8 / 21
6 可哀想なアラナ嬢を助けたいんだ! (キース第2王子殿下視点)
しおりを挟む
(キース第2王子殿下視点)
わたしの母上は王妃になる予定だったギルソープ公爵家の令嬢だった。ギルソープ公爵家は筆頭公爵家で代々宰相の職を賜っていた。しかし、国王は女好きで浮気が絶えなかった。その結果、ジェンナ・オルティス男爵令嬢を妊娠させ、無理矢理第1妃に迎えてしまった。
母上はそこで父上を見限れば良かったのに、第2妃の位に甘んじわたしを産んだ。わたしのお祖父様であるギルソープ公爵がこの国を憂えて、母上を第2妃にさせ国が乱れぬように配慮したのかもしれない。父としての情よりも宰相としての職務を貫いた結果だとしたら母上も国の犠牲者の一人だ。
湯水のように金を使おうとする国王とジェンナ妃は国民から相当反感を買った。母上は再三それを注意し余計に煙たがられ難しい問題だけを丸投げされる。だが出席さえすれば良いパーティなどには喜んで華美な服装で彼らは姿を現した。
父上はジェンナ王妃と遊び呆けて政治のことはおざなりだし、兄上もまた同類だった。いいとこ取りだけしていく国王とジェンナ王妃にスタンフォード王太子殿下はまるで寄生虫だ。
だが次第に国民達は国王達の無能さに気づき始め不穏な空気が漂い始めた。母上は彼らの予算を削り財政の引き締めを行ったけれど、彼らは悪知恵だけは働くのかお金をたかれる寄生先を見つけた。それが国一番の大金持ちルース大商会の一人娘のアラナ嬢で、この国で最難関と言われるシンクレア学園に通う才女だった。
出会いの場として仕組まれたテニス親善試合に、顔もださない兄上に呆れたわたしは代わりに出席してみた。どのような女性か興味があったし、できればこの結婚を阻止したかった。かわいそうな女性だ。お金持ちであるが故に父上達から目をつけられ、爵位がない為に逆らうこともできない。
会ってみれば聡明でとても感じの良い女性だった。貴族の令嬢達よりさらに上品に見える女性で、この女性があの兄上の妻になるなど可哀想すぎる。
「母上。アラナ嬢が不憫ですよ。このような作られたシンデレラストーリーなどくだらないし、何より彼女が負う犠牲が大きすぎます」
翌日、母上に彼女を王太子妃に迎えようとする国王を止めるよう願い出た。それを止められるのは多分母上だけだから。
「もしかして惚れたのですか? それならなお一層、この状況は覆すべきではありません。一国の王妃になる女性がこれしきのことで、へこたれていては務まりませんよ」
「は? 母上は彼女を試すおつもりですか? あの兄上と結婚して幸せになれるはずがないのはわかっていらっしゃいますよね? 母上は案外意地が悪いのですね!」
「アラナという者を調べましたが、平民出身だがとても気骨のある女性のようです。キースが考えるほどか弱い女性ではないでしょう。私が見込んだような女性であったなら、きっとうまく立ち回り周囲を味方につけるでしょう。まぁ、見ていてごらんなさい」
王太子妃になってからすぐに、あの愚かな兄上に罵倒されているアラナ嬢を見ると胸が痛んだ。だがしばらくすると、王宮の女性使用人達の様子が一変する。明らかに彼女を女主人として認定しているように動いている。王宮に仕える侍女達は皆貴族出身者で子爵家や男爵家の次女や三女などが多くいるが、彼女達は平民に仕えるのを酷く嫌うのにすっかり手なづけてしまっていた。
その証拠に最近の兄上の皮膚は赤くただれているし、くしゃみも頻繁に連発している。兄上が幼い頃に猫の毛アレルギーだったということを知っているのは古参の侍女達だけ。それは本人さえも知らない事実だった。さらに兄上の定期的な腹痛も侍女達やメイド達の仕業だろう。
母上のおっしゃるようにアラナ嬢はひ弱ではない。逞しい芯のしっかりした女性なのだ。母上がアラナ嬢を認めた時こそ、同じような煮え湯を飲まされた経験のある母上がアラナ嬢の後ろ盾になるのだろう。
そしてある日の夜会で、兄上はアラナ嬢以外の女を妊娠させ絶縁宣言をした。なんという愚か者だろう! しかしこれで賽は投げられた。
今こそアラナ嬢を守る時だ!
わたしの母上は王妃になる予定だったギルソープ公爵家の令嬢だった。ギルソープ公爵家は筆頭公爵家で代々宰相の職を賜っていた。しかし、国王は女好きで浮気が絶えなかった。その結果、ジェンナ・オルティス男爵令嬢を妊娠させ、無理矢理第1妃に迎えてしまった。
母上はそこで父上を見限れば良かったのに、第2妃の位に甘んじわたしを産んだ。わたしのお祖父様であるギルソープ公爵がこの国を憂えて、母上を第2妃にさせ国が乱れぬように配慮したのかもしれない。父としての情よりも宰相としての職務を貫いた結果だとしたら母上も国の犠牲者の一人だ。
湯水のように金を使おうとする国王とジェンナ妃は国民から相当反感を買った。母上は再三それを注意し余計に煙たがられ難しい問題だけを丸投げされる。だが出席さえすれば良いパーティなどには喜んで華美な服装で彼らは姿を現した。
父上はジェンナ王妃と遊び呆けて政治のことはおざなりだし、兄上もまた同類だった。いいとこ取りだけしていく国王とジェンナ王妃にスタンフォード王太子殿下はまるで寄生虫だ。
だが次第に国民達は国王達の無能さに気づき始め不穏な空気が漂い始めた。母上は彼らの予算を削り財政の引き締めを行ったけれど、彼らは悪知恵だけは働くのかお金をたかれる寄生先を見つけた。それが国一番の大金持ちルース大商会の一人娘のアラナ嬢で、この国で最難関と言われるシンクレア学園に通う才女だった。
出会いの場として仕組まれたテニス親善試合に、顔もださない兄上に呆れたわたしは代わりに出席してみた。どのような女性か興味があったし、できればこの結婚を阻止したかった。かわいそうな女性だ。お金持ちであるが故に父上達から目をつけられ、爵位がない為に逆らうこともできない。
会ってみれば聡明でとても感じの良い女性だった。貴族の令嬢達よりさらに上品に見える女性で、この女性があの兄上の妻になるなど可哀想すぎる。
「母上。アラナ嬢が不憫ですよ。このような作られたシンデレラストーリーなどくだらないし、何より彼女が負う犠牲が大きすぎます」
翌日、母上に彼女を王太子妃に迎えようとする国王を止めるよう願い出た。それを止められるのは多分母上だけだから。
「もしかして惚れたのですか? それならなお一層、この状況は覆すべきではありません。一国の王妃になる女性がこれしきのことで、へこたれていては務まりませんよ」
「は? 母上は彼女を試すおつもりですか? あの兄上と結婚して幸せになれるはずがないのはわかっていらっしゃいますよね? 母上は案外意地が悪いのですね!」
「アラナという者を調べましたが、平民出身だがとても気骨のある女性のようです。キースが考えるほどか弱い女性ではないでしょう。私が見込んだような女性であったなら、きっとうまく立ち回り周囲を味方につけるでしょう。まぁ、見ていてごらんなさい」
王太子妃になってからすぐに、あの愚かな兄上に罵倒されているアラナ嬢を見ると胸が痛んだ。だがしばらくすると、王宮の女性使用人達の様子が一変する。明らかに彼女を女主人として認定しているように動いている。王宮に仕える侍女達は皆貴族出身者で子爵家や男爵家の次女や三女などが多くいるが、彼女達は平民に仕えるのを酷く嫌うのにすっかり手なづけてしまっていた。
その証拠に最近の兄上の皮膚は赤くただれているし、くしゃみも頻繁に連発している。兄上が幼い頃に猫の毛アレルギーだったということを知っているのは古参の侍女達だけ。それは本人さえも知らない事実だった。さらに兄上の定期的な腹痛も侍女達やメイド達の仕業だろう。
母上のおっしゃるようにアラナ嬢はひ弱ではない。逞しい芯のしっかりした女性なのだ。母上がアラナ嬢を認めた時こそ、同じような煮え湯を飲まされた経験のある母上がアラナ嬢の後ろ盾になるのだろう。
そしてある日の夜会で、兄上はアラナ嬢以外の女を妊娠させ絶縁宣言をした。なんという愚か者だろう! しかしこれで賽は投げられた。
今こそアラナ嬢を守る時だ!
85
あなたにおすすめの小説
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる