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6 ビド視点 R15
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(ビド視点)
※ビドは最後に死にます。血の飛び散る表現などはないですが、一応R15です。(残酷シーンの具体的な描写はないです)
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
「うむ、そうしよう。拷問の後にすみやかに縛り首にせよ」
国王陛下の厳しい裁可がアライアにくだされた。
(なんで娼館に売り飛ばそうとした、なんて言うんだよっ! このセロ王国では一番重い罪のひとつなのに)
アライアは言い訳を必死でするけれど、ますます墓穴を掘っていく。結局彼女は死刑に決まり、騎士達に拷問部屋へと引きずられていった。
「さて、ビドはイルヤを殺そうとしたのか? 売ろうとしたのか?」
僕は国王陛下の質問に頭を働かせて最良の言い訳を考え出そうとしていた。
「・・・・・・どちらでもありません。ただ・・・・・・そのぉーー、なんというか、そう、余計なことを言えないようにしたいな、と思っただけなのです。声がでなくなれば良いかな、と。殺そうなんて全く思っていませんでした」
「ふーーん。俺は、はっきりと聞いたぞ。お前が『僕を捨てて二人で幸せになるなんて許さない。きらびやかな容姿の二人はお似合いだけれど、ここで二人とも殺してやるよ!』と、言ったよな? 陛下、こいつは俺とイルヤを殺そうとナイフを振りかざして来た凶悪犯罪者です」
「凶悪犯罪者か。ならば殺人ばかりを犯した者を働かせている鉱山にでも送るか。囚人仲間からリンチされて死ぬか、鉱山で発生する粉塵や毒ガスに蝕まれ肺を痛めて死ぬか、どちらにしても楽な死に方ではあるまい。良い罰になりそうだ」
国王陛下の言葉にゾッとした僕は、涙ながらに懇願する。
「拷問なしの毒杯での死刑でお願いします。あれなら苦しみは一瞬だけだと聞いたことがある。僕は貴族です。高貴な身分ならそのような配慮がされるはずです」
「愚かな男だ。ろくに我が国の刑罰の勉強もしておらんのか。毒杯は王族と情状酌量の余地のある貴族が犯した罪にだけ適用される。なるべく死の苦しみを軽減するような薬草を調合した特殊な毒だ。だが、お前のようなクズに適用するわけがないだろう?」
「待ってください。イルヤが悪い。こんなはしたない体つきをしているくせに身持ちが固くて、結婚するまではキスしか許してもらえなかった。僕を欲求不満にさせたイルヤのせいです。悪い女どもに騙された僕は被害者です!」
「まともな侯爵令嬢が結婚前に身体を許すわけがないであろう。馬鹿なのか・・・・・・このような愚かな者を育てたリカール子爵夫妻も無罪とはいかんな。リカール子爵家は取り潰し、身内の者は賤民に落とすこととする!」
国王陛下の無情な裁可で、両親と兄は爵位を無くし貴族籍を奪われた。平民からも蔑まれる賤民となり、これからの生活はとても辛いものになるだろう。
一方、僕は最も劣悪な環境の鉱山に向かう馬車に乗せられている。そこは人を何人も殺し慣れた凶悪犯罪者しかいない場所で有名だった。
誤算だった。僕はちゃんとイルヤに向けて誠意は見せているつもりだったのに。手紙だって心配してこちらに来ないように、馴染みの娼婦達に僕の筆跡を真似て書かせていた。毎日、怪しまれないように娼婦達が協力して書いてくれたその手紙はとても内容が充実していたはずだ。
「このような手紙が毎日届けば絶対にビド様は怪しまれませんよ。とても深く愛されている、と婚約者さんは思い込むでしょう。だって女の気持ちは、私達娼婦には手に取るようにわかりますからねぇ」
そう言ってくれた娼婦達は優しい。天文学の学校へは落第しない程度に通い、成績も中ぐらいには保っていた。この快適な生活を維持するのには学問を身につけるという大義名分を失うわけにはいかない。僕だって必死に頑張っていたんだ。怠けていたわけじゃない。
全てはいきなりやって来たイルヤのせいだ。来る前に連絡してくれればいくらでも誠実な婚約者のふりが出来たのに。抜き打ちテストのような真似をしやがって・・・・・・僕の快適な生活を返せ!
「着いたぞ。さっさと降りろ!」
鉱山に着いた僕は騎士達に馬車から引きずりだされ、早速残忍な顔付きの大男達に囲まれる。
「新入りかぁ。俺は腕の立つ男を50人ほど殺したけどよぉーー。お前は何人殺したんだ?」
ボスらしき男が僕に詰め寄る。
「あぁ、こいつは殺人未遂だ。自分の欲の為に婚約者のか弱い侯爵令嬢を殺そうとした卑劣な奴だ」
僕を連行してきた騎士の一人が吐き捨てるようにそう言った。
「はぁ? 俺達は女子供を虐める奴は大嫌いなんだよ。女を殺そうとしたなんてありえねーー。根性が腐ってるだろう?」
ギラギラと怒りの熱をはらんだ視線が一斉に注がれた。
(まずい。早速リンチにあいそうだ。誰か助けて・・・・・・)
逃げ場のないこの鉱山で僕はいつまで生きていられるのだろうか? 迫って来る拳を見つめながらボンヤリとそんなことを考えた。
僕は毎日殴られ蹴られ生傷が絶えない日々を送った。鉱山の仕事はきつくて、命がいくつあっても足りないほど危険な作業なのに、夜も囚人達からの陰湿な暴行が待っていた。
(ここは地獄だよ。死んだ方がマシなのに、誰もひと思いに僕を殺そうとはしない)
自ら命を絶つ勇気もない僕は、ただ死がむこうからやってくるのを待つだけだ。長い長い地獄の日々が僕の罪の重さを自覚させた。
(あのまま女遊びなどせずに真面目に天文学を極めてイルヤと結婚していれば幸せだったのに)
それに気づいた頃には僕の身体はボロボロになっていて、命はもうすぐ尽きるところだった。
(ごめん・・・・・・父上、母上、兄上。僕のせいで賤民におとされて・・・・・・僕が愚かだったよ・・・・・・・
どんなに後悔して謝っても、もう家族には僕の声は届かない。最後にひとつ咳き込みながらも息を吐くと、そのまま僕は死の沼へと墜ちていく。
もう痛さは・・・・・・感じない・・・・・・
※ビドは最後に死にます。血の飛び散る表現などはないですが、一応R15です。(残酷シーンの具体的な描写はないです)
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「うむ、そうしよう。拷問の後にすみやかに縛り首にせよ」
国王陛下の厳しい裁可がアライアにくだされた。
(なんで娼館に売り飛ばそうとした、なんて言うんだよっ! このセロ王国では一番重い罪のひとつなのに)
アライアは言い訳を必死でするけれど、ますます墓穴を掘っていく。結局彼女は死刑に決まり、騎士達に拷問部屋へと引きずられていった。
「さて、ビドはイルヤを殺そうとしたのか? 売ろうとしたのか?」
僕は国王陛下の質問に頭を働かせて最良の言い訳を考え出そうとしていた。
「・・・・・・どちらでもありません。ただ・・・・・・そのぉーー、なんというか、そう、余計なことを言えないようにしたいな、と思っただけなのです。声がでなくなれば良いかな、と。殺そうなんて全く思っていませんでした」
「ふーーん。俺は、はっきりと聞いたぞ。お前が『僕を捨てて二人で幸せになるなんて許さない。きらびやかな容姿の二人はお似合いだけれど、ここで二人とも殺してやるよ!』と、言ったよな? 陛下、こいつは俺とイルヤを殺そうとナイフを振りかざして来た凶悪犯罪者です」
「凶悪犯罪者か。ならば殺人ばかりを犯した者を働かせている鉱山にでも送るか。囚人仲間からリンチされて死ぬか、鉱山で発生する粉塵や毒ガスに蝕まれ肺を痛めて死ぬか、どちらにしても楽な死に方ではあるまい。良い罰になりそうだ」
国王陛下の言葉にゾッとした僕は、涙ながらに懇願する。
「拷問なしの毒杯での死刑でお願いします。あれなら苦しみは一瞬だけだと聞いたことがある。僕は貴族です。高貴な身分ならそのような配慮がされるはずです」
「愚かな男だ。ろくに我が国の刑罰の勉強もしておらんのか。毒杯は王族と情状酌量の余地のある貴族が犯した罪にだけ適用される。なるべく死の苦しみを軽減するような薬草を調合した特殊な毒だ。だが、お前のようなクズに適用するわけがないだろう?」
「待ってください。イルヤが悪い。こんなはしたない体つきをしているくせに身持ちが固くて、結婚するまではキスしか許してもらえなかった。僕を欲求不満にさせたイルヤのせいです。悪い女どもに騙された僕は被害者です!」
「まともな侯爵令嬢が結婚前に身体を許すわけがないであろう。馬鹿なのか・・・・・・このような愚かな者を育てたリカール子爵夫妻も無罪とはいかんな。リカール子爵家は取り潰し、身内の者は賤民に落とすこととする!」
国王陛下の無情な裁可で、両親と兄は爵位を無くし貴族籍を奪われた。平民からも蔑まれる賤民となり、これからの生活はとても辛いものになるだろう。
一方、僕は最も劣悪な環境の鉱山に向かう馬車に乗せられている。そこは人を何人も殺し慣れた凶悪犯罪者しかいない場所で有名だった。
誤算だった。僕はちゃんとイルヤに向けて誠意は見せているつもりだったのに。手紙だって心配してこちらに来ないように、馴染みの娼婦達に僕の筆跡を真似て書かせていた。毎日、怪しまれないように娼婦達が協力して書いてくれたその手紙はとても内容が充実していたはずだ。
「このような手紙が毎日届けば絶対にビド様は怪しまれませんよ。とても深く愛されている、と婚約者さんは思い込むでしょう。だって女の気持ちは、私達娼婦には手に取るようにわかりますからねぇ」
そう言ってくれた娼婦達は優しい。天文学の学校へは落第しない程度に通い、成績も中ぐらいには保っていた。この快適な生活を維持するのには学問を身につけるという大義名分を失うわけにはいかない。僕だって必死に頑張っていたんだ。怠けていたわけじゃない。
全てはいきなりやって来たイルヤのせいだ。来る前に連絡してくれればいくらでも誠実な婚約者のふりが出来たのに。抜き打ちテストのような真似をしやがって・・・・・・僕の快適な生活を返せ!
「着いたぞ。さっさと降りろ!」
鉱山に着いた僕は騎士達に馬車から引きずりだされ、早速残忍な顔付きの大男達に囲まれる。
「新入りかぁ。俺は腕の立つ男を50人ほど殺したけどよぉーー。お前は何人殺したんだ?」
ボスらしき男が僕に詰め寄る。
「あぁ、こいつは殺人未遂だ。自分の欲の為に婚約者のか弱い侯爵令嬢を殺そうとした卑劣な奴だ」
僕を連行してきた騎士の一人が吐き捨てるようにそう言った。
「はぁ? 俺達は女子供を虐める奴は大嫌いなんだよ。女を殺そうとしたなんてありえねーー。根性が腐ってるだろう?」
ギラギラと怒りの熱をはらんだ視線が一斉に注がれた。
(まずい。早速リンチにあいそうだ。誰か助けて・・・・・・)
逃げ場のないこの鉱山で僕はいつまで生きていられるのだろうか? 迫って来る拳を見つめながらボンヤリとそんなことを考えた。
僕は毎日殴られ蹴られ生傷が絶えない日々を送った。鉱山の仕事はきつくて、命がいくつあっても足りないほど危険な作業なのに、夜も囚人達からの陰湿な暴行が待っていた。
(ここは地獄だよ。死んだ方がマシなのに、誰もひと思いに僕を殺そうとはしない)
自ら命を絶つ勇気もない僕は、ただ死がむこうからやってくるのを待つだけだ。長い長い地獄の日々が僕の罪の重さを自覚させた。
(あのまま女遊びなどせずに真面目に天文学を極めてイルヤと結婚していれば幸せだったのに)
それに気づいた頃には僕の身体はボロボロになっていて、命はもうすぐ尽きるところだった。
(ごめん・・・・・・父上、母上、兄上。僕のせいで賤民におとされて・・・・・・僕が愚かだったよ・・・・・・・
どんなに後悔して謝っても、もう家族には僕の声は届かない。最後にひとつ咳き込みながらも息を吐くと、そのまま僕は死の沼へと墜ちていく。
もう痛さは・・・・・・感じない・・・・・・
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