10 / 24
7-3
しおりを挟む
自宅に戻った私は、ウエクスラーベーカリーでパンを父さん達と捏ねる。メニューにサラダも追加し、私は新しいパンのレシピも次々と考案していった。今までにないパンとしては、異国の甘い『あんこ』や、辛い『カリー』という香辛料がたくさん入ったものをパンの中に入れて焼いた。あんパンは子供達に人気があったし、カリーパンは男性に好評だった。ウエクスラーベーカリーは以前にも増して繁盛し、イートインスぺースを広げる為に、お店を増築しなければならなかったほどだ。
「ウエクスラーベーカリーのパンはね、どんな薬を飲むよりも元気になれるわ」
「そうそう、あそこのパンを食べるとね、とっても幸せな気分になるのよ」
やがて、そんな噂が広まりはじめた。気分が落ち込んでいた人でも、美味しい物を食べると幸せになるのはよくあることだ。人は美味しい物を食べると幸福指数が跳ね上がる。
けれど、不思議なことに手や足の痛みが和らいだとか、怪我が治った、傷口がふさがったなどの話しも聞こえてくるようになる。そのうち、私のパンを買い求めて近隣諸国からもお客様が来はじめて、毎日長い行列が店先にできた。
そうして、私はまた王城に呼ばれることになった。
「アンジェリーナ。申し訳ないが、今から魔力鑑定を受けてもらって良いか? こちらはヒエルペ王国いちの大魔法使いのアルノーリ様だ。この方はアンジェリーナが聖女様ではないか、と主張されている」
「はい? まさか、そのようなはずはありません。私はただのパン職人ですよ」
けれどアルノーリ様がおっしゃるには、聖女様は魔法の力が目覚めてから一度魔力を失い、しばらく後に偉大な奇跡を次々とおこすようになるらしい。なぜ一時的に力を無くすのはわからないが、代々の聖女様がそうだったという。私は半信半疑で水晶の上に手をかざした。すると、まばゆい光りが私の身体から発せられて、小さな天使がまわりを飛び回った。
「神が祝福された印です。アンジェリーナ様は世界でただ一人の聖女様です!」
アルノーリ様が跪き、国王陛下までがそれに倣った。聖女様は神の使いであり、聖なる奇跡を起こす。魔法と似ているがそれはまったく異質な物らしい。
「身体の怪我は魔法使いの私でも、薬草や呪文を持ってして癒やせます。ですが、心に花を咲かせること、生きる気力を与えること、これは魔法使いにはできません。聖女様は身体だけでなく、大事な心を健全で幸せな状態に導く事ができるのです」
アルノーリ様が聖女様と魔法使いの違いを説明してくださった。
「そんなバカな! たかがパン職人のアンジェリーナが聖女だなんてあり得ない」
表と裏を完璧に使い分けていたカスパー第二王子殿下が、大きすぎる声で呟いた。国王陛下夫妻はほんの少し首を傾げていたけれど、セオドリック王太子殿下は厳しい声でカスパー第二王子殿下をたしなめた。
「たかがパン職人とは聞き捨てならない。カスパー、アンジェリーナ様に謝りなさい。こちらは聖女様なのだぞ」
「だったら俺に相応しいですよね? また婚約者に戻れば良い。聖女様がこの国の王子妃になるのはとても良いことです」
「失礼、カスパー第二王子殿下に申し上げたい。聖女様はこの世界でただおひとりです。どんな王族や皇族の命にも従う必要が無い特別な存在だ。歴史の勉強はなさっていないのですか?」
侮蔑の冷ややかな眼差しをカスパー第二王子殿下に向けながら、そう言い放ったのは大魔法使いのアルノーリ様だった。
「ウエクスラーベーカリーのパンはね、どんな薬を飲むよりも元気になれるわ」
「そうそう、あそこのパンを食べるとね、とっても幸せな気分になるのよ」
やがて、そんな噂が広まりはじめた。気分が落ち込んでいた人でも、美味しい物を食べると幸せになるのはよくあることだ。人は美味しい物を食べると幸福指数が跳ね上がる。
けれど、不思議なことに手や足の痛みが和らいだとか、怪我が治った、傷口がふさがったなどの話しも聞こえてくるようになる。そのうち、私のパンを買い求めて近隣諸国からもお客様が来はじめて、毎日長い行列が店先にできた。
そうして、私はまた王城に呼ばれることになった。
「アンジェリーナ。申し訳ないが、今から魔力鑑定を受けてもらって良いか? こちらはヒエルペ王国いちの大魔法使いのアルノーリ様だ。この方はアンジェリーナが聖女様ではないか、と主張されている」
「はい? まさか、そのようなはずはありません。私はただのパン職人ですよ」
けれどアルノーリ様がおっしゃるには、聖女様は魔法の力が目覚めてから一度魔力を失い、しばらく後に偉大な奇跡を次々とおこすようになるらしい。なぜ一時的に力を無くすのはわからないが、代々の聖女様がそうだったという。私は半信半疑で水晶の上に手をかざした。すると、まばゆい光りが私の身体から発せられて、小さな天使がまわりを飛び回った。
「神が祝福された印です。アンジェリーナ様は世界でただ一人の聖女様です!」
アルノーリ様が跪き、国王陛下までがそれに倣った。聖女様は神の使いであり、聖なる奇跡を起こす。魔法と似ているがそれはまったく異質な物らしい。
「身体の怪我は魔法使いの私でも、薬草や呪文を持ってして癒やせます。ですが、心に花を咲かせること、生きる気力を与えること、これは魔法使いにはできません。聖女様は身体だけでなく、大事な心を健全で幸せな状態に導く事ができるのです」
アルノーリ様が聖女様と魔法使いの違いを説明してくださった。
「そんなバカな! たかがパン職人のアンジェリーナが聖女だなんてあり得ない」
表と裏を完璧に使い分けていたカスパー第二王子殿下が、大きすぎる声で呟いた。国王陛下夫妻はほんの少し首を傾げていたけれど、セオドリック王太子殿下は厳しい声でカスパー第二王子殿下をたしなめた。
「たかがパン職人とは聞き捨てならない。カスパー、アンジェリーナ様に謝りなさい。こちらは聖女様なのだぞ」
「だったら俺に相応しいですよね? また婚約者に戻れば良い。聖女様がこの国の王子妃になるのはとても良いことです」
「失礼、カスパー第二王子殿下に申し上げたい。聖女様はこの世界でただおひとりです。どんな王族や皇族の命にも従う必要が無い特別な存在だ。歴史の勉強はなさっていないのですか?」
侮蔑の冷ややかな眼差しをカスパー第二王子殿下に向けながら、そう言い放ったのは大魔法使いのアルノーリ様だった。
43
あなたにおすすめの小説
氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~
紅葉山参
恋愛
名門公爵家であるヴィンテージ家に嫁いだロキシー。誰もが羨む結婚だと思われていますが、実情は違いました。
夫であるバンテス公爵様は、その美貌と地位に反して、なんとも女々しく頼りない方。さらに、彼の母親である義母セリーヌ様は、ロキシーが低い男爵家の出であることを理由に、連日ねちっこい嫌がらせをしてくる粘着質の意地悪な人。
結婚生活は、まるで地獄。公爵様は義母の言いなりで、私を庇うこともしません。
「どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの?」
そう嘆きながらも、ロキシーには秘密がありました。それは、男爵令嬢として育つ中で身につけた、貴族として規格外の「超絶有能な実務能力」と、いかなる困難も冷静に対処する「鋼の意志」。
このまま公爵家が傾けば、愛する故郷の男爵家にも影響が及びます。
「もういいわ。この際、公爵様をたてつつ、私が公爵家を立て直して差し上げます」
ロキシーは決意します。女々しい夫を立派な公爵へ。傾きかけた公爵領を豊かな土地へ。そして、ねちっこい義母には最高のざまぁを。
すべては、彼の幸せのため。彼の公爵としての誇りのため。そして、私自身の幸せのため。
これは、虐げられた男爵令嬢が、内助の功という名の愛と有能さで、公爵家と女々しい夫の人生を根底から逆転させる、痛快でロマンチックな逆転ざまぁストーリーです!
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる