9 / 40
9
私たちは今、王妃様のサロンに集められていた。私と王太子様、それから王妃様はソファーに腰を下ろし、目の前のテーブルには菓子と香り高い紅茶が整然と並べられている。その一方で、リリアーナとルシアン様は、王妃様の正面に立たされていた。
その光景だけで、立場の差は一目瞭然だった。
「ルシアン! お前は王太子付きの近衛騎士でしょう? 王太子をお守りするのが務めのはずです。それを、あのような臭い匂いをまき散らして歩く危険人物を、なぜ排除しなかったのです? 執務室に入れるなどおかしいではありませんか?」
王妃様の鋭い声が、サロンに響く。
「ですが……リリアーナは婚約者の妹ですので、あまりに酷い扱いはできないと思いまして……」
歯切れの悪い言い訳に、王妃様は一瞬、目を細めた。王太子様は呆れたようにルシアン様を見つめていた。
「……つまり、お前は王太子よりもリリアーナを優先したということですね? アレクシスの安全を第一に考えるべき立場でありながら?」
その言葉が落ちた瞬間、空気が一段重くなる。
王妃様の放つ圧は凄まじく、ルシアン様は蛇に睨まれたカエルのように身を縮め、額からだらだらと冷や汗を流していた。
けれど、リリアーナは違った。
その場の空気など意にも介さず、いつもと変わらない様子で口を開く。
「私は悪くありませんわ。だって、この香水はルシアン様からいただいたものですもの。これをつけて王太子様にお会いすれば、きっと私を好きになってくださると、そう教えてくださいましたのよ。私、王太子様をお慕いしているんです。身分だって公爵令嬢ですし、王太子妃になっても、おかしくありませんよね?」
天使のような微笑みはここでは通用しない。
すぐに絶対零度の王太子様の返事が続いた。
「身分だけはな。しかし私はリリアーナを妃に迎えるつもりはないよ」
「そうね、釣り合っているのは身分だけですわね。あなたのような常識のない令嬢が、王太子妃になれるわけがないではありませんか!」
王妃様にまでそう断言され、リリアーナはさすがに言葉を失ったようだった。目にうっすらと涙を浮かべたかと思うと、謝罪の一言もないまま、くるりと背を向ける。そしてそのまま、パタパタと音を立てるような足取りで、サロンを飛び出していった。どうやら、そのまま屋敷へ帰ってしまったらしい。
(……まるで子供ね。王妃様も王太子様もいらっしゃる場で、きちんとしたご挨拶もせずに帰るなんて、普通は考えられないわ)
王妃様は眉根を寄せながら、呟いた。
「ヴァレンティア公爵家へ、正式に抗議文を送りますわ。今回の件は見過ごせません。厳しくその責任を問い、リリアーナにはしばらく謹慎させるよう言い渡しましょう」
(さすがに今回は、お父様も庇いきれないでしょうね)
結果として、その場に残されたのは、ルシアン様ただ一人だった。そして当然のように、王妃様からの集中攻撃を一身に受ける羽目になった。
(ルシアン様って、いつもこういう役回りよね。リリアーナにいいように利用されて、ひどい目に遭わされて……それでも懲りずに、また利用される。学習能力というものがないのかしら)
私がそんなことを考えていると、王妃様の鋭い声が飛んだ。
「……だいたい、ルシアンは、なぜリリアーナに香水など送ったのですか! 贈り物をする相手を間違えているでしょう? 普通なら、婚約者であるセシリアに贈るべきではありませんか?」
その言葉に、私は静かに息を吸い、はっきりと口を開いた。
その光景だけで、立場の差は一目瞭然だった。
「ルシアン! お前は王太子付きの近衛騎士でしょう? 王太子をお守りするのが務めのはずです。それを、あのような臭い匂いをまき散らして歩く危険人物を、なぜ排除しなかったのです? 執務室に入れるなどおかしいではありませんか?」
王妃様の鋭い声が、サロンに響く。
「ですが……リリアーナは婚約者の妹ですので、あまりに酷い扱いはできないと思いまして……」
歯切れの悪い言い訳に、王妃様は一瞬、目を細めた。王太子様は呆れたようにルシアン様を見つめていた。
「……つまり、お前は王太子よりもリリアーナを優先したということですね? アレクシスの安全を第一に考えるべき立場でありながら?」
その言葉が落ちた瞬間、空気が一段重くなる。
王妃様の放つ圧は凄まじく、ルシアン様は蛇に睨まれたカエルのように身を縮め、額からだらだらと冷や汗を流していた。
けれど、リリアーナは違った。
その場の空気など意にも介さず、いつもと変わらない様子で口を開く。
「私は悪くありませんわ。だって、この香水はルシアン様からいただいたものですもの。これをつけて王太子様にお会いすれば、きっと私を好きになってくださると、そう教えてくださいましたのよ。私、王太子様をお慕いしているんです。身分だって公爵令嬢ですし、王太子妃になっても、おかしくありませんよね?」
天使のような微笑みはここでは通用しない。
すぐに絶対零度の王太子様の返事が続いた。
「身分だけはな。しかし私はリリアーナを妃に迎えるつもりはないよ」
「そうね、釣り合っているのは身分だけですわね。あなたのような常識のない令嬢が、王太子妃になれるわけがないではありませんか!」
王妃様にまでそう断言され、リリアーナはさすがに言葉を失ったようだった。目にうっすらと涙を浮かべたかと思うと、謝罪の一言もないまま、くるりと背を向ける。そしてそのまま、パタパタと音を立てるような足取りで、サロンを飛び出していった。どうやら、そのまま屋敷へ帰ってしまったらしい。
(……まるで子供ね。王妃様も王太子様もいらっしゃる場で、きちんとしたご挨拶もせずに帰るなんて、普通は考えられないわ)
王妃様は眉根を寄せながら、呟いた。
「ヴァレンティア公爵家へ、正式に抗議文を送りますわ。今回の件は見過ごせません。厳しくその責任を問い、リリアーナにはしばらく謹慎させるよう言い渡しましょう」
(さすがに今回は、お父様も庇いきれないでしょうね)
結果として、その場に残されたのは、ルシアン様ただ一人だった。そして当然のように、王妃様からの集中攻撃を一身に受ける羽目になった。
(ルシアン様って、いつもこういう役回りよね。リリアーナにいいように利用されて、ひどい目に遭わされて……それでも懲りずに、また利用される。学習能力というものがないのかしら)
私がそんなことを考えていると、王妃様の鋭い声が飛んだ。
「……だいたい、ルシアンは、なぜリリアーナに香水など送ったのですか! 贈り物をする相手を間違えているでしょう? 普通なら、婚約者であるセシリアに贈るべきではありませんか?」
その言葉に、私は静かに息を吸い、はっきりと口を開いた。
あなたにおすすめの小説
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
相手不在で進んでいく婚約解消物語
キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。
噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。
今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。
王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。
噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。
婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆
これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。
果たしてリリーは幸せになれるのか。
5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。
完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。
作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。
全て大らかな心で受け止めて下さい。
小説家になろうサンでも投稿します。
R15は念のため……。