(完結)第二王子に捨てられましたがパンが焼ければ幸せなんです! まさか平民の私が・・・・・・なんですか?

青空一夏

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 自宅に戻った私は、ウエクスラーベーカリーでパンを父さん達と捏ねる。メニューにサラダも追加し、私は新しいパンのレシピも次々と考案していった。今までにないパンとしては、異国の甘い『あんこ』や、辛い『カリー』という香辛料がたくさん入ったものをパンの中に入れて焼いた。あんパンは子供達に人気があったし、カリーパンは男性に好評だった。ウエクスラーベーカリーは以前にも増して繁盛し、イートインスぺースを広げる為に、お店を増築しなければならなかったほどだ。

「ウエクスラーベーカリーのパンはね、どんな薬を飲むよりも元気になれるわ」
「そうそう、あそこのパンを食べるとね、とっても幸せな気分になるのよ」
 やがて、そんな噂が広まりはじめた。気分が落ち込んでいた人でも、美味しい物を食べると幸せになるのはよくあることだ。人は美味しい物を食べると幸福指数が跳ね上がる。

 けれど、不思議なことに手や足の痛みが和らいだとか、怪我が治った、傷口がふさがったなどの話しも聞こえてくるようになる。そのうち、私のパンを買い求めて近隣諸国からもお客様が来はじめて、毎日長い行列が店先にできた。

 そうして、私はまた王城に呼ばれることになった。
「アンジェリーナ。申し訳ないが、今から魔力鑑定を受けてもらって良いか? こちらはヒエルペ王国いちの大魔法使いのアルノーリ様だ。この方はアンジェリーナが聖女様ではないか、と主張されている」

「はい? まさか、そのようなはずはありません。私はただのパン職人ですよ」

 けれどアルノーリ様がおっしゃるには、聖女様は魔法の力が目覚めてから一度魔力を失い、しばらく後に偉大な奇跡を次々とおこすようになるらしい。なぜ一時的に力を無くすのはわからないが、代々の聖女様がそうだったという。私は半信半疑で水晶の上に手をかざした。すると、まばゆい光りが私の身体から発せられて、小さな天使がまわりを飛び回った。

「神が祝福された印です。アンジェリーナ様は世界でただ一人の聖女様です!」

 アルノーリ様が跪き、国王陛下までがそれに倣った。聖女様は神の使いであり、聖なる奇跡を起こす。魔法と似ているがそれはまったく異質な物らしい。

「身体の怪我は魔法使いの私でも、薬草や呪文を持ってして癒やせます。ですが、心に花を咲かせること、生きる気力を与えること、これは魔法使いにはできません。聖女様は身体だけでなく、大事な心を健全で幸せな状態に導く事ができるのです」
 アルノーリ様が聖女様と魔法使いの違いを説明してくださった。

「そんなバカな! たかがパン職人のアンジェリーナが聖女だなんてあり得ない」

 表と裏を完璧に使い分けていたカスパー第二王子殿下が、大きすぎる声で呟いた。国王陛下夫妻はほんの少し首を傾げていたけれど、セオドリック王太子殿下は厳しい声でカスパー第二王子殿下をたしなめた。

「たかがパン職人とは聞き捨てならない。カスパー、アンジェリーナ様に謝りなさい。こちらは聖女様なのだぞ」

「だったら俺に相応しいですよね? また婚約者に戻れば良い。聖女様がこの国の王子妃になるのはとても良いことです」

「失礼、カスパー第二王子殿下に申し上げたい。聖女様はこの世界でただおひとりです。どんな王族や皇族の命にも従う必要が無い特別な存在だ。歴史の勉強はなさっていないのですか?」

 侮蔑の冷ややかな眼差しをカスパー第二王子殿下に向けながら、そう言い放ったのは大魔法使いのアルノーリ様だった。


 

 
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