(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏

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「そんなペラペラの安物のワンピースで、よくも王城に来られたわね? やはり平民って恥知らずなのねぇ」
 オレンジ色のドレス姿のリッチモンド侯爵令嬢も、私に向かって侮蔑の表情を浮かべた。確かにあの子達のドレスは綺麗だと思うし、じっと見てしまったのは不躾だったかもしれない。けれど、こんな言い方は酷すぎると思う。それに、自分の着ているワンピースが恥ずかしいなど、私は少しも思っていなかった。これは母さんがこの日の為に作ってくれたワンピースだ。むしろ、自分に似合っていると思い母さんに感謝したし、このワンピース姿の自分に満足していたのに。

「母さんも十五歳の頃に王城に行ったことがあるのよ。とても綺麗なお城だったし、庭園も素晴らしかったわ。その日は魔力を持つ子は見つからなかったけれど、お優しい王妃殿下は私達にお茶とお菓子を振る舞い、庭園をお散歩することを許してくださったのよ。とても楽しかったわ。だから、アンジェリーナにもきっと良い思い出になるわよ」
 母さんはそう言いながら、夜遅くまで私の為にこのワンピースを縫ってくれたんだ。生地は淡いブルーで、胸元にある薔薇の刺繍も母さんが一針一針、心を込めて刺してくれた。これには母さんの愛がたっぷりとこもっている。だから、このワンピースをバカにされたことが悔しくて・・・・・・私の周りの景色が涙で滲んでいった。私は悲しい時ばかりでなく、悔しい時にも涙がこぼれてしまう。

「嫌だぁーー。この子、こんなことで泣いているわ。まるで私達が虐めたみたいじゃないの。被害者づらしてそんな顔をするのはやめてくれないかしら?」
 平民のくせにジロジロ見るな、と言ったバーキット公爵令嬢が迷惑そうに眉をひそめた。本当はこんな時にこそ平気な顔で笑っていたいのに・・・・・・余計に涙がこみ上げてくる。

 これ以上泣くまいと唇を噛みしめて俯きながら魔力測定の列に並ぶ。やがて私の番になり、魔力測定を流れ作業のように行っていた魔法庁の役人の手が止まった。
「この娘には魔力があります! しかも、かなり大きな魔力量です。ウエクスラーベーカリーのアンジェリーナさんは魔法使いです!」
 大きな声がホール内に響き渡った。

「あり得ない。パン屋の小娘が魔法使いだと? なにかインチキでもしたんじゃないのか?」
「どんな魔法も自由自在に操れる魔法使いなわけがないさ。きっと魔法の効果が持続しない付与魔術師に過ぎない。平民から偉大な魔法使いが出るわけがないんだ!」
 役人は大臣達から責められて困り顔になっていた。この世界では魔法使いは付与魔術師よりも尊敬される存在だった。魔法を扱える者は3種類におおまかに分けられている。付与魔術師は命が宿らない物体に魔法の力を短時間だけ与えることができた。魔導具師は魔力を持つ物体を最初から作る者で、その魔法が消えることはない。一番上位の魔法使いは生命が宿ったものにも魔法の効力が及ぼせる最強とされる者だった。その他に魔力とは別の奇跡を起こせる聖女様も大昔はいたというが、もう現れる事はないだろうと思われていた。

「魔法使いだと思うのですが・・・・・・私の勘違いですかねぇーー。えぇっと、大臣の皆様がそうおっしゃるのならきっと付与魔術師でしょう。とにかく魔力があるのには間違いないです」
 役人に訂正させた大臣達はまだ不満げな顔をしていた。私は大臣や貴族のご令嬢達に囲まれる形になってしまい、すっかり不安になり俯いたままで顔もあげられない。

 全ての子達の魔力測定が済んで私だけに魔力があることがわかると、大臣達はいよいよ騒ぎだしてますますこの場にいたたまれない思いがした。
(私・・・・・・どうなっちゃうの?)

「しかし、単なる付与魔術師でも許せんな。わたしの娘にはなんの魔力もなかったのに・・・・・・なぜなんだ?」
「わたしの息子達も魔力はゼロだったぞ。貴族が平民より劣るとはあり得ないではないかっ。尊き貴族にこそ、偉大な力を授けるべきだ」
 私を忌々しげに睨む大臣達の、酷くとげとげしい視線が痛い。

 文句を言う大臣達の一方で、猫撫で声で話しかけてくる男性もいた。
「なんと素晴らしい! ここ七十年ばかり魔力持ちは現れていなかったから、これは奇跡だ。アンジェリーナさん、わたしには子供がいない。今日は姪っ子の付き添いで来ただけなのだよ。ぜひ、わたしの養女にならんかね? わたしはディンケラー伯爵家の当主で・・・・・・」
「ちょっと待て。それならわたしの家格の方が上だぞ。わたしはアボット侯爵家の当主だ。息子がおるから嫁に来ないか? しがないパン屋の娘が侯爵夫人になれるのだぞ。とても得な話だと思うだろう? 贅沢はいくらでもさせてやろう」
 さまざまな反応をする大人達に戸惑って思わず後ずさりした。私はどんな贅沢をするよりも、父さんと母さんの子供でいたい。
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