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4 出会い
「魔力ゼロだと? あり得ん! すべてにおいて無能とは……おまえはカーク侯爵家の恥さらしだ! 学園に通わせる金など、本来なら無駄というものだ。スカーレット。おまえには何一つ期待しない。せめて余計な問題だけは起こすな。もし醜態をさらして家名を傷つけるようなことがあれば、その時点で即刻退学させる。わかったな?」
「本当にそうですわね。学園では悪目立ちせず、おとなしくしていれば良いのですわ。スカーレットはキャサリン様に似てきて、容姿ばかりが目立ってきたのも、困りものですわね」
アメリが顔をしかめた。
「確かに……顔立ちはキャサリンにそっくりだ。だが、あれほど聡明で気高かったキャサリンとは比べものにならん」
離れへ戻ろうとしたとき、アメリに呼び止められ、耳元で冷たくささやかれた。
「いいですか、スカーレット。あなたは優れた成績をとってはいけませんよ。あの家庭教師が虚偽を働いたことになり、酷い罰を受けることになるでしょうからね。なにもできないふりをしなさい」
だから私は、学園の試験ではわざと答えを間違えるしかなかった。家庭教師が雇い主に虚偽の報告をしたとあっては、重い処罰が下されるに違いない。けれど、それがアメリの脅しによるものだと証明する術など、どこにもない。すでにあの家庭教師は他家に雇われているが、そこでも解雇されてしまうはず。だから私は、黙って耐えるしかなかった。
あっという間に一年が過ぎ、メルバが学園に入学してきた。魔力測定の結果、彼女は光属性で癒やしの魔法を扱えることがすぐにわかる。光属性の魔法を使える者が現れたのは、ここ数百年ぶりのことだった。聖女様も長らく姿を現さず、もう現れないと思われていたほどだ。それほどまでに貴重な存在であるためか、翌日にはメルバが第二王子レオンハルト様の婚約者に決まり、王家から正式にカーク侯爵家の跡継ぎ令嬢として認められた。
一方の私はというと、学園では完璧に無能扱い。席は一番後ろに置かれ、授業中に発言することも許されない。実践魔法と音楽の授業は三クラス合同で行われるが、今は音楽の時間。ピアノもヴァイオリンも弾けるのに、弾けないふりをするしかない。案の定、周囲の生徒たちの間から、くすくすと笑い声が漏れた。
「妹のメルバ様はAクラスですって。あんな出来そこないの姉を持って、ほんとうに気の毒ね。何もできないなんて、信じられないわ」
「でも、メルバ様って入学式の日にはまだ庶子だったらしいのよ。翌日からカーク侯爵家の令嬢になったんですって」
「そんな変なお話、聞いたことないわ」
「お母様が平民なのよ。見た目は平凡だけれど、とても優秀らしいわ。ゼロスカとは大違い」
――そのとき、教室の一角から声が飛んだ。
「人の噂話ばかりしてないで、さっさとヴァイオリンを弾いたらどうだい?」
声の主は、二学年で学園に入学してきたゴールドバーグ王国の貴族、スチュアート様。ウィズダム男爵家の次男だ。
「スカーレット嬢、私はヴァイオリンが得意なんだ。もしよければ、教えてあげようか」
前髪が長く顔の半分が隠れていたが、分厚いレンズの眼鏡越しに、彼は私に柔らかく微笑みかけた。
「本当にそうですわね。学園では悪目立ちせず、おとなしくしていれば良いのですわ。スカーレットはキャサリン様に似てきて、容姿ばかりが目立ってきたのも、困りものですわね」
アメリが顔をしかめた。
「確かに……顔立ちはキャサリンにそっくりだ。だが、あれほど聡明で気高かったキャサリンとは比べものにならん」
離れへ戻ろうとしたとき、アメリに呼び止められ、耳元で冷たくささやかれた。
「いいですか、スカーレット。あなたは優れた成績をとってはいけませんよ。あの家庭教師が虚偽を働いたことになり、酷い罰を受けることになるでしょうからね。なにもできないふりをしなさい」
だから私は、学園の試験ではわざと答えを間違えるしかなかった。家庭教師が雇い主に虚偽の報告をしたとあっては、重い処罰が下されるに違いない。けれど、それがアメリの脅しによるものだと証明する術など、どこにもない。すでにあの家庭教師は他家に雇われているが、そこでも解雇されてしまうはず。だから私は、黙って耐えるしかなかった。
あっという間に一年が過ぎ、メルバが学園に入学してきた。魔力測定の結果、彼女は光属性で癒やしの魔法を扱えることがすぐにわかる。光属性の魔法を使える者が現れたのは、ここ数百年ぶりのことだった。聖女様も長らく姿を現さず、もう現れないと思われていたほどだ。それほどまでに貴重な存在であるためか、翌日にはメルバが第二王子レオンハルト様の婚約者に決まり、王家から正式にカーク侯爵家の跡継ぎ令嬢として認められた。
一方の私はというと、学園では完璧に無能扱い。席は一番後ろに置かれ、授業中に発言することも許されない。実践魔法と音楽の授業は三クラス合同で行われるが、今は音楽の時間。ピアノもヴァイオリンも弾けるのに、弾けないふりをするしかない。案の定、周囲の生徒たちの間から、くすくすと笑い声が漏れた。
「妹のメルバ様はAクラスですって。あんな出来そこないの姉を持って、ほんとうに気の毒ね。何もできないなんて、信じられないわ」
「でも、メルバ様って入学式の日にはまだ庶子だったらしいのよ。翌日からカーク侯爵家の令嬢になったんですって」
「そんな変なお話、聞いたことないわ」
「お母様が平民なのよ。見た目は平凡だけれど、とても優秀らしいわ。ゼロスカとは大違い」
――そのとき、教室の一角から声が飛んだ。
「人の噂話ばかりしてないで、さっさとヴァイオリンを弾いたらどうだい?」
声の主は、二学年で学園に入学してきたゴールドバーグ王国の貴族、スチュアート様。ウィズダム男爵家の次男だ。
「スカーレット嬢、私はヴァイオリンが得意なんだ。もしよければ、教えてあげようか」
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