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強制労働の場で-1(シリアスな展開版)
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ここは熱い。エジャートン公爵が推薦したエメラルド鉱山は、火山地帯に位置していたのだ。エメラルドは地熱や地殻変動による圧力と熱の影響を受けて形成されるため、火山活動のあった地域に鉱床が存在することがよくある。そのぶん、鉱夫の危険が増すのは言うまでもない。
デラノは荒れ果てた坑道の中で、土と石を掘り進める作業を続けていた。冷たく湿った空気が、重たい空気の層となって身体にまとわりつき、疲れた筋肉にさらなる負担をかけていた。デラノの背中には泥と汗がべったりと貼り付き、息を吸うたびに鉱山の埃が喉を焼く。
「デラノがすぐにエレノア様に謝っていれば、こんなことにはならなかったのよ」
傍らで同じように作業をしていたキャリーが、いつものように文句を言う。
「それを言うなら、キャリーが嘘をついて僕に近づいてこなかったら、こんなことにはなっていない。全部、キャリーのせいだろう?」
この会話は絶えず繰り返されるが、不毛なだけのやり取りだ。いくら、文句を言い合っても、罵倒しりあっても、この状況は少しも変わらない。
生まれてこのかた、王家に使える文官の子として生きてきたデラノにとって、エメラルド鉱山の過酷な現実は全く未知の世界だった。柔らかい手はツルハシの柄を握りしめるたびに痛み、細かい砂利や石が爪の間に入り込む。手のひらにはすでに無数のマメができていたが、皮膚が破れた場所からは血が滲んでいた。
デラノがほんの少し手を動かすのをやめると、途端に鞭をふるってくる監視者。打ちつけられた手の甲がヒリヒリと痛む。
キャリーは監視者に愛想笑いを浮かべ、親しげに手まで振っていた。
「そこの女、少しだけなら休んでいいぞ」
デラノはキャリーの本質が今ではすっかりわかっている。道徳心の欠片も無く権力のある者にすり寄り、自分だけ得をしようとしている。
デラノはキャリーが監視者に媚びへつらい、取り入ろうとする様子を冷ややかに見つめながら、自分の手元に意識を戻した。手の甲の傷口から滲む血は止まる気配がなく、痛みはますます増していく。だが、手を止めることは許されない。
「休む暇なんてない、そんなことわかっているだろう?」
デラノは掠れた声で自分に言い聞かせるように呟き、再びツルハシを手に取った。
エメラルドを掘り当てても、それが自分のものになるわけではない。監視者たちが睨みを利かせ、鉱夫たちに一切の自由を与えないこの地獄のような環境の中で、唯一の救いは――ないに等しかった。希望も、救済も見えない。
「デラノ、あんた、もう限界なんじゃないの?」
キャリーが皮肉げに笑いかける。
「エレノア様の婚約者で贅沢していたんだもの。こんな労働は無理よね?」
デラノは返事をする代わりに、無言で彼女を睨み返す。
「どうせ、キャリーは男の監視者の機嫌を取ることばかり考えているんだろ?」
デラノは苛立ちを抑えきれず、冷たく吐き捨てた。
「ここで少しでも楽に生きるためには、仕方がないでしょ? 生活の知恵ってやつよ」
キャリーは言い訳がましく肩をすくめ、気にも留めないように続けた。
「この場所では、自分を守ることしかできないの。あんたは夫だけど、結局のところ、なんの役にも立たないじゃない?」
キャリーの皮肉交じりの言葉が、デラノの胸に深い苛立ちを残した。
その瞬間、鉱山の奥で突然地響きがしたのだった。
デラノは荒れ果てた坑道の中で、土と石を掘り進める作業を続けていた。冷たく湿った空気が、重たい空気の層となって身体にまとわりつき、疲れた筋肉にさらなる負担をかけていた。デラノの背中には泥と汗がべったりと貼り付き、息を吸うたびに鉱山の埃が喉を焼く。
「デラノがすぐにエレノア様に謝っていれば、こんなことにはならなかったのよ」
傍らで同じように作業をしていたキャリーが、いつものように文句を言う。
「それを言うなら、キャリーが嘘をついて僕に近づいてこなかったら、こんなことにはなっていない。全部、キャリーのせいだろう?」
この会話は絶えず繰り返されるが、不毛なだけのやり取りだ。いくら、文句を言い合っても、罵倒しりあっても、この状況は少しも変わらない。
生まれてこのかた、王家に使える文官の子として生きてきたデラノにとって、エメラルド鉱山の過酷な現実は全く未知の世界だった。柔らかい手はツルハシの柄を握りしめるたびに痛み、細かい砂利や石が爪の間に入り込む。手のひらにはすでに無数のマメができていたが、皮膚が破れた場所からは血が滲んでいた。
デラノがほんの少し手を動かすのをやめると、途端に鞭をふるってくる監視者。打ちつけられた手の甲がヒリヒリと痛む。
キャリーは監視者に愛想笑いを浮かべ、親しげに手まで振っていた。
「そこの女、少しだけなら休んでいいぞ」
デラノはキャリーの本質が今ではすっかりわかっている。道徳心の欠片も無く権力のある者にすり寄り、自分だけ得をしようとしている。
デラノはキャリーが監視者に媚びへつらい、取り入ろうとする様子を冷ややかに見つめながら、自分の手元に意識を戻した。手の甲の傷口から滲む血は止まる気配がなく、痛みはますます増していく。だが、手を止めることは許されない。
「休む暇なんてない、そんなことわかっているだろう?」
デラノは掠れた声で自分に言い聞かせるように呟き、再びツルハシを手に取った。
エメラルドを掘り当てても、それが自分のものになるわけではない。監視者たちが睨みを利かせ、鉱夫たちに一切の自由を与えないこの地獄のような環境の中で、唯一の救いは――ないに等しかった。希望も、救済も見えない。
「デラノ、あんた、もう限界なんじゃないの?」
キャリーが皮肉げに笑いかける。
「エレノア様の婚約者で贅沢していたんだもの。こんな労働は無理よね?」
デラノは返事をする代わりに、無言で彼女を睨み返す。
「どうせ、キャリーは男の監視者の機嫌を取ることばかり考えているんだろ?」
デラノは苛立ちを抑えきれず、冷たく吐き捨てた。
「ここで少しでも楽に生きるためには、仕方がないでしょ? 生活の知恵ってやつよ」
キャリーは言い訳がましく肩をすくめ、気にも留めないように続けた。
「この場所では、自分を守ることしかできないの。あんたは夫だけど、結局のところ、なんの役にも立たないじゃない?」
キャリーの皮肉交じりの言葉が、デラノの胸に深い苛立ちを残した。
その瞬間、鉱山の奥で突然地響きがしたのだった。
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