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4 糞義理息子め、どうしてくれよう?(パイヤ男爵夫人視点) 実は私、強いんです(カロリーヌ視点)

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☆(パイヤ男爵夫人視点)


「カサンドラ・・・・・・まさかでしょう? アラディエル様、彼女は私の親友なのですよ」
 カロリーヌの悲痛な声が可哀想で聞いていられないわ。

「わ、わかっているさ。カサンドラさんが遊びに来ていて、ちょっと具合が悪くなったものだから寝室で休ませていたのだ。少しもおかしくない」

(こんのぉーー、嘘吐きがぁーー!)

「ほほほほ。おかしいことだらけですわ。カロリーヌの親友ならカロリーヌがいるときにだけ訪ねてくればいいでしょう? なぜいない時に来るのかしら?」

「たまたまですよ。もちろん帰ってもらおうとしました。ですが、倒れてしまって・・・・・・貧血気味なのですよ。彼女は妊娠していますので」

「お腹に子供がいるのに、親友の夫と寝室でいったいなにをしていたのやら。その子供も案外アラディエル様の子供だったりしてねぇ? 隣国ナーンアス帝国では医学がめざましく進歩しているのをご存じ? つい最近、妊娠中でも父親が誰だかわかる“出生前親子確認鑑定”ができるようになったのですよ。素晴らしいと思いません?」

「え? す、素晴らしいとは思いません。命を懸けて子供を産む女性の不貞を疑うなんてけしからん鑑定だと思います」

「なにを妊婦の味方みたいなふりをして逃げ切ろうとなさっているのですか? やましいことがないなら受けられるはずです。お二人には受けていただきますよ」

 娘の夫はみるみる青ざめる。

(カサンドラのお腹の子どもがアラディエルの子供だとしたら、どんな地獄を見せてあげようかしら?)




☆(カロリーヌ視点)

 
「ちょっとぉーー、アラディエル! 遅いわよぉーー。どうしたっていうのよぉ? はや・・・・・・く・・・・・・え? なんでカロリーヌがここにいるの? しかもパイヤ男爵夫人まで・・・・・・」
 待つことにしびれを切らしたカサンドラが文句を言いながらやって来た。

 カサンドラが着ているネグリジェはシルクで私のお気に入りだ。下着まで私のものを身につけているなんて!

「親友だと思っていたのになぜなの?」

「あ、えっと、これは違うのよ。誤解よ」

「誤解? あなたはそもそも親友じゃなかったってことね? あなた達が不倫していたことになにも気がつかなかった私を、きっと陰で二人で笑っていたのよね? さぞ楽しかったでしょう?」

「ちょっと待ってよ、それは被害妄想だわ。だいたい不倫の証拠なんてどこにあるの? ベルラッテ侯爵家の使用人達だって、私の具合が悪くてカロリーヌのネグリジェを借りて寝ていただけだと証言するわ。ねぇ、そうでしょう? テモーネ」

「そうですね。その通りです。カサンドラ様はただ具合が悪くてベッドで横になっていただけです」
 とテモーネ。

「テモーネ、あなたはクビよ。ここにいる使用人達も皆クビ。次の就職先への紹介状は書かないわ。それどころか、再就職するにあたっての問い合わせには『虚言癖あり』と言ってあげるから覚悟しておいてね。それからお母様、ベルラッテ侯爵家へ用立てたお金は全て一括返済させてください」

「もちろんですよ。利息も含めて一括返済を求めます」
 お母様はにんまりと笑う。
 
 
「何を言っているんだい? そんなことをしたらベルラッテ侯爵家は潰れてしまう。カロリーヌはベルラッテ侯爵夫人ではいられなくなるのだぞ」

「別に構いませんわ。だって私、離縁しますもの」
 
「え? それはできないはずだよ。だってわたしを愛しているのだろう? あんなに子供を欲しがっていたじゃないか? そうだ、今日から子作りに励もうよ。前みたいに君を淫乱呼ばわりしないからさ。さぁ、こちらにおいで」

 思わず吐き気がして顔を歪めた。

「淫乱呼ばわり? どういうことなの?」 
 不思議がるお母様に事情を話し、お母様はいよいよ怒りに顔を真っ赤に染め、グーでアラディエル様の顔をパンチした。

「汚い者を殴ってしまったわ。まったく忌々しい。地獄を見せてあげますからおとなしく待っていなさい! あら、お気に入りの手袋だったのにもう使えないわ。この損害も賠償金に含めましょう。特別高価な生地で作られた手袋ですからね。それからカサンドラ、あなたの実家と嫁ぎ先にはこのことを全てお話しますからね」
 お母様はそうおっしゃって、アラディエル様の鼻血がついた優雅なレースの手袋を残念そうに見つめた。

「やめてください。実家には言わないでください。お兄様に殴られるわ。夫にもなんて言われるか・・・・・・」

「大丈夫よ、不倫していないのでしょう? だったら証拠はない、とさきほどのように啖呵を切ればいいわ。運が良ければ信じてくれるかもね。ところで、カサンドラの実家ミュール男爵家は資金繰りがいつも大変だったでしょう? なぜミュール男爵家が裕福になれたかわかる? 私がお父様に資金援助を頼んだからなのよ」
 私は今まで言わなかったことを暴露する。

「えぇ? そんなの知らなかったわよ。なんで教えてくれなかったの?」

「だって私達親友だったじゃない? 親友に肩身の狭い思いをさせたくなかったの。だって、私はカサンドラが大好きだったから。でも、あなたはもう私の敵だわ」

「待って、ごめんなさい。お願いよ、実家にはまだ妹や弟がいるの。王立貴族学園に通っているのに、資金援助がなくなったら困るわ」

「困るでしょうね。でも、悪いけどカサンドラの弟や妹がどうなろうと、もう私にはどうでもいいわ。恨むなら、姉のカサンドラを恨めばいいと思う」

(私は冷たいかしら? もうカサンドラの実家を助けたいなんて少しも思えない)

「待って! カロリーヌ、今なら子供を産ませてあげるから。生粋の貴族でもないくせに強がるなよ。男爵家の平民混じりがベルラッテ侯爵夫人になれたのだぞ。感謝するべきだ」
 夫が引き留めようとするけれど、この台詞は私に喧嘩を売っているとしか思えない。

 バキッ!!

 私はお母様に似ている。お母様は男勝りで格闘技が大好き。実は私も同じなの。幼い頃からピアノやバイオリンとともに、格闘技を教えるお教室に通っていたわ。

 夫の自慢の整った顔にパンチを打ち込み、鼻がグニャリと曲がった感覚があったけれど、まぁいいわよね?

 この国中の病院にアラディエルの鼻を治療しないように圧力をかけておこう。こうなったらパイヤ男爵家の財力とコネは最大限に利用するわ。

 私が”か弱い女のふり”を止めた瞬間だった。
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