(完)子供も産めない役立たずと言われて・・・・・・

青空一夏

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※リリィの過去とあたらしい人生 (不快なシーンあり)R18かな?

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 あたしは、貧困層の平民だった。母さんは娼婦で父さんはそのひものようなものだった。いつも、父さんは働きに行かない。家にいて、なにか腹立たしいことがあると殴られた。母さんも殴られて、二人して夜中に何度も裸足で外に逃げた。

 そのうち、年頃になると父さんは、あたしの身体を触りだした。酔っ払いの吐く臭い息が、あたしにかかり上に乗られた時は殺されるのかと思った。あの行為は、父さんから教わった。学校にも行けず、よくわからないままこんな親と暮らし、この行為がどんな意味をもつのかなど、誰も教えてはくれなかった。

「これは、男と女であれば、誰でもする挨拶みたいなもんさ。だから、お前は父さんと毎日、挨拶するんだ。言うことをきかないと殴るぞ」

 父さんは、酔っ払った濁った目で私にいつもそう言った。父さんは酒の飲み過ぎで身体を壊して死んじまった。母さんは、男を作って出て行った。

 私は、男に身体を売って生活した。他にできることなんてなかったから。それでも、常連客の酒場のオヤジと仲良くなり、そこで働かせてもらうと、少しだけ生活が楽になった。そこに来る客とまたいい仲になり、今度はもっとましな酒をついで接待する職場を紹介してもらった。

 アイザックはその場所にたまたま来た客だった。準男爵様と聞いた時には、私は有頂天になった。それほど好きでもなかったけど。

 すぐにいい仲になって、部屋を借りてくれた。夢みたいだった。もう、自分で家賃を払わなくていいんだ!
付き合っているうちに『伯爵令嬢と結婚する』と言われた。もちろん、祝福したよ。こんなあたしが、妻になんてなれっこないってわかっていたから。アイザックは結婚しても私を捨てなかった。

「妻のグレイスに子供ができない」

 そればかりを言うアイザックに、私はいいことを思いついた。

 子供ができれば、愛人ぐらいにはなれそうだと思ったんだ。だけど、考えてみればあたしとアイザックは避妊なんかしていなかったのに今まで一度だって子供はできなかった。

 ということは、アイザックでは妊娠できないということになる。私は、アイザックと会わない日は他の男と会った。条件は、アイザックと同じ髪と瞳の男だ。ついでだから、金も貰った。同じやるなら金を貰ったほうがいい。父さんは、いつも言っていた。

「この行為は俺以外とは金を取るんだぜ? 男は金を払っても女が抱きたいんだ。その貰った金は俺のところに持ってこい」

 あたしは、こんな最低な親に育てられたんだ。

 首尾良く妊娠したことを報告すると、アイザックは屋敷に迎えると言ってくれた。天国にも登る気持ちさ!
お貴族様の愛人になれるなんて、これで、もう、私は幸せになれるんだと思った。

 屋敷に行くと、素晴らしく綺麗な女性がいた。

 私が来るとグレイスさんは、雑用女にされ、アイザック一家から酷い扱いを受けるようになった。
私は、この手に入れた場所を絶対に奪われたくなかった。だから、同じようにグレイスさんに冷たくあたり、言われた通りにグレイスさんのふりをしたんだ。

 楽しかった。グレイスさんになってしばらくするとマイケル様が現れて、妹のふりをしてかわいがってもらった。
今、考えると、私が偽物だと始めから知っていたんだろう・・・・・・

 マイケル様の言うホクロは当然、私にはない・・・・・・あのばばぁとアイザックは、あたしだけの罪にしようとした。目の前にグレイスさんがいるのに、ばかなババァだなって思った・・・・・・でも腹が立って言いたい放題言ったらすっきりしたよ。

 わかったことがひとつある。やっぱり、底辺のあたしなんかは、どうあがいても幸せにはなれないんだね? 
貴族達が、『自らが言った通りにしろ』と大合唱してたから、あたしは断頭台に送られると思っていた。

 

 ところが、あたしは、グレイスさんのように、雑用女にされた。私だけ地下の日も当たらない部屋で、布団は薄くてしみだらけだ。暖房もないから恐ろしく寒い。夜中にはネズミやゴキブリがでた。

 でも、もとから貧困街のゴミ溜めで育ったあたしだ。昔に戻ったと思えば我慢できた。食事も一人で、パンと水だけの日もあった。グレイスさんも、そんなことをされた日があったな、と思えば文句も出ない。

 雑用女の仕事なんて苦にはならなかった。髪を灰色にされても泣かなかった。だって、グレイスさんがそうされたのを私は笑いながら見ていたから。

 始めは他の雑用女や馬丁からバカにされて悪口もたくさん言われた。それでも、言われたことを真面目にやっていると、少しづつ、打ち解けていった。

 腕にあった傷を聞かれたときに、うっかり父さんのことを話しちまった時は、雑用女の一人が抱きしめてくれた。

「どんなに、あんたは辛かったろうね」

 そう言いながら泣いてくれた。あぁ、こんなことを話したのはこれが初めてかもしれないな、と思った。

 自分の為に泣いてくれる人がいるって、すごく嬉しいことなんだと知った。醜悪な過去から解放された時だった。

 それからは、食事の時は他の雑用女達と皆で食べるようになった。特にコックのラリーさんは、わざと料理を失敗して、それを分けてくれることが度々あった。あたし達はそれを皆で分け合って食べた。質素な食事も、気の置けない仲間と食べるとこんなに美味しいんだと初めて知った。


 雑用女を半年やったあたしは、居間に呼ばれた。

「さて、質問だ。お前がここに来たのは誰のせいだと思うかね」

「それは、あたしのせいです。あたしが、グレイスさんのふりをしたからだ。あたしは居場所が欲しかった。居場所ができて嬉しくてそれにしがみついたんだ」

「ふん。じゃぁ、これからはどうしたい? またグレイス様のような貴族の生活に戻りたいか? お前はどうしたいんだい?」

「あ、あたしは、このままここにいたい。ここで、雇ってもらえませんか? 一緒に働いている人達はみんないい人なんだよ・・・・・・あたしに居場所ができた・・・・・・もう人のふりをしなくても、温かい言葉をかけてくれる人がここにはいるんだ」

 あたしは、ここを離れたくなかった。

「子供は気にはならないのか?」

 この屋敷の主人の問いかけに私はこう答えた。

「こんなあたしに育てられるより、ちゃんとした両親のもとで、学校にも行かせてほしいです。あたしの両親のような人にだけは育てられないことを望んでいます」

「ふん! お前の子供は全く心配ないさ。グレイス・アティカス侯爵夫人が、引き取った。ちゃんと教育を受けさせて侯爵家の騎士にするそうだ」

「え! あぁ、ありがとう・・・・・・ありがとうございます・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 あたしは、何度も床に頭をこすりつけた。有り難くて涙がこぼれた。

「うぅむ。合格だ! お前は今日から平民だ。雑用女としても、頑張ってきたようだ。これからも、ここで働いていい。部屋は地下から1階の部屋に移そう。給金は週払いだ。休みは月に3回」

 私は、言われた通りに1階の部屋に移った。清潔な部屋は暖かく、布団も新品のものだった。窓からは、陽射しが差し込み、すぐ近くの木にとまった鳥が綺麗な声でさえずっていた。

「リリィ!こっちで芋を食べないかい? コックのラリーが、失敗したっていうけどさ、捨てるっていうからもらってきたさ。なかなか、どうして旨いよぉーー」

 仲間の雑用女の呼びかけに、私は笑いながら走っていった。決して、優雅じゃないし、素敵でもないけれどここはあたしが背伸びしなくていいところだ! もう、偽物になんか二度と、なるもんかっ!



   
*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*



後書き
 このように、実の父親に乱暴されたという事件が昔も今も実際あって、本当に許せない事件だと思いました。
ここで、リリィに投影させて、リリィなりに新しい人生が始まるというように書いてみました。


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