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このオリヤンが来た日に限ってお兄様夫妻は外出しており、屋敷にはわたくしと娘達しかいなかった。
「え? 戻って来てくれとは、このわたくしにおっしゃっているのでしょうか?」
とりあえず離れの居間に通して、侍女にお茶を淹れてもらう。
上の二人の子供達は、久しぶりに見る父親に怯えたまなざしを向けている。末娘は奥の部屋でお昼寝中だった。
「そうだよ。嬉しすぎて信じられないのか? 男爵家の女を、また伯爵夫人に戻してやると言ったんだ。断ることができると思うなよ。3人の子持ちの女など他に望む男がいるわけがないだろう? しかも役にもたたん女ばかりしか産めないくせに。わたしが引き取ってやると言っているんだ。ありがたく受けてアーネル伯爵邸に戻るんだ」
車椅子をわたくしのギリギリのところまで近づけて、無理やりにわたくしの腕を取ろうとする。
「マーリンに触るな。この悪者め! 出ていけ。ここはお前なんかの来るところじゃないぞ」
なんと、バート様の次男クリストフェル様がいきなり現れて、オリヤンの腕をはねのけた。
「そうだぞ。マーリン様は僕らのお母様になる方なんだ。気安く近づくな」
バート様の長男ヴァルナル様は、とても嬉しい言葉をおっしゃる。
(本当にこの子達のお母様になれたらどんなにいいかしら)
「なんだと? こいつらはいったい何者だ? おい、マーリン。このガキどもは誰だ?」
「やれやれ、ご自分の甥っ子の顔も忘れましたか? お久しぶりですね、兄上」
バート様がクリストフェル様達の後から居間に入って来て、冷笑を浮かべてオリヤンを睨みつけた。
「バート! お前がなぜここに来るんだ? 待てよ、もしかして……バートは奥方を亡くして独り身だからな。マリーンは見かけによらずやり手だな? 弟を誘惑したのか? この生意気なガキが、お前がお母様になると寝ぼけたことを言っていたが。バート、わたしの子供を3人も産んだ使い古しでいいのか? この女は女の子しか産めない欠陥品だぞ」
「出ていけ! お前なんてお父様じゃない! お母さまを虐めるな!」
長女のテオドーラは、父親の言う意味がもうわかる歳になっていた。母親のわたくしが蔑まれたことで、悔し涙を流している。
「ホント、最低な伯父上だな。父上、これって本当に父上の兄上なのですか? 気持ち悪いしテオドーラを泣かした罪は重いです」
ヴァルナル様はテオドーラがお気に入りで、とても可愛がってくれる。今もテオドーラに駆け寄って頭を撫で、涙を拭いていた。
「ごめんよ。もっと早くここに着ければよかったのにね。僕たちが来たからもう大丈夫だよ」
そう言われたテオドーラは、ヴァルナル様に抱きついた。テオドーラもこの従兄が大好きなのだ。
「お引き取りください。わたくしは死んでもあなたのところに戻ることはありません」
わたくしはきっぱりと言い切った。
(こんな男の元に戻るわけにはいかない。子供達の為にもわたくしの為にも……
「馬鹿なのか? お前たちは所詮、男爵家と子爵家だろう? 束になったところで、このわたしは伯爵だ。雑魚のお前らの意思なんて関係ないね。さぁ、帰るぞ! テオドーラは後でお仕置きだ。父親に向かってなんたる口の利きようだ。教育しなおさなくてはならない」
「お待ちください。マーリン達は決して連れて行かせませんよ。わたしは確かに子爵ですが、兄上の横暴は許さない。全力でマーリンを守る」
「弟のくせに、生意気な奴め。お前はわたしのスペアにすぎない。お前の子供達も伯爵家を継ぎたかったら、もっと身の程をわきまえさせろよ。今日のところは帰るが、マーリンよ、お前は絶対に戻って来いよ」
車椅子を器用に操って帰っていくオリヤン。
「もう来るなよ! 今度来たらやっつけてやる」
クリストフェル様はプンプンだ。
「お祖父様に言ってやっつけてもらうから、マーリン様は心配しないでくださいね」
ヴァルナル様は子供にしては、悪い笑みで笑う。いや、気のせいよね?
「ふふふ。ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ。でも、バート様やお兄様に迷惑をかけてしまうわけにもいかないわ。修道院にでも入れば、戻らなくて済むかしら。子供達はサーラ様にお願いして……」
「修道院に入ったらわたしが困りますよ。このようなタイミングでムードがないが、わたしと結婚していただけませんか?」
バート様は慌ててわたくしの前にひざまずいたのだった。
「え? 戻って来てくれとは、このわたくしにおっしゃっているのでしょうか?」
とりあえず離れの居間に通して、侍女にお茶を淹れてもらう。
上の二人の子供達は、久しぶりに見る父親に怯えたまなざしを向けている。末娘は奥の部屋でお昼寝中だった。
「そうだよ。嬉しすぎて信じられないのか? 男爵家の女を、また伯爵夫人に戻してやると言ったんだ。断ることができると思うなよ。3人の子持ちの女など他に望む男がいるわけがないだろう? しかも役にもたたん女ばかりしか産めないくせに。わたしが引き取ってやると言っているんだ。ありがたく受けてアーネル伯爵邸に戻るんだ」
車椅子をわたくしのギリギリのところまで近づけて、無理やりにわたくしの腕を取ろうとする。
「マーリンに触るな。この悪者め! 出ていけ。ここはお前なんかの来るところじゃないぞ」
なんと、バート様の次男クリストフェル様がいきなり現れて、オリヤンの腕をはねのけた。
「そうだぞ。マーリン様は僕らのお母様になる方なんだ。気安く近づくな」
バート様の長男ヴァルナル様は、とても嬉しい言葉をおっしゃる。
(本当にこの子達のお母様になれたらどんなにいいかしら)
「なんだと? こいつらはいったい何者だ? おい、マーリン。このガキどもは誰だ?」
「やれやれ、ご自分の甥っ子の顔も忘れましたか? お久しぶりですね、兄上」
バート様がクリストフェル様達の後から居間に入って来て、冷笑を浮かべてオリヤンを睨みつけた。
「バート! お前がなぜここに来るんだ? 待てよ、もしかして……バートは奥方を亡くして独り身だからな。マリーンは見かけによらずやり手だな? 弟を誘惑したのか? この生意気なガキが、お前がお母様になると寝ぼけたことを言っていたが。バート、わたしの子供を3人も産んだ使い古しでいいのか? この女は女の子しか産めない欠陥品だぞ」
「出ていけ! お前なんてお父様じゃない! お母さまを虐めるな!」
長女のテオドーラは、父親の言う意味がもうわかる歳になっていた。母親のわたくしが蔑まれたことで、悔し涙を流している。
「ホント、最低な伯父上だな。父上、これって本当に父上の兄上なのですか? 気持ち悪いしテオドーラを泣かした罪は重いです」
ヴァルナル様はテオドーラがお気に入りで、とても可愛がってくれる。今もテオドーラに駆け寄って頭を撫で、涙を拭いていた。
「ごめんよ。もっと早くここに着ければよかったのにね。僕たちが来たからもう大丈夫だよ」
そう言われたテオドーラは、ヴァルナル様に抱きついた。テオドーラもこの従兄が大好きなのだ。
「お引き取りください。わたくしは死んでもあなたのところに戻ることはありません」
わたくしはきっぱりと言い切った。
(こんな男の元に戻るわけにはいかない。子供達の為にもわたくしの為にも……
「馬鹿なのか? お前たちは所詮、男爵家と子爵家だろう? 束になったところで、このわたしは伯爵だ。雑魚のお前らの意思なんて関係ないね。さぁ、帰るぞ! テオドーラは後でお仕置きだ。父親に向かってなんたる口の利きようだ。教育しなおさなくてはならない」
「お待ちください。マーリン達は決して連れて行かせませんよ。わたしは確かに子爵ですが、兄上の横暴は許さない。全力でマーリンを守る」
「弟のくせに、生意気な奴め。お前はわたしのスペアにすぎない。お前の子供達も伯爵家を継ぎたかったら、もっと身の程をわきまえさせろよ。今日のところは帰るが、マーリンよ、お前は絶対に戻って来いよ」
車椅子を器用に操って帰っていくオリヤン。
「もう来るなよ! 今度来たらやっつけてやる」
クリストフェル様はプンプンだ。
「お祖父様に言ってやっつけてもらうから、マーリン様は心配しないでくださいね」
ヴァルナル様は子供にしては、悪い笑みで笑う。いや、気のせいよね?
「ふふふ。ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ。でも、バート様やお兄様に迷惑をかけてしまうわけにもいかないわ。修道院にでも入れば、戻らなくて済むかしら。子供達はサーラ様にお願いして……」
「修道院に入ったらわたしが困りますよ。このようなタイミングでムードがないが、わたしと結婚していただけませんか?」
バート様は慌ててわたくしの前にひざまずいたのだった。
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