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番外編
2 わたしは普通(お人好し)だと思う(クリストフェル視点)
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(クリストフェル視点)
わたしと兄上は幼い頃から、母上に連れられてスピノージ侯爵家で遊んでいた。スピノージ侯爵家にはたくさんの来客があり、お祖父様は常にわたし達を側に置いて話をする。居間・応接室・お祖父様の執務室にはおもちゃや子供用の絵本が用意され、わたしと兄上はそれらで静かに遊びながらも、おじい様の会話を自然に聞きながら育つ。
『機が熟する』は、かなり頻繁にお祖父様が使う言葉だった。『10日で5割』はお祖父様の執務室でたまに聞く、とても良くない言葉だ。なぜなら、それを言われた来客は青ざめて今にも死にそうなため息をつくから。
兄上はお祖父様に絶えず質問をして、実際ざまざまなことを特別学んでいたようだ。兄上はスピノージ侯爵家を継ぐと決まっていたから、わたしは子供心に次男で良かったと思う。
「伯父上の後妻の行方はわかったかい?」
わたしはアーネル伯爵家の居間で、家令スチュアートに尋ねた。正式に次期アーネル伯爵がわたしと決まった頃から、アデラーイデの行方を探させていたのだ。
「はい、細々と商会を営んでいます。早速、取り押さえてきましょうか? 強制労働所で働かせ、盗まれた金を少しでも回収しましょう」
「いや、しばらく様子をみよう。機が熟するのを待て」
わたしはスチュアートを止めた。
「クスクス。やはりお血筋ですね。そっくりだ」
「誰に?」
「スピノージ侯爵にそっくりです」
「まさか……兄上のほうがよほど似ている。わたしは、お人好しすぎると思う」
「え? ……お人好し……ですか? ……うーーん」
なぜか頭をひねって、悩みだしたスチュアートは放っておく。
やがて従姉妹のアンネリと愛を育んで結婚した。爵位も父から受け継ぎ、アデラーイデの様子を再度報告させる。それまでにも、もちろん定期的に報告は受けていたけどね。
「なかなか儲かっていますね。泥棒にしては上出来です。珍しい果実を輸入し、シロップ漬けにするなんて。この国では新鮮な生の果物しか食べませんが、珍しいのでかなり売れていますよ」
「ふーーん。それを利用してスイーツを作らせるのもいいなぁ。焼き菓子の生地に練りこんだり、生クリームに細かく刻んでいれてもいいと思う。高級デザートとして売り出そう。やっと、機は熟したのさ! 早速、回収しに行こうか。金銭消費貸借契約書と労働契約書を準備してくれ」
「え? どうなさるおつもりですか?」
「もちろん、アデラーイデ達と労働契約を結ぶのさ。その商会はアーネル伯爵家のものだ。元手はこちらから盗んだお金だろう? そろそろ利息をつけて返してもらう時期だ」
「……やっぱり、そっくり……」
スチュアートが最近呟く声が気になる。わたしはオリジナルさ。別に真似をしているつもりはないんだ。
アデラーイデの商会に向かう間、馬車で新聞を読んでいた。死亡事故欄を読んでため息をつく。馬車の事故記事がやたら目立つのだ。多すぎだろう?
「なぁ、スチュアート。これほど馬車事故が多いなんておかしいよな? 人為的に事故を仕組むことも、きっとできるはず……この半分はそれなのじゃないかな? 自然な事故を装うって邪魔者を消すのにぴったりだよ。馬車に乗る前には安全点検しないといけないと思う」
「はっ。おっしゃる通りです。ということは……なるほど、なるほど。さすがは推理がさえている。その事故で誰が得をするのかを考えてみれば一目瞭然ですね?」
キラキラした眼差しで、目に涙すら浮かべるスチュアート。
(なんでこいつは、これほど感動しているんだ?)
わたしと兄上は幼い頃から、母上に連れられてスピノージ侯爵家で遊んでいた。スピノージ侯爵家にはたくさんの来客があり、お祖父様は常にわたし達を側に置いて話をする。居間・応接室・お祖父様の執務室にはおもちゃや子供用の絵本が用意され、わたしと兄上はそれらで静かに遊びながらも、おじい様の会話を自然に聞きながら育つ。
『機が熟する』は、かなり頻繁にお祖父様が使う言葉だった。『10日で5割』はお祖父様の執務室でたまに聞く、とても良くない言葉だ。なぜなら、それを言われた来客は青ざめて今にも死にそうなため息をつくから。
兄上はお祖父様に絶えず質問をして、実際ざまざまなことを特別学んでいたようだ。兄上はスピノージ侯爵家を継ぐと決まっていたから、わたしは子供心に次男で良かったと思う。
「伯父上の後妻の行方はわかったかい?」
わたしはアーネル伯爵家の居間で、家令スチュアートに尋ねた。正式に次期アーネル伯爵がわたしと決まった頃から、アデラーイデの行方を探させていたのだ。
「はい、細々と商会を営んでいます。早速、取り押さえてきましょうか? 強制労働所で働かせ、盗まれた金を少しでも回収しましょう」
「いや、しばらく様子をみよう。機が熟するのを待て」
わたしはスチュアートを止めた。
「クスクス。やはりお血筋ですね。そっくりだ」
「誰に?」
「スピノージ侯爵にそっくりです」
「まさか……兄上のほうがよほど似ている。わたしは、お人好しすぎると思う」
「え? ……お人好し……ですか? ……うーーん」
なぜか頭をひねって、悩みだしたスチュアートは放っておく。
やがて従姉妹のアンネリと愛を育んで結婚した。爵位も父から受け継ぎ、アデラーイデの様子を再度報告させる。それまでにも、もちろん定期的に報告は受けていたけどね。
「なかなか儲かっていますね。泥棒にしては上出来です。珍しい果実を輸入し、シロップ漬けにするなんて。この国では新鮮な生の果物しか食べませんが、珍しいのでかなり売れていますよ」
「ふーーん。それを利用してスイーツを作らせるのもいいなぁ。焼き菓子の生地に練りこんだり、生クリームに細かく刻んでいれてもいいと思う。高級デザートとして売り出そう。やっと、機は熟したのさ! 早速、回収しに行こうか。金銭消費貸借契約書と労働契約書を準備してくれ」
「え? どうなさるおつもりですか?」
「もちろん、アデラーイデ達と労働契約を結ぶのさ。その商会はアーネル伯爵家のものだ。元手はこちらから盗んだお金だろう? そろそろ利息をつけて返してもらう時期だ」
「……やっぱり、そっくり……」
スチュアートが最近呟く声が気になる。わたしはオリジナルさ。別に真似をしているつもりはないんだ。
アデラーイデの商会に向かう間、馬車で新聞を読んでいた。死亡事故欄を読んでため息をつく。馬車の事故記事がやたら目立つのだ。多すぎだろう?
「なぁ、スチュアート。これほど馬車事故が多いなんておかしいよな? 人為的に事故を仕組むことも、きっとできるはず……この半分はそれなのじゃないかな? 自然な事故を装うって邪魔者を消すのにぴったりだよ。馬車に乗る前には安全点検しないといけないと思う」
「はっ。おっしゃる通りです。ということは……なるほど、なるほど。さすがは推理がさえている。その事故で誰が得をするのかを考えてみれば一目瞭然ですね?」
キラキラした眼差しで、目に涙すら浮かべるスチュアート。
(なんでこいつは、これほど感動しているんだ?)
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