(完結)男子を産めないわたくしは夫から追い出されました

青空一夏

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番外編

1 こんなに怖い男っているの? これが本当の貴族なのね?

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※読者様からのリクエストで愛人へのざまぁです。こちらは少しコミカルなざまぁになります。






(アデラーイデ視点) 


 私は好きでもない男と結婚していた。それは娘リリアンの為だ。没落貴族だった私が、専属執事だったハミルトンの子供を妊娠し、途方に暮れている頃に知り合ったオリヤン・アーネル伯爵がその相手だ。

 あいつはバカみたいだった。なんでも私の言うことを信じて、私に本気で愛されていると思い込んでいた。あんな気持ち悪い男なんて全く好みじゃないし、そもそも年齢も10歳以上離れていた。アーネル伯爵夫人になったはいいけれど、あいつとの夫婦生活が嫌すぎてなんとかならないかと思い悩んだ。それはハミルトンも同じ思いだった。

「毎晩、愛おしい君を寝取られていると思うと心が張り裂けそうだよ」
 そう言って私を抱きしめる。

「だったら、オリヤンの馬車に細工をして怪我をさせましょう」

「あぁ、いい考えだね。自然な事故に見せかける方法を研究しよう」

 ハミルトンと私は思考錯誤してそれを実行した。


 オリヤンは予定通りに馬車の衝突事故を起こす。だけど、歩けなくなるほどの事故になるとは思わなかった。夫婦生活が困難になるくらいの怪我を願っていたのに、これだと私が介護生活まっしぐらだ。

 せっかくの伯爵夫人の優雅な生活は惜しかったけれど、下半身不随の愛してもいない夫なんて一緒にはいられない。だから私はハミルトンと逃げた。もちろん、ありったけのお金も持ち出す。

(私のような若い女と夢が見られたのだから、これぐらいの報酬はもらっていいわよね?)

 





 あの持ち逃げしたお金で、私とハミルトンは商会を立ち上げた。それは外国の珍しい果実を輸入する商会で、腐りやすい果実は甘いシロップ漬けにし瓶に詰めて売り出す。かなりの収益をあげられるようになった頃に、思いがけぬ訪問客がやって来た。

 とても身なりの良い上品な青年で、身のこなしが優雅で見目麗しい。商会の応接室に通し、私達は向かい合わせになり話を始める。隣にはハミルトンも同席した。

「初めまして、さん。あなたの商会は素晴らしいですね。ぜひ、わたしにも一枚噛ませてください」

「はい? どういう意味でしょうか? 支援してくださるのですか? とてもありがたいお話です」

「支援? もうあなたにはすでにですよ」

「はい? 融資など受けた覚えはありませんが」

「ふふふ。さん、名前を変えて顔を隠すようにして生きていても、あなたの身元はわかっています。あなたは、アーネル伯爵家から金を持ち逃げしたでしょう?」

「……なんで今更……あれから何年も経っているのに。私達をアーネル伯爵に突き出すつもりですか? きっと重い罰を受けることになります」

「罰はないです。あなた方は持ち逃げしたのではない。アーネル伯爵家がのです。ですからここにサインをしてください」

 私の前に置かれた1枚の書類は金銭消費貸借契約書。持ち逃げした額とほぼ同額の借り入れ金額に、利息が10? あれから何年経っていると思っているのよ? 返済額は天文学的数字になる!

「こ、こんな書類にはサインはできません。だって、こんな法外な利息……」

「だったら泥棒として裁くしかないです。アーネル伯爵夫人だったとはいえ、嫁ぎ先のアーネル伯爵家の金を根こそぎ持ち逃げしたのですよ? 一生地下牢で暮らしますか? 持ち逃げされた伯父上のバカさ加減にも呆れますがね」

「え? 伯父上って、あなたは?」

「申し遅れましたが、わたしはクリストフェル・アーネル伯爵です。伯父上から父上に爵位が移り、つい先日わたしが継ぎました。なので、アデラーイデさんは現アーネル伯爵のわたしに返済義務があります」

「……卑怯です。こんなに何年も経ってから、商会が成功して利益をだすようになった頃に、いきなり現れるなんて」

「わたしは清廉潔白な人物を目指しているわけではない。なので、なんとでも言ってください。しかし、人から盗んだお金で利益を生み出した人間に、なんのお咎めもないなんておかしいと思いませんか? しかも、お前はわたしの愛する妻アンネリの実家の財産を持ち逃げした罪人なんだよ。わたしはね、愛する女性を害する人間は許せないのです。どうやらこれは血筋みたいでしてね」

「こんな大金は返せないです。無理だわ。どうしたらいいの」

「簡単なことですよ。アーネル伯爵家の為に働くだけです。あなた方の商会はアーネル伯爵家の傘下に入ります。いわば、雇われ経営者というかんじでしょうか。しっかり利益を出し続けてくださいよ。生活するのに必要な給金は出して差し上げます。わたしの恩情に感謝してくださいね? 生かしてあげるのですから。では、ごきげんよう」

 私たちはこの書類にサインをしないわけにはいかなかった。なぜなら、この青年が「馬車の事故って人為的に起こせるって知っていますか?」などと意味深なことまで私達に問いかけてきたからだ。

(あの馬車を細工したことがなんでバレたの?)

 




 後日この青年を調べると、実兄は今や飛ぶ鳥を落とす勢いのスピノージ侯爵で若いのに宰相補佐だった。あの青年自体も冷静で頭が切れる。とてもわたし達が戦える相手ではない。

 わたし達は急遽狭い家に引っ越し、つつましい暮らしをするようになった。いつオリヤン殺人未遂の罪に問われるのだろう、とびくびくしながらの生活は精神的にきつい。

 あれから定期的にクリストフェル様は商会に視察に来るし、狭い家にも立ち寄るようになった。

「なぜ、これほど狭い家に引っ越したんだい? もう少し広い家でも良かったのに……やぁ、リリアンは会うたびに可愛く成長するね。しかし、伯父上にはね。この調子で伯父上に似ないといいな。特に中身が」
 などと大笑いしてジョークのように言うが……これは明らかに私を脅しているのよね?

(なぜリリアンがハミルトンとの子供だということまでバレたの? 夫がいながら他の男の子供を産むのは重い罪だ。姦通罪が証明されたら、この世界では鼻と両耳を削ぐという法律まであるのに……)

 私はクリストフェル様が怖くてたまらない。この青年は爽やかに笑いながら人を脅せるのだ。そうか、貴族の中で生き残っていく人達は、これほど狡猾でないとダメなんだ。

(働かなきゃ。この方の怒りに触れないように。せっせと毎日、必死で働きつづけなくっちゃ)








 
 リリアンが学園に通う年齢を迎えた頃、クリストフェル様がやって来て、
「君達は働きすぎだと聞いたよ。わたしはそこまで奴隷のように働け、なんて思っていないのだけれど。普通に頑張ってくれればいいのだよ。ところでリリアンは優秀な子みたいだね。伯父上の子供なら、アーネル伯爵家の血が入っている。私が後見人になって貴族学園に通わせたらどうかな?」
 と、朗らかな笑顔を浮かべておっしゃった。

(まさか、リリアンを人質にするつもりなの? 嫌よ、どうして。もぉ、死にたい……)

 とても爽やかな笑顔を浮かべるこの悪魔から、誰か解放して……





+。:.゚ஐ⋆*♡・:*ೄ‧͙·*♪+。:.゚ஐ⋆*♡・:*ೄ‧͙·*♪

次回、クリストフェル視点です。
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