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「今回のことが事実なら本当に申し訳ない。兄上がそんな不誠実なことをするなんて、今でも信じられないけれど君をとても傷つけたよね? それに対しては謝罪するよ」
「いいえ、ルーベン様が謝ることではないです。それに、こうしてお兄様が帰って来てくださったお陰で元気もでましたし・・・・・・」
「ライリーが帰ってくるのを待っていたよ。イザベルは自分から私達に相談する子じゃないからね」
執務室から出てきたお父様は、ほっとした面持ちでお兄様に微笑んだ。
「お父様はご存じだったのですか?」
「当然だろう? あれだけ王立貴族女子学園で話題になっているんだよ。私の耳に入らないわけがない」
「やっぱりそうでしたか・・・・・・お父様もお母様も、私の顔をじっと見ているときがあって気まずかったです」
私は戸惑いながらもにっこりと笑う。お兄様が側にいてくだされば安心なの。幼い頃からお兄様は私のヒーローだから!
「案外、元気そうで良かった。やっぱり、綺麗な子は笑っている方がいいな」
ルーベン様が私の頭にポンポンと手を置いて、虹色の瞳を細める。今はオレンジ色が際立っているけれど、光線の具合でエメラルドグリーンが濃くなったり、青空を切り取ったような色が反射したりで、本当に不思議な瞳だった。
「ストップ! 頼むから傷心の妹を弄ぶな! お前はさ、モテすぎだから純真な妹には釣り合わん!」
「いや、大丈夫だ。最近は自分で流した悪評でモテないからね」
お父様は自分で悪評をばらまいたと言うルーベン様に驚いてしまう。
「なんで悪評をばらまいたのだね? ルーベン様には不利だろう?」
とお父様。
「不利じゃないですよ。清廉潔白過ぎる評判の方が弱点になります。だって世間はいつだって品行方正な私の行動を求めてきますからね。 ちょっとぐらいの悪評はかえって生きやすいのですよ。少しいいことをすれば見直されますしね」
ジョシュア様とは全く違う考え方だ。ジョシュア様は評判を気にするし、アラベスク侯爵家を守ることを第一に考えているようだから。
「さて、私はこれで失礼しますよ。これからアラベスク侯爵家に戻り兄上と話しをして、こちらに償いをさせますからね。ライリー、一緒に行くか? 私の兄上が悪いとなればパンチの一つや二つは許してやるよ」
「あぁ、一緒に行くさ。だが暴力は振るわないよ。法律的に責任をとってもらおう。暴力を振るうとカステロ伯爵家の立場が悪くなる。俺はそれほど脳筋じゃないぞ!」
「ふふふ。わかってるさ。まぁ私が殴ることはあるかもな」
お兄様とルーベン様は連れだってアラベスク侯爵家に向かった。
「またね!」
ルーベン様がお兄様に隠れてウィンクする。私は思わず頷いて手を振っていた。
「イザベルも、すぐに屑男が忘れられそうでなによりだ」
「私はルーベン様のことは、別になんとも思ってませんから!」
からかうような眼差しでにっこり笑うお父様に、恥ずかしくなって自室に駆け込んだ。
そんなに簡単にジョシュア様を忘れたわけではないけれど、ふんぎりがついたのは確かだった。だって、彼にはポピーがいるのだからいつまでも思っていても仕方ない。
(ルーベン視点)
「お帰りなさいませ。ルーベン坊ちゃま! とにかく大変なことになっております!」
屋敷に着くと執事が駆け寄ってきて、私を縋るように見る。全く、しっかりしてくれよ!
「あぁ、知ってる。兄上はどこだ?」
私が家族用のパーラー(居間)に向かうと、見慣れない女性が嬉しそうに微笑んできた。
(誰だ? これ?)
「お帰りなさいませぇ。ルーベン様、お久しぶりですぅ。私ポピーです。覚えていらっしゃいますか?」
「は? あぁ、イザベル嬢の従姉妹か? それで、なんで君がアラベスク侯爵家にいる?」
「私、ジョシュア様と結婚するので、ここに住むことにしましたぁ」
「・・・・・・君はバカなのか・・・・・・間違いなく、少しおかしいよ」
「これはこれはルーベン様。アラベスク侯爵卿は私の娘を見初めてしまいまして、一夜を共にして・・・・・・」
(またわけのわからん男が出てきた。なんで、ここにいるんだ?)
「貴方はダニエル・メンデス男爵だったか? 兄上がポピーと一夜を共にしたのはいつの話かな? ポピーが妊娠しているのは本当かい?」
「ルーベン、済まない。お前には迷惑を掛ける。ところで私はルーベンに当主の座を譲ろうと思う。私はポピーと過ちを犯して・・・・・・」
兄上が奥から情けない顔をして出てきた。憔悴しきっていて今にも倒れそうだ。
「兄上。このポピーを愛しているということですか? それとこの女性は本当に妊娠していますか?」
「いや、愛していない。ただ話しをしていて、急に眠くなって幻覚が現れて・・・・・・あとは覚えていないんだよ・・・・・・情けない。朝になったら全裸のポピーが横にいた・・・・・・」
「いや、それはおかしいでしょう? 少しは疑うってことをしてくださいよ! まぁ、そんな話しならだいたい想定内ですね。兄上は騙されたんですよ。その女狐にね」
「酷い・・・・・・私は狐なんかじゃありません!」
「昔私は不眠症だったことがあってね。いろいろな薬を扱う商人から、強力な睡眠薬を買ったことがあるんですよ。その際一つだけ注意されたことがある。ミントティーと一緒に飲むと幻覚を見るからとね。どの睡眠薬も飲み合わせが悪いと副作用が現れる。これは常識だ」
「それは初耳ですな。勉強になりましたよ」
ダニエル・メンデス男爵が強気な口調で言うが、顔は青ざめ目が泳いでいた。
案外、小心者なんだな。こんな時は真っ直ぐ相手の瞳を見つめるものだ!
「とぼけなくても調べればすぐわかる。メンデス男爵が睡眠薬を飲み物にでも入れたのでしょう? あるいは食べ物かなにかに・・・・・・」
「どこにそんな証拠がありますか? こちらは裁判で争ってもいいんだ! アラベスク侯爵卿は家名に傷がつくのを恐れている。裁判沙汰になったら嫌でしょう? こっちには純潔の証もありますよ」
(ほぉ、口だけは一人前か。面白いな)
「伯父上! あなたは王立貴族男子学園をちゃんと卒業しましたか? アラベスク侯爵卿とは言わない。さきほどから気になってしょうがない。卿を付けるときに爵位はつけないのが常識でしょう? 全く・・・・・・一応は身内の立場なので恥をかかせないでくださいね。それともう一つ、教えてあげましょう。このルーベンという男は家名が傷つくことなど気にしないです。それを跳ね返すほどの実力がありますからね。ルーベンが有能なことは誰もが知っている」
私の親友ライリーが大笑いしながらそう言った。この調子なら友情にヒビは入らなそうだ。
兄上は騙されているだけでイザベル嬢を裏切ってはいない。まぁ、弟としてはしっかりしてくれよ!とは思ったが。
「いいえ、ルーベン様が謝ることではないです。それに、こうしてお兄様が帰って来てくださったお陰で元気もでましたし・・・・・・」
「ライリーが帰ってくるのを待っていたよ。イザベルは自分から私達に相談する子じゃないからね」
執務室から出てきたお父様は、ほっとした面持ちでお兄様に微笑んだ。
「お父様はご存じだったのですか?」
「当然だろう? あれだけ王立貴族女子学園で話題になっているんだよ。私の耳に入らないわけがない」
「やっぱりそうでしたか・・・・・・お父様もお母様も、私の顔をじっと見ているときがあって気まずかったです」
私は戸惑いながらもにっこりと笑う。お兄様が側にいてくだされば安心なの。幼い頃からお兄様は私のヒーローだから!
「案外、元気そうで良かった。やっぱり、綺麗な子は笑っている方がいいな」
ルーベン様が私の頭にポンポンと手を置いて、虹色の瞳を細める。今はオレンジ色が際立っているけれど、光線の具合でエメラルドグリーンが濃くなったり、青空を切り取ったような色が反射したりで、本当に不思議な瞳だった。
「ストップ! 頼むから傷心の妹を弄ぶな! お前はさ、モテすぎだから純真な妹には釣り合わん!」
「いや、大丈夫だ。最近は自分で流した悪評でモテないからね」
お父様は自分で悪評をばらまいたと言うルーベン様に驚いてしまう。
「なんで悪評をばらまいたのだね? ルーベン様には不利だろう?」
とお父様。
「不利じゃないですよ。清廉潔白過ぎる評判の方が弱点になります。だって世間はいつだって品行方正な私の行動を求めてきますからね。 ちょっとぐらいの悪評はかえって生きやすいのですよ。少しいいことをすれば見直されますしね」
ジョシュア様とは全く違う考え方だ。ジョシュア様は評判を気にするし、アラベスク侯爵家を守ることを第一に考えているようだから。
「さて、私はこれで失礼しますよ。これからアラベスク侯爵家に戻り兄上と話しをして、こちらに償いをさせますからね。ライリー、一緒に行くか? 私の兄上が悪いとなればパンチの一つや二つは許してやるよ」
「あぁ、一緒に行くさ。だが暴力は振るわないよ。法律的に責任をとってもらおう。暴力を振るうとカステロ伯爵家の立場が悪くなる。俺はそれほど脳筋じゃないぞ!」
「ふふふ。わかってるさ。まぁ私が殴ることはあるかもな」
お兄様とルーベン様は連れだってアラベスク侯爵家に向かった。
「またね!」
ルーベン様がお兄様に隠れてウィンクする。私は思わず頷いて手を振っていた。
「イザベルも、すぐに屑男が忘れられそうでなによりだ」
「私はルーベン様のことは、別になんとも思ってませんから!」
からかうような眼差しでにっこり笑うお父様に、恥ずかしくなって自室に駆け込んだ。
そんなに簡単にジョシュア様を忘れたわけではないけれど、ふんぎりがついたのは確かだった。だって、彼にはポピーがいるのだからいつまでも思っていても仕方ない。
(ルーベン視点)
「お帰りなさいませ。ルーベン坊ちゃま! とにかく大変なことになっております!」
屋敷に着くと執事が駆け寄ってきて、私を縋るように見る。全く、しっかりしてくれよ!
「あぁ、知ってる。兄上はどこだ?」
私が家族用のパーラー(居間)に向かうと、見慣れない女性が嬉しそうに微笑んできた。
(誰だ? これ?)
「お帰りなさいませぇ。ルーベン様、お久しぶりですぅ。私ポピーです。覚えていらっしゃいますか?」
「は? あぁ、イザベル嬢の従姉妹か? それで、なんで君がアラベスク侯爵家にいる?」
「私、ジョシュア様と結婚するので、ここに住むことにしましたぁ」
「・・・・・・君はバカなのか・・・・・・間違いなく、少しおかしいよ」
「これはこれはルーベン様。アラベスク侯爵卿は私の娘を見初めてしまいまして、一夜を共にして・・・・・・」
(またわけのわからん男が出てきた。なんで、ここにいるんだ?)
「貴方はダニエル・メンデス男爵だったか? 兄上がポピーと一夜を共にしたのはいつの話かな? ポピーが妊娠しているのは本当かい?」
「ルーベン、済まない。お前には迷惑を掛ける。ところで私はルーベンに当主の座を譲ろうと思う。私はポピーと過ちを犯して・・・・・・」
兄上が奥から情けない顔をして出てきた。憔悴しきっていて今にも倒れそうだ。
「兄上。このポピーを愛しているということですか? それとこの女性は本当に妊娠していますか?」
「いや、愛していない。ただ話しをしていて、急に眠くなって幻覚が現れて・・・・・・あとは覚えていないんだよ・・・・・・情けない。朝になったら全裸のポピーが横にいた・・・・・・」
「いや、それはおかしいでしょう? 少しは疑うってことをしてくださいよ! まぁ、そんな話しならだいたい想定内ですね。兄上は騙されたんですよ。その女狐にね」
「酷い・・・・・・私は狐なんかじゃありません!」
「昔私は不眠症だったことがあってね。いろいろな薬を扱う商人から、強力な睡眠薬を買ったことがあるんですよ。その際一つだけ注意されたことがある。ミントティーと一緒に飲むと幻覚を見るからとね。どの睡眠薬も飲み合わせが悪いと副作用が現れる。これは常識だ」
「それは初耳ですな。勉強になりましたよ」
ダニエル・メンデス男爵が強気な口調で言うが、顔は青ざめ目が泳いでいた。
案外、小心者なんだな。こんな時は真っ直ぐ相手の瞳を見つめるものだ!
「とぼけなくても調べればすぐわかる。メンデス男爵が睡眠薬を飲み物にでも入れたのでしょう? あるいは食べ物かなにかに・・・・・・」
「どこにそんな証拠がありますか? こちらは裁判で争ってもいいんだ! アラベスク侯爵卿は家名に傷がつくのを恐れている。裁判沙汰になったら嫌でしょう? こっちには純潔の証もありますよ」
(ほぉ、口だけは一人前か。面白いな)
「伯父上! あなたは王立貴族男子学園をちゃんと卒業しましたか? アラベスク侯爵卿とは言わない。さきほどから気になってしょうがない。卿を付けるときに爵位はつけないのが常識でしょう? 全く・・・・・・一応は身内の立場なので恥をかかせないでくださいね。それともう一つ、教えてあげましょう。このルーベンという男は家名が傷つくことなど気にしないです。それを跳ね返すほどの実力がありますからね。ルーベンが有能なことは誰もが知っている」
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