(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏

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 それからの私は週に三日だけ王城に行き、王立騎士団の武器倉庫で、鎧や盾に魔法を付与することになった。この世界にはドラゴンがいて、火山が多く連なる人が住めない地域を住処としている。彼らはなぜか定期的に渡り鳥のように移動する習性があり、人に敵意を直接向けることはないものの、子供のドラゴンは気まぐれで口から炎を放出する。それが畑に植えられた農作物や人家に燃え移ることもあり、村人達は困っていた。

(子ドラゴンの悪戯をまずは直さないといけないわね。お互い闘いは望んでいないからまずは炎を防ぐことよね)

 そこで私は、炎を吸収する力を盾と剣に付与して騎士達に渡した。ところが、子ドラゴンは炎を吸収していく盾が面白かったらしくなおさら炎を吐いてくる、とカスパー第二王子殿下から報告を受けた。

「逆効果だったのですね。それは申し訳ありませんでした。でしたら、違う魔法を考えてみましょう」
「あはは。最初からうまくいかなくても気にすることはないよ」
 カスパー第二王子殿下は明るく慰めてくださった。武器倉庫にいらっしゃって、こまめにねぎらいの言葉をかけてくださる時も朗らかに微笑んでいて、不機嫌な顔をしているのを見たことがない。第二王子殿下を気遣いのできる優しい方だと思った。

 次の対策として、ドラゴンが放った炎をはじき返す効力を、鎧や剣に付与していった。人家や人に被害があっては困るのではじき返す方向としては、炎を放った相手である子ドラゴンを狙ってはじき返すように魔法をかけた。ドラゴンは固い鱗のようなもので覆われているので、炎を受けても怪我はしないから大丈夫だと思う。

「素晴らしいです。自分が放った炎を返された子ドラゴンはびっくりして、静かに上空を移動していくようになりましたよ」
 騎士達が私に直接報告しに来てくれて、彼らの役に立つことができてホッとした。ドラゴンは元々姿形は大きく恐ろしいけれど、人間を襲うことはなかった生物だ。炎をはじき返されて、多分人間が嫌がっていることを理解したのだろう。しばらくすると村民達も上空を移動していくドラゴン達に慣れ、売り物にならない不揃いのリンゴなどを空に向かって放り投げる農民も出てきた。それを子ドラゴンが器用に口で受け止め、食べながら移動していく微笑ましい姿がよく見られるようになっていく。人間とドラゴンの共存に貢献できた私の魔法は、とても高く評価された。

❁.。.:*:.。.✽.

 私が16歳になったある日の事、国王陛下に謁見の間ではなく、王族用の居間に呼び出された。そこにはセオドリック王太子殿下やカスパー第二王子殿下に王妃殿下もいらっしゃった。

「アンジェリーナのお陰で、子ドラゴンの悪戯もなくなり、この国は安泰だ。褒美に我が息子カスパー第二王子と婚約させよう」
 国王陛下がニコニコとしながらそうおっしゃった。

「アンジェリーナと婚約できるなんて本当に嬉しいですよ。七十年ぶりの魔術師ですし、必ず大事にして幸せにします」
 カスパー第二王子殿下は満面の笑みで国王陛下にお礼をおっしゃった。

「とてもお似合いのカップルだと思うわ。騎士団長に才能ある付与魔術師はベストカップルよ。この国とセオドリックを二人で支えてくださいね」
 王妃殿下は柔らかく微笑んで、私に大きなルビーをくださった。その色はカスパー第二王子殿下の瞳の色にそっくりだった。婚約祝いのつもりだから気軽に受け取るようにと言われ、丁寧にお礼を申し上げつつワンピースのポケットにしまった。

「カスパーは正義感のある誠実な男だよ。きっと幸せになれるはずさ」
 セオドリック王太子殿下は私より7歳も年上だけれど、婚約者を病で亡くしてからは結婚するつもりがないらしい。弟の婚約を心から喜び、私に何度も「弟を頼むね」と頭を下げてくださった。本来なら頭を下げるのは私のほうだと思うのに、兄としてカスパー第二王子殿下のことを大事に思っているのがわかる。

「さて、アンジェリーナ。俺たちは庭園に移動して、今後のことを話し合おうよ。さぁ、未来の奥方様、どうぞこちらに」
 私に手を差しだし、甘く優しい笑顔を向けてくるカスパー第二王子殿下に、思わず顔が赤くなった。今まで優しくしてくださったので、カスパー第二王子殿下に対しては好ましい感情があった。高潔で騎士団の仕事も熱心に取り組んでいるこの方となら、きっと明るい穏やかな家庭が築けるはずだ。


❁.。.:*:.。.✽.


 侍女達がガゼボでお茶を準備している間、カスパー第二王子殿下は機嫌良く微笑んでいた。ガゼボのソファに私を優しく導き座らせてくださったし、庭園に咲いている小さな白い花を手折り、私の髪にそっと挿してくださった。このガゼボはとても広くて、柔らかな肌触りのソファは座り心地も良かった。屋根付きのガゼボの四方には紫外線除けのレースのカーテンがかけられており、爽やかな風も吹き抜ける。

「メイド達は下がって良い。侍女達はあちらの噴水のあたりで待機しておくれ。用事があればこの呼び鈴で呼ぶからね。ほら、俺とアンジェリーナはこれから愛を育てていかなきゃならないからね。無粋な真似はしないでおくれよ」
 軽くウィンクして侍女達に言えば、朗らかに笑いながら納得し、かなり離れた場所に移動してくれた。これで、会話が漏れ聞こえることはなさそうだ。立ち聞きするな、というカスパー第二王子殿下の意図をよく理解した侍女達の行動だった。これから甘い言葉が囁かれるのかもしれない、私は愚かにもそう思い込んでいた。けれど・・・・・・それは甘い幻想だった。

「やれやれ、お前のような平民と一緒になるなんて最悪だよ。お前ときたら眼は綺麗な琥珀色だけれど、金髪や銀髪じゃないし、華やかさがないんだよなぁ。色気もないしさ、とんだ貧乏くじさ。あらかじめ言っておくが、魔力があるからって俺に威張るなよ。お前のような卑しい者は、俺の言うことを黙って聞いていれば良いんだぞ」
 カスパー第二王子殿下は放った言葉とはうらはらに、熱っぽい瞳で私を見つめ、髪を優しく撫でながらそうおっしゃった。侍女達やメイド達がすっかり離れたことを確認したうえでの、このカスパー第二王子殿下の豹変ぶりに私はとても戸惑った。

「母上からもらったルビーは俺が貰っておこう。付与魔術師と言っても、たかがパン屋の娘だろう? 高価な物はお前には勿体ないよ。さぁ、出せよ」
 私のワンピースのポケットを指さしながら意地の悪い声を出す彼は、穏やかな笑みを浮かべている。私に向かって暴言を吐いているようには到底見えない。カスパー第二王子殿下は天使のように優しい表情を浮かべながら、辛辣で悪魔のよう言葉が言える人なのだった。


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