(完結)婚約破棄されたら弟が恋人になりました

青空一夏

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4 息子のマックスは王女殿下が好きすぎる(ハーバート公爵視点)

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ハーバート公爵視点

「王女殿下をお預かりするんですか? あのような噂を信じる事はありません。昔から言い伝えられておりますがただの迷信です。王女殿下がおかわいそうです」

「仕方がないのだ。私も迷信だとは思っているがそのような概念をまだ持ち続けている民がいる限り、このような手段を取らなければならない。信頼できる臣下はそなただけなのだ。頼む、引き受けてくれまいか?」
私は国王陛下が頭を下げるのを慌てて止めた。

「かしこまりました。命に代えても王女殿下をお守りし、慈しみながら大事に育てていくことを誓います」
王妃殿下も瞳に涙を浮かべ私に深く礼をするのだった。

私たち夫婦にはまだ子供がなく生まれたばかりの王女殿下を娘と偽り、慈しみながら育てた。とても美しく賢い王女殿下を我が娘のように妻と可愛がりながら育て、その1年後に息子が生まれた。

物心ついた息子には毎日のようにこう言って聞かせた。
「あの方は実の姉ではない。王女殿下でいらっしゃる。お前は臣下として尽くし必ずお守りすることを誓いなさい。我がハーバート公爵家は王家を1番にお支えする立場にある」
息子のマックスはその言葉を即座に理解し、血が繋がっていないことをとても喜んだ。

「もちろんです! 姉上は僕がお守りします。一生かけてどんな手を使っても守ります!」
どうやら息子は王女殿下に恋をしてしまったようだ。

王女殿下が7歳の頃、息子は王女殿下と結婚できる、というようなことを言ってしまったらしい。王女殿下は泣きながら妻のもとにやってきた。

自分がハーバート公爵家の娘ではないことがとても悲しい、と言わんばかりに泣きじゃくる王女殿下に妻は、優しく否定するしかなかった。

まだこの秘密は守っていかなければならない。王女殿下が養女ではないか?ということを社交界で噂するものもいたが、それは仕方のないことだった。王女殿下の髪はキャラメルブロンドで瞳は優しく温かみのある蜂蜜色、妻と私の髪はプラチナブロンドで瞳の色は冷たい輝きを放つ紫だった。

顔立ちも全く似ていなかった。アメリア様は王妃殿下によく似ていらっしゃった。王妃殿下はキャラメルブロンドの髪、蜂蜜色の瞳は優しく顔立ちは華やかで匂い立つような美しさがあった。それをそっくり引き継いでいらっしゃるのがアメリア様だった。

息子にはうかつなことを申し上げないように再三注意はしていたが、どうにも王女殿下が好きすぎるらしくいつも王女殿下のそばを離れない。困ったものだ。

王女殿下が9歳の頃、「好きな人ができた」そのようにおっしゃって妻の耳に内緒話をした。相手は事業に失敗し多額の負債を抱え込んでいるディッシュ侯爵家の嫡男でまるで家柄が釣り合わない。

私は国王陛下にご相談申し上げた。
「王女殿下はディッシュ侯爵家の息子に一目惚れをしたようです。どういたしましょうか」
「王女はくだらない迷信のために親元で育つことができず不憫な思いをさせている。ディッシュ侯爵家の息子が気にいったのならばそれも良いであろう。婚約者にでもしておけばいいと思う。もちろんあくまでも仮の婚約者として設定し、何かあればすぐに破棄させる」

「かしこまりました」
そのようなわけで王女殿下の婚約者はディッシュ侯爵の嫡男ジョージになった。さぞ悔しがると思われた息子のマックスは穏やかな顔をして微笑んでいた。

そしてついこの間の夜会の際に、あろうことかジョージがマヤ・ポーラ伯爵令嬢と唇を重ねあわせていたという話を息子から聞かされた。口の利き方もなっていないと言う。

「王家主催の舞踏会では面白い猿芝居が見られることでしょう。こうなる事は想定内のことでしたが、思いのほかあいつが愚かで簡単すぎました」
マックスは真っ黒なオーラを放ち嬉しそうに言葉を放つ。やれやれ、この息子は私よりもよほど策略家なようだ。王女殿下もこの息子からは逃れられないだろうな、と私は苦笑するのだった。
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