3 / 12
3
このオリヤンが来た日に限ってお兄様夫妻は外出しており、屋敷にはわたくしと娘達しかいなかった。
「え? 戻って来てくれとは、このわたくしにおっしゃっているのでしょうか?」
とりあえず離れの居間に通して、侍女にお茶を淹れてもらう。
上の二人の子供達は、久しぶりに見る父親に怯えたまなざしを向けている。末娘は奥の部屋でお昼寝中だった。
「そうだよ。嬉しすぎて信じられないのか? 男爵家の女を、また伯爵夫人に戻してやると言ったんだ。断ることができると思うなよ。3人の子持ちの女など他に望む男がいるわけがないだろう? しかも役にもたたん女ばかりしか産めないくせに。わたしが引き取ってやると言っているんだ。ありがたく受けてアーネル伯爵邸に戻るんだ」
車椅子をわたくしのギリギリのところまで近づけて、無理やりにわたくしの腕を取ろうとする。
「マーリンに触るな。この悪者め! 出ていけ。ここはお前なんかの来るところじゃないぞ」
なんと、バート様の次男クリストフェル様がいきなり現れて、オリヤンの腕をはねのけた。
「そうだぞ。マーリン様は僕らのお母様になる方なんだ。気安く近づくな」
バート様の長男ヴァルナル様は、とても嬉しい言葉をおっしゃる。
(本当にこの子達のお母様になれたらどんなにいいかしら)
「なんだと? こいつらはいったい何者だ? おい、マーリン。このガキどもは誰だ?」
「やれやれ、ご自分の甥っ子の顔も忘れましたか? お久しぶりですね、兄上」
バート様がクリストフェル様達の後から居間に入って来て、冷笑を浮かべてオリヤンを睨みつけた。
「バート! お前がなぜここに来るんだ? 待てよ、もしかして……バートは奥方を亡くして独り身だからな。マリーンは見かけによらずやり手だな? 弟を誘惑したのか? この生意気なガキが、お前がお母様になると寝ぼけたことを言っていたが。バート、わたしの子供を3人も産んだ使い古しでいいのか? この女は女の子しか産めない欠陥品だぞ」
「出ていけ! お前なんてお父様じゃない! お母さまを虐めるな!」
長女のテオドーラは、父親の言う意味がもうわかる歳になっていた。母親のわたくしが蔑まれたことで、悔し涙を流している。
「ホント、最低な伯父上だな。父上、これって本当に父上の兄上なのですか? 気持ち悪いしテオドーラを泣かした罪は重いです」
ヴァルナル様はテオドーラがお気に入りで、とても可愛がってくれる。今もテオドーラに駆け寄って頭を撫で、涙を拭いていた。
「ごめんよ。もっと早くここに着ければよかったのにね。僕たちが来たからもう大丈夫だよ」
そう言われたテオドーラは、ヴァルナル様に抱きついた。テオドーラもこの従兄が大好きなのだ。
「お引き取りください。わたくしは死んでもあなたのところに戻ることはありません」
わたくしはきっぱりと言い切った。
(こんな男の元に戻るわけにはいかない。子供達の為にもわたくしの為にも……
「馬鹿なのか? お前たちは所詮、男爵家と子爵家だろう? 束になったところで、このわたしは伯爵だ。雑魚のお前らの意思なんて関係ないね。さぁ、帰るぞ! テオドーラは後でお仕置きだ。父親に向かってなんたる口の利きようだ。教育しなおさなくてはならない」
「お待ちください。マーリン達は決して連れて行かせませんよ。わたしは確かに子爵ですが、兄上の横暴は許さない。全力でマーリンを守る」
「弟のくせに、生意気な奴め。お前はわたしのスペアにすぎない。お前の子供達も伯爵家を継ぎたかったら、もっと身の程をわきまえさせろよ。今日のところは帰るが、マーリンよ、お前は絶対に戻って来いよ」
車椅子を器用に操って帰っていくオリヤン。
「もう来るなよ! 今度来たらやっつけてやる」
クリストフェル様はプンプンだ。
「お祖父様に言ってやっつけてもらうから、マーリン様は心配しないでくださいね」
ヴァルナル様は子供にしては、悪い笑みで笑う。いや、気のせいよね?
「ふふふ。ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ。でも、バート様やお兄様に迷惑をかけてしまうわけにもいかないわ。修道院にでも入れば、戻らなくて済むかしら。子供達はサーラ様にお願いして……」
「修道院に入ったらわたしが困りますよ。このようなタイミングでムードがないが、わたしと結婚していただけませんか?」
バート様は慌ててわたくしの前にひざまずいたのだった。
「え? 戻って来てくれとは、このわたくしにおっしゃっているのでしょうか?」
とりあえず離れの居間に通して、侍女にお茶を淹れてもらう。
上の二人の子供達は、久しぶりに見る父親に怯えたまなざしを向けている。末娘は奥の部屋でお昼寝中だった。
「そうだよ。嬉しすぎて信じられないのか? 男爵家の女を、また伯爵夫人に戻してやると言ったんだ。断ることができると思うなよ。3人の子持ちの女など他に望む男がいるわけがないだろう? しかも役にもたたん女ばかりしか産めないくせに。わたしが引き取ってやると言っているんだ。ありがたく受けてアーネル伯爵邸に戻るんだ」
車椅子をわたくしのギリギリのところまで近づけて、無理やりにわたくしの腕を取ろうとする。
「マーリンに触るな。この悪者め! 出ていけ。ここはお前なんかの来るところじゃないぞ」
なんと、バート様の次男クリストフェル様がいきなり現れて、オリヤンの腕をはねのけた。
「そうだぞ。マーリン様は僕らのお母様になる方なんだ。気安く近づくな」
バート様の長男ヴァルナル様は、とても嬉しい言葉をおっしゃる。
(本当にこの子達のお母様になれたらどんなにいいかしら)
「なんだと? こいつらはいったい何者だ? おい、マーリン。このガキどもは誰だ?」
「やれやれ、ご自分の甥っ子の顔も忘れましたか? お久しぶりですね、兄上」
バート様がクリストフェル様達の後から居間に入って来て、冷笑を浮かべてオリヤンを睨みつけた。
「バート! お前がなぜここに来るんだ? 待てよ、もしかして……バートは奥方を亡くして独り身だからな。マリーンは見かけによらずやり手だな? 弟を誘惑したのか? この生意気なガキが、お前がお母様になると寝ぼけたことを言っていたが。バート、わたしの子供を3人も産んだ使い古しでいいのか? この女は女の子しか産めない欠陥品だぞ」
「出ていけ! お前なんてお父様じゃない! お母さまを虐めるな!」
長女のテオドーラは、父親の言う意味がもうわかる歳になっていた。母親のわたくしが蔑まれたことで、悔し涙を流している。
「ホント、最低な伯父上だな。父上、これって本当に父上の兄上なのですか? 気持ち悪いしテオドーラを泣かした罪は重いです」
ヴァルナル様はテオドーラがお気に入りで、とても可愛がってくれる。今もテオドーラに駆け寄って頭を撫で、涙を拭いていた。
「ごめんよ。もっと早くここに着ければよかったのにね。僕たちが来たからもう大丈夫だよ」
そう言われたテオドーラは、ヴァルナル様に抱きついた。テオドーラもこの従兄が大好きなのだ。
「お引き取りください。わたくしは死んでもあなたのところに戻ることはありません」
わたくしはきっぱりと言い切った。
(こんな男の元に戻るわけにはいかない。子供達の為にもわたくしの為にも……
「馬鹿なのか? お前たちは所詮、男爵家と子爵家だろう? 束になったところで、このわたしは伯爵だ。雑魚のお前らの意思なんて関係ないね。さぁ、帰るぞ! テオドーラは後でお仕置きだ。父親に向かってなんたる口の利きようだ。教育しなおさなくてはならない」
「お待ちください。マーリン達は決して連れて行かせませんよ。わたしは確かに子爵ですが、兄上の横暴は許さない。全力でマーリンを守る」
「弟のくせに、生意気な奴め。お前はわたしのスペアにすぎない。お前の子供達も伯爵家を継ぎたかったら、もっと身の程をわきまえさせろよ。今日のところは帰るが、マーリンよ、お前は絶対に戻って来いよ」
車椅子を器用に操って帰っていくオリヤン。
「もう来るなよ! 今度来たらやっつけてやる」
クリストフェル様はプンプンだ。
「お祖父様に言ってやっつけてもらうから、マーリン様は心配しないでくださいね」
ヴァルナル様は子供にしては、悪い笑みで笑う。いや、気のせいよね?
「ふふふ。ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ。でも、バート様やお兄様に迷惑をかけてしまうわけにもいかないわ。修道院にでも入れば、戻らなくて済むかしら。子供達はサーラ様にお願いして……」
「修道院に入ったらわたしが困りますよ。このようなタイミングでムードがないが、わたしと結婚していただけませんか?」
バート様は慌ててわたくしの前にひざまずいたのだった。
あなたにおすすめの小説
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
学園は悪役令嬢に乗っ取られた!
こもろう
恋愛
王立魔法学園。その学園祭の初日の開会式で、事件は起こった。
第一王子アレクシスとその側近たち、そして彼らにエスコートされた男爵令嬢が壇上に立ち、高々とアレクシス王子と侯爵令嬢ユーフェミアの婚約を破棄すると告げたのだ。ユーフェミアを断罪しはじめる彼ら。しかしユーフェミアの方が上手だった?
悪役にされた令嬢が、王子たちにひたすらざまあ返しをするイベントが、今始まる。
登場人物に真っ当な人間はなし。ご都合主義展開。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。
涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。
その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。
親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。
家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。
その手紙はアリシアを激怒させる。
書きたいものを心のままに書いた話です。
毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。
本編終了しました。
本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。
本編を補足した感じになってます。@全4話
【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから
よどら文鳥
恋愛
私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。
五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。
私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。
だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。
「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」
この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。
あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。
婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。
両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。
だが、それでも私の心の中には……。
※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。
※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。