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妹編
4 初夜は闘いの場?
しおりを挟む「ところで、結婚式って、いつかなぁーー? 私のドレスはぁ? 」
戦闘侍女達が、あたしを呆れたように見つめた。
「そんなものは、ありません! 結婚式は、もしも、イグナ王と本当に愛し合う時がおとずれたなら盛大にあるはずです」
ん? 意味がさっぱりわからない・・・
結婚式もなく、いきなり、今日が初夜だと言われて、私はますます首をひねる。
お姉様のトランクを開けて確かめると、確かにウェディングドレスもヴェールも、なにひとつ入っていなかった。私がケンドル・コーナー辺境伯に嫁ぐための荷物には、ウェディングドレスも、お茶会用のドレスも舞踏会用も一式揃っていたのに。
お姉様のほうは、明らかにドレスの量が足りない!・・・たくさんのトランクの中は、ほぼ空っぽで、ドレスが3着と下着類。愛読書が数冊と、小瓶がたくさん入った袋と、金髪のお人形が10体。まるで、このエメラルド王国には、少ししか滞在するつもりがないような荷物だ・・・なぜ?
しかも、お人形って・・・お姉様は、すぐにでも子供を授かるつもりだったのかしら? 産まれてくる子は女の子とは限らないのに・・・お人形なんて10体も、気味が悪いわ。
「このエメラルド王国とアーメッド王国は、長年、水面下で争ってきました。この嫁入りは、ロマンチックなものではありません! カリスタ王女様の使命は、・・・イグナ王の息の根を止めること・・・カリスタ王女様は、幼い頃から戦闘訓練をうけ、あらゆる毒に精通しておりました。昔から、我が国では、王女が産まれると適性を見て、敵国に嫁ぎ刺客としてその役目を担う者が選ばれます。それが、カリスタ王女様でした。」
「ほぇ?・・・ってことは、ここは?」
「戦場です! やらなければ、こちらが、やれらます! 今夜は初夜です。この毒をイグナ王に、うまく飲ませて、この短剣でイグナ王の心臓をひと突きなさいませ。少しぐらい、外れても、毒が塗ってありますので確実に仕留められます」
戦闘侍女は、私に毒の入った小瓶と、短剣を差し出した。この毒を飲ます? どうやって? 短剣で刺すの?
心臓ってどこだっけ?・・・わからないし・・・血が怖いよ・・・残酷なことは嫌いだ。
え? 無理だよぉ・・・そんなの、あたしには無理だ・・・
あたしは、絶望感でうなだれた。お姉様、助けてよぉ・・・もう、絶対、我が儘は言わないし・・・宝石だって隠さないから・・・
あたしは、お姉様がなんでも優先されていたわけが今、わかった。お姉様には、過酷な使命があって、命の保証がないところに嫁ぐことが決まっていたんだ。大きな宝石も高価なドレスも、その代償だったんだ・・・
そう言えば、王妃であるお母様は、私に幼い頃、言ったことがあった。
「クリスティンは、幸せなのよ」って・・・。私は、知らなかったんだよぉ・・・こんな秘密があったなんて少しも思わなかったんだ!・・・・・・
ごめんなさい。お姉様。お姉様のペットの猫を森に棄てたのも、湖に落ちて溺死しそうになったお姉様の侍女をつきとばしたのも、あたしなんだ。だって、まさか、溺れるなんて思わなかったんだ。お姉様には手がだせそうもないから、代わりにお気に入りに意地悪しただけなんだ。
誰か・・・助けて・・・助けてよぉーー・・・お母様ぁーー!・・・お姉様ぁーー!
「あぁ、もうひとつ方法があります。クリスティン様が心底イグナ王に愛されて、両国の溝を埋めることできたなら私達は全員、生きられますね」
戦闘侍女の一人が、にこりともせずに、棒読みでつぶやいた。あ、そっか。その手があったんだねぇ?
う、うん。それなら・・・・・・頑張れるかなぁ。
あたしは、命がけで一日、一日を過ごすことになるだろう。今までの自分を悔いながら。
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