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28 ソフィア視点
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※ソフィア視点
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「皆さん、初めまして! 私はレオナード様の妻、ソフィアですわ。この5枚のドレスのデザイン画は、私が描いたものです。どうやら、私には隠れた才能があったようなのです。皆さん、このドレスを形にしてくださるかしら? さあ、今から始めてちょうだい」
私は女王様のように腕を組み、ブロック服飾工房の従業員たちを見下ろす。女性が多い中、男性もまばらに混じっているが、みんな私を眩しそうに見つめていた。
(当然だわね。だって私は、とても魅力的なのだから)
そう思いながら、私はピンクブロンドの髪を手でゆっくりと掻き上げた。最近の流行は、髪を結わず下ろしたままにし、長く伸ばした前髪をゆるくカールさせてサイドに流すスタイル。私はその流れを完璧に取り入れて、自信たっぷりに微笑んだ。
「もちろん、僕の案も入っていて、妻との共同制作だ。どれも素晴らしい出来だと思うので、早速このデザイン画に沿って、トルソーに適切な布を当て、大まかにドレスを形作ってくれたまえ」
レオナード様も得意げに胸をそらし、微笑んでいる。
(私がデザインしたことにするつもりだったのに、やっぱりレオナード様も、自分も才能があるように見せたくなったみたいね。まあいいわ、今回は許してあげましょう)
スカート部分はふんわりとたっぷり広がり、歩くたびに光を受けて表情を変える。襟や袖のラインも微妙に変化していて、見る角度によってまるで印象が違って見える。ちょっと奇抜で、でもどこか洗練されていて、遠目からでも華やかさが伝わる――まさにトップデザイナー、マリア――お姉ちゃんが生み出した特別なドレスたちだった。
「すみません、ソフィア様。襟元のフリルが立体的で、硬めの素材を使わないとこのようにはなりません。でも着心地が心配で……これはどんな生地を想定してデザインされたものですか?」
「袖の形も、異素材を重ねて作るみたいですが、ちょっと難しいです……」
従業員たちの顔がこわばる。
(専門的なことを私に聞かないでよ! そんなのわかるわけないじゃない)
「私はデザイナーなのよ! ドレスのイメージを考えるだけでいいの。実際に形にするのはあなたたちの仕事でしょう? できないのは腕が未熟だからよ! こんなこともできないようなら、クビにするから覚悟してよね!」
「ソフィアの言う通りだ。ここで雇われて給料をもらっている以上、言われたことはちゃんとやらないと困る。何とか試行錯誤して、このイメージ通りに仕上げられるように努力しろ!」
レオナード様も顔をしかめながら、従業員たちにお説教した。
もっと簡単にできると思ったのに、この人たちの腕が足りないせいで、とても時間がかかってしまった。それに、お姉ちゃんのデザイン画とは微妙に違う。でも、今までになく斬新なドレスには仕上がったので、私たちはオッキーニ男爵夫妻にお目通りを願うことにした。
「サンテリオ服飾工房に負けないくらいのドレスができました」と報告すれば、快く会ってくださるという返事が届いた。喜び勇んで、私たち夫婦はオッキーニ男爵夫妻に会いに向かった。
◆◇◆
高い門をくぐり、緩やかな石畳のアプローチを進むと現れるオッキーニ男爵邸は、白い石造りの外壁に大きな窓が並び、庭には手入れの行き届いた芝生と花壇が広がっていた。案内された応接室からは庭園の緑が見え 、天井には魔導シャンデリアがきらめく。壁には高価な絵画が並び、アンティーク調の家具が整然と配置されていた。
(すごく豪華だわ。 私もこんなところに住めたらいいのに……)
すぐにオッキーニ男爵夫妻が現れ、私は丁寧にカーテシーをした。こんなことができるのも、ルクレール女学園に行ったからで、自分で自分を褒めてあげたい。
「こちらが僕と妻が考えたデザインのドレスです。この5着のドレスは渾身のデザインで、他にはない類い稀なものとなっています」
またしても、レオナード様は私たち夫婦の作品だと自慢した。お姉ちゃんからこのデザイン画を手に入れたのは私で、自分は留置場に放り込まれていただけのくせに、少しずるい気もする。でも、彼の工房がなければ仕立てることはできなかったのだから、仕方がないか。
仕上がったドレスを広げて見せると、すぐに感動の声が上がった。
「まあ、素晴らしい! 本当に斬新なデザインですこと」
「ふむ。ようやく我が領にも、サンテリオ侯爵領と張り合えるようなデザイナーが現れたか。正直、隣の領地に比べて何もかも劣っていると言われ、他の貴族たちからも馬鹿にされていたのだ。だから、おまえたちを大いに評価し、褒めてやろう! さあ、すぐにでもこの領地の金持ちたちを集めて、ファッションショーを開こうではないか。地元の新聞社や雑誌の記者もたくさん呼ぶのだ」
すっかりオッキーニ男爵様はその気になり、私たちはその日が待ち遠しくて、胸が弾んだ。
輝かしい栄光はすぐそこにあり、あとは少し手を伸ばすだけでつかめる――そんな高揚感に酔いしれる。
一時期は険悪だったレオナード様との仲も、同じ秘密――ドレスのデザインをしたのはお姉ちゃん――を共有する仲間意識が芽生え、小さな言い争いで喧嘩をすることもなくなった。
(あぁ、ファッションショーが楽しみ!)
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「皆さん、初めまして! 私はレオナード様の妻、ソフィアですわ。この5枚のドレスのデザイン画は、私が描いたものです。どうやら、私には隠れた才能があったようなのです。皆さん、このドレスを形にしてくださるかしら? さあ、今から始めてちょうだい」
私は女王様のように腕を組み、ブロック服飾工房の従業員たちを見下ろす。女性が多い中、男性もまばらに混じっているが、みんな私を眩しそうに見つめていた。
(当然だわね。だって私は、とても魅力的なのだから)
そう思いながら、私はピンクブロンドの髪を手でゆっくりと掻き上げた。最近の流行は、髪を結わず下ろしたままにし、長く伸ばした前髪をゆるくカールさせてサイドに流すスタイル。私はその流れを完璧に取り入れて、自信たっぷりに微笑んだ。
「もちろん、僕の案も入っていて、妻との共同制作だ。どれも素晴らしい出来だと思うので、早速このデザイン画に沿って、トルソーに適切な布を当て、大まかにドレスを形作ってくれたまえ」
レオナード様も得意げに胸をそらし、微笑んでいる。
(私がデザインしたことにするつもりだったのに、やっぱりレオナード様も、自分も才能があるように見せたくなったみたいね。まあいいわ、今回は許してあげましょう)
スカート部分はふんわりとたっぷり広がり、歩くたびに光を受けて表情を変える。襟や袖のラインも微妙に変化していて、見る角度によってまるで印象が違って見える。ちょっと奇抜で、でもどこか洗練されていて、遠目からでも華やかさが伝わる――まさにトップデザイナー、マリア――お姉ちゃんが生み出した特別なドレスたちだった。
「すみません、ソフィア様。襟元のフリルが立体的で、硬めの素材を使わないとこのようにはなりません。でも着心地が心配で……これはどんな生地を想定してデザインされたものですか?」
「袖の形も、異素材を重ねて作るみたいですが、ちょっと難しいです……」
従業員たちの顔がこわばる。
(専門的なことを私に聞かないでよ! そんなのわかるわけないじゃない)
「私はデザイナーなのよ! ドレスのイメージを考えるだけでいいの。実際に形にするのはあなたたちの仕事でしょう? できないのは腕が未熟だからよ! こんなこともできないようなら、クビにするから覚悟してよね!」
「ソフィアの言う通りだ。ここで雇われて給料をもらっている以上、言われたことはちゃんとやらないと困る。何とか試行錯誤して、このイメージ通りに仕上げられるように努力しろ!」
レオナード様も顔をしかめながら、従業員たちにお説教した。
もっと簡単にできると思ったのに、この人たちの腕が足りないせいで、とても時間がかかってしまった。それに、お姉ちゃんのデザイン画とは微妙に違う。でも、今までになく斬新なドレスには仕上がったので、私たちはオッキーニ男爵夫妻にお目通りを願うことにした。
「サンテリオ服飾工房に負けないくらいのドレスができました」と報告すれば、快く会ってくださるという返事が届いた。喜び勇んで、私たち夫婦はオッキーニ男爵夫妻に会いに向かった。
◆◇◆
高い門をくぐり、緩やかな石畳のアプローチを進むと現れるオッキーニ男爵邸は、白い石造りの外壁に大きな窓が並び、庭には手入れの行き届いた芝生と花壇が広がっていた。案内された応接室からは庭園の緑が見え 、天井には魔導シャンデリアがきらめく。壁には高価な絵画が並び、アンティーク調の家具が整然と配置されていた。
(すごく豪華だわ。 私もこんなところに住めたらいいのに……)
すぐにオッキーニ男爵夫妻が現れ、私は丁寧にカーテシーをした。こんなことができるのも、ルクレール女学園に行ったからで、自分で自分を褒めてあげたい。
「こちらが僕と妻が考えたデザインのドレスです。この5着のドレスは渾身のデザインで、他にはない類い稀なものとなっています」
またしても、レオナード様は私たち夫婦の作品だと自慢した。お姉ちゃんからこのデザイン画を手に入れたのは私で、自分は留置場に放り込まれていただけのくせに、少しずるい気もする。でも、彼の工房がなければ仕立てることはできなかったのだから、仕方がないか。
仕上がったドレスを広げて見せると、すぐに感動の声が上がった。
「まあ、素晴らしい! 本当に斬新なデザインですこと」
「ふむ。ようやく我が領にも、サンテリオ侯爵領と張り合えるようなデザイナーが現れたか。正直、隣の領地に比べて何もかも劣っていると言われ、他の貴族たちからも馬鹿にされていたのだ。だから、おまえたちを大いに評価し、褒めてやろう! さあ、すぐにでもこの領地の金持ちたちを集めて、ファッションショーを開こうではないか。地元の新聞社や雑誌の記者もたくさん呼ぶのだ」
すっかりオッキーニ男爵様はその気になり、私たちはその日が待ち遠しくて、胸が弾んだ。
輝かしい栄光はすぐそこにあり、あとは少し手を伸ばすだけでつかめる――そんな高揚感に酔いしれる。
一時期は険悪だったレオナード様との仲も、同じ秘密――ドレスのデザインをしたのはお姉ちゃん――を共有する仲間意識が芽生え、小さな言い争いで喧嘩をすることもなくなった。
(あぁ、ファッションショーが楽しみ!)
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