・・侯爵令嬢のふりを少しだけしていただけじゃない? お金だってビドが喜んで出してくれただけよ。だいたい、あんな馬鹿な男を婚約者に選んだあの令嬢がマヌケなだけなのに。酷いよ・・・・・・この世はなんて不公平なんだろう)

 あたしは拷問の後、太い縄が首に巻かれるまでこの世の不公平を恨んだ。生まれながらに金持ちの貴族様が妬ましい。あたしだって、貴族の令嬢に生まれたかったよぉ。

 だって、あたしはとても庇護欲のそそる儚げな令嬢の振りが上手いのに・・・・・・



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